くもをさがす

著者 :
  • 河出書房新社
4.08
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本棚登録 : 9308
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309031019

感想・レビュー・書評

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  • 人間ドックで初めて「要精密検査」の結果をもらい、自分の健康が脅かされているかもしれない不安に駆られている時に、この本を読んだ。
    結果、このタイミングで、この本に出会えたことは幸運だった。

    乳がんとなった西さんが、自分の身体としっかり向き合って、治療を受けようと決意する瞬間の言葉が、私にも決意する勇気を与えてくれた。
    がんを生み出した自分の身体を憎むのではなく、うまく付き合っていくこと。
    そして、今の自分の体に自信を持つこと。
    がんサバイバーの人たちが、寛解後も「再発するのでは」という不安に苛まされることも、本書を読んで初めて認識した。でも考えるまでもなく、定期的に検査を受けるたびに、PTSDのようにがん告知を受けた時を思い出して恐怖するのは当然のことだ。
    それでもその不安さえも乗り越えて、がんになる前より健康的に生きている人もいるし、大事な人との時間を楽しく過ごしている人たちがいることに、勇気をもらえる。
    私の体のボスは、私である。
    それを教えてくれた本書に出会えて、本当に良かったと心から思う。

  • がん患者の心理が、体験を通して書かれているので、よく分かった。意外だったのは、寛解してからも心の隅にチクチクと残ることがあることだった。病気を乗り越えた人が、強く感じるのはきっとそれ故なのかなとも思う。ほんとに健康であることは幸せだと実感した。
    カナダと日本の医療体制のギャップにも驚く。日本でも、救急車のたらい回しなど問題になることがあるが、バンクーバーの医療体制はもっとシビアだと感じた。反面、プライベートと仕事のメリハリがしっかりあり、休暇も大切にする働き方は日本も見習いたいところ。
    もう一つ、バンクーバーから見習いたいこと。「当たり前」精神だ。多種多様な人種がいて当たり前、助け合って当たり前、子供はうるさくて当たり前…など日本ももっとおおらかであれ!と思う。

  • 2019年、語学留学のために2年間の予定で西加奈子は夫と子供S、愛犬のエキとカナダのバンクーバーに住む。
    2021年9月にトリプルネガティブ乳癌という治癒難易度の高い癌を患い、さらに翌年1月には、治療の最中にコロナにも感染するという罹患から寛解までの苦闘の日々が綴られる。カナダの看護師とのポジティブでユーモラスな会話「カナコのがんはトリプルネガティブなんや、オッケー! 早よ治そう!」「相変わらずめっちゃええ静脈やん! 針刺しやすいわ~!」と静脈を褒めるリサ。「カナコ。 がん患者やからって、喜びを奪われるべきやない。」と励ますクリスティ。両胸切除で乳首を残すか悩むカナコに「乳首っている?」と尋ねるイズメラルダ。会話が全てコミカルな関西弁なのも病院の消毒液臭さを消し楽しい。カナコの苦難にMeal trainや子供の世話で手を差し伸べる友人たちのエピソードも素敵だ。日本とカナダの文化や国民性の比較、人生に関する考察もとても興味深く読み終えました。

  • 〈残りの人生を、
    それがどんなに長くても短くても、
    できる限り甘やかに、
    愛する人たちを愛し、
    まだやらなければならない仕事をできる限り片づけて、
    生きて行きたい〉オードリー・ロード

    「A Burst of Light:Living withCancer」
    from『The Selected Works of Audre Lorde』
    Audre Lorde

  • 著者、西加奈子さんの乳がん闘病記。カナダのバンクーバーでの治療は大らかで、愛があって、日本とは全然違うことが分かる。でも私は細かなケアを受けられる日本で治療を受けたいと思いました。

  • 作家、西加奈子さんが、カナダで乳ガンに罹患し、そこからガンを克服するまでの物語。
    自分の体のボスは自分。本のなかに繰り返し出てくる言葉だ。
    それは魅力的な言葉であると同時に、全ての責任は自分にあるという、重い言葉でもある。自分から逃げることは決してできないのだ。
    カナダで周囲の人に助けられながら、それでも西加奈子さんは自分で決断し選びとってガンを克服した。
    彼女の勇気、彼女を支えた人たちの美しさに胸打たれる。
    ガンを患った経験ある人に勇気を与えるのでは。良きエッセイだった。

  • コロナ禍、著者のカナダでの闘病記。
    乳がん発覚から治療終了までの8ヶ月間が克明に描かれています。
    カナダと日本の医療システムの違いや、病気との向き合いかた、周囲のサポートについて深く考えさせられました。彼女の実体験に胸を打たれ、強く前向きな思考に勇気をもらえた感動作。

  • 発売日。
    開店と同時に書店に行く。
    何か月も前から心待ちにしていた。予約はしていない。
    なんと発売まえから予約だけで10万部突破ということなので, 西さんのすごさがわかる。
    解錠される。自動ドアをくぐる。新刊コーナーへ。
    ない、ない、ない。
    くもをさがすが、ない…。

    何軒か書店をはしごしたが, どこにも取り扱いがなく(地方の書店ナメてた。そんなに簡単に手に入らないのね…)完全に打ちひしがれ結局Amazonで購入。
    4/20に届き, その日のうちに齧りつくように読み切りました。(サンキュー, Amazon)

    西さんの本には, 何度も何度も何度も励まされてきたけれど, 本作はずっと心が震えっぱなしで, ずっとちょっと泣きながら読んでいた。
    今までは「自意識 vs. ありのまま」の図式が西加奈子の作品!という感じがしたけれど, 今回は自意識が限りなく透明で, 人間が土壇場に立たされた時, いかに周りが気にならなくなるのかがわかった。
    というか, 周りに注意を払う時間があったら, 自分に集中しよう, ということなのかもしれない。

    そして, 私はなんだかいつも西さんの作品から「本が, 文字が, 汗をかいている」と感じることが多いのだけれど, 本作は「汗も涙も血も流れている」ような生命力を感じ, きらきら輝く光の粒みたいな一冊だな、と思った。

    心に残ったところ
    P.32
     夜、風呂に湯を溜めている間だけ泣いた。 バスルームの外では、夫とSが笑う声が聞こえた。二人に聞こえないように、勢いよく湯を出して、ぶくぶくと泡立ってゆく浴槽にうずくまった。お湯に顔をつけて、「こわいよー、こわいよー」、と叫んだ。

    P.42
     ずっと、坊主頭には憧れていた。いつかしたい、いつかしたい、そう思いながら、延び延びになっていた願いが今日叶うのに、バリカンを入れられた瞬間、私は泣いていた。どうしてなのか分からなかった。マユコが、手を強く握ってくれた。
    「またすぐ生えるよ。」
     そう言ったマユコの瞳も濡れていた。
     マサは、少しでも格好いい坊主頭にしようと、色々工夫してくれた。結果、びっくりするくらい似合っている私と目が合った。どうして今までこうしてこなかったんだろう、そう思えるほどだった。
     お会計をしようとすると、マサは、「ツケにさせてください」と言った。
     「絶対に、また来てもらわないと困るんで。」
     それで、また泣いた。
    (中略)
     坊主頭になった自分があんまり素敵だったから、友達のトモヨに、写真を撮ってもらった。
    (中略)
     撮ってもらった写真を、私はたくさんの友達に送った。みんな褒めてくれた。みんなの言葉に、私は照れなかった。だって私は、間違いなく美しかった。

    P.97
     ジュリアンは抗がん剤について調べ、私の体調を見ながら、毎週適切な漢方を処方してくれた。精神的な拠り所になっていたので、漢方を止めてくれ、と言われたのはショックだった。だから、正直に伝えた。
    「いま私は漢方に助けられている。だから止めたくないんです。」
    すると、サラは笑った。
    「そうなんや、オッケー!」
    お願いしておいて、あまりにあっさり承諾してくれたことに、驚いた。え、本当にいいの?言うと、サラは言った。
    「もちろん。決めるのはカナコやで。」
    サラは、私の目をまっすぐ見つめていた。
    「あなたの体のボスは、あなたやねんから。」

    P.192
     乳房、卵巣、子宮という、生物学的には女性の特徴である臓器を失ったとしても(ちなみに今私は坊主頭だが)、それでも私は女性だ。それはどうしてか。私が、そう思うからだ。私が、私自身のことを女性だと、そう思うからだ。
    (中略)
     私は、私だ。私は女性で、そして最高だ。

    (今日あさイチに出演していた西さん、明るく美しく楽しかったな。)

     本のどこを切り取っても心に残るフレーズや西さんの思いが溢れていてステキだった。がんのこと以外も, ワークライフバランスを重視し, 自分の思いを優先するカナダ人や, 広告に消費され続けている現代日本についてなど, 社会学的に考えさせられることも多く, そこも良かった。
    (唯一若干引っかかったのは, たった2年のカナダ生活を終えた後に帰国し, 日本での窮屈さや求められる他人への配慮について, 若干こき下ろすように書かれていたのが, わかるけど, うーんとなった。わたしが専攻していた分野柄, 留学後同じような反応をする人が周りにたくさんいて, なんだか不快に思ったりしていた。うまくは言えないけど, 自分自身日本の良さも悪さも痛いほど実感しているのに, 海外に渡った途端に我が物顔で批判し始める人に辟易することが多かったからだと思う。批判するだけなら簡単なのに。あとは, シンプルに長期留学に行った人への嫉妬だったと思う。)

     
     タイミングが合えば絶対にライブに参加している大好きなカネコアヤノさんの歌詞も登場して, 最高でした。

     しっかりとした気持ちで, 自分のことは誰にもゆだねず自分で決めようね。

  • 父ががんで亡くなったその日に出版された作品だったので、意を決して読んだ。大変な読書だったけれど、この作品に出会えてよかった。

  • 西加奈子さん初のノンフィクション。発売日は4/19と聞いていたけど、4/18に本屋さんに行ったら既に陳列されてて購入しました。

    私はHSPの気質があるので、正直病気の症状や治療の描写を読んでいると自分の身体に痛みを感じることが多々あって、一気に読むことができませんでした。
    ただ、カナダの方々との会話が関西弁で書かれていたおかげで(?)、病院でのシーンの重さも少し軽減されていたし、なにより斬新で面白かった。

    コロナ禍で、海外で、がんの治療をするってどんなだろう。そこには途方もない不安と恐怖があったはずで、猫のエキも含めた西さんの家族がどんどん体調不良に見舞われるあたりは本当に読んでて辛かったです。
    あとやっぱ海外の適当さ(電話番号間違えて連絡遅れるとか、薬が届かないとか)は流石としか言いようがなく、私も1年くらい海外で生活したことはあるけど、絶対に海外でがん治療とか耐えられないな、と思ってしまった……

    大阪梅田で開催されるサイン会に行けることになり、西さんに会えると思うと今から泣いてしまいそう(笑)

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

西加奈子の作品

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