- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309201559
作品紹介・あらすじ
"愛は、実現の不可能性によって育成されてゆく"登校拒否の天才少年エルネストが体現する神の不在、静かなる絶望…。旧約聖書に触発されたデュラスの最新ロマン。フランスで大ベストセラー。デュラスの最新話題作。
感想・レビュー・書評
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色の無い空は神の不在を映しているのだろうか。夏の始まり、地を激しく叩くように降りしきる雨は別離と喪失の予感をもたらし、やがて川に流れていく。
夏になったらデュラス作品を読もう。
私も。
そんな言葉を交わしたけれど一冊も読めないまま、優しい言葉の花束を残して季節を埋葬するように去っていった人たちがいた。
一時の幸福を共有するけれど、一所に留まることをしない私たちもまた異邦人であり放浪者なのかもしれない。雨は停滞する時間と前進する時間を隔てる境界線も消していく。その水の行く先と埋もれてしまった約束に思いを馳せる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
静かな静かな物語。
映画として映像になつたとしても、登場人物の会話、所作、生活と環境の音を除いた音はこの作品に必要ないと思ふ。かへつて余計な音は、登場人物たちのもつ微かな鼓動をかき消してしまふ。
プラトンは、知るとはすべて想起だと言つた。知るといふ行為は、存在する何かを思い出すことに他ならない。では、一体何を教へ、何を教はつてゐるのか。エルネストは言ふ。「学校じゃあぼくの知らないことばかり教えるからもう学校へは行かないよ」
彼は文字を知る以前から知つてゐた。読む読まないに関係なく、知つてしまつた。これ以上学ぶものなどなりもありはしない。ことばを尽くしても言い尽くせぬ。すべてがことばであり、自分もまたひとつのことばに過ぎなかつた。あらゆるものが存在する。神もまた、ことばだつた。それ故に、神は一層不在であり続ける。そして、ことばはどこまでもありつづける。
すべて流れゆくものだから、静かに止まる石を望む。けれどひとは誰ひとりとしてとどまれぬ。死を望みながらも、しかし、死ぬことなど誰にもできない。夏の雨が降り注ぐ。このまま流れて消えてしまへば、楽なのに。
人物たちの時間がとまつて見えるのは、さうした点の現れだらうか。さうだとしたら、高速道路の建設はなんと彼らにとつて残酷な変化だらうか。その工事の音は、身を引き裂くやうなつんざく音だつたに違ひない。
そして、エルネストは、ジャンヌは、親は、きょうだいだちは、それぞれの生を歩んでいつた。両親は高笑いし、きょうだいは無邪気に笑ひ、そしてエルネストとジャンヌは、力ない曖昧なほほえみを身に着けて。 -
長い間本棚の中で眠っていた本。基本的に翻訳本はあまり読む方ではない。もちろんオリジナルでなど読めるはずもないのだが、この作品は非常に消化しがたい一冊だった。読み手としての理解能力の低さゆえだとは思うけど、呼んでいる間中、魚の小骨がのどにひっかかったような感触が絶えずしていた。なぜなのか…かつてはフランス文学に憧れ、原文を読んでみたいとまで思っていたのに、年を重ねるとともに柔軟な思考方法ができなくなったからなのだろうか。
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はじめはモティーフの聖書にばかり意識が行って、頁が進まなかったのに複数回の読了後にはエルネストの苦悩が苦悩を超えて露呈されるんだから、この本は手放せないはずね。並んで2冊ある。