- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309207889
感想・レビュー・書評
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2018年に亡くなった12か月の著者の絶筆。
25年経っても相変わらずのプロヴァンスの季節と時間を感じる文体。
カフェでロゼを飲みながら読みたい -
フランスの田舎のゆったりとした甘美な暮らしが伝わるエッセイ集。南仏プロヴァンスと現代のわたしたちの時間とは、時間の流れ方がまるで違いました。「矍鑠たる」や「庶幾う」など見なれない言葉が時々出てくるので、どんな方が翻訳されているだろうと思ったら、なんと今年80歳を迎えられる翻訳家のお方でした。ピーター・メイル氏とは一歳違い。きっと原文で読んでも老紳士らしい文章なのだろうな。一つひとつの日本語に足止めされるエッセイは好きですよ。あとがきの文章も格好良くて惚れてしまいました。
p34
風味豊かで、時に辛口のロゼはグラス一杯の夏の輝きではないか。
プロヴァンス人は地球上のどこよりも特典に恵まれた環境に生きていると信じきっていて、他所へ移る意思はない。ゴルドで知り合った中には、生涯この土地で暮らしている家族が少なくない。同じ一軒の家で、幾世代もの例もある。地元住民の集団的記憶は百年を越す昔に遡る。プロヴァンス人は生きた歴史の教科書だ。
それがゆとりを持って人生をのんびり楽しむ心優しい人種を育てたと思われる。
p42
トリュフは灌木の根に寄生して繊維状の菌の塊を作る。これを菌糸体と言うのだが、どこにあるかわからないから、天然トリュフは発見が極めてむずかしい。
p62
記憶は選択を経て熟成する。退屈なこと、期待に添わなかったこと、許し難いことなどを除外して、後に残るのが理想を絵に描いたようなバラ色の記憶である。往々にして不正確ながら、心慰む思い出には違いない。再訪すれば郷愁に打たれる世界でもある。本当に、こんなふうだったろうか。これがあの頃の自分だろうか。 -
もう25年も前なのか! ピーター・メイルの南仏ブーム。憧れを募らせたものだ。
2018年に亡くなった著者の遺稿で、その間のいろいろを軽妙につづる。レジオンドヌール受勲や、リドさまによる映画化のエピソードにも触れ、楽しい。
エピソードや描写の素晴らしさを際立ててるのが、池央耿さんの翻訳だと思う。「矍鑠たる」「踝」「按排されて」など、カチッと漢字を多用してプロヴァンスの豊かな自然を描写するってのが、イギリスからの移住者の視点という雰囲気を醸すおもしろさよ。ちょっと林望先生ぽいつーか。
メイルの新作が読めないのは残念だけど、いつか行ってみたいな、フランスの南部へ。