空腹ねずみと満腹ねずみ 下

  • 河出書房新社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309207995

感想・レビュー・書評

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  • ドイツのドキュメンタリー番組「苦界に天使」がキッカケとなり、天使ナデシュを先頭に15万人の難民達がドイツに向けて行軍を始めた。

    この一文だけ見ると、ナニソレ?ってなる。

    けれど、15万人が「出来うる限り安全に」歩き続ける方法に関しては、可能かどうか検証して欲しいほど面白くはあったんだけど。どうかな。
    食事と行軍ペース、排泄物や出産。当たり前だけど、収入がなければ一日だって保たないわけで。
    軍隊とかって、どんな風に補給してるんだろう。

    それはともかく。
    他の国にとっては、こんな規模の集団、例えば殺すにしたって手間がかかる。そんなわけで自国の難民のオマケ付きで、どんどん通す通す……。

    そうしてドイツとしても黙ってられない。
    しょーもないドキュメンタリーのせいで、国に15万人の難民が押し寄せることになったとな。
    もちろん国内に、彼らを匿う土地などない。国民からも暴動が起きる。

    かくなる上は、壁を築くべし。

    大挙した難民たちは開かぬ壁に押し寄せる。
    そして。地獄の業火に全て焼き尽くされた。

    終わり。

    15万人の難民も、その旅の終わりも。
    救いがあれば良いというもんじゃない、だけども。
    いつだって、大いなる力を身勝手に振りかざされるのは弱者なのかよ。
    苦い。苦すぎる。

    より良き未来を望むことが、人間にとって「当たり前」になることは、あるのだろうか?

  • 行進は続く。最後尾の前に広がるのは、15万人分の排泄物。マジか!そしてスエズが行く手を阻む。行進は迂回。エジプトから紅海をゴムボートで渡り、ヨルダンとイラクでは地元の難民を吸収して35万人に行進は膨れ上がり(イスラエル、レバノン、シリアを避ける辺りが妙に現実的)、そしてトルコと進む。トルコは迅速な国内通過用にバスを用意。そしてオーストリアへ。ドイツ国境は目前。しかしながら悲惨な結末。私、圧死だけは避けたいわ…。

    ヨルダン政府とイラク政府が自国の難民キャンプのそばを通ってほしい…と要請する辺りが、実際のところ充分に効果が期待できそうでイヤらしいが、現実にはありそうだわ。。。

  • 難民、政治家、ドイツのテレビクルー、ジャーナリストなど、様々な立場の人間の視点で描かれているところが面白かった。

    難民を被害者や弱者に仕立て上げ、遠く離れた所からドラマを見るように傍観する、全てのふつうの人たちに向けた痛烈なメッセージを感じた。

    ドラマを仕立て上げるのはメディアだとしても、それ望んでいるのは世間なのだから。

    難民もこの小説では単なる被害者として描かれてはいない。この小説に出てくるどの立場の人間も、究極的に最終的には自分のことしか考えていない。

    それがすなわち自分も含めて人間の本質なのだと思う。読んでる間中何度も「どうしょうもないじゃん」「そうするしかないよね」と脱力してしまった。

    傍観していた「他人事」が、ゆっくり時間をかけて自分の生活圏に近づいてくる恐怖。
    本国ドイツの読者とはまた感じ方は異なると思いますが、クライマックスがどうなってしまうのかというハラハラ感と共に、あらゆる立場の人々にシンクロしながら読み進めることによって、新たな視点を獲得したり、人間の普遍性を感じたりできる作品だと思った。

  • 上巻に同じ

  • 近未来、アフリカからドイツまでの難民の行進。盛り込み過ぎのおぞましい結末。シニカルさとコミカルさをないまぜにしたスラップスティック。

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著者プロフィール

1967年、ドイツのニュルンベルク生まれ。エルランゲン大学で歴史と政治を学ぶ。ジャーナリストとしてタブロイド紙や雑誌などで活躍。その後、『帰ってきたヒトラー』で一躍有名になり、映画でも大成功を収める。

「2020年 『空腹ねずみと満腹ねずみ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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