- Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309208527
感想・レビュー・書評
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老いた主人公がかつて愛した人の日記に書き込みを入れながら過去を語る。夫のこと家族のこと、そして自死を選んだ娘のこと。
気丈な主人公はどの出来事に対してもきっぱりしているけど、歩んできた人生への深い諦念も伺える。強い人でも持つどうしようない諦念。
自らも同じようにして息子を亡くしたリーがどんな気持ちでこの小説を書き上げたのだろうと思わずにはいられない
主人公はリーではないけれど、言葉のひとつひとつに彼女の本心がどこかにないのだろうかとつい探ってしまう 彼女が小説を書き続けていること自体が奇跡だとそんなことは思いたくないけど
タイトル”Must I go”が家に来たお客を見送る時の”Must you go?”(もう行ってしまうのですか?)の主語を置き換えたものだと読んで、主人公はきっぱりと「もう行かなくては」と言っているけれど、そこにはどこか名残惜しさもあるのだろうなと思うと彼女の深い寂しさにも触れたような気がして少し悲しい詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『とはいえ、ここではささいな罪をとやかく言う者はいない。死に近づけば見えるものは減り、聞こえるものも減り、気になるものも減ることになる。気になるものが減っていき、ついに何も気にならなくなったあかつきには隣の建物へ送り出される。認知症対応施設だ』―『第一部 愛の後の日々』
献辞を読んで、はっとする。これは「理由のない場所」に続く物語なのか、と。その直感は第二部を読み終える頃にはほぼ確信となるのだが、そんな単純な続編をこの作家が書く筈もなく、もちろん主人公となるのは17歳の息子を失った中華系移民の女性ではない。本書の主人公は、どこかしらルシア・ベルリンの「掃除婦のための手引き書」の主人公を彷彿とさせるような、厳しい人生を冷笑的な視線で見つめながらもたくましく生き抜くカリフォルニア育ちの老女。イーユン・リーは好きな作家の一人で、何冊も手に取ってきたが、それ故にまずこの設定に意外な感じを覚える。
イーユン・リーのこれまでの小説の主人公たちにはどこか作家自身の出自を投影したようなところがあったけれど、この「もう行かなくては」に登場する人物たちは実に西洋的な人ばかり。しかもその老女に自由に語らせる文体は、これまでのどちらかと言えば静謐な語り口の多かった作家にしては珍しいとの印象を受ける。ただし老女の冷ややかな毒舌には、本書の大部分を占める第三部における設定(故人の日記に、注釈を入れながら伏してきた秘密を限られた親族に書き残すという設定)からも察せられるように、正直であろうする意思は明らかなものの自分の思い描く自画像を崩さぬよう腐心する様も見え隠れする。その崩れてしまいそうなものを確固たるものとしようとする意思の強さは、これまでイーユン・リーが描いてきた主人公たちと変わらない。
それはつまり、登場人物の設定や故人の日記の中に問わず語りの物語を細切れに紛れ込ませるという複雑な構図を施していたとしても、これまで作品同様に作家自身の人生譚や素直に認めたくはない悔恨のような物にこの小説も根付いた作品であるということなのだろうと思ってしまうのだ。だからこそ、主人公リリア・リスカは「理由のない場所」の主人公であるニコライのママでもあり、「独りでいるより優しくて」の主人公の独りである如玉(ルーユイ)でもあり、「千年の祈り」に登場する容易に心を開かない主人公たちでもあると、つい感じてしまう。
訳者あとがきによれば、イーユン・リーは常に異なる作風の小説を描こうとしていると言うし、作品の登場人物たちの語ることは必ずしも作家自身の考えていることではないとインタビューでも答えているが、何故だろう、自分には彼女の作品が常に同じ人生観を描いているように思えてならない。それは本作品の中で主人公の老女に語らせる、他人が自分の人生にくれようとするものはその人にとっていらないものばかり、だから自分に必要なものは自分で掴み取るしかない、という言葉に集約されているようにも思えてしまうのだ。
この作家の抱えている絶望感はとても深い。しかし、その絶望の水底を見通すために水面を揺らす小波[さざなみ]を息をこらえて鎮め覗き込もうとする強さも同時に持っている。それが『プライドを持って生きる』ということなのかも知れない、改めてそう感じる一冊。 -
イーユン・リーが、息子の自殺という自身の体験とシンクロした小説を書いたのだからと頑張って読み終えたがおもしろくはなかった(そこからか)自殺した娘の父親、互いに別の人と結婚し別々の人生を歩んだ男性の日記を読みながらコメントしていくという話。自分が心を残す(愛というのか、亡くした娘の父親という執着のように感じる)男性の恋愛や結婚、自分の人生にシニカルにコメントしていくのだが、読んでいて、意地が悪いと思うし、この男性も他人として過ごしたあなたにそんなこと言われたくないだろうにと同情する。歳をとって性格がひどく頑固になった人が親族にいるが、彼女を思い出した。息子を失った辛さを守るために涙を見せない女性を描いたのかもしれないとは思う。
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この小説は、なんだろう。リリアの観察眼に圧倒されるが、それがどれだけ的を射ているのかは不明。もし執筆途中での息子さんの死がなかったら、少し違ったものになっていたのだろうか。
リリアの、ローランドが残した日記への執着は、娘ルーシーの死と自分の悲しみを理解するのにいまだ困惑するリリアの心の内を表しているのと同時に、ローランドの物語をなぞることで、そこにルーシーの存在をも残しておきたかったのではと思えた。 -
81歳のリリアの独白。
さっぱり理解できず、楽しめなかった。 -
名久井直子さんの素敵な装丁に惹かれて。昔の恋人の日記に自分なりの解釈を加えて孫に渡すという内容。