- Amazon.co.jp ・本 (122ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309244587
作品紹介・あらすじ
あの事件を手がかりに、都市の非条理と社会の実存構造を浮き彫りにした名論考、待望の復活。「新しい望郷の歌」併録。
感想・レビュー・書評
-
この本はある方にお薦めしてもらった本だ。社会学というのは未開拓だったが、知識欲に駆られた私にとって良書だったと思う。
死刑囚N.Nと都市について。タイトルにある、まなざしの逃げ場なき地獄について。そして、解説にあったKとAのN.Nとは対照的でありながら類似性を感じた事柄。透明を欲するか、まなざしのない自由を欲するか。だが、N.NもKもAも犯罪を冒したからこそ辿り着いた居場所があった。精神があった。私にとってそれが悲しい。
この本は馬鹿な私にとって難解であったが、そのぶん読み返したいと思うし、社会学というものを真正面から見つめたい。そう思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「永山基準」で有名な、1968年に起きた連続射殺事件の本人・永山則夫が立脚していた意味世界を、見田宗介が鮮やかに描いた論考。
集団就職の時代、郷土から上京してきた青年は転職を繰り返した挙げく逸脱行為に走る。しばしば背景は、「都市が不可避的に課す孤独でや労働の問題である」と語られる。親密圏の形成や、労働疎外は現代でも無縁社会論や派遣の問題との布置連関で語られる。だけど、物事はそう単純ではない。
見田宗介が指摘するのは、「孤独」ではなく翻って「濃密な人間のまなざし」。上京青年を対象に行なった当時の統計資料をもとに、彼らが最も欲しかったものは、自分独りの空間と時間。
永山則夫を逸脱に走らせたのは、都市が含有する「他者のたえざるまなざし」、まなざ地獄であったのだと。
本当によく書かれています。 -
ひとつひとつの出来事を、構造から分析するためのヒントを与えてくれる。
-
永山則夫事件をとおして、都市に流入する若者の在り方を洞察した本。
とまとめておく。
高度成長期に都市に流入した「金の卵」の若者たちは、他者からの自らを規定しようという「まなざし」と、自己解放のための上京の間で苦しむ。
ましてや、その「まなざし」が否定的なものであれば、さらに苦しむ。
また、「新しい望郷の歌」では、ふるさとが、「帰る」ものから「作る」ものへと変遷していくさまを分析している。
この本の何がすごいのか、という解説がしっくりきた。
① 死刑囚の人生という極限値と、都市の若者の一般的意識の平均値を組み合わせることで一つの結論を導きだしていること。
前読んだ小熊さんの本でも、調査の方法は様々あると学んだが、この本では質的調査と量的調査を組み合わせて社会を分析している。
数値でしか見えない部分を、死刑囚の人生を負うことで、実はこの統計の背景にあるのはこういった思いではないかという分析が非常に面白い。
「当時の若者は給料にはこだわらないのだな」という統計的結果から、まなざしの地獄から逃走しようとする青少年たちを捉えている。
普通の人間ではこんな分析はできない。
② 現代社会の写し鏡のような分析であること。
当時の若者は、まなざしの地獄からの逃走と戦ったが、2000年代の若者は誰のまなざしからも届かないところにいるところからスタートする。
2000年代のの若者にとっては、まなざしの不在の方が地獄なのである。
N・Nはまなざしの不在から逃れるために、何の関係のない他者を殺す。そこで自己を確信する。
しかし、同じような事件を起こした現代のKは、まなざしの不在に苦しみ、自己をシニカルに顧みるが、何の関係のない他者を殺すことで自己を確信する。
じゃあ、さらに2020年代になってみてはどうなんだろうか。
今の若者は、他者の「まなざし」に対してどう生きているのか。
逆に、「まなざし」を渇望しているような気はする。
自己を規定するまなざしというよりかは、逆に今は頑張れば、他者から見られる自分を作ることができる。
他者の「まなざし」をコントロールできるようになった今、その自由さに苦しんでいるような気もする。
という安直な考察をしてみたが、多分、この本のように確固たる考察をしないと分からないものだとも思う。 -
眼差しの地獄に対比される眼差し不在の地獄という考察に誘う解説もすばらしい。
-
いつか読み返す時が来ると思いながら仕事しよう。
-
社会学の面白さを教えてくれた本。 授業の教科書として購読したが、初めは堅苦しい本に感じてあまり面白いと思わなかった。しかし、無駄のない簡潔な短い文章でありながら、そこらじゅうに考えさせられる言葉が敷き詰められている。 尽きなく生きるとは何なのか。 何ヶ月後、何年後と何回も繰り返し読んで、自分が今感じている感想とぜひ比較したい。
-
ひとりの人生の体験を中心として、社会からの視線、家郷、帰る場所の再考を提起する作品でした。
少し読みづらい部分もありましたが、本編は120ページほどで分量としては読みやすかったです。
社会学的なテーマで、地方と都市のどちらも嫌な部分が上手く抽出されている。
社会の柵と言ってしまえば簡単だが、その社会を構成する人の集まり、その中で生まれる暗黙の了解、社会的望ましさなどが、アイデンティティを否定的に意味付け、若者の自由意志を潰し、逸脱を引き起こす。
犯罪者という先入観無しに読めなかったわたしもまた、社会のまなざしの中でしか生きることのできない危うい人間だと思う。 -
誰もが犯罪者になりうることを示している。
個人責任論を見つめ直すきっかけになる作品。
文学チックで素敵。 -
永山則夫についての本。
ラベリング理論についての本として読むことができるが、
素直だが社会的に弱い立場にいる人間が周りの人からの心無い視線や一方的なラベリングによって苦しみ、自分の精神を守るために非行や不法行為に走ってしまうことを生々しく想像させられる。