自閉スペクトラム症の女の子が出会う世界; 幼児期から老年期まで

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309254326

感想・レビュー・書評

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  • Sarah Hendrickx | Hendrickx Associates
    https://www.asperger-training.com/sarah-hendrickx/

    「ふつうじゃない」と言われた女の子はどんなふうに大人になるのか(仮) :サラ・ヘンドリックス,堀越 英美|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309254326/

  • 「見えないからといって、いない訳じゃない。」(p13,序章)

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    男性より見えにくい(そもそも性差があるのに診断が男性基準となっているためこぼれ落ちている)とされるASDの少女/女性と家族の体験談を挟みながら、ASD女性の生涯やその中での困難を辿る本。

    ASD女性・支援者向けのガイド/ライフハック本などはありますが、当事者や保護者などから見た困難、思春期以降のこと、性自認や恋愛〜子育て、成人後に診断された女性の体験談などはあまり語られる/考察されることがないので、その意味では貴重な本だと思います。

    ASD女性当事者、保護者・支援者にはぜひおすすめしますし、訳者あとがきにもあるように、男性当事者にも共感できる部分があるのではないかと思います(著者は成人で診断されたASD女性ですが、息子の自閉症診断時に自身のASDを精神科医に「自閉症らしくない」と疑いの目で見られたのをきっかけに本書を執筆したとのこと)。

    私はASDのグレーゾーンで、定型発達だと思いながら育って大人になってからASDとLDの傾向があると発覚したパターンですが、変化に耐えられない(ルーティンを好む)・苦しみを表に出さない(“うまくやっていきたい、問題を起こしたくない”と、うわべだけ取り繕おうとする)・男の子といる方が楽・女子特有の関係性が理解しがたい……などは「これ、私のことか?」と頷きながら読みましたし、第9章「大人の人間関係」・第10章「男か女かどちらでもないか?」なども自分だけが経験している/考えている問題ではなかったことが分かり、安堵しました。第17章「おわりに」の言葉の数々はとても心強いです。

    今は1940年代に診断を受けた「第一世代」が老齢期を迎えたところで、ASD女性特有の心身の不調、加齢の影響、老齢期についての研究はほとんどないとのこと。ASD女性についてより研究がなされ、ASDの少女/女性が適切な診断と支援を受けられるようになればと思います。

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    ※以下、メモなど
    ●ASD女性は、ASDの脳が得意とするシステム化により他者の能力を研究・再現(学習)し、普通の人に“擬態”する。ただし、意識的になされるため、ストレス時や予期しない状況、成長につれて求められる事が多くなると維持できないことがある。
    ●ASDの女の子は一般的に、うまくやっていきたい・適応して問題を起こさないようにしたいと考えており、無礼だったり自信なげだったり反抗的に見えても、適切な行動を取ろうと努力していることを念頭に置く。
    ● ルーティンやスケジュールを守ることが生活や労働に支障をきたすほどの制限でなければ、問題視するにあたらない。構造化によってストレスや不安を抑えている。
    ●ASD女性は明確に男性的であるというより、単純に両性具有的である可能性
    ●ASDの少年少女や成人女性の支援にあたっては、性自認を含めてASDの影響を考察する必要がある。また、性自認とセクシュアリティが必ずしも相関していないことなども念頭に置く。
    ●ASDに向いている仕事は、ASDの強みを活かせ、人との違いにさらされる機会が殆どない仕事。
    ● あまり目につかないからといって、「重度」ではないということにはならない。

    ※ASD女性当事者の声で印象に残った点など
    ●適応でき、ある程度人に合わせて行動できるが、それは私ではないし、満たされるものがない(p116)
    ●自分の問題で人に負担をかけてはいけないし、何事も一人で取り組むべきだと思っている。みんなと同じくらい自分だってできるんだって証明するには、こうするしかない(p120)
    ●もっと早く診断されていたら、人に合わせることに全人生をささげなくても済んだだろうし、自分の社会性のなさを許すことができた(p168)
    ●女性は苦手。ややこしくて、たいがいつまらないから。(p204)
    ●周囲に溶け込もうと必死になっていた20代の頃は、恋人がいれば、自分が必要としている受容や承認が得られると信じていた(p225)
    ●ASDはあなたの一つの側面にすぎず、ASDであることがあなたのすべてではありません。(中略)ASに閉じ込められる必要はありません!(p333)

  • 何年前か忘れましたが、「空気を読む」という言葉がとても流行った時期がありました。そもそも空気を読むという事がASDの方たちには理解できません。
    僕自身も周囲に「なんでこの人はこんな当然な事を聞いてくるのだろう」「これを頼んだら普通これもセットでやるだろう」という事でイライラした事があります。
    ASDやそれに類する人たちに抽象的な言葉で指示したり、頼んだりしてイライラしていたんだろうと振り返ると思います。
    色々な事に名前を付ける事で、分類されて楽になる事ってこれに限らずあるので、本作のような女性のASDに関してしっかり診断して支援を受け、自分は異常ではなくそういう個性なんだ、同じような人が他にもいるんだ。という救いはとても大きいと思います。
    普通の自閉症に関しても親が現実を受け止められずに、普通学級に通わせることにこだわったり、認定を受ける事を拒んで結果何も支援を受けられないまま大人になってしまう事もあります。
    いつかは親も居なくなり一人で生きて行かなければならない(パートナー居る居ないにかかわらず)。そのための準備は恐れずしなければいけないですよね。
    自身のパーソナリティーを知る事で、まず自分が自分を許してあげる事が出来る。それによる自己肯定感の向上というのは人が生きていく上で無常の幸せだと思います。

    身の回りに思い当たる人はいませんが、50人に1人というと実は身近にいる可能性もあるし、これから出会う可能性もあります。この本を読むことによって色々な人への理解に役立つし、何かの時には是非この本を勧めたいと思います。

  • 「きっつー…」という現実がこれでもかと突きつけられる。予習としては良いが、光明が見えなくなるので諸刃の剣でもある。ただし「知識」として知っているどうかで出せる手札が変わってくるので、トータルで見るとプラスにつながると思う。

    それにしても「発達障害の現実」の厳しさよ…

  • 春に読んだ「存在しない女たち」は、世の中は事実上男性中心主義であり、女性というのは全体としてまともに扱われていないことをたくさんのデータ(の不在)を元に論じていたが、ここで扱われている内容もまたその一端かもしれない。
    ASD(自閉症)は男性に多いものだと言われてきたが、実は男女で特性の現れ方に差があって、検査などでも女性は見過ごされてきている場合が多いだけではないか、という話。翻訳した堀越英美さんのあとがき(web公開)や「群像」に書かれたエッセイを読んで、ちょっと他人事じゃないという直感があり、すぐに手に入れた。

    具体的なことを知れば知るほど、「男の子」の典型とか「女の子」の典型とかいうのがほんとうにあるのかわからなくなってくる(実際、あくまで「傾向」「スペクトラム」だし、最近は「モザイク能」という言い方もでてきたが)。自分や身の回りで思い当たる項目があまりに多すぎて、標準と例外のような扱い方ができるほど圧倒的に偏っているのかどうか「定型(typical)」と「非定型」の比率はどんなものなのだろうとも思った。

  • 私も娘も当事者です。特に思春期の辛さには同意するばかりです。

  • 友人に勧められて読んだ本。ASDと聞いてイメージするASD像と、実際の女の子の実像との違いに驚く。それは社会的役割の差から生じるという一面も持つ。女性にはASDはいない、とまでは思っていなかったが、イメージするのはいつも男性だったなと振り返る。レインマンを代表する映画の影響もあっただろうと思う。診断名がつかないことでただ変わった人だと自他ともに認知してしまい、苦しんでいる女性が多く、鬱などの二次障害を発症する人も多いとのこと。診断名がつくことで楽になる人生もあるし、診断名がつくことで制限される、制限してしまうということも起こりうる。だから、一概に診断すればいいというものではないとは思うが、ASDだとわかり解放されている人たちの言葉を読むと素直に嬉しくなった。
    なんにしても、どんな人でも、自分と違っても、多くの人とは違う行動、思考をしていても、この世界が生きやすい場所であって欲しいと願う。また、違いを認め受け入れられる自分でありたいと思う。

  • 自閉症スペクトラムの女性といっても色々いる。
    書籍やブログなどで個人で発信できる(目立つ)人は工夫してある程度定型発達の人に合わせてコミュニケーションを取ることができたり、特別な才能があったりすることが多い。そういう人じゃない人の声もあって参考になる。
    診断はされていないし、受診する予定もないが、私も身に覚えのある記述が多かった。同じ苦労をしている仲間がいて嬉しかった。

  • 理由はありません。ただただよかった。
    特にいま現在から年老いていく過程のところへん。情報量はとても少ないですが。
    これからも生きていかねばなりません。
    できれば、穏やかな気持ちでいられる時間が、長くあるといいなと願うだけです。

  • それ以上やめて!となるぐらい
    当事者の方の声と自分の過去が重なりました。
    診断はついていませんが
    自分は自分でいい、と思えるようになる一冊でした。

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著者プロフィール

英国における成人自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)サポートプロジェクトのトレーニングマネージャーであり、フリーランスの自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)コンサルタントでもある。著書『アスペルガー症候群の人の仕事観――障害特性を生かした就労支援』(梅永雄二監訳、西川美樹訳、明石書店、2010)、『自閉スペクトラム症の女の子が出会う世界――幼児期から老年期まで』(堀越英美訳、河出書房新社、2021)など。パートナーのキース(自らASと診断している)との共著もある。

「2022年 『自閉症スペクトラム障害とアルコール』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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