- Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309403342
感想・レビュー・書評
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沙枝と律子という二人の女性のあいだで交わされた交換ノートのかたちで発表された作品です。
二人の対話は、「産む」女と「産まない」女という対立を孕みながら、「性」にまつわる意識を掘り下げることへ向かっていきます。「性」は生殖のためのメカニズムでありながら、そこにとどまっていることはできず、他者との直接的なつながりをつくり出さずにはおきません。しかしこれまで男性たちは、女性にとっても「性」がそのようなものであることを黙殺してきたという指摘がなされます。
このような問題への気づきは、「性」についての意識を掘り下げ問題を共有することへ向けて女性たちをうながしますが、そのなかで新たな問題が浮かびあがってきます。「わたしが子どもを産み育てていきながら、なるほどと感じたのは次のようなことでした。形態的な複数も、本質的な単独者崩壊も、彼は(そして男たち一般は)実体として生きながら、観念的に既成の単独性を持ちつづけるということ。そしてそれは生活の外にある社会の原理と、拮抗する内的手段であるということ。また男たちは女のように十カ月もの間性機能の変化を持続させないために、単純に疑似的な単独性にもぐりこめるということ」。そしてこの新たに前面に立ちはだかる問題は、つねに沙枝の「理解者」でありつづけた夫との関係に影を落としていることが明かされます。
著者は「文庫版あとがき」で、男女のあいだでこうした問題について対話するためのことばが存在しなかった当時の状況について語っていますが、対話の不成立を対話そのもののなかにくり込む苦しさのようなものが立ち込めているのを感じます。詳細をみるコメント0件をすべて表示