十二神将変 (河出文庫 つ 2-1)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309405001

感想・レビュー・書評

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  • まずは中井英夫関連で知った塚本邦雄という名前。
    次に、永遠に思い出すであろう「零歳の詩人」の小説家・楠見朋彦が、歌人として師事する「塚本邦雄の青春」で、興味を深めた。
    また、穂村弘、皆川博子、高原英理、山尾悠子らによる賛辞で、絶対読まねばと決意した。
    先日、愛好する翻訳者・岸本佐知子が激推しする小説だと言っていた。
    その筋の読者には「虚無への供物」になぞらえて「罌粟への供物」と呼ばれる、歌人による小説に、以上のお膳立てを経て、いわば満を持して手を伸ばしたわけだが、……うーん……。

    まずは、圧倒的に読む側の教養がなかった。特に茶道の作法。
    で、その下に隠された、下世話な欲望、あてこすりの会話、あけすけな噂、家族間の無言・隠蔽・察せよという挙動、さらに仄めかし……。
    ノット読者フレンドリーな記述リテラシーなので、どの記述に何をどれくらい読み込めばいいのか、集中度を測ることすらできず。
    ……10代で初めて稲垣足穂を読んだとき、ネリギがどうとか紙シャボンがどうとか隠語のように書かれていて、何がなにやらだった。検索もできなかったし。
    その後メンソレータムとかBL路線で知ったが、今回も、そういった仄めかしの記述で、煙に巻かれた印象がある。→ゲイ文芸の作法か?
    さらに、男色関係にとどまらず、誰と誰がどんな関係で、過去と現在がどうつながっていて、秘密結社の事実がどこまで開陳されているのかが不分明なまま進む……読解力不足もあるだろうけれど、決してフェアな探偵小説ではない、と思う。
    頻発する「見立て」の趣向もあって、やっぱり「虚無への供物」の亜種という印象。
    キョムクモが1964年刊行。
    ジュニシショは1974年刊行……やっぱりアドニス会を調べなければらならないかしらん。
    また衒学趣味ゆえ永遠に読めるという作品があるが、並べるなら小栗虫太郎「黒死館殺人事件」>「虚無への供物」>「十二神将変」、と個人的に思う。

    内容に少し踏み込めば、描写のはしばしに旧仮名で「にほひ」が頻出。
    その筋の小説の作法なのか。
    また、坊主が出るだけにナマグサ度数いや増す、と感じたが、これもまたその筋の小説あるあるなのかしらんと憶測したりした。
    つい笑ってしまったのが、第4部の、天道と空晶(義理の兄弟)の、サラミ・ソーセージ云々。
    で直後、第5部で、早速妻子にバレテーラ。
    娘沙果子が、仄見える「もう一つの世界」を究明していくわけだが、読者側に事前情報があるぶん、究明の過程に、滑稽味は押さえきれない。
    そのぶん、200pで父が娘に「人はみな幻獣(シメール)を負ふと言ふが」「私は逆にそういふお前がいたはしい。正直に言へば煩わしい」云々と言う場面が、強烈だったりも、する(連想される皆川博子に「人それぞれ噴火獣」、服部まゆみに「シメール」がある)。
    どれだけ悲哀に傾いて読めばいいのか、どれだけ滑稽なコントとして読めばいいのか、そのへんの匙加減やリテラシーも難しいところ。
    塚本をBL短歌の始祖のように言う向きもある(し、大好物だ)が、その枠内に留まらない評論も多い作家を、今後どう位置付けながら読んでいくのか、迷わせる小説に出会ってしまった。
    困った。わかったとかわからなかったとかを越えて、嬉しい。



    目次:
    第一部 翡翠篇
    第二部 雄黄篇
    第三部 臙脂篇
    第四部 白毫篇
    第五部 瑠璃篇
    第六部 玄鳥篇
    第七部 水精篇
    巻末エッセイ 天球の方陣花苑 中野美代子
    解説 島内景二

  • 飾磨(しかま)家の令嬢でジュエリーデザイナーの沙果子は、兄・正午の親友で、薬種問屋の次男坊である最上立春と交際中。ある日、海外出張に行っているはずの立春が、飾磨家の離れに住む叔父・淡輪空晶のところに隠れていることに気づく。数日後、立春がホテルの一室で阿片中毒による遺体で発見され…。

    基本的には立春の死について、ヒロイン沙果子が探っていく謎解きミステリー。しかし歌人である塚本邦夫が作者だけあり、作中に散りばめられたきらびやかな言葉の数々や文体のせいで、ミステリーというよりは耽美かつ華美で精巧な細工物のような印象を残す1冊。

    タイトルの十二神将は「薬師如来および薬師経を信仰する者を守護するとされる十二尊の仏尊(Wikiコピペ)」で、空晶がこれのミニチュアール十二体を所持しており、さらにこの十二神には十二支の干支と、色=宝石が当てはめられており、大変複雑。死んだ立春がそのうちの1体を持っていたことが、謎解きの鍵となる。

    仏像や色、それを模った方陣花苑、さらに旧家の複雑な人間関係の登場人物たちなど、全体の印象としては中井英夫『虚無への供物』に近い。そして男同士の同性愛のにおいがそこかしこでぷんぷんする(笑)総じて大変好みではありました。

    以下は備忘録的に登場人物メモ。

    <飾磨(しかま)家>
    飾磨天道:一家の父。精神病理学者。13歳のころは超絶美少年だった。家族に隠し事があり、実は義弟の空晶と…。
    飾磨須弥:母。天真爛漫で善良なごく普通の夫人…のはず。
    飾磨正午:長男(25歳)建築設計士、正装するとイケメン。妹とは仲良し。母譲りの健全な青年。
    飾磨沙果子:長女(23歳)宝飾デザイナー。行動的な本作のヒロイン。
    淡輪(たんのわ)空晶:須弥の弟で兄妹の叔父。飾磨家の離れに居候中。もともと寺へ養子に出されたが還俗、有能で人望もあるが放浪癖があり、同性愛者。インドに彼氏がいる。

    <最上家(薬種問屋)>
    最上立春:薬種問屋の次男坊で家業の輸入部門を担当。正午の学生時代からの親友で沙果子の恋人だったが…。
    最上清明:立春の兄。
    最上あさぎ:貴船未雉子のまたいとこで清明の妻。恐ろしい妖女。

    <貴船家(飾磨家のお向かいさん)>
    貴船七曜:父。麻薬中毒で廃人になったという噂があったが…。
    貴船左東子:母。茶道の宗家。若い頃に空晶の師匠である空水と不倫をしていたようで、未雉子の父親は…。
    貴船未雉子:24歳。正午を狙っているようだが飾磨兄妹は彼女を苦手としている。どうやら妊娠しており、その父親は立春と思われたが…。

    <真菅家>
    真菅主水:菓子司・真菅屋の主人。
    真菅道生:主水の息子で沙果子とは同級生。

    真菅幹右:主水の弟で花屋幹八の主人。
    真菅杏八:幹右の息子。女好き。最上あさぎとデキており、さらに未雉子にも…。

    <青蓮寺別院>
    設楽空水:住職。空晶の師匠。若き日の左東子だけでなく、須弥にも言い寄っていた。
    虚鏡老師:空水の師匠。すべての発端。

  • 作者は寺山修司、岡井隆と共に前衛短歌の巨匠。それがなんでミステリを…。旧仮名旧字体は、読み進むと慣れて気にならなくなるが、世界が濃過ぎる上にペダンチックな言い回しの連続で、謎解きどころじゃないんですけどー。
    おまけに、中野美代子の「巻末エッセイ」はマニアック過ぎて、さっぱり理解できなかった。
    解説の島内景二氏は「森茉莉よりは三島の世界」と言ってるが、倉橋由美子と赤江瀑を足して2で割った感じ、の方がしっくり来ると思う。

  • 11/7 読了。

  • 歌人塚本邦雄が書いたミステリー…ですが謎解きより、耽美な程に 濃密な人間関係・日常の描写・仏像の講釈等々に酔いしれて、何度でも読み返してしまいます。無人島に1冊だけ持っていくならこの本。皆が腹に一物溜めてるような登場人物の中で、主人公兄妹の健やかさが大樹のように逞しく、救いになっているような気がしました。

  • 第一・第二短編集より後に発表された典雅なミステリ。
    タイトルの「十二神将」とは、
    薬師如来および薬師経を読誦する者を守護する12の武神。
    複数視点で叙述されるが、一応、主人公は二十代前半の女性で、
    両親・兄と共に暮らしていて、
    離れに叔父(母の弟)が居候しているという家庭環境。
    互いに憎からず想っていた、兄の親友でもある青年が変死して以来、
    父・叔父、そして隣人らの不審な挙動を察知し、
    点々と散らばったヒントを繋いで
    彼らの秘密に迫っていくというストーリー。
    短編集より取っつきやすく、予想以上に面白かった。
    知っていて知らぬフリをしている(らしい)母=須弥夫人が好き。
    それにしても、
    この作品にも「虚無への供物」というフレーズが似合う気がするなぁ。

  • 謎解き部分は難しすぎて、ミステリとして読むよりも耽美小説として読んだ方がいいと思う……なんて失礼な話でしょうか。
    私は塚本作品を読む時、面白いとか面白くないとか、辻妻が合うとか合わないとか、そんなことは山の向こうへ吹っ飛んでしまっていて、もう隅から隅まで塚本美学が徹底された小説世界にひたすら酔うのです。
    軟弱なイケメンではなく、体臭がきつそうな美形が愛されてるのがまたイイ。
    ちなみに河出文庫の表紙も素敵。保存用と読書用と余分な一冊の、計三冊を持っててもまだ欲しい。

  • 歌人である著者によって選りすぐられた美しい言葉、そこに潜んでいる意味や謎。是非とも秘密めいた世界に浸っていただきたいです。

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著者プロフィール

1920年生まれ。2005年没。歌人。51年、第1歌集『水葬物語』刊行、以後、岡井隆、寺山修司らと前衛短歌運動を展開。現代歌人協会賞、詩歌文学館賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞、現代短歌大賞など受賞。

「2023年 『夏至遺文 トレドの葵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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