弾左衛門とその時代 (河出文庫 し 13-1)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309408873

感想・レビュー・書評

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  • 古本で購入。

    江戸時代、穢多頭として関八州の非差別民を支配した弾左衛門。
    職名であり人名として代々受け継がれた「弾左衛門」というシステムとは何であったかを解説するのが本書。

    弾左衛門は役所を持ち、町奉行の下部組織としてお仕置御用やお尋ね者の探索など、警察の下級機関のような職掌を務めていた。
    筆者はそれら警察・司法の下級の仕事こそが「弾左衛門」の本来の任務であり、そこに皮革を取り扱う穢多がくっ付いた、と仮定している。

    つまり、「弾左衛門」という職掌があり、それは武士階級と強く結びついている。
    そこへ武具・馬具の材料(皮革)の生産者として武士階級に必要とされた穢多身分の人々が呼ばれ、いつの間にか弾左衛門と一緒にされた―
    これが筆者の想像であり、
    「どうも『弾左衛門』という存在は穢多身分一般と、その本質ですこしずれている」
    のだとする。

    これら筆者の仮説の当否は別として、「制度としての差別」という、時代のひとつの様相を体現した「弾左衛門」という存在は実におもしろい。
    「頼朝以来の穢多」を称する弾左衛門の歴史的意義とは何だったのか、興味深いところ。

    また、最後の「浅草弾左衛門」弾直樹の伝記も、多くのページを割いて描かれている。
    幕末~明治に生きた弾左衛門の生涯を追うことで、明治維新の新たな側面が見えてくる。

  • 現代の社会にも残る差別問題のルーツを学ぶ。
    弾左衛門達は明治維新によって、ある意味では最も影響を受けた人々かもしれない。
    封建社会は身分と職業が紐付いていた社会だが、必ずしも人々の幸福度を損なってはいないところに、現代社会の我々の理解が及ばないところがある。

    「解放令」は土地の商品化のためだとする説(大久保利通の頭に描かれたプログラム)がある。
    ①無税の土地をなくす。賤民の名の下に無税の土地を与えられているのをなくすためには、まず「解放令」を発布し、被差別の身分をなくす。彼らが特典を持てなくする。
    ②土地永代売買禁止令を廃止する。
    ③地券を交付し、地価の3%の税をかける。


    以下引用~
    ・松本良順は小太郎弾左衛門に、薩長の誘いに乗らないようにといい、願いを出せば自分の力で士分にも取り上げてやろうとつづけた。
    ・松本良順は日本で最初の「水泳」をやってみせた人である。神奈川県の大磯で歌舞伎役者を使って水泳のデモンストレーションをした。

  • 9/23-9/25
    時代小説を読むたびに
    出てくる人物であるが、
    なかなか興味深かった。


  • 塩見鮮一郎 「 弾左衛門 とその時代」

    家康により採用され、明治維新により廃止された 弾左衛門制度について論じた本


    弾左衛門は、賎民共同体の統治や町奉行の手伝(牢番、処刑)を行うための制度であり、江戸時代に 13代にわたり引き継がれた人名でもある


    弾左衛門は 現在の関東地方全域における賎民を統治し、革関係を経営し、灯芯の江戸市中の占売権を持ち、町人や武士に金貸しまでした。国家に庇護された貧困弱者のイメージはない。広域強大な組織であると思う



    制度上 差別的な身分を与えられることは、住む場所と仕事が保障されることを意味し、身分制がなくなることは 住まいと職業は 自分で探せということになる。江戸時代に弾左衛門により維持された秩序が、明治東京において失われ、その地域がスラム化し 旧賎民が浮浪者となったのは当然に思う。明治維新や自由主義の見方が少し変わってくる


    テキストとして、いろいろな問題を考えることができるテーマに関わらず、日本史に取り上げられないのは残念







  • 小説「浅草弾左衛門」の副読本として。
    教科書ではほぼ触れられない日本史の裏側。士農工商から漏れた被差別民である穢多・非人という存在と彼らを統率した浅草弾左衛門の歴史を詳細かつ丁寧に記録している貴重な一作。

    江戸時代の被差別民の制度や仕事内容、権力者との結びつき、「解放令」後の彼らの消息… 差別故に特権を享受できた江戸期、権利だけ奪われ差別心だけ残された明治期。近代日本の差別の遍歴を垣間見る一作としても良かった。

    作者も強調していた一文をひとつ。

    “清めが汚れに反転する”このパラドックスが日本の差別意識の最深部にある。

    幕末の混乱期、行き倒れの死体や浮浪者の世話をし、荒れた市内を清掃したのが穢多・非人であった。そんな事もつゆ知らず、彼らを差別した人々。
    絶賛コロナ禍の2021年、医療(清め)の最前線で踏み止まる医療従事者やその家族に向けられた差別、偏見の眼差しはこの頃と変わってない。

  • 弾左衛門制度は、江戸幕藩体制下、関八州の穢多身分を支配し、下級刑吏による治安維持、斃牛馬処理の運営を担った。明治維新を迎え、13代弾左衛門(弾内記=矢野直樹)は反差別の運動を起し、賎称廃止令によって被差別身分からは脱するが、同時に職業の特権的専制を失う。時代に翻弄されたその生涯

  • 関東にも差別があり、弾左衛門を中心とした制度として成り立っていたということを知ったのは五木寛之の著書だったが、貧民研究では第一人者である著者による本書は、弾左衛門による支配制度の成り立ちについて大変深い掘り下げを行っている。制度によって差別されていた人々にも生きるすべ、あるいは拠り所が存在していたのかと思っていたが、飛んでもない誤解であったことを理解し、愕然とした。

  • 大崎Lib

  • [ 内容 ]
    弾左衛門制度は、江戸幕藩体制下、関八州の穢多身分を支配し、下級刑吏による治安維持、斃牛馬処理の運営を担った。
    明治維新を迎え、13代弾左衛門(弾内記=矢野直樹)は反差別の運動を起し、賎称廃止令によって被差別身分からは脱するが、同時に職業の特権的専制を失う。
    時代に翻弄されたその生涯を凝縮する。

    [ 目次 ]
    第1章 はじめに―弾左衛門とはなにか
    第2章 弾左衛門という制度
    第3章 弾直樹の生涯(小伝)
    第4章 弾左衛門の謎
    第5章 おわりに―中世へ
    付録

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 歴史のなかで生まれ、否応なしに差別化された人々。弾左衛門という、個人名であり、役職名であるこの名前を代々受けついだ人たちの 歴史を、今一度学び直すとき、其処には、幕府の利己的な傲慢さと、矛盾が浮かびあがる。囲内という、決められた土地にしか住むことができない人々の身分解放を、弾差衛門がいかに成し遂げたか。考えさせられる内容だった。

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著者プロフィール

1938年岡山県生。作家。河出書房新社編集部を経て著述業。主な著書に『浅草弾左衛門』『車善七』『江戸東京を歩く 宿場』『弾左衛門の謎』『異形にされた人たち』『乞胸 江戸の辻芸人』『吉原という異界』等。

「2020年 『差別の近現代史 人権を考えなおす』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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