アーティスト症候群---アートと職人、クリエイターと芸能人 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 368
感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309410944

作品紹介・あらすじ

なぜ人はアーティストになりたがるのか。なぜ誇らしげにそう名乗るのか。その称号をもてはやすのは誰なのか。「誰かに認められたい」欲求によって"一億総アーティスト化"した現在、自己実現とプロの差異とは一体どこにあるのか。美術、芸能、美容…あらゆる業界で増殖する「アーティスト」への違和感を探る。東京都青少年健全育成条例問題、アート解説本の需要増加等、最新事情を記した論考を追加。

感想・レビュー・書評

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  • アーティスト崩れが書いた本。
    ドクター崩れの塾講師が、自分は学者になれなかったんじゃなくてならなかったんだ、学者なんてならない方がいい、と何も知らない受験生たちに吹き込むように授業をする感じとそっくりで、アーティストで居続けられなかった著者が、やろうと思えば続けられたけど、アートじゃだめだったんだ、てゆうか今「アーティスト」って呼ばれている人、全然アーティストじゃないしwwwみたいな感じで語っていくので、なるほど確かに、とは思いながらも、いやーな気持ちになりながら読んでいた。
    後半はそれなりに考察が加えられていた気がするけど、全体的に横たわっている「崩れ感」(なれなかったものへの羨望と嫉妬が入り交じり、その能力がないくせに諦めがつかないネガティブな感じ)が出まくっていて、そっちの方に気が取られてしまった。もったいない。

  • 長い間疑問に感じていたことを指摘してくれた。
    後半がやや蛇足的。

  • ちょっと読み方が途切れ途切れすぎた。

    終盤の分析がなかなか刺さった。
    もう一度読む。

  • 本を読む前は、なんとなく「芸術に携わる人って、カッコいいな」と
    良いイメージを抱いていました。
    昔から絵を描くのが好きで、芸術分野の学校へ進もうか悩んだ時期もありました。
    この頃から、芸術に身をおく人は特別、という先入観があったのかもしれません。
    しかし、思春期の心に抱いた淡い憧れは
    「有名になるのはほんのひと握りの世界なんだから、現実的になって。」という
    親の一言で呆気なく散ってしまいます。

    たまに、このことを思い出しては、
    「あの時親の反対を押し切って芸術系に進んでいたら今頃は・・」と
    空想に耽る時があるのですが、
    この本を読んで、いかに自分が「アーティスト症候群」に陥っているか
    思い知らされました。
    私のように、「アート」「アーティスト」「クリエイター」という言葉に、
    ”なんとなく”、”ぼんやり”憧れを抱いているような人は、
    一度読んでみることをお勧めします。
    筆者の歯に衣着せぬ批評のおかげで、
    空想の世界から現実に一気に引き戻されました。

    本書では、「アーティスト」という言葉が
    どのような時代的背景のもと生まれ、
    現在に至るまでどのような存在として位置しているかを
    絵画の歴史、資本主義社会におけるアートの扱い、欧米文化の流入など
    様々な観点で説いています。

    私にとって「現代アート」「アーティスト」という言葉は
    当たり前のように存在していたもので、
    それ自体に疑問を持つことはなかったのですが、
    現代アートに触れた時の"居心地の悪さ"は気になっていました。

    西洋絵画を見る際は、表現技法の変遷や派閥闘争など
    様々な歴史的背景を併せて鑑賞し、
    書き手の思いを汲み取ろうとする行為そのものに面白さを感じていたのですが、
    現代アートの場合、いまいち楽しみ方がわからないことが多々ありました。
    鑑賞する側の芸術に対する態度や知性を問う一方で、
    作り手が何を考え、何を悩んで、一体私たちに何を訴えかけているのか
    全くわからない、そんな感覚を覚えました。
    だけど、本書内で、
    現代アートは自己哲学に囚われた末の表現物であり、
    表現の枠組みもかなり緩くなり、もうなんでもありな形になってしまっている、
    という筆者の言葉が、そんな自分を救ってくれたように思います。

    「なんでも鑑定団」と「誰でもピカソ」を対比させた章では、
    番組の方向性や出される表現物の種類が大きく違えど、
    アートや芸術が、いかに人の欲にまみれているものか皮肉を交えて解説。
    審美眼を認められたい目利きとしての承認欲求、
    優れた表現者としての承認欲求、
    出演者それぞれには何かしらの認められたい欲求があるんだ、と鋭く指摘。
    言葉には出てこない、人の深層心理を見抜く人なんだなぁ、と思いましたが、
    筆者の真正面から受け取らない視点、意地悪な言葉選びも面白いです。

    個人的に一番刺さったのは、「自分流症候群」の章でしょうか。
    なぜ、「アーティストになりたい」若者で溢れかえっているかを
    社会的な側面から考察している内容ですが、
    誰とも違う自分という存在を世に知らしめたい、という承認欲求は、
    今の社会からの「逃げ」の行き着いた結果なのだと思います。
    生まれた時から格差は付いてまわり、
    資本主義社会で競争せざるを得ない中で、
    汗かいて働いても自分の老後は不安定、
    会社もいつ潰れてもおかしくはない、
    健康的な生活と家庭を持つという安定ルートを歩くのも一苦労。
    目に見えて苦労するのがわかっている現代だからこそ、
    今の人生悔いないように生きよう、
    会社が守ってくれるという幻想は捨てて、
    自分1人で立っていける食い扶持がなければ・・
    そんな思考、人生を憂いた先に、
    「自由」「自分らしさ」「とらわれない働き方」「手に職」という
    イメージで纏われた、アーティストやクリエイターという言葉に
    惹かれる人が多いのではないのでしょうか。
    当事者だからこそ、この非現実的な言葉に逃げる心は、
    少しわかる気がします。

    アーティストという言葉、職業は、もはや芸術分野の人たちだけの言葉ではなく、
    現代社会の中で一般的になった言葉であり、
    社会の閉塞感から逃れるために選ばれた言葉でもあると思います。
    アーティスト、という言葉や存在が悪いというのではなく、
    言葉を通して今の社会を見つめ、何が問題なのかを切り出す鋭い視点が
    とても面白いと感じる内容でした。
    この筆者の作品を今後ももっと読みたいと思います。

  • 文章がとても面白かった。痛快だった。

  • 元アーティストという稀な肩書を持つ著者による、現代のアートとアーティストを取り巻く状況についての平易な解説。
    先ごろ読んだアトリエインカーブの著者とは「アート」に関する定義からかなり異なると思われるが、両者の対論など見てみたい。

  • 技術を持ち世におもねず100%自分をかけているのがアーティスト。格差社会の中のオンリーワン幻想、アーティストというポジションは、膨れ上がる被承認欲と根拠ない万能感を抱えた若者の、夢の受け皿となっている。

    日々の糧としての仕事vs余裕人のアートだったのが、いろいろなところに余裕ができてきたから、アート需要ももアーティストも増えたのかな。

  • 「アーティスト」という呼称は被承認欲求だと著者は説く。芸術的・美術的な何かをつくりたいのではなく「アーティスト」と呼ばれたいのだ、と。そこには特別な自分という自己イメージが投影されている。この社会から自由でありたい、社会に埋没したくない超然としたいという欲望だ。

    それに対して「クリエーター」という呼称がある。「アーティスト」ほど俗世間から離れている訳ではなく社会と折り合いをつけている(≒金を稼ぐ)が、「表現」には拘った特別な存在というわけだ。「アーティスト」という呼称にも滲み出ているが発想至上主義的なモノがあるだろう。技術に長けた「職人」は時として侮蔑的な意味で用いられる事もあるからだ。


    例え話として芸大でのこんなやりとりがあげられている。「おまえ、職人になりたいのか?」。これは技術はあったとしても大した発想力はないという含意がある。そして「職人」は社会の歯車というイメージもある。実用を旨とするからだ。

    「アーティスト」にも「クリエーター」にも自分の世界を作り出したいs、送り出したいという欲求があるが、著者はそれを「自分の世界があるのがそんなに偉いのか?(P.46)と一蹴する。取るに足らない自分が「芸術と言う底上げ感」(P.93)で誤魔化されるのである。

    冒頭で掲げられた疑問「アーティストと呼ばれたいのか? アートを生み出したいのか?」に行き着く。

  • レビュー省略

  • 704

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著者プロフィール

1959年、名古屋生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻科卒業。現在、名古屋芸術大学、トライデントデザイン専門学校非常勤講師。著書に『アーティスト症候群』『「女」が邪魔をする』などがある。

「2012年 『アート・ヒステリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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