- Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309411415
感想・レビュー・書評
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いいお酒みたいな本です。いいお酒なんだろうけど、頭ではわかるけど、年齢を重ねないと心からはそう思えない部分もある。でもこの味、ちょっとクセになる気もするし、違う香りがして、いいお酒なんだなって思うから、この味が心にしっくり来るような年の取り方をしたい。そんな感じの本。
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再読。
吉田健一最後の長編小説。
いつものように登場人物がただ酒を飲み、ダラダラと語り合うだけ……と言ってしまえばそれまでだが、まるで一緒になって飲んでいるようないい気分になれる。吉田健一の文章は、どれを、何度読んでも気持ちがいい。 -
たとえば実験的にこの小説の書き方を真似てみると、この背景が書かれた時代に吉田健一はその空気を吸っていて、それはどういうことかというと、直接的に彼の目に見えたこと、頭にうかんだことを書いているのであって、私小説とも、あるいはエッセイとも言える。しかし、これが彼のさいごの小説と呼ばれるからには間違いなく小説である筈で、やはり私の読み違いが原因の筈である。
そもそも、私という存在は良く読み間違いをしては、その書物に支払った代金を無駄にしており、それならいっそ活字など読まなければ良いのではないかと考えることもあるのだが、書店にいくたびにその事実を忘れ、それでもハードカバーは少し値が張るのでいつ後悔しても良いやうに文庫本から気になるタイトルや、過去に読んだことのある作者の作品を選ぶのであるが、その際に内容をちらと読んで、読むに値する書物かどうか判断できたら良いのだけれど前述のとおり、その能力が決定的に欠けているのである。
このようなことを書いていると、それならお前の棚にある本はどれもつまらないものになるのだなと、意地のわるいことを言う輩も出てくるはずだが、そうではなく、ただ私の評価を当てにしてはならないと言っているだけで、実際におもしろいかどうかは自分の目で確かめたほうが良いのではないかと、ここにレビューなり感想なり書きながら矛盾したことを言っている。 -
前から読もうか迷っていたんですが、倉橋由美子の書評エッセイでやたらと名前が出てきたので、やっぱり読むことにした吉田健一。小説で、入手し易く千円未満の文庫で読めるのが多分これだけだったので、まず『埋もれ木』。
ぱらぱらっと本をめくってみてビックリするのが、ほとんど余白なく文字がびっしり詰まっていること(笑)。最近の作家だと、短い会話、細かい改行、段落ごとに空白、って感じで、1ページあたりの文字数はものすごく少なかったりしますが、そんな紙の無駄遣いは許さないって感じです(笑)。句読点というか読点が極端に少ないので、慣れるまでちょっと読み辛いですが、個人的にはリズムに乗れれば大丈夫。
ストーリーも、これといった大事件は起こらず、登場人物も主人公の周辺の数人のみ、おもに主人公が一人で考え事をしたり、友達と飲みにいって世間話をしてたり、という日常の様子が淡々と綴られているだけなんですが、これが全然退屈じゃないっていうのが凄い。昭和40年代(かな?)の東京の様子も興味深く、ちょっとした会話や独白の随所に著者の人生哲学みたいなものが感じられて、あっちこっちに付箋を貼りたくなりました。なんていうか、大人むけ、ですね。10代や20代の頃に読んだとしても、この本の面白さはわからなかっただろうな。