いいなづけ 上 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309462677

作品紹介・あらすじ

ダンテ『神曲』と並ぶ伊文学の最高峰。飢饉や暴動、ペストなど混迷の十七世紀ミラーノを舞台に恋人たちの逃避行がスリリングに展開、小説の醍醐味を満喫させてくれる。読売文学賞・日本翻訳出版文化賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 本作はダンテの『神曲』と並び称されるイタリアの作者アレッサンドロ・マンゾーニ(1785~1873)の代表作。世界で500以上の言語に翻訳されているようですが、残念ながら日本ではあまり知られていないようです。恥ずかしながら私も『神曲』(平川祐弘訳*河出)を読むまでまったく知りませんでした。流暢で気品のある平川さんの翻訳に心酔した私は、ダンテ本の解説で、とにもかくにも、ぜひ読んでみておくれ~と彼が力説していた本作『いいなづけ』をながく積読していたことにちょっぴり後悔……おぉ~なんでもっと早く読まなかったのだ? こんなにおもしろいのにもったいない(笑)。

    ときは17世紀のイタリア北部。コモ湖に面するレッコはスイスにほど近いこともあり、峻険な峰々とそこから流れくだる清流を湛えた美しい湖畔の村。その写実的な描写が冒頭からなにやら波乱を予感させ、祖国を想う悲哀と郷愁を誘います。
    待ちにまった青年レンツォトとルチーアのめでたい結婚式の前日、村の司祭アッポンディオは、突然その式をあげてはならないと与太者から脅迫されます。

    「……しかし例の与太者風の二人は、彼のほうをじっと見つめながら近づいてくる。ドン・アッポンディオは左手の人差し指と中指をまるでカラーを直そうとするかのように襟首の中へ入れ、その二本の指を首筋にそって回しながら同時に顔も後ろへまわした。そして口をゆがめ、目尻から見えるかぎり遠くまで誰かきてくれないかと後ろを見やったが、しかし人っ子ひとり見えない。壁の向こうの畠のほうにも一べつを投げたが、誰も見えない。またおずおずと道の正面を眺めたが、例の二人を除いては誰も見えない。どうしたものだろう? 引き返すのはいまさら具合が悪い。一目散に逃げるのは「追いかけてくれ」と言っているようなものだ。それに逃げ出せばただごとでは済むまい」

    冒頭のこのあたりの描写はなかなか見もので、長くなるのでさほど紹介できずに残念ですが、少しでも雰囲気が伝われば嬉しいけれど……。

    作者マンゾーニは司祭アッポンディオの目や指の動き、体のこわばり、すくみ具合といった身体の動きを詳細に描くことで、その場のひりひりとした状況を伝えています。もちろんそれによってアッポンディオ自身の切迫感や恐怖心といった心の機微を描きだすことにも成功しています。物語全体にわたり、内面の直接的な描写をなるべくさけ、会話文、人物の表情、目や身体各所の動きを客観的に自然で違和感なく必要十分に描きだすことで、作中人物の内面もえぐり出していく、その卓越した筆力に感激しちゃいます。

    本作は17世紀の歴史的史実をもとにしながら、終始リアリズムの手法で描かれています。他国(物語の設定時はスペイン)の支配下にある祖国の悲哀、領主の筆舌に尽くせない横暴、飢饉や貧窮にあえぐ庶民、パン騒動、たびかさなるペストの厄災と人間の儚さ、写実的で時系列に沿った正統派の長編作品だと思います。でもだからといって堅苦しく、小難しいということにはなりません。純粋に物語としておもしろく、笑いあり涙あり、マンゾーニのストーリーテラーぶりにびっくりしながら物語に引き込まれていきます♪
     
    う~誰かの作風に似ているね~とつらつら思いながら読み進めていくうちに、ふとイタリアの古典的ストーリーテラー、アリオスト(この人は恐ろしく筆力ありますね~しかもユーモアと遊び大好き)を思い浮かべてうなづき、はたまたイギリスのストーリーテラー、ディケンズのような軽妙さと安定感を感じて安心しながら身をゆだね(リアリズムのディケンズ作風にもっとも近いかも)、社会情勢を手堅く描きながら、ときどき飽きたような様相をみせ、警句(アフォリズム)で思わずニヤリとさせるスタンダール風……ということで、一言では言い尽くせない深みのある物語を楽しみました。そういえばアリオスト以外はマンゾーニと同世代の作家たちですね。

    書評は丸谷才一にホーフマンスタール、さらに訳者の濃厚なそれも加わってわくわく。美しい挿画はとても繊細で、波乱万丈の物語をかなり盛り上げてくれます。
    選びようのない時代と人生の苦難に呑みこまれ、もみくちゃになったレンツォとルチーア……晴れて結婚することができるのでしょうか??

    イタリア文学がお好きな方や興味のある方に、新年のわくわくする一冊としてお薦めしたい本です(^^♪ 

  • 『ペストの蔓延などで荒廃を極める17世紀ミラーノ
    17世紀イタリアの風俗、社会、人間を生き生きとよみがえらせ、小説を読む醍醐味を満喫させてくれる大河ロマン
    世界文学の最高傑作』

    海外ミステリやSFはちょくちょくつまんでいるものの、文学はからきしの自分が上中下巻ある、イタリア文学に手を出したのは、帯の言葉に煽られて。コロナ禍だし、ペストだし下巻の裏の内容紹介も、なんだか面白そうだし……

    村の司祭のアッボンディオは、レンツォとルチーアという二人の若者の結婚式に立ち会うなと脅しを受ける。それは土地を牛耳る領主のロドリーゴが、ルチーアを見初めたためだった。
    脅しの翌日、アッボンディオの元にレンツォが訪ねてくるが、アッボンディオは何かと理由をつけ、式を先延ばしにしようとする。不審に思ったレンツォは、アッボンディオの女中であるペルペトゥーアにカマをかけてみるが……

    上巻ということで、まだペストや世の中の荒廃といったことは見えてこず。海外作品特有の言い回しであったり、作中の文化が掴みにくかったりとあったので、展開は遅めの印象なのだけど、登場人物のキャラクターの書き方であったり、17世紀のイタリアの風俗や自然の描き方は、たしかに詳細かつ生き生きと描かれているように感じます。

    自然の描写では、冒頭のレッコという村の周りの山々や川の様子の描写は雄大で、またレンツォたちがロドリーゴから逃げるため、船に乗り川を往くシーンも美しい。

    ここは描写の美しさに加えて、理不尽にも故郷を去らなければいけない、ルチーアの心情表現も相まってより美しくも切なく描かれていたと思います。

    文化的な面では飲み屋の描写だったり、パンに値上げに対する暴動が町で起こったりと、そうした人の営みの描写がこちらも秀逸。帯にあった、風俗、社会、人間を生き生きと描いたの言葉は確かに偽りなし。

    時に血の気が盛んだったり、正義心を発揮するレンツォも良いキャラのなのだけど、それ以上に印象的な登場人物は聖職者の二人。

    アッボンディオに式の立ち会いを断られたレンツォが頼るクリストフォロー神父。このクリストフォロー神父は、ここまでで出てきた登場人物の中でもとくにいい人で、レンツォに代わり、巨大な権力とたくさんの手下を持つロドリーゴに対して、脅しを止めるよう交渉に行ったり、レンツォたちの道筋を示してくれたりしてくれます。

    なぜクリストフォロー神父はこんなに人のために尽くすか、ということが作中でも語られるのだけど、ここら辺は海外文学っぽいなあ、と。
    普段読まないジャンルの話だから、クリストフォロー神父がなぜ神の道に進んだかの話は、今まで読んだことない文化、風俗にも触れられて面白かった。

    そしてもう一人が、修道女のジェルトーデ。ルチーアとその母が逃げた先の修道院にいる彼女の来歴もなかなかに複雑。家の意向で流されるままに修道女になってしまったジェルトーデ。

    ずるずると自分の思いを述べるのを先延ばしにし、父親に反抗するのは恐れる彼女は、甘えを感じる反面、不幸を全て周りのせいにしてしまう姿が、自分と通じてしまう部分もあって、何だか嫌いになりきれない、妙に気にかけてしまうキャラでした。

    読んでみると、レンツォたちよりも聖職者の二人の方が、過去をしっかりと語られているのだけど、その聖職者の二人も必ずしも聖者というわけでなく、クリストフォロー神父は過去の傷が、ジェルトーデは現在進行形での後悔や不満が描かれていたのが印象的。

    こうした聖職者の対比であったり、聖職者の様々な側面を描きつつ、物語に組み込むのもこの時代の文学なのかしら、などと思いつつのんびり中巻へ入ります。

  • 480pもの上巻。まだ中・下が残っているので星評価は避ける。話の1/4位までは描写の細かさがまるで何層もある迷路の様で入り難かったが、中盤あたりでそれこそがこの作品の味だと理解したと共にページを捲る手も進んだ。

    宗教が中心の世界で貧乏で知識のないことが暗に美徳とされている様はなんだか不快だが当時(17世紀)はこんなものだったのだろうか。

    レンツォの良い姿が今の所見られない、というか金で解決できると思っている節があるので寧ろ悪い。明らかにいい女ルチーアに見合うだけの男なのか、今後に期待したい。

  • 解説で丸谷氏が論じてた通り、風景描写と登場人物(特に脇役)のバックグラウンドが事細かに描かれているのがすごい。
    ストーリーも悪役がしっかり分かりきってるし手の内も分かって、こんな分かりやすい話ないのになんか面白くって読むの止まらなかった
    現代版に解釈したらどうなるんだろうなって妄想を膨らませながら読んだ

  • ちょっとビックリするぐらい翻訳が良い。
    セリフの言葉使いまで役者ごとに変えたりして雰囲気が掴めやすい。
    ミラノに行く前にマンゾーニを少しばかり調べた。
    マンゾーニ家の人々まで読んだ。
    同宗教では当たり前になってる事
    17世紀のミラノでは当たり前になってる様な事
    そういう事を、当たり前ではなく、
    知らない人は、分からないだろうが、こういうのは良くある事で……的な感じで、とても細かく楽しく説明が入ってたり。
    著者が何処かの古い本を引っ張り出して、それを現代文として説明してる状態なのだが、それがまた面白い。マンゾーニがこう書けよ!という気持ちが伝わる。
    タイトルは[いいなずけ]だが、
    恋愛ものではなく、17世紀の一般市民、聖職者、マフィア、その手先、それぞれの生活、性質みたいのがとても、リアルに書かれている。

  • 当時のイタリアが目に浮かぶようです
    挿絵もいいです

  • 973||M-1||B10049170-2

  • コロナ禍の今、あまりの話題についに購入。読み始めました。
    イタリアの古典と聞いて恐る恐るだったけど、今のところ訳文は比較的読みやすい。

  • 原書名:I promessi sposi

    第42回読売文学賞研究・翻訳賞、第26回日本翻訳出版文化賞、ピーコ・デッラ・ミランドラ賞
    著者:アレッサンドロ・マンゾーニ(Manzoni, Alessandro, 1785-1873、イタリア・ミラノ、詩人)
    訳者:平川祐弘(1931-、北区、比較文学)

  • 安心して読めるし、それなりに楽しんでもいるけれど、今のところはまだ少し物足りない。

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