アメリカーナ 上 (河出文庫 ア 10-2)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467030

感想・レビュー・書評

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  • 上手く口には出せない思い。表に出ることのない感情。そうしたものを可視化して、たくさんの人に伝えることが出来るのが、小説や文学の強みかな、と思います。

    そして、その強みを存分に発揮している作家の一人が、このチママンダ・ンゴズィ・アディーチェ。彼女の描く”ナイジェリア人”から見たアメリカの姿は、社会や文化、そして生活に埋め込めまれ、意識されることすらなくなっているかもしれない、偏見や差別、アメリカに住むアフリカ系の人々の苦悩を映し出します。

    上巻で主に描かれるのは、イフェメルというナイジェリア出身の女性。主に彼女が留学するまで、そして留学後のアメリカでの生活が描かれます。

    希望を抱いてアメリカへ渡ったものの、待っていたのは厳しい現実。アルバイトをしようにも、職が見つからず家賃の支払いにおびえる日々、アメリカとナイジェリアの文化のギャップに苦しみ、アメリカの本や雑誌を読み、なんとかアメリカという国を知り、同化しようとするものの……

    この上巻で印象的だったのは、母からもらったメンソレータムを鼻の下に塗って、その匂いをかいで涙ぐみそうになるイファメルの姿。

    新天地へ期待に胸を膨らませながらも、現実とのギャップに苦しみ、故郷を思い出す姿は、進学や就職なんかで親元を離れた経験のある人は、多かれ少なかれ感じるものがあるんじゃないかなあ。アディーチェの作品は、日本人の自分からするとなじみの薄い設定が多いです。それでも心つかまれるのは、こうした共通して抱けるような感情を、しっかりと描いているからだと思います。

    さらに、アディーチェ作品ですごいと思うのは、可視化されない思いや真実を描く視点を、アメリカの社会に向けるだけでなく、自分たちにも向けること。

    アメリカ内では”黒人”というカテゴリに組み込まれるアフリカ系の人々。その人々の中にも嫉妬であったり、ヒエラルキーであったり、またアメリカに対する過剰な憧れであったり、そしてアメリカに住む中で、徐々に自身を黒人として受け入れアイデンティティを失っていく姿であったり。
    自分で自分たちの常識や考え方に疑いを持ち、メスを入れるのは難しいと思うのですが、アディーチェはそれもやってのけてしまいます。

    そしてそうしたものを、直接的に文章で書くのでなく、人々の言葉のやりとりや感情、実際の行動を通して描くのもまたすごい。文庫の著者紹介で『抜群の知性としなやかな感性で繊細な物語を紡ぎ出す』とあるけど、本当にその通りだと思います。

    ジェンダーをめぐる視点も相変わらず鋭い。イファメル自身も性を売り物にせざるを得ない状況に直面するのですが、イファメルのおばであるウジュの描き方も印象的。ある意味で男性に振り回される彼女の半生も、結婚や恋愛のあり方、そして女性がどうあるべきなのか、男性はどうあるべきなのか、考えてしまいます。

    ちなみにこの話は、イファメルと彼女のパートナーであった、オビンゼの話でもあります。序盤に登場した後、上巻の最後まで彼の視点は描かれないのですが、その最後の場面が、また波乱を予感させる出だし……

    祖国では普通の人だと思っていた自分が、アメリカやイギリスに渡った途端に、ヒエラルキーの最下層に置かれるという、あまりにも酷で理不尽な現実。その社会の先で二人が何を見るのか。自分にはまったく想像がつかない展開が待っていそうで、楽しみでもあり、不安でもあり……。

  • この本は今読むべき本だと思い、手にとった。

    ナイジェリア出身の主人公イフェメルがアメリカに渡り、アメリカでの黒人の階級が低い事を痛烈に体感する。

    人種差別について深く考えたことがない私は驚きやら悲しみやら初めての感覚を味わった。

  • 以前読んだ短編集『なにかが首のまわりに』が良かったので長編も。ツイッターで思いがけず『なにかが~』がバズっているのを見かけてまもなく、早速こちらも文庫化されたので河出文庫さん仕事が早い(笑)

    アメリカで暮らすナイジェリア人(イボ人)のイフェメルは、優しいブラックアメリカンの彼氏ブレインと同棲し、仕事もあり、それなりの生活をしていたが、突然思い立ってナイジェリアへ帰国することにする。彼女には元カレのオビンゼに対する断ち切れない気持ちが芽生えていた。一方オビンゼは、ナイジェリアで成功し、今は富裕層の仲間入り、美しい妻と幼い娘がいるが、何か満たされないものを感じており、イフェメルの帰国メールに胸を躍らせる。

    2部からはハイスクール時代の二人の出会いと恋人時代の回想となり、ティーンエイジャーの二人が初々しい。母親が宗教にはまり父親は仕事をクビになったり家に電話もないけれど、勝気でハッキリ意思表示をする個性的なイフェメルに、裕福で教育水準の高い家庭(母親は大学教授)で育ったオビンゼは強く惹かれ、二人は付き合うようになる。やがて大学に進学するが国情の不安定なナイジェリアでは講師のストライキなどで勉強することができず、イフェメルは仲良しだったウジュおばさんのいるアメリカへ行くことに。

    しかし、かつてナイジェリアで将軍の愛人となり、魅力的でバイタリティと自信に満ちあふれていたウジュおばさんは、将軍が亡くなってから逃げるようにアメリカに渡りシングルで息子ダイクを育てて苦労するうちに、生活も性格も荒れてしまって、つまらない男との結婚に逃げようとしている。イフェメルはおばさんの家を出て大学に通いながらアルバイトを探すがこちらも思うようにはいかない。

    困窮のあまり冷静な判断力をなくしてしまったイフェメルは、ある種の性的サービスを求められる仕事を一度だけ引き受けてしまう。しかしそれが彼女の心に深い傷を残し、それをオビンゼに伝えることができない彼女は、無意識にオビンゼと距離を取るようになってしまう。遠距離恋愛である二人なので、イフェメルが手紙やメールの返事をしないことでそのままフェイドアウトしてしまった。

    やがてイフェメルはハイスクール時代の親友ギニカの紹介で、一度は断わられた白人のキンバリー家でのベビーシッターの仕事を得る。ようやくイフェメルの生活は軌道に乗り始め、キンバリーのいとこの明るくハンサムなカート(白人)と恋人になり、彼のつてで卒業後の就職先もみつかる。なにもかも順調に運んでいるかのようなイフェメルだったが・・・。

    イフェメルがオビンゼへの手紙に書いた「すばらしいけれど天国ではない」という言葉がとてもアメリカという場所をよく表していると思う。ナイジェリアでは意識しなかった肌の色の違い、アメリカに来たことでイフェメルは自分が「黒人になった」と感じる。差別や格差、逆にそうではないことを主張する人々が意識的にしている平等という無理。そんな中でイフェメルがアメリカに適応し次第に「アメリカーナ」になっていく様子はとてもリアル。

  • 感想は(下)にまとめて。

  • 感想は下巻にて。

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著者プロフィール

1977年ナイジェリア生まれ。2007年『半分のぼった黄色い太陽』でオレンジ賞受賞。13年『アメリカーナ』で全米批評家協会賞受賞。エッセイに『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』など。

「2022年 『パープル・ハイビスカス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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