- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309467559
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
子供の頃から周囲に馴染めず、両親の愛情にも応えられなかった少年ルージンは、あるときチェスと出会い人生が一変する。思いがけない天才を発揮したルージンは、彼のマネージャーのような立場にいつのまにか居座ったヴァレンチノフという胡散臭い興行師に操られるがまま、チェスの世界で成功を収めていく。しかし最大のライバルであるトゥラーティとの対決の途中でストレスのあまり心を病んでしまう。チェスができなくなった彼を支えたのはベルリンで出会った一人の女性。二人は結婚し、ルージンはチェスを忘れて新しい人生を歩もうとするが…。
ナボコフの比較的初期の長編。序盤の天才チェス少年の半生はまるでミルハウザーあたりを読んでるような印象だったけれど、そこはナボコフなので架空の人物の伝記としても一筋縄ではいかない。時間はあちこちに飛び、ルージンの幻覚と現実が入り乱れる。チェスの知識など全くなくても、音楽になぞらえられたトゥラーティとの対決場面などは面白く読めた。
現代でもゲームをやりすぎるとゲーム脳になってしまうけれど、幼い頃からチェスだけがアイデンティティだったルージンはすっかりチェス脳になっており、ただ普通に生きているだけでも、誰か(神なのか運命なのか)とチェスを指しているかのように思え、見えないどこかから、致命的な一手を食らうのではないかと恐れるように。彼は懸命にディフェンス(防御)しようとする。献身的な妻もまた、恋愛感情というよりほぼ母性としか思えないルージンへの愛情から、ルージンをチェスから守ろうとするが、再び現れたヴァレンチノフの存在がルージンにとっては一種のチェックメイトだったのだろう。ルージンはゲームから降りることを選ぶ。
極端な言い方をすればチェスの才能以外に取り柄のない変人が、チェスゆえにノイローゼとなり破滅する物語。しかしナボコフなので、筋書きを追うというよりは、独特の比喩や、緻密に計算されつくしたチェスのゲームのような細部を味わうべきなのだろうけど、なかなか初読ではそこまで深く読み取るのは難しく、相変わらず難解。ルージンの人生がただただ悲しい。