- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309467849
感想・レビュー・書評
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1970年代の韓国。こびと(小人症)のお父さんと、その妻、長男のヨンス、次男ヨンホ、妹ヨンヒの5人家族は、貧しいながらも自分たちで建てた小さな家で暮らしていたが、土地開発の波が押し寄せ、彼らの家は強制撤去されてしまう。撤去される家族は別の住宅への居住権が与えられるが、高額な家賃を払えるはずもなく、その権利を転売するしかない。家族は大企業ウンガングループの工場街へ引っ越し、きょうだいたちはそれぞれ工場で過酷な労働を強いられるが…。
「こびと」の家族を中心にした連作短編集。おもな主人公はこびとの長男ヨンス(※彼自身はこびとではない)だが、底辺労働者の彼らのほかに、彼らから搾取する側の富裕層の少年視点の短編もあり、この階層の違う二つの世界をつなぐ人物として、チソプという運動家の青年があちこちに顔を出す。チソプは労働者たちに働きかけ組合を作り抵抗することを教える。人類に火を与えたプロメテウスのような人物。富裕層のほうにも彼の思想にかぶれる者が出てくる。
働いても働いても楽にならない奴隷のような底辺労働者たちの生活と、それを改善するための戦い。それを経てきっと今の韓国ではこの頃よりましになっているのだろうと思うが、韓国より前にそれを乗り越えたはずの日本が、今むしろ逆行して貧しくなっていることを鑑み、他人事とは思えなかった…。
こびとのお父さんが感じていた絶望、それでも生まれたから生きていくしかないというお母さん、戦うことを選んだヨンス。しかし彼の最終的な選択が正しかったのかどうかはわからない。中産階級の主婦が主人公の「やいば」が個人的には印象に残った。彼女は言う「私たちもこびとです」と。
※収録
メビウスの帯/やいば/宇宙旅行/こびとが打ち上げた小さなボール/陸橋の上で/軌道回転/機械都市/ウンガン労働者家族の生計費/過ちは神にもある/クラインのびん/トゲウオが僕の網にやってくる/エピローグ詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
虐げられた人たちが虐げられ続ける苦しい話だが、連作短篇であるために息継ぎをしながら読める。また、短篇間に何が起こったかどうしても想像することになるので、読み手が自分からかかわっていく読書体験ができる。70年代韓国の状況に対する憤りから書かれた本書が連作短篇として異なる媒体に別々に発表されたのは、発禁処分を回避するためだったわけだが、これらの副次的な効果がうまく機能し、読みやすくしながら物語に引き込むことに成功している。
また、韓国は本書の発表された独裁政権時代を潜り抜けて80年代に民主化を達成している。歴史を振り返れば、登場人物のような人たちが摺りつぶされるようにして生きながら必死にもがき抗議を続けた結果、少しは良くなったであろう今があるのがわかる。社会の変化の可能性を知ることが、21世紀のこんにち本書を読み継ぐ理由のひとつとして、新たに付加されている。読み終わって一息ついてから、遠くに希望を感じられる一冊。