千年の祈り (河出文庫 リ 4-3)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467917

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  • 短編集。イーユン・リーは以前「黄金の少年 エメラルドの少女」を読んでとても良かったけれど、こちらも良かった。こちらのほうが初期作品なのかな。「不滅」がとても好きでした。以下個別にざっくり。

    〇あまりもの/工場をクビになり無職になった51歳のリンおばあさん(51歳でおばあさん扱い!?)は知人のすすめで要介護老人の後妻に入ることに。懸命に尽くすもちょっとした失敗で老人は亡くなりまたしても仕事を失った彼女は今度は学生寮で働くことに。不幸なおいたちのまだ6歳のカン少年のことをリンおばあさんは気に掛けるようになるが、それはまるで恋のよう。しかしまたしても不幸な事件が彼女を襲い…。

    〇黄昏/10歳くらいまでしか生きられないと言われたのにすでに二十歳になる障害のある娘を育てている初老の夫婦。夫が株式で知り合い親しくなった同年代の男は妻が刑務所に入っているあいだに若い女性と浮気しており…。

    〇不滅/昔から宦官を世襲で皇帝に差し出してきた村。今は独裁者(毛沢東)の世となっている。ある若い夫婦の妻は妊娠中ずっと独裁者の写真を眺めていたので生まれた子供は独裁者そっくり。しかし夫のほうは独裁者を侮辱する言葉を言ったとして処刑されてしまった。子供は最初は虐げられていたが、やがて独裁者そっくりであることで敬意を払われるようになる。独裁者の死後、ドキュメンタリーや映画製作のための独裁者そっくりさんオーディションに合格し、彼は栄達するが…。ラストで宦官の伏線が利いてくるのが凄い。独裁者、共産主義、「わたしたち」という語り手も含め、ディストピア味がありました。

    〇ネブラスカの姫君/30代の男ポーシェンはアメリカで暮らしていたが、そこに一人の少女がやってくる。その少女サーシャは、ゲイであるポーシェンの元恋人で京劇の女役だった美少年ヤンの赤ん坊を妊娠していたが、中絶するために来たのだった。ポーシェンは中絶を思いとどまらせたいが…。

    〇市場の約束/32歳のサンサンは英語教師をしている。かつて幼馴染で大学まで一緒だったトウと婚約していたが、トウはサンサンを捨て、彼女の親友ミンと結婚してしまった。かつて天安門事件に関わったミンは国内にいづらくなっており、サンサンはそんな彼女を救うためにトウとの偽装結婚を提案、成功したら別れる予定が、二人は本当に愛し合うようになってしまった。自ら作戦を立てたサンサンは誰を責めることもできない。しかしそんな二人が10年後離婚し、サンサンの母はトウとの元サヤ=再婚をすすめようとしていて…。サンサンが可哀想すぎてやるせなかった。でも彼女は誇りをかけてトウとの再婚を拒否する。

    〇息子/アメリカで成功者となったハンは母親のために帰省するが、母親は宗教にはまっておりことごとく意見が合わない。ハンはゲイなので自分が誰かの父親になることはなく、ずっと「息子」のままだ。イエス・キリストもまたずっとの「息子」のままだと彼は考える。母から息子への理由のない愛と神の愛が重なる。

    〇縁組/出張で父親不在がちの母子家庭に、いつもやってくるビンおじさん。親戚でもない彼が母に尽くすのを娘ルオランは不思議に思いつつ、このおじさんに好意を抱いている。父親は実は別に愛人がおり、両親の離婚が決まったときに、ルオランはおじさんに会いにいき、かつておじさんが若き日の美しかった母の熱烈な崇拝者で、母が別の男と結婚してからも尽くしていることを知る。ルオランは母をライバル視し…。

    〇死を正しく語るには/機密に関わる研究職の父親の仕事柄、敷地内の社宅で暮らしている女の子。彼女は外の世界のばあや(子供時代の子守り)のハン夫人ところに泊まるのを楽しみにしている。しかし彼女の夫のハン氏は無職で…。翻訳者の解説を読むと、著者自身の幼少期の体験が反映されていそうな感じ。

    〇柿たち/17人の大量殺人をおこない処刑された男と同じ村の人々の井戸端会議のような不思議な語り口で、なぜ男が17人も殺したのかが明かされていく。柿というのは、中国では意気地なし、的な意味あい。

    〇千年の祈り/アメリカに住む娘のところへやってきた父親。娘は離婚したばかりで、励ますつもりでやってきたが娘は冷たい。父娘の対話の中で明かされていく、過去の父親のふるまい。娘が無口な理由。娘は英語ならば多弁になる。父親は近所に住むイラン人のマダムと、つたない英語でコミュニケーションを取り心を通わせるが、娘とは通じ合えない。

  • またまた「翻訳文学試食会」で取り上げられていた作品。
    国家、共産主義政権という巨人を前に、自己を抑圧しなければいけなかった人々の声を描いた短編集と言ったら、あまりに平たすぎる感想か。
    表題作『千年の祈り』で、最後まで自分の仕事についての嘘を妻と娘につき続け、それがばれていなかったと思う父と、実はその嘘に気づいていた娘の物語は、子どもを養う身としては、十分に共感できる話である。子どもにカッコいいところ見せたいのって、誰でも思うだろう。

  • ジャケ買い
    隙間からこぼれてしまった人たちの物語のように感じた。静かな語り口でありながら、読むほどに引き込まれた。

  • 引いた描写と、ふとした時にみせる人物達の主観のバランスが見事
    中国という国の文化や政治的背景などがさりげなく散りばめられ、淡々としつつも引き込まれるリズム。

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著者プロフィール

1972年北京生まれ。北京大学卒業後渡米、アイオワ大学に学ぶ。2005年『千年の祈り』でフランク・オコナー国際短編賞、PEN/ヘミングウェイ賞などを受賞。プリンストン大学で創作を教えている。

「2022年 『もう行かなくては』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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