ブレヒトの文学・芸術論 (ベルトルト・ブレヒトの仕事【全6巻】)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309706320

感想・レビュー・書評

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  •  ベルトルト・ブレヒトの1920ー1956年頃に書かれた様々なタイプの雑文を集めたもの。
     この「ベルトルト・ブレヒトの仕事」シリーズの「文学・芸術論」ということで、有名な概念「異化(効果)」が出てくるかと期待したのだが、どうやら出てこなかったような(ひょっとして見落としてしまったか?)。
     そもそも、ブレヒトにとって専門であるはずの「演劇論」が本巻には少なく、自作戯曲についての文章も僅かだ。いや、もっとあるはずではないか? かと言ってこのシリーズに別の巻で「演劇論」があるわけではなく、どうも本シリーズの編集方針がよく分からない。
     読んでいるとむしろ政治的な闘争スタイルの文章が多い。マルクシズムに凝り固まった世界観で、私はこのようなマルクス主義には共感するところがなく、それは失敗したのだろうと思っているところで、ブレヒトがいくら「階級」だの「改革」だの叫んでも、そのことは私には何の感銘もない。「ソヴィエト連邦誕生」を全力で讃え、あまつさえスターリンについても賞賛したような部分は、まあ、実情を知らなかったのだろうが、残念な感じである。
     とはいえ、そのようなマルクス主義社会観に支えられて彼が繰り出した劇作品は、その政治的主張とは切り離しても20世紀芸術においてめざましい新しさを示していたことは確かだろう。
     本書に「異化」というキーワードは見当たらなかったが、ブレヒトの提唱した「叙事的演劇」の概念については、何となく理解することが出来た。微妙な言い回しでブレヒトの発言はいつも複雑なのだが、要するに、主人公等に「感情移入」することで人びとが情緒的に「感動」するような近代文学の定式に距離を置き、読み手(観客)が感情移入から目を覚まして、状況を客観的に見つめ直し、観客自身が自ら思考して新しい解釈・意味生成が生じるような場を、ブレヒトはしきりにしかけたのだろう。
     この、状況や人物の心理をいったん突き放すようなやり方=異化は、フッサール哲学の「括弧でくくる」操作や、シュルレアリスムの、意表を突いて衝撃的な意味を見出そうとする作法とも合致している。
     そんな20世紀前半の「時代の波」としか言いようのない動きに、マルクシズムという別種の文脈から入って合流したブレヒトの奇妙な立ち位置に、興味はある。

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著者プロフィール

ベルトルト・ブレヒト Bertolt Brecht(1898-1956)
ドイツの劇作家・詩人。1898年、バイエルン王国(当時)のアウクスブルグに生まれる。
ミュンヘン大学で哲学、医学を学び、第一次世界大戦末期に衛生兵として召集され反戦思想に目覚める。表現主義の影響のもと、劇作、詩作、批評活動をはじめ、1918年、戯曲第一作『バール』を執筆し、1922年に戯曲『夜打つ太鼓』でクライスト賞を受賞し脚光を浴びる。1928年に作曲家クルト・ヴァイルとの共同作品『三文オペラ』を上演。1933年のナチスによる国会議事堂放火事件後、亡命生活に入る。プラハ、ヴィーン、チューリッヒ、パリ、デンマークを転々とする。第二次世界大戦中はフィンランド、ソヴィエトを経て、1947年までアメリカに亡命。その後、チューリッヒを経て1948年に東ドイツに帰る。東ドイツでは劇団ベルリーナー・アンサンブルを結成し、1956年に亡くなるまで活動拠点にした。作品は『肝っ玉おっ母とその子どもたち』(1939)、『ガリレイの生涯』(1938-1955)、『セチュアンの善人』(1941)、『コーカサスの白墨の輪』(1944)など多数。
本作『子どもの十字軍 1939年』(原題)は第二次大戦中の1941年に書かれ、他の詩や短篇とともに『暦物語』(1948)に収められた。

「2023年 『子どもの十字軍』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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