失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)
- 河出書房新社 (2009年2月11日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (580ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309709543
作品紹介・あらすじ
故郷プラハを追われた青年は、剣をもつ自由の女神に迎えられ、ニューヨーク港に到着する。しかし、大立者の伯父からも放逐され、社会の底辺へとさまよいだす。従来『アメリカ』という題名で知られたカフカ3大長編の一作を、著者の草稿版に基づき翻訳した決定版(『失踪者』)。自国の滅亡を予見した王女カッサンドラは、だれからも予言を聞き入れられぬまま、歴史を見守ってゆく。自らの死を前にして女性の側から語り直されるトロイア滅亡の経緯。アキレウス、アガメムノン、アイネイアス、パリスら、ギリシャ神話に取材して展開される壮大な物語(『カッサンドラ』)。20世紀を代表する2人のドイツ語作家の傑作を収録。
感想・レビュー・書評
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失踪者はこの間読んだので、カッサンドラを読みはじめる。
人名が多い上に、独特な語り口なので、ギリシア神話、トロイア戦争のあらすじを確認しながら進まないと、何を話しているのかまったく掴めないかもしれないけれど、時間をかけて読みました。カッサンドラと彼女を含む世界が抱える矛盾を感じながら読んでいました。 -
「カッサンドラ」
一人称形式の小説を読むといつも思うことは、この「私」は誰に向けて語っているのであろうかということである。特定の誰かなのか、自分へなのか、読み手なのか、世間なのか、それとも神か。ややこしい言い方であるが、それは客体化された自分を含む世間に対してではないかと思う。
ただの世間ではないのだ。それは自慢話を教室にいる友人達に向けて話しているようで実は教室の片隅にいる好きな人に聞こえるよう意識しながら話す経験のように、世間一般に語りかけるようでその一隅にいるもう一人の自分の視線をしっかり意識して話しているようなのだ。
それではそれは独り言なのかといえばそうではない。まとまりもなく意識の流れるままにつぶやくそれではなく、或程度の覚悟と総括を故意に分裂させた自分人格にそれとなく知らせ、返事を期待しないで自分の承諾を待つ間口に立つ黄昏のような感じである。
予言能力を持つ故に自らの死が目前に控えていることを知っているカッサンドラは、知り得ても変えることの出来ない運命に翻弄された自らの歴史を獅子の門をくぐり抜ける僅かなときに省みる。未来の構築者ではなく、ただの予言者でしかない己の非力をあざ笑うかのようである。
ではカッサンドラはカッサンドラのみなのかと言えばそうではない。人は、社会はある面においてカッサンドラである。来たるべき未来を知りつつも、それを変える力、意思を持たない。状況と惰性の渦に巻き込まれて、偽装されてもいない落とし穴にむざとはまる。
トロイアの町を破壊に導いたトロイの馬は、現代では人権思想か、民主主義か、テクノロジーか、あるいは反 -
カッサンドラ / ヴォルフ : 神話やヒストリーが勝利者の、また男たちの側からのものであるのに対して、これは政治や戦いに関わることを拒否され、かつ戦いに巻き込まれざるを得ない女の側からの物語。
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津村の読み直し世界文学で紹介されたカッサンドラである。すでにトロイ戦争について知っていることが前提の話である。日本でいえば、関ヶ原の合戦のようなものである。話をよく知らないと訳が分からない物語となってしまうので、歴史が異なる日本人にとっては理解がすすまない話であろう。
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221226*読了
カフカを読むのは「変身」に次ぐ2作目。
勢いのある文章と展開にぐっと惹きつけられ続けました。
舞台はアメリカ。でも、今と違って情報も得にくい中での想像上のアメリカ。
印象的なシーンがいくつもある。
船での叔父との再会、お屋敷でのやりとりと叔父からの勘当、ホテルのエレベーターボーイとしての日々、クビを言い渡されてからの強烈な暮らし。
カフカは短命で、この小説も未完のまま。だから、最後は宙ぶらりんな状態。それがカフカらしさと解説になり、なるほどそうなのか、と納得。
「カッサンドラ」は正直、とても難しかった。
ギリシャ神話の登場人物ほど覚えられない名前もない。笑
この人誰だっけ?の連続の中で、どうにかこうにか理解しようともがきながら、読み進めました。
時代背景もほぼ予備知識がないし、読みながら意識が他所へ飛んでいってしまう。
こういう時はさしもの読書好きの私でも、なかなか身が入らない。
この小説がベストセラーになった時代がある。そう思うと、現代と当時の違いを見せつけられる。
確かに小説家としての技術が高いのだろうと思います。
この小説をおもしろいと感じられる自分でありたかったな…。 -
「失踪者」 訳/解説:池内紀
主人公の子ども(17歳)が大人に虐待されているようにしか読めずつらかった。カフカは以前読んだときも文章から気持ち悪さを覚えて合わないんだろうな~と思う。
しかしこんなふうに小説から何も受け取れない私にもなんとなく意味のあるものを読んだ気にさせる解説ってすごいな……。「歪んだ遠近法」という表現になるほどと思う。まさにそのために気持ち悪く感じるのかも。
「カッサンドラ」 訳/解説:中込啓子 -
「失踪者」未完というのがちょっと残念なくらい面白かった
「カッサンドラ」とりあえず読み切った!としかいいようがない…時制があいまいな日本語の言語の問題もあると思う -
「失踪者」は面白い。不条理を描いたことで有名な筆者のイメージとはかなり違った内容だけれども、当時アメリカが大陸の人々の目にどのように映っていたのかがわかり興味深い。
「カッサンドラ」はやはりギリシャ神話の知識があないと難しいと思うが、注釈が充実していて読みやすいと思う。