- Amazon.co.jp ・本 (628ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309709642
作品紹介・あらすじ
今は精神病院の住人オスカルが、ブリキの太鼓を叩きながら回想する数奇な半生。胎児のとき羊水のなかで、大きくなったら店を継がせようという父の声を聞き、そのたくらみを拒むために3歳で成長をやめることを決意したオスカルは、叫び声をあげてガラスを粉々に砕くという不思議な力を手に入れる。時は1920年代後半、所はバルト海に臨む町ダンツィヒ。ドイツ人、ポーランド人、カシューブ人など多くの民族が入り交じって暮らすこの港町は、長年にわたって近隣の国々に蹂躙されつづけてきた。台頭するヒトラー政権のもと、町が急速にナチズム一色に染められるなかで、グロテスクに歪んでいく市井の人々の心。狂気が日常となっていくプロセスを、永遠の3歳児は目の当たりにする。ナチス勃興から戦後復興の30年間、激動のポーランドを舞台に、物語は猥雑に壮大に、醜悪に崇高に、寓意と象徴に溢れためくるめくエピソードを孕みながらダイナミックに展開する。『猫と鼠』『犬の年』とあわせ「ダンツィヒ三部作」とされるノーベル賞作家代表作、待望の新訳決定版。
感想・レビュー・書評
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新訳で再読。日本語が読みやすいし原書も1997年の改訂版なので、こちらで読むのがおすすめ。
さてわざわざ再読してこう思うのもなんだけれど、もっと読んでいたいという種類の本ではなかった。どうしても戦前から戦後にかけてのドイツ社会を批判する寓話に読めるし、オスカル=キリストのイメージも相まって、自分が加害者側として糾弾されているような気分になってしまう。こんなに分厚くて気持ち悪い話を読んで責められるのでは堪らない。最後にオスカルが背負うものについて初読のときは悲しみだと感じたけれど、今回は罰であるように思われ、読み続けるのがいっそう苦しかった。
登場人物の歪みを楽しめるかどうかが分かれ目なのだろう。ほかにない小説なのは確かなので、グロいのが大好物という人には試してもらいたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
3歳で大人になることを拒否した永遠の幼児オスカル君の一代記。
3歳児の姿かたちのままブリキの太鼓をたたき続けるほほえましいイメージからは程遠いオスカル君をとりまく不穏な気配。
そもそも、おとなとこどもの境界をゆれうごくオスカル君が不気味。
日本語で書かれたものの中には、たぶん日本人でないと肌感覚では理解できない文学があるんだろうな、と想像できるのと同じように、ドイツ人でないとこれを肌感覚で理解することはできないだろうな、と思わせる小説。
けれども意識的に行われたかどうか自分でも定かではないままに実行された醜悪な行為に罪はあるのか?
というか内心では自身にもその一端がある、もしくは全責任があるという罪の意識に
冷笑で身を守ろうとするオスカル君はもはや痛々しい。
自分が犯していない罪への罰としての精神病棟拘置にこころの安らぎを感じるのは、
本当に自分が犯した罪に対する間接的な罰という2重に倒錯した安心感(本当の罪はばれてない、けど、つぐなってはいるんだ)からなんだろうな、と思ったり。
読者のオスカル君への安易な同情や共感を許さない書きっぷりになんだか疲れました。
ある意味では時代によって背負わざるを得なかった罪を自身の罪として引き受けるなんてちょっと重すぎる。 -
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220920*読了
二段組の強烈な長編であった。
まず、オスカルが3歳で成長を自ら止めた、というところから破天荒。
数々のエピソードが回想されたのだけれど、どれもが強烈すぎて、逆にどれをピックアップすればいいのやら…。
声で窓ガラスを割るとか、ブリキの太鼓を叩き続け、人の心を動かすとか、こんなのは序の口。
すでに読んだ世界文学全集の中でいうと、「巨匠とマルガリータ」も悪魔が出てくるので強烈だったけれど、「ブリキの太鼓」は悪魔ではなく、人間が破天荒なので手に負えない。
登場人物の端々に、作者自身の人生が織り込まれていて、自分の経験と物語をうまくこね合わせているところも見事でした。
インパクトが大きすぎるけれども、おもしろかったです。 -
・すごい小説であった。
・人物設定、語り方がすばらしい。 -
作者は1999年のノーベル文学賞を受賞しており,その理由は「遊戯と風刺に満ちた寓話的な作品によって,歴史の忘れられた側面を描き出した」としている。
本作は,『猫と鼠』(1961年),『犬の年』(1963年)と続く,いわゆる「ダンツィヒ三部作」の最初を飾る作品であり,第二次世界大戦後のドイツ文学における最も重要な作品の一つに数えられる。
筋としては,精神病院の住人である30歳のオスカル・マツェラートが看護人相手に自らの半生を語るという形で物語は進行していく。そこでの自画像は,3歳で成長が止まりブリキの太鼓を自己表現の手段として事あるごとに叩くといったもの。ただ,例えば異性への興味といった点では,3歳であることよりかは,30歳で失いつつあるものといった意味合いを感じさせる。また,善悪を超越した自我の象徴でもあろう。破壊神,とまではいかないが,間違いなくそれに準ずるパワーを有しているように思う。
語りの特徴に,一人称と三人称の混在が挙げられる。オスカルの体験した世界は,自分が見る景色のみならず,俯瞰した人々のうねりも含まれていた。内省と哄笑が入り混じる文体に,読んでいるこちらが分裂しそうであった。 -
"「自分の存在に妥協するの。そうすれば心がやすらぐし、悪魔は立ち往生よ!」"(p.169)
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文学
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3歳で成長を止めたオスカルが第二次世界大戦前後のドイツを語る。体は子供だが精神面では大人びている、と少なくとも本人は思っている。その特異な視点で、当時の生活や社会をみる。その中身は、ユーモアあり、シニカルで悲劇的である。
今まで読んだことない形式の小説で面白かったが、そもそも文量がかなり多いのと、もって回った語り口だったので、正直読むのにかなり労力がかかった。