大岡昇平 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 18)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309728889

感想・レビュー・書評

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  • 230419*読了
    恥ずかしながら大岡昇平さんのことを今まで存じ上げなかった。かなり多作な方。
    そして、俘虜になり、戦争を生き延びた人でもあり、俘虜記等から抜粋された当時の様子は悲観すぎないのだけれど、やはりよくぞ生き延びられたと、息を呑む。
    俘虜となり、日本に戻ってこられたからこそ、数々の作品が世に出ることになったわけで、本当に良かったと思う。

    「武蔵野夫人」がやはりおもしろい。昼ドラ感。
    今の時代から考えると、おいおい、と突っ込みたくなる部分も多々あるのだけれど、おもしろいんだな、これが。
    収録されている他の小説よりも熱中できた感。

    文学論、映画論なんかは難しくて、なるほどとも思えず…。自身の無知や思考の浅さを痛感。

  • 18巻は大岡 昇平(1909-1988年)。小説家のほかに評論家、フランス文学の翻訳家・研究者の経歴も知られる。

    収録作品は次の通り
    武蔵野夫人、『武蔵野夫人』ノート、俘虜記(抄)、一寸法師後日譚、黒髪、母と妹と犯し、二極対立の時代を生き続けたいたわしさ

    知的な文章だ。
    全体を通じて地理とスタンダールを強く意識させされる。

    地理に関しては巻頭に収録された武蔵野夫人の冒頭、舞台となる地「はけ」の説明が印象深い。一体彼は武蔵野という土地が出生の地であったのだろうかと思わせるほど、地形に関する説明は微に入り細に入る。目の前で彼が舞台の情景を思い浮かべながら諳んじているかのようだ。
    地形の描写は自身の俘虜の記録を記した「俘虜記」でも活き活きとしていて、フィリピン諸島で敗戦濃厚のなか、マラリアに感染しながら撤退し、人事不省に近い状態になり、自決必死の中、末期の水を求めて山中を彷徨うシーンでも、今まさにフィリピンの地図を広げて川の場所を探すかのように饒舌に地形の状態を語る。

    特に良かったのは「俘虜記」だ。これは世界大戦への参戦と日本の敗戦というあまりに大きな歴史的イベントに一兵卒として参戦し、フィリピンのルソン島周辺で俘虜として捉われるまでとその後の俘虜生活が描かれる。
    どうせ負けると分かって醒めた目線で過ごす日本軍での日々と米軍襲来時の逃避、醒めた目線を持っていても俘虜となったときに自分だけが死ねなかった悔恨、一転して俘虜になると当時の日本軍に比べてあまりある待遇で過ごせることの不条理がびっしりとした細かい描写で記録のように描かれる。ときにその記述は俘虜が住む家の構造や食器洗い用の流しの構造にまで及ぶ。
    俘虜団を構成する各役職者の人物像がエビソードとともに詳らかにされるが、特に狭量の狭い人間の描写は、合理主義の作者の目線と相まってエスプリが効いている。
    作者自身が「列挙の退屈」として控える部分もあるのだが、ひとつひとつの事柄や人物に対する観察眼が細かく、列挙の退屈が訪れることはない。

    最後にひとつ断っておかなければならないことがある。冒頭のスタンダールの件を振れていないことだ。
    彼は各作品で折に触れスタンダールやフロイトを振ってくる。スタンダールやフロイトから恋愛や性愛について語ったり、登場人物たちの男女の恋愛の機敏を説明するが、浅学につきスタンダールもフロイトも読んだことがなく、また私自身が文豪が書く恋愛作品があまり得意ではなく(文豪以外の恋愛作品はかなり苦手)、感情のひだが揺れ動く描写が、まどろっこしくて読んでられないのだ。
    とうことでスタンダールは意識させられるのだが、スタンダール部分については、池澤夏樹の解説を読んでいただくということで。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000055911

  • 武蔵野夫人、俘虜記など戦争と戦後を描いた有名な
    話。初めて読みました。
    俘虜記は始めて、戦争というか、戦闘やジャングルでの
    逃走をリアルに淡々と描かれてあるような感じをもちました。

  • 武蔵野夫人が面白かった。単なるメロドラマになりがちな筋には違いないのだけれど、そうならず、かえって主人公の成長さえ覗わせるような教養小説的な感じすら与えるところがすごいと思う。

  • 戦争体験とスタンダールがこの作家を生んだ。昭和という時代の雰囲気と人間の本性を正確に伝える知性の文学。

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著者プロフィール

大岡昇平

明治四十二年(一九〇九)東京牛込に生まれる。成城高校を経て京大文学部仏文科に入学。成城時代、東大生の小林秀雄にフランス語の個人指導を受け、中原中也、河上徹太郎らを知る。昭和七年京大卒業後、スタンダールの翻訳、文芸批評を試みる。昭和十九年三月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、二十年一月米軍の俘虜となり、十二月復員。昭和二十三年『俘虜記』を「文学界」に発表。以後『武蔵野夫人』『野火』(読売文学賞)『花影』(新潮社文学賞)『将門記』『中原中也』(野間文芸賞)『歴史小説の問題』『事件』(日本推理作家協会賞)『雲の肖像』等を発表、この間、昭和四十七年『レイテ戦記』により毎日芸術賞を受賞した。昭和六十三年(一九八八)死去。

「2019年 『成城だよりⅢ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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