- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784313151123
作品紹介・あらすじ
前例のない取組みをしかけ続ける生駒市。
このまちの市長・小紫氏が、日々の信条として実践している独自の「自治体3・0のまちづくり」を語り尽くす!
首長の立場で考える現場のまちづくりの視点に加え、最新かつ独自のまちづくり理論、さらには数々の実践例を収めた本がここに登場!
感想・レビュー・書評
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本当のシティプロモーションとは、多くの人が見る動画を創ることではなく、生駒を愛する市民が、行政にすべてを頼ることなく、まちづくりを「自分事」にするための一連の取組のことです。その結果、市民が街に住み続けたくなったり、市外の人がその様子を見て生駒に移り住みたくなったりする、この流れこそが大切なのです。
(引用)市民と行政がタッグを組む! 生駒市発!「自治体3.0」のまちづくり、著者:小紫雅史、発行所:学陽書房、2020年、130
本書を読了して、私は、ジョン・F・ケネディの大統領就任演説(1961年)の一節を思い浮かべた。
「米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい。」1)
生駒市長の小紫氏によれば、地方自治体は「お役所仕事」と呼ばれる「自治体1.0」から、改革派首長によるトップダウンによるまちづくりが実施された「自治体2.0」の時代を経て、現代は、「みんなの課題はみんなで解決」する「自治体3.0」の時代だと言われる。AIやIoTという情報科学技術の進展が著しいSociety5.0の時代を迎え、なぜ、今、「市民協働」なのか。その解を求めるべく、小紫雅史生駒市長の本を拝読させていただいた。
生駒市による市民協働のまちづくり(自治体3.0)は、非常に多岐にわたる。高齢者より若者に対しての施策を打ち出す自治体も多いが、生駒市は、シニア世代の活用が盛んであることに驚かされた。「市民による市民のための電力会社」を目指す「いこま市民パワー株式会社」では、大手電機メーカーのOBらが活躍する。また、要支援、要介護になった高齢者を可能な限り健康に戻し、元気になったらボランティアをするなどして恩返しをしてもらうという取組もおもしろい。どの自治体も「高齢化」がネガティブに捉えられ、「人口増加」がボジティブに捉えられがちだが、「すべての市民は貴重なまちづくりの資源」とする小紫市長の姿勢に感銘を受けた。
特に私が参考になったのは、冒頭に記したシティプロモーションの考え方である。市外に向けてばかりのプロモーションではなく、まず市民に対して愛着や誇りを持ってもらうという姿勢は、私も同感だ。私も広報部署に所属したとき、先輩職員から「広報のネタは、地元を歩けば、どこにでも落ちている」と聞かされてきた。事実、生駒市では、消防職員が日頃の訓練の様子をSNSにアップしたところ、市民にも防災意識が芽生えてきたとのこと。小紫市長は、「市民力=地域への愛・誇り+行動(同書、117)」と言われる。現代は、多種多様な情報媒体が存在し、それぞれの媒体には、得意不得意がある。しかし、それぞれの媒体の特性を活かし、市民と行政の間隔を縮めることがシティプロモーションの一歩になると感じた。
また、生駒市では、「令和のよろず処」として、市内に100箇所の複合型コミュニティを創ろうと計画している。やはり、どこの自治体でも課題になるのが、高齢者の公共交通機関の確保である。予算に限りがあり、どこの自治体も公共交通機関の存続には頭を悩ませる。生駒市は、逆転の発想で、高齢者でも歩いて健康教室や買い物できる場所を設ければよいのではと考えている。つまり、高齢者が通う健康教室の終了間際に、商売する人はその会場に行って食料品や日常雑貨を販売する。逆転の発想とは、その拠点を増やしていくということだ。そのほか、市の駅前広場では、市民団体の発案で、「つなげてあそぼうプラレールひろば」を定期的に開催している。これは、各家庭で不要となったプラスチィック製のレールを集めて広場に設置し、お気に入りの電車などを持ち寄って走らせる企画だという。この企画では、市民協働という観点を踏まえ、父親の育児参加、環境保護、多様な世代が集うなど、賑わいの創出以外に副次的な効果をもたらしているという。これらの取組の共通点として気付かされるのは、「市役所内の縦割りの打破」ではないだろうか。「令和のよろず処」の例で言えば、福祉(健康教室)と商業振興(販売)の部署が関係してくる。また、「プラレールひろば」では、市民協働、男女共同参画(父親の育児参加)、環境保護(再利用)などの部署が関係してくる。生駒市の強みは、小紫市長の「市民と行政のタッグ」の声がけのもと、部署間の意識醸成による相乗効果をもたらしていることも要因の一つではと感じた。
情報科学技術が進展し、Smart Cityなどの言葉もではじめている。私は、このSmart Cityの概念を否定する気は更々ない。しかし、生駒市の事例に触れ、私は、あくまでも情報技術は「手段」であり、「目的」でないと思うに至った。「目的」は、もちろん、そこに暮らす市民の満足度を高めることだ。生駒市の小紫市長は、市民アンケートによる「市民に動いてもらったほうが満足度が高くなる」というデータ結果を武器に、日本一ボランティアが多い街として、自治体3.0のまちづくりをすすめる。地方自治体は、その使命として、いつの時代も不変となる「その街に暮らす人間が主役である」という考えが根底にあることを忘れてはいけない。小紫市長の本を拝読し、私は、その解を得ることが出来た。
1)AMERICAN CENTER JAPAN 「国務省出版物 米国の歴史と民主主義の基本文書 大統領演説」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
民間の理論から考えると、当たり前のことなのですが、役所と公務員にはそれができない、やりづらい、やりたがらない理由がたくさんあります。
この本は現役市長の方が自らの責任と行動を持って発言していることが何より素敵です。