脳のなかの倫理: 脳倫理学序説

  • 紀伊國屋書店
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314009997

作品紹介・あらすじ

脳科学の未来は人間に何をもたらすか?記憶を良くし、「賢い」脳を創り、脳のなかの思想や信条が覗かれる時代が間近に迫る、その是非を問う脳倫理学遂に日本上陸。

感想・レビュー・書評

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  • ガザニガ良いね、面白い。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      インパクトのある表紙ですね、読んでみたくなりました。
      インパクトのある表紙ですね、読んでみたくなりました。
      2012/05/02
  • ほどよい深さで脳科学から見た倫理について書かれた一冊。

    「人を殺してはいけないのは、人を殺してはいけないからであって、神やアッラーやブッダがそう言ったからではないのだ」と結論に近い箇所があるが、これは「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いへの答えは「すべて後付けの理由にすぎない」からであり、そこに悪や善といった(後付けの)価値観は存在しない、と明確に示すところがよかった。
    「なぜ溺れている人を助けることが善なのか?」という問いに対して(後付けではない)理由が見つけられないのと同様だということなのだろう。

    なぜここで「神やアッラー」が出てくるかというと、宗教とは生き延びるための支援をする社会的なシステムであり、それこそが「人を殺してはいけないから」という理由と同じく、後付けにすぎないということなのだろう。

    エクセレント。

  • 科学の最先端と倫理について主に脳科学の立場から。非常に難しい問題があって線引はとても難しい。そのへんを具体的な成果や新設などを通して示す。

  •  倫理と科学の進化について、という本。簡単に説明しすぎだけど。
     幅広く、わかりやすく説明されているので読みやすく面白い。

  • 2015/2/19図書館より

  • 脳の能力と心について考えさせられた。
    研究によって随分と脳の働きが解明できているんだなと感心しました。脳は判断する(しないことを判断する)機能があるというのが興味深かった。

  •  脳の研究がすすむにつれ、いままで「それは哲学上の問題です」というあたりで「議論終了」だった大きな課題に、変化が訪れている。たとえば胎児は「どこからが細胞の固まりで、どこからが人間になるのか」とか、「自由意志」というものがほんとうにあるのかとか、「世界共通のモラルというものがあるのか」とか、そーいうやっかいな問答について「議論の材料」が与えられつつある。間違えてはいけないのは、「解答」が与えられているわけではないと言うこと。ただ、共通の根拠に従って話し合っていける可能性がひらきつつあるのだ。

     たとえば第1章、「胚はいつから人になるのか」。人の生命の始まる瞬間が「精子と卵子ががっちゃんこした瞬間」にあるのは疑うべくもない。でも、その「胚」はいつから「人」として扱われるべきか? クローン研究やES細胞研究などで切り刻まれている「胚」は、はたして「人」か、それともただの細胞の固まりだろうか?
     人を人として成り立たせているものが脳をはじめとする神経系だとしよう。受精後15日目から、胚にはこの先神経系に発展するための兆しが現れる。しかし脳が活動を維持できるようになるのは受精後だいたい6ヶ月後であり、近代医学のサポートがあれば母親の胎外でも生命の維持ができるのもこれくらいからである。
     受精後14日目の胚は、たんに「・」くらいの点であって、ただの細胞の塊だといえる。これから母胎のサポートがあれば人に育つ可能性があるとして、それは「人」だろうか、それともモノだろうか。それを決めるのは、何だろう?

     その意味でもおもしろかったのは、脳の一部に「筋書きや信念を生み出す」という機能があること。著者はこれを「左脳の解釈装置」と名付けている。断片的な情報をもとにストーリーをくみ上げ、奇妙な事実でもなんとか筋書きに組み入れて解釈する。たとえば、手術で左脳と右脳を切り離した患者に、右脳だけにわかるように(左目だけに見えるように)「歩け」という単語を示す。突如、彼は立ち上がって歩き出す。なぜそうしたのかを訪ねると、彼の左脳(言語野はあるが、「歩け」という文字は見ていない)はたちまち理由をひねり出す。「コーラでも買いに行こうかと思った」と。
     宗教や政治で、人が見せるかたくなな態度も、それが「脳」の機能の一部であるならば、これから違う信念を持つ人たちが「話し合う」ときに、正面から異説をぶつけ合うだけではない解決法や、違った角度からの提案が作り出せるかもしれない。

     人は人生に意味を見つけたがり、ウソの記憶をねつ造した上に信念に固執し、人のまねをするだけでなく他人の気分にまでひきずられ(脳の中にまねをするための機能があらかじめそなわっていて、それを常に「おさえつけている」)、かといって身近な人の不幸には反応するが地球の裏で何千人死のうが無関心で……。それが教養の欠如でも、道徳の荒廃でも、想像力の枯渇でもなく、「ま、人の脳がそーいうふうにできてるのよ」というあたりから議論を始めようということだーね、こりゃ。
     つまるところ「脳のなかの倫理」を問うことは、「人間らしさ」の源が、どこらへんにあるのかという話でもある。これがおもしろくなきゃ、うそでしょう。
     まずは「最近の若者は道徳とか倫理とかが……」云々と言いつのる、教育再生審議会の方々にでも読んでもらいたい、とか思ったりもする。

  • 脳神経倫理学  病気、正常、死、生活習慣、生活哲学といった、人々の健康や幸福にかかわる問題を、土台となる脳メカニズムについての知識に基づいて考察する分野

    複雑な神経系ができてきて、脳が活動を持続できるようになるのは、受精後大体23周(約6カ月)ころからにすぎない。

    人に自由意思はあるのか  精神科医や脳科学者は、人の心や脳がどんな状態にあるかを説明することはできても、その人が自分の行動をほとんどコントロールできないから責任は問えないなどという判断を、根拠に基づいてくだすことはできない
    責任はあくまで社会のルールのなかに存在する社会的な概念であって、ニューロンでできた脳のなかに存在するのではない。

    記憶の七つのエラー  消えやすさ(時間とともに記憶が薄れたり失われたりする) 不注意(覚えるときに十分注意を払っていなかった) 妨害(「のど元まで出かかって」いるのに思い出せない) 偽記憶の混入(レイプされた女性の例 レイプされる前に見ていたテレビの男を犯人と間違えた) 暗示による影響(メディアを含む他者の影響によって記憶がゆがむ) 書き換え(偏見によって記憶が編集される) つきまとい(思い出したくない記憶が頻繁によみがえってくる)
    記憶が不完全で信頼性に欠けることも、様々な要因に影響されやすいことも法廷弁護士はよく理解している。しかし、使いようによっては役に立つので、法廷外の駆け引きの一部としていまだに重宝されている。

    こういった知見を踏まえた裁判をしなければ、司法への信頼に大きくかかわってくるとおもう。

  • 来週の平日に書店に買いに行きます。
    みなさんのレビューを見てすごく気になりました

  • 2006年刊。
    個々人の信念や直感で語られ線引きの難しい「生命倫理」の問題に、脳神経科学の見地から切り込む面白い本。

    ES細胞、アルツハイマー、遺伝子操作、薬物強化、自由意思と司法、心の読み取り、記憶エラー、宗教と脳内活動、そして人類共通の倫理とは…
    と、様々な問題について分かりやすく説明した上で自身の見解を示してくれる。

    人間の生得の道徳感、抑止力を信頼する作者のスタンスは共感できるところもあるけど、それは現時点での大局的な結果論でしかないような。
    「人間は何かを信じたがる生き物」
    そのコントロールが、めっぽう難しい。

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