誰も知らないわたしたちのこと

  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314011129

作品紹介・あらすじ

いのちは選別できるか――5年間の不妊の末に授かった息子には、出生前診断によって重大な疾患が発見された。選べるはずのないことを選ばされ、孤立感と絶望のあいだを揺れ動く35歳のフリーランス・ジャーナリスト、ルーチェの魂の彷徨を、著者みずからの体験をもとに描いて大きな反響を呼んだイタリアのベストセラー。ローマ賞受賞。イタリア最高の文学賞・ストレーガ賞最終候補作。

感想・レビュー・書評

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  • 名前までつけて呼んでいた

    息子さんが お腹の中で

    「処置」されてしまい

    その後 産み落とすまでの

    描写は 本当に辛いです

  • <多くの人が悩みながらも、あまり語られてこなかったことに「光」をあてる>

    いささか論議を呼びそうなテーマの小説である。
    人工妊娠中絶を巡って、女性の内面を描写したイタリアの作品だ。

    ルーチェ(「光」の意)とピエトロは同棲中のカップルで、非常に愛し合っている。2人の間には子どもができ、その誕生を心待ちにしている。
    子どものための部屋を整え、名前を用意し、胎動も始まっている。
    順調に思えた妊娠生活が29週に入ったとき、定期検診で、2人は衝撃的な事実を告げられる。2人の息子は重い障害を負い、誕生後は、おそらく非常に困難でかつ短い人生を送ることになるという。
    ことが重大であるにもかかわらず、2人は切迫した時間の中で決断をしなければならない。
    その子を産むか、産まないか。

    著者は、困難な局面に立たされたカップルの、特に女性側の感情を内側から見つめ、丹念に繊細に描写していく。
    著者自身の自伝ではないということわりはあるが、著者も多分に類似の経験をしている。そうでなければ書けないだろうと思える迫真の描写がここにはある。出産までの日々を、非常に満ち足りた気持ちで送る人も皆無ではないだろうが、妊娠中・出産後は得てして、精神的に不安定になりがちである。そういった渦中にある人には勧められないほど、「母体」の感情的な揺れが写し取られている。そしてここで問題となっているのは、「順調な」妊娠ではない。

    中絶に関する国による制度の違い。中絶をテーマとするインターネット・コミュニティの存在。宗教的背景による罪悪感。「男」と「女」のものの見方の違い、それによるすれ違いや衝突。

    内容に詳しく触れるよりはまっさらな状態で読んでいただいた方がよい物語だろう。ただ、最後には「光」が差す、とだけ書いておこう。その鍵となるのは「痛み」の共有だろう。この結末にすべての人が共感するかどうかはわからないのだが。

    全般として、意欲的で問題提起に満ちた作品とはいえるだろう。本国では複数の賞を受け、ベストセラーとなり、映画化の話も進んでいるという。
    ただ、個人的にはやはり、問題が問題であるだけに、感情面・情緒的な面だけで語るわけにはいかないと思う。本書の内面描写は卓越したものがあるけれども、親が背負い込み、心の整理をつければよい、という問題ではないだろう。
    日本でも出生前診断が始まり、結果を知って途方に暮れる人は増えていくだろう。
    社会全体の議論がもっと必要なのではないか。親のみがこうした苦しみを隠れて背負うのはあまりにも困難ではないか。
    そうした意味で、邦訳版で専門家の解説が加えられたのはバランスを取る意味ですばらしい試みであると思う。

    この作品がこうした問題に目を向ける光となることを願いたい。

  • タブー過ぎてなのか、恐らく私の知る限りではここまで治療的妊娠中絶について書かれた本はなさそうに思う。
    外国文学に目覚めて良かった。
    暗闇に葬り去られてきた、身を切るような苦しみが浮かび上がる。

    こちらのレビューが興味深い。
    人間のエゴという闇。私は時代が変われば生命の捉え方や重さはいくらでも変わると知ってから、もっと闇に光を当てて、合理的に考えて構わないと思っている。
    むしろリアルに考えるための助けとして。

    https://plaza.umin.ac.jp/~fskel/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=%A1%D6%C3%AF%A4%E2%C3%CE%A4%E9%A4%CA%A4%A4%A4%EF%A4%BF%A4%B7%A4%BF%A4%C1%A4%CE%A4%B3%A4%C8%A1%D7%B2%F2%C0%E2%C1%B4%CA%B8

  • ふむ

  • 雑誌でコラムを連載しているルーチェは、パートナーのピエトロとの間に五年目にしてようやく子どもを授かった。男の子とわかりロレンツォと名付け、出産を待ちわびていたが、29週目に入ったところで、ロレンツォに重い障碍があることがわかる。出生前診断で胎児は出産に耐えられないかもしれない事、生まれてきても大きくなることはないであろう事、長く生きられないだろう事、その他の障碍も考えられる事などを知らされる。悩んだ末、二人は人口妊娠中絶することにする。しかし、二人の住むイタリアでは29週では中絶が認められないため、イギリスへ行き中絶することになる。
    過酷な出産の末、ロレンツォを人工的に死産するルーチェ。精神的、身体的に大きなダメージを受けたルーチェが、半年近い時間をかけてピエトロとともに新しい自分を受け入れていくまでを描いている。

    著者の体験をもとに書かれているという。壮絶な人工妊娠中絶のシーン。他人には打ち明けられない出産の秘密。医学が進んだが故の苦しみ。医学が進んでも身ごもり出産するのは女性であるという事実。いろいろ考えさせられた。精神的に立ち上がれないルーチェに寄り添い続けたピエトロの存在が大きい。
    産科の医師の解説があるのが良かった。

  • 出産にまつわるエトセトラ、というのは、やっぱり男には分からないのよ、という迫害を受けるのであって、ここに出てくるピエトロのように、時に理不尽な扱いを受けてもひたすらに耐えて支えることができることが求められているのだ、ということを突きつけられる、ある意味、男性から見るとかなり厳しい内容。ピエトロの持つ、力強さ、金銭的な余裕、そして献身、そのどれか一つでも持っているだけですごいことなレベル。
    治療的中絶という、それはそれで厳しい話なんだけども、それを乗り越えて最終的には白馬の王子さまが待っているというのが、イタリア風。

  • ¥463.

  • 中絶というタブーをテーマにしている。
    経験した人にしか分からない苦悩。
    それが細かく丁寧に的確に描かれている。

    こういう本は日本にはないそうだ。
    必要としている人はたくさんいると思う。

    色々な立場の人が読んでいい。

    読んで、苦しむ妊婦さんたちが救われますように・・

  • まるでノンフィクションのような、微細な心の動きが緻密に描かれ、痛いほど主人公の気持ちが染み通ってくる。医療に関する詳細な情報は言葉一つもおろそかにされず、描写されていて信頼感すらもたらす。
    なにより、カトリックの国における中絶の問題は、日本よりも当事者たちにさらに重くのしかかかるのだということも感じた。中絶にまつわる問題は合衆国だけでなく、キリスト教地域の社会的に強固な価値観と先進技術とのズレを再認識させる。日本はどうか。。改めて考えさせられる。読んでよかった、今年のベスト10の1冊。

  • 出生前診断と治療的中絶、というナイーブな問題についた描かれた小説。主人公の長く辛い葛藤の日々に、複雑な思いを覚えつつ、答えのない問題、答えがないからこその苦悶を思った。

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著者プロフィール

シモーナ・スパラコ : ローマ生まれの作家・脚本家。イギリスの大学でコミュニケーション学を修めたあと、文学への情熱に駆られてイタリアへ戻り、文学部の映画部門に入学。その後トリノのホールデンスクールのマスターコースなど、いくつかの創作コースに通った。本書は、2013年ローマ賞を受賞し、イタリア最高の文学賞であるストレーガ賞の最終候補になった。著書に、”Lovebook”(Newton Compton, 2010)などがある。

「2013年 『誰も知らないわたしたちのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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