私はすでに死んでいる――ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳

  • 紀伊國屋書店
3.92
  • (16)
  • (20)
  • (11)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 420
感想 : 33
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314011563

作品紹介・あらすじ

「いやいや、私の脳は死んでるんです。
精神は生きてますが、脳はもう生きてないんですよ」

「自分は死んでいる」と思いこむコタール症候群、自分の身体の一部を切断したくてたまらなくなる身体完全同一性障害(BIID)、何ごとにも感情がわかず現実感を持てない離人症――

自己感覚が損なわれる珍しい精神疾患を抱える患者やその家族をはじめとし、ドッペルゲンガーの経験者、自閉症スペクトラム障害の当事者などへのインタビュー、それらを治療・研究する精神科医や神経科学者への取材をもとに、不思議な病や現象の実相を描き出す。著者はときには違法な下肢切断手術の現場に同行したり、錯覚を起こす実験に参加してみずから体外離脱を体験しようと試みたりするなど、ユニークなアプローチで〈自己意識〉という難問に迫る。

〈私〉とは、いったい誰なのか? 神経科学の視点から〈自己〉の正体を探るポピュラーサイエンス読み物。

‟オリヴァー・サックスの著作を彷彿とさせる”――『サイエンス』誌
ニコラス・ハンフリー、マイケル・ガザニガ、フランス・ドゥ・ヴァールらも称賛!
春日武彦氏による解説を収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 精神病の症例を通じて、「自己」という謎に迫る。数々の症例を読んでいるうちに、自分が「私」というものを認識できることが、奇術のように思えてくる。果たして、自分が生きて、存在している、ということをどうやって認識しているのだろう。逆に、「私は死んでいるのだ」と主張する人は、どの程度異常なのだろうかと考えてしまう。
    今まで、自己というのは揺らぎようのない確固たるものだと思いなしてきたかもしれない。それが、実はそんなに堅牢なものではないということがわかると、とても不安になる。
    脳の機能は、詳細がわかっているわけではなく、まだ謎だらけのようだが、脳の中で自己が形成されているのはほぼ間違いないだろう。しかし、脳の中に、まさに「自己」という部分があったり、脳そのものが自己であったりするわけではない。それは様々なものから組み立てられる、実体のないものなのだろう。

  • 自己と他者の境目が曖昧になる様々な症状について、きちんと言語化して読者に理解できる形にした、ということをまず感謝したい。下手をすれば「意味不明」と捨てられてしまいそうな症状、現象も当事者の証言からきちんと拾い、実験と仮説と残っている問題点まで書かれている。客観に徹している見方や表現に好感が持てた。

    今意識している自己は意外とあやふやで、脳の機能のどこかがうまくいかないと身体と自己感覚はすぐ離れてしまう。たまたまうまく繋がっているだけかもしれない。

    筆者の「最後に」は情報が整理されている。ここから読んで、読み終えてまた読んでもよいと思った。それに対して日本の精神科医による「解説」はどこか他人事のように見えて、ちょっとがっかりした。本文が客観を貫いているのに解説で主観と偏見が混じり、面倒くさそうな印象。患者になったとき主訴をこんなふうに捉えられていたらたぶんつらい。

  • たまたま手にとって550円で買った本にしては大当たりだ。ちなみに北斗の拳とは、全く関係のない本だった。
    「我思う故に我あり by デカルト」がいかに時代遅れかということを、「自己とは何か?」という問いに対する脳神経科学と哲学との対話から解説していく。
    「我ら思う故に我らあり by 氣志團」が、言い得て妙なのではないかと改めて思い直された。

  • 自己とは何か。自己概念が崩れてしまう病気から、自己を形づくるものに迫る。

    感覚の統合ができないと非自己感に苛まれることになる。予想した感覚と知覚される感覚がずれた場合も同様だ。そこには島皮質が深く関係している。とても納得できた。

    誰にでも統合ができない体験は簡単に起こり得ることを知って、自分が自分であると自覚している神秘を感じる。

  • 興味深い内容だった。
    認知症やてんかん、自閉症といった名前は聞いた事のある症例もあるが、驚いたのは自分の脳は死んでいると主張する「コタール症候群」や、自分に付いている手や足が自分のものではないと思い混み、それらを切り落とそうとする「身体完全同一性障害」など聞いた事のない病気。
    その症例はその病気を知らない者にとっては、もう異常としか思えないかもしれない。しかし、身体完全同一性障害の彼らは、実際に切断手術を(闇医者によって)施し、やっと自分が完全な存在になったと満足する。

    どの病気も脳に問題がある場合が多く、腫瘍などを取り除き治る患者もいるが、やはり認知症や自閉症など完治しない病気もまだまだ多い。

    いずれにせよ、そのような症状に悩んでいる患者は多く存在するし、私たちもいつ発症するかは分からない。
    この様な病気の存在を知ることが必要なのかもしれない。

  • 自分は既に死亡していると言い出す人がいる。例えば精神は生きているが、脳は既に死亡していると。コタール症候群と呼ばれる症状で、別にふざけているわけではなく、実際に代謝が極端に低下したりするケースもあるそうだ。
    また、身体完全同一性障害というものは、自分の身体の一部、例えば右足が自分のものと思えないという症状だ。異物を身につけて暮らさなければならないというストレスに悩まされて、その足を切断してしまいたいと欲する。これも本人が錯覚しているわけではなく、実際に異物と感じている足と、そうでない自分の足に対する脳の反応が異なるのだ。そして、その異物である足を手術によって切断すると、一気にストレスから解放される。
    この本の中では他にもアルツハイマーや、自閉症、体外離脱、自己像幻視(ドッペルゲンガー)なども取り上げて、それらを「自己」とは何か、何が自己というものを生み出しているのかという観点の研究をベースに読み解こうとする。
    自分の右手を動かす時、それを自分の右手だと認識できるプロセスは?実はそれは生来的に身についているものではなくて、右手を動かすという脳の指示と、右手が動いているところを目で見るという視覚の双方が合わさって生まれている。この感覚がうまく連携できなくなった時、その右手を自分の手だと認識できなくなったり、果ては自分の身体を第三者的な視線で見つめたりするようになるのだ。

    著者が最後に述べているが、肉体と精神が一致しているというのは当たり前ではなく、精神の病い、肉体の病という二分法も正しくない。精神も所詮は脳の働きであり、脳の働きの不調はまだ研究がこれからで、解明されていないところが多いだけで、他の身体の不調と何ら変わらないという事がわかってくる。とても興味深い。

  • [鹿大図書館・冊子体所蔵はコチラ]
    https://catalog.lib.kagoshima-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB25616199

    [鹿大図書館学生選書ツアーコメント]
    「先生、自分は死んでいると話す患者さんがいます。すぐに来てください」

    私たちはどのようにして自分のことを自分であると認識しているのでしょうか?
    私の右手は私の手であると、異物感を感じずに―骨折したときにつけるギプスのように、この小指は私の体にくっついているだけで私の体ではない!、という感覚を感じずに―分かるのは何故でしょうか?
    この本では、様々な精神疾患の症例を挙げながら「自己」という感覚について記載し
    ております。
    症例の一つ一つが具体的で分かりやすく書かれており、とても読みやすい一冊となっております。
    読了すれば、時に強くもあり、時に弱くもある「自己」を、一層愛おしく感じるようになるでしょう。

  • 第41回アワヒニビブリオバトル「ウソ」で発表された本です。
    チャンプ本
    2018.08.07

全33件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

サイエンスライター。MITナイト・サイエンス・ジャーナリズム・フェロー(2019~20年)。ニューサイエンティスト誌、サイエンティフィック・アメリカン誌、ネイチャー誌、ウォールストリート・ジャーナル紙など多数の雑誌・新聞に寄稿している。著書に『私はすでに死んでいる』(紀伊國屋書店)、『宇宙を解く壮大な10の実験』(河出書房新社)がある。本書は、「スミソニアン・フェイバリット・ブック2018」、「フォーブス2018ベストブック(天文・物理学・数学)」に選ばれた。

「2021年 『二重スリット実験』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アニル・アナンサスワーミーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×