創造都市の経済学

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326501403

作品紹介・あらすじ

本書は、イタリアのボローニャ、合衆国のニョーヨーク、日本の東京、そして金沢を現代都市の典型として取り上げ、グローバルな構造転換のもとで「世界都市」と「創造都市」とが交錯する姿を通して、現代都市の衰退と発展の過程を描き出し、21世紀の都市像として注目すべき「創造都市」の理論化を試みたものである。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、1997年に出版されている。その後共著で『沖縄21世紀への挑戦』2000年出版、『創造都市への挑戦』2001年、『創造都市と日本社会の再生』2004年、『創造都市への展望』2007年、『創造農村』2014年へと続く。
     本書は、持続的内発的発展から、創造都市論へと発展させた象徴的な著作である。
    芸術と文化産業を核とする都市に着目した創造都市論となる。
    本書は、5つの章から構成され、ボローニャを創造都市とし、フレキシブルな生産と文化の都市システムとし、カオスとダイナミズムの世界都市ニューヨーク、日本型世界都市の東京の虚像と実像を描きだし、創造都市として挑戦している金沢の内発的発展史から文化的生産としての創造都市を提示する。そして創造都市論の系譜と文化経済学について述べている。宮本憲一先生の「金沢とボローニャは似ている」というサジェスチョンが、創造都市論へと発展した。
     世界都市であるニューヨークが、金融の力が強く、効率性重視の中で、所得階層の両極化が進む。そのことによってホームレスが生み出されることになる。アメリカにおいて民間非営利組織が文化の担い手として進められ、それをニューヨーク市が支援する構造となっている。
     創造都市としては、人口は多いからという基準ではなく、「市民一人ひとりが、より創造的に働き、暮らし、活動できている都市」をいう。イタリアのボローニャから始まり、金沢を創造都市として評価し、さらに横浜、篠山、鶴岡などが創造都市として評価する。
    その年には、「創造の場」があり、そこで創造する人材が育っていくことにある。金沢の場合には、金沢市民芸術村から始まり、金沢21世紀美術館が「芸術を育む場」の中心になった。
    さて、ここでは、世界的都市である東京をどう見るか?そして、著者が墨田区、大田区をどう見ているかということを述べる。
     グローバルセンターとしての東京の都市成長政策としての「世界都市戦略」があり、それが引き起こす東京の矛盾を明らかにする。東京が国際金融センターとして登場させようとするが、今日から見ても明らかに困難な状況が生まれている。アメリカと中国の間の谷間的な存在として認識せざるを得ない。バブル経済によって、東京は一極集中の地域となり、巨大な文化消費市場を形成した。消費という言葉が、消費の記号化であり、「自己完成、自己成就としての消費」となっていないことを指摘する。著者は、「残念ながら、東京は世界的な巨大文化消費市場であっても、国際的に評価される文化創造の拠点となっていないのが現実である」としている。東京都の文化のシェアは多く、多様な芸術文化の提供が行われている。どうこのパラダイムを変えるかが問われている。
    1985年のプラザ合意により、日本の生産拠点が海外に移転することによって、産業の空洞化が起こった。そして、バブル崩壊が起こり、失われた20年がはじまった。
    その中で、墨田区の工房ネットワークによる産業コミュニティづくりを評価する。3M運動として、①小さな博物館(ミュージアム)ーモノコレクションの展示。羽子板、千社札、木彫刻などの江戸職人の伝統や、ガラス工芸の展示によって「産業のまち」を見直すことに。②マイスター運動。職人をを認定し、育成する。③モデルショップ運動。そのことによって、「墨田をうろう、墨田で売ろう」をスローガンに「イチから始める。イチばんよい。イチばん新しい。イチばん始めに」とイチを開催し、ものづくり精神を復活させる。
     グローバルテクノポリスをめざす大田区。工場数6787社、従業員数65000人、製造出荷額1兆4000億、80%以上が従業員9人以下の零細企業。そういう中で、日本一のハイテク産業集積を進め「産業のまちづくり条例」、未来型支援施設の大田区産業プラザがつくられ支援機能を果たしている。
    著者は、「産業コミュニティの活性化」「住民参加によるまちづくり」産業政策を内的発展につながっていくとしている。
     蒲田に住んでいるだけでは、なかなかその産業コミュニティづくりが感じられない。産業プラザのコワーキングスペースで仕事をしてみたが、業種の交流というものがコロナ禍においてはあまりなかった。確かに、産業支援の相談に関しては、専門的な知識が豊富で頼もしかった。どの企業が何をしているかということをよく把握している。やはり、それが見える化されてこないとアクセスが増えないだろう。創造の場として、どう確保し、育てていくかは、とても重要な意味を持っている。
    創造の場、交流の場、企業の取り組みの見える化。そして、それを発表する場。それを通じて、創造的な産業コミュニティを形成することが必要なのだろう。20年前の本であるが、創造都市になっていくための中核的示唆と思想は明確である。

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著者プロフィール

1949年生まれ。大阪市立大学名誉教授、同志社大学客員教授、文化庁地域文化創生本部主任研究官。金沢大学(1985-2000年)、立命館大学(2000-03年)、大阪市立大学(2003-14年)、同志社大学(2014-19年)などで教授を勤める。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学)。文化経済学会〈日本〉元会長。国際学術雑誌City,CultureandSociety(Elsevier)初代編集長。一般社団法人創造都市研究所・代表理事。創造都市研究の世界的リーダーで、ユネスコ創造都市ネットワークのアドバイザーも務める。著書に『創造都市の経済学』勁草書房『創造都市への挑戦』岩波書店、編著書に『沖縄21世紀への挑戦』『創造都市と社会包摂』水曜社『創造農村』学芸出版社などがある。

「2019年 『創造社会の都市と農村』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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