死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威 (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334044367

作品紹介・あらすじ

2019年10月Twitterで注目!

死に至る病とは絶望のことである、と、かつて哲学者キルケゴールは書いた。
絶望とは、神を信じられないことを意味した。
だが今日、死に至る病の正体は、「親の愛さえも信じられない」こと、
つまり「愛着障害」に他ならない――。

豊かになったはずの社会で、生きづらさを抱える人が増え続けるのはなぜか。
心も身体も苦しく、死んでしまいたいと思う人が増え続けている理由は。
現代に突如現れた、治療困難な数々の障害の背景にある、共通の原因とは。
「愛されず、愛せなくなった」社会、「世話をしなくなった」社会で、
生きる意味を見出す術はあるのか。

ベストセラー『愛着障害』の著者が、渾身の思いを込めて、
今、我々が直面する「生存を支える仕組みそのものの危機」を訴える。

感想・レビュー・書評

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  •  個人的に、『誰が国語力を殺すのか』(石井光太著)で書かれていた国語力の衰えと共に、現代社会の根底にある問題だと思っているのが『愛着障害』です。

     本書より…
    ○死に至る病とは絶望のことである、と、かつて哲学者キルケゴールは書いた。絶望とは、神を信じられないことを意味した。だが今日、死に至る病の正体は、「親の愛さえも信じられない」こと、つまり「愛着障害」にほかならない。

     数年前から自分の生きづらさは、「愛着障害」にあるのではないかと、岡田尊司さんの数ある著書を読んで思っていました。ただ、先日読んだ、『愛着障害は何歳からでも必ず修復できる』(米澤好史著)を読んで、岡田尊司さんとは愛着障害の捉え方がかなり違うように感じ、愛着障害ではないのかな?と混乱していました。

     今回改めて岡田尊司さんのこの本を読んで、やはり岡田さんが考えている愛着障害というものだろうとは思いましたが、自分の問題としてだけではなく、社会全体の深刻な問題として、捉え直しました。

     愛着の基盤となるのが、幼い頃の(主に)母親との関わりで、その関係性が安全地帯になることで、十分な愛着が自然と養われ、その人の土台となっていくそうです。

     作者はまた、大人のADHDは子供のADHDとは違い、発達障害ではなく、愛着障害による物だと訴えています。子供のADHDの治療について気をつけるべきことも書かれているので、興味のある方は是非読んで欲しいです。

     愛着障害は次の世代へとどんどん受け継がれ、更に大きな生きづらさになって発現します。愛着障害は回避型、不安型など、色々な型があり、それぞれ性質が違うので、この本を読んで学びとなることはその人により異なると思われます。

     ここでは、私自身が子育てをする上で、自分にとって大切と思った所を抜粋します。

    ○親としては一生懸命育ててきたつもりなのに、しばしば共通する課題として浮かび上がるのは、共感性の問題である。

     その最大の原因は、子供が何を感じ、何を求め、何を嫌がっているのか、という本人の視点ではなく、将来のために、あるいは本人のために、あるいは、世間体のために、これをすることが必要であり、正しいことであるという親が抱いた基準や期待に沿って、本人を動かそうとしているということである。

     そこでは、本人の気持ちよりも、親側の思いが優先されている。そして、親は子供よりも、賢明な方法や正しいことを知っているのだから、それを子供に求めるのは当然だと思っている。ここで欠如しているのは、共感性なのである。子供のために有利だと思って、いつの間にか自分の判断をしつけてしまう親に共通するのは、共感性がとても弱いということである。


     障害と聞くと、そんなものは自分や子供には関係ないと思われる方も多数いらっしゃると思います。しかし、この本を読むと、決して特別なことではなく、時代と共に愛着障害を起こしやすい社会になり、おこるべきしておきた弊害である事に気づくと思います。そして、社会の流れを修正していく助けになるのではと思います。これから親になる世代の方にも是非読んで欲しいと思いました。

  • 「愛着障害」という言葉を聞いたことはありますか?
    乳幼児期や学齢期に十分な愛情を注がれなかった子どもに発現します。
    過度な触れ合いを求めたり、人や自分の痛みに無頓着だったり、過度に反抗したり…

    いかに愛されるということが大切か。
    そして愛に飢えた人たちが、どうして死に向かってしまうのか。
    科学的に事例も踏まえて記載されています。
    教育関係者の方や、子育てに悩んでいる人はぜひ読んでみてください。

    おすすめです!

    「その根本的な不幸を、太宰は克服することなく、自分の人生に終止符を打つことになる。」

  • ■「数学不安」という専門用語がある。数学ができるかどうかには数量処理や作動記憶といった認知的能力のほかに問題を解く際の不安が関わっている。この不安が「数学不安」。
    ・数学不安が強いと解けないのではという不安や恐怖に圧倒され、肝心の問題に集中することができず実力以下の成績しか取れない
    ・数学不安は単に数学が得意か苦手かということだけでなく就職や職業における成功を左右する
    ・数学不安が強い人は解けないのではないかという悪い結果ばかりを考えてしまい自分の足を引っ張ってしまう
    ・最近の研究で、この数学不安が愛着安定性と関係していることが明らかとなった
    ■人を幸福にする生物学的な三つの仕組み
    ①おなか一杯食べたり異性的な興奮の絶頂で生じるもの。
    ・エンドルフィンなどの内因性麻薬(脳内麻薬)が放出されることによって生じる快感
    ・生理的な充足と深く関係し我々が生きることに最低限の喜びを与えてくれる
    ②報酬系と呼ばれる仕組みでドーパミンという神経伝達物質を介して働いている。
    ・ドーパミンの放出が起きるのは通常困難な目的を達成したとき
    ・この報酬系はしばしば悪用される。面倒な努力抜きでドーパミンの放出だけ引き起こし短絡的な満足を与えてしまえば強烈な快感を手軽に得られる。その代表が麻薬、アルコールのような嗜癖性のある物質もギャンブルのような病みつきになる行為もドーパミンの短絡的な放出を引き起こすことで依存を生じさせる
    ③愛着の仕組み
    ・オキシトシンの働きに負っている
    ・愛する者の顔を見たり愛するものとふれあうとき安らぎに満ちた喜びが沸き起こる
    ■共感性の二つの側面
    ①気持ちを共有し同調する「情緒的共感性」
    ②相手の気持ちや意図を正確に理解する「認知的共感性」
    ・愛着障害の克服においてより重要と考えられるのが認知的共感(メンタライゼーション〔相手の視点で相手の気持ちや意図理解する能力〕と呼ばれる)
    ■世話をすることによって愛着は育まれ、それは喜びになり、生きる意味になる。それが唯一この世界を意味の喪失から防ぐ方法に思える。

  •  うつや発達障害など、近年増えてきた事例の原因ではないかとされる「愛着障害」の仕組みや症状などを例を交えて説明している。
     「親の愛がないと発達障害になる」のような非科学的な説明ではなく、オキシトシンというホルモンの働きによるものだと、わかりやすく伝えている。
     詳しい治療法は載っていないため、治療法については別の本が必要だろう。
     人を幸福にするためには3つの生物学的な作用があり、一つは満腹になったり、性的な興奮時に分泌されるエンドルフィン、二つ目は困難な目的を達成したときに出るドーパミン、三つ目は愛する者(人間やペットでもいいらしい)と触れ合う時にでるオキシトシン。愛着障害になるとオキシトシンに対する感受性が悪くなるために、他の2つで快感を得る他なくなり、例えば過食や性欲を満たしエンドルフィンで満たすか、もしくはひたすら努力してドーパミンで満たすかしかなくなるそうだ。
     この仕組みは非常にわかりやすく、納得の行くものだった。
     しかし、元にするデータが昔のもので、いわゆる「男は仕事、女は育児」が当然である時代のデータがメインのためか、愛着障害の原因の親が母親しかいないかのように書かれており、例えば母親と別れた父親が子供を一人で育てた場合、十分ケアすれば愛着障害は起こらないのか、それとも母親というものがいない限りは絶対に愛着障害は起きてしまうのか、そこには特に触れられていなかった。本書の説明からすると、男親だろうと女親だろうと関係なく、適切に養育できれば愛着障害は起きないような気はするが。

  • 生きづらさを抱える人が増え続ける現代社会に巣食う病理。それは「愛着障害」という新たな「死に至る病」だ。「愛着障害」とは一体どのような障害で、何が原因であるのか、またその病を治癒し、回復可能なのかを著す。とても興味深い1冊でした。この「愛着障害」とは動物であるヒトの生態と合理的な現代社会との齟齬によって引き起こされるのでは?と思いました。要するに「愛着障害」とは人が人の世話をする仕組みに何かしらのエラーが生じた状態であり、これは人との関わりの中でしか克服できないものだと云う。所謂「コミュ障」と言って対人が苦手な人が増えてるのも、「愛着障害」から派生されたものに違いない。此処に書かれてること殆どが自分に当てはまり、とても勉強になりました。

  • 親のことを考えると穏やかな気持ちになる、無条件に安心する、っていう人が世の中にはいるんだなぁ。これはちょっと私にはわからない感情だな。

  • 愛着障害には2つの種類がある。ひとつは回避型で、もうひとつは不安定型だ。どちらも養育者(母親)と安定した愛着関係を築けなかったことが要因となり、引き起こされる。昨今の恋愛指南書で、あなたは不安型?回避型?のような形で扱われているのを見かけるので、知っている人も多いはず。本書では、その愛着障害が大人のADHDや社交不安、気分障害などを引き起こす根本的な原因になっていると解説している。

    特に印象的なのは、愛着障害によりアルコール依存になった方が、依存症は改善できたものの、その後自殺してしまうというケース。依存症の治療はできても、依存症を引き起こした要因と考えられる母親との愛着関係が不安定だったがために、死を選んでしまったのだという。

    愛着障害は、親子で治療していくことが最も重要なことだ。子が大人になってからでも、治療は十分に行える、そのことに希望を抱いた。

  • 東京大学から、京都大学 医学部のバケモン。
    キルケゴールは、死に至る病を“絶望”としたが、著者は“愛着障害”とした。
    生物学的な幸福は、エンドルフィン系、ドーパミン系、オキシトシン系から成っており、それらの相互補完の話が面白い。
    作家等の有名人の実例(正確かどうかは定かではないが)も面白かった。
    子供がいる人、持つ予定の人には、刺激的な内容だと思った。でも、病根の疑いが分かるだけで、具体的な接し方、養育方法は教えてくれないのは、世間一般のそれと同じ。それは個別具体で、答えなんてないからなんでしょう。

  • 岡田氏の著作を読めばADHDに最も効果的なものは外的要因の改善であり、すぐに薬物に頼ることが適切でないことは理解できた。しかし医師や教師にひとつひとつのケースと時間をかけて向き合うことができるほどの余裕がないのも事実であろう。 時間をかけて本人の話を聞き、丁寧に紐解いて、適切な対処をすれば改善される可能性が高いと分かっていても、そこまで面倒が見きれていない現状が酷くもどかしいと感じた。

  • 同著者『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』同様、愛着障害の概要について具体例を挙げながら解説しており、さらに最新の知見を踏まえている。特に、近年パーソナリティ障害、摂食障害、子どもの気分障害、大人のADHDなどが急増しているが、それらの根底には愛着の問題があり、酷い場合「死に至る」ことが強調されている。
    本作では、愛着障害がオキシトシンに及ぼす影響についてかなりのページが割かれている。これは、脳の視床下部から放出されるホルモンであり、「安らぎホルモン」とも呼ばれるように、痛みや傷つくことによるストレスから身を守る働きがある。愛着に問題があると、オキシトシンの機能が低下し、苦痛ばかりが感じられ、生きづらさを生む。そればかりか、免疫系にも悪影響を及ぼすため、自己免疫疾患やアレルギーなどの原因の一つにもなるという。
    もちろん、何でも愛着の問題として片付けてしまうことは早計である。ただ、表面に見えている問題にばかり囚われず、その背後にある問題にも目を向けることは対人援助職にとってラポール形成から介入まで一貫して基本となる姿勢だと思う。

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著者プロフィール

岡田尊司(おかだ・たかし)
1960年香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学文学部哲学科中退。京都大学医学部卒業。同大学院医学研究科修了。医学博士。京都医療少年院勤務などを経て、2013年より岡田クリニック(大阪府枚方市)院長。日本心理教育センター顧問。パーソナリティ障害、発達障害、愛着障害を専門とし、治療とケアの最前線で現代人の心の問題に向き合う。著書『悲しみの子どもたち』(集英社新書)、『愛着障害』『愛着障害の克服』(いずれも光文社新書)、『愛着アプローチ』(角川選書)、『母という病』(ポプラ新書)、『母親を失うということ』(光文社)など多数。

「2022年 『病める母親とその子どもたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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