萩尾望都がいる (光文社新書 1212)

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  • / ISBN・EAN: 9784334046200

感想・レビュー・書評

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    読了:2022/10/18

    最初「ユーリのサイフリートへの敗北」とか書いているところが目に入り、わー、やっぱり男性視点だとこう見えちゃうのかー、と思ったが、萩尾作品への愛は伝わった。めちゃめちゃ竹宮惠子嫌いやなと。

    「1949年生まれは(中略)戦後教育で育った人たちですが、学校で受けた教育と社会実態の乖離が大きく、特に女性の戸惑いと軋轢は酷かったろうと察せられます。戦前に教育を受けた親世代との「世代の断絶」が深刻だったことでも知られています。」

  • 『11人いる!』のフロル、好きでした。
     
    いろいろ読み返したくなりました。

  •  当然、SF漫画の大傑作『11人いる!』にひっかけたタイトルだろう。どうせなら「!」も付ければよかったのに。それほどの、なかなかの力作だった。

     あいにく、自分は、当時は妹の持ち込んだ少女漫画を盗み見するくらいにしかそちらの世界には触れていないので、『11人いる!』以外は、その続編を少しと、『ポーの一族』『トーマの心臓』あたりを、後追いで読んだ程度。『11人いる!』のテイストと違って、正直、のめり込めなかった。
     また、読んだタイミングも後追いで、1975年当時ではなかった。

    「まず強調しておきたいのは『11人いる!』が1975年の作品だということ。つまり劇場版『宇宙戦艦ヤマト』(1977)や『未知との遭遇』(同、日本公開は翌78)や『スターウォーズ』(同、日本公開は翌78)より前で、SFブームに乗った作品ではなく、その先駆けだったという点です。」

     1982年の『ブレードランナー』より前だったとは思っていたが、ヤマトやスターウォーズよりは後に読んだ印象だ。人類の未来、科学の進歩に夢も希望もあった当時の空気が横溢しているのは、当時も感じてはいたように思う。

    「(「爆発会社」で描かれた)臨海地区に立ち並ぶ未来の都市建設群は、同年三月から始まる大阪万博のパビリオン群を先取りしたかのようでした。(中略)当時の萩尾は「人類の進歩と調和」に期待を抱いていたのではないでしょうか。」

     ともかく、著者による萩尾望都絶賛は、厭味がなく気持ちよい。
     残念ながら、作品を追っての変遷や、細かい描写による表現の分析にはついていけなかったが、それでも、昭和における少女漫画の立ち位置や時代が求める表現の模索などに関しての俯瞰的な考察は、非常に面白かったしためになった。
     70-80年代は、『ドカベン』『ブラックジャック』などの「チャンピオン」系から、やがて『Dr.スランプ』『北斗の拳』の「ジャンプ」系に触れてきたので、それらいわゆる少年漫画の作品をとらまえて、本書のような分析は可能だろうか?と思いながら読んだりもした。ジェンダー云々による比定はいけないのかもしれないけど、少女漫画との差を思い知る感がある。

     ジェンダーといえば、今回改めて『11人いる!』は復習しておいたが、確かに、まだあの当時は女性の社会進出は(『11人いる!』では大学進学ですら)珍しい存在として扱われている。主人公タダの相方フロルの言動の端々にも「女なんか」や、「女になってやってもいいよ」と、女性を男性より下に見た発言がちらほらと出てくる(両性具有で今後性別を選択する種族という設定で、キャラとして「男になりたい」という役割を担わされていたということもある)。 本書にも、

    (「11人いる!」の中で)受験生の中に女性がいることに男たちが驚く場面があることは、女性の社会進出がまだ一般的ではなかった当時の社会認識を反映していました。」

     と分析している。
     斯様に、本書では、萩尾望都、萩尾作品についてだけではなく、その社会的背景、その他の少女漫画作家や男性作家との関係、位置関係、さらには日本の戦後漫画史も俯瞰して見せてくれて、非常に読み応えのある内容になっていた。
     あいにく、自分が、せいぜい庄司陽子の『生徒諸君!』や、大和和紀『はいからさんが通る』、美内みずず『ガラスの仮面』などの有名作品、里中満智子の短編作品などを著名作家の作品にしか触れてこなかったので、作者の深い考察にはとうていついてはいけなかったが、こうした趣味の分野を深掘りしていく作業は、さぞや楽しかったのだろうなと、その文章が発する熱量を羨ましく感じながら拝読した。

  • とても丁寧な作品評論でした。蘊蓄を垂れ流し、同時に害悪をも垂れ流した「萩尾望都と竹宮惠子」(中川右介)とは雲泥の差でした。著者は萩尾望都を「時代の精神を伝える」作家だと大きく評価しています。図書館にリクエストして借りたんだけど、買うことにしました。  

    細い新書だけど、黒い背表紙の上はビッシリ密にカラフルな付箋紙がモヒカンの様に聳え立っています。

    私にとって、萩尾望都を正式に意識したのは、大学に入って漫画批評誌『ぱふ 特集萩尾望都』(1980)を読み、橋本治の評論を知ってからでした(『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』)。大人になっても漫画を卒業しないどころか、男であるのに少女漫画を読んでいる。その後ろめたさを払拭できたのは、「漫画を評論する」という雑誌が登場したからです。これで男たちは、好きな少女漫画を語る「自由」(それでもしばらくマイナーな立ち位置でしたが)を得たのでした。そして「それを可能にしたのが萩尾作品の「深さ」です」(109p)。

    著者は私と同年代ですが、手塚治虫や宮崎駿は、社会に大きな影響を与えた作家ではあるが、その価値観は一時代前のものだと断じます。「この半世紀の現実や私たちの気持ち、新たな理想への模索を代弁してくれるのは誰か」それが萩尾望都だと著者はいうのです(4p)。最初、それは少し言い過ぎでは?と思っていたのですが、本書を読み終えて、私は萩尾望都を読み損なっていたことに気がつきました。

    どこにも隙のない表現、SF作家が大いに唸るSFマインド、自由への渇望、多様性への希求、ジェンダー漫画の嚆矢、未来を人はやり直せるか?という課題、家族との葛藤、東日本大地震‥‥。もう一度読み直さなくてはいけない。同時に未読の萩尾望都を紐解かなくてはいけない。今しきりにそう思っています。

    橋本治の萩尾望都論の首木から、この本は私を解放してくれました。また、大泉生活の顛末を受けて、竹宮惠子を的確に批判し、「24年組」の幻想を明確に批判したのも、スッキリする想いでした。本書は、以後の萩尾望都論の外せない道標となるでしょう。

    第二期「ポーの一族」の位置付けも、私は少し勘違いしていたのかも知れません。確かに、そもそも「ポーの一族」は、時系列が行ったり来たりする構造でした。「ユニコーン」が現代を描いたからと言って、それは直ぐにシリーズを終わらすことを意味しない。著者の言うように、出来るだけ長く書き綴られることを私も希望したい。

    knkt0922さんの紹介で刊行をいち早く知った。ありがとうございました。

  • 2022年7月28日購入。

  • ◆「国民作家」の先駆性浮き彫り[評]中条省平(学習院大教授)
    <書評>『萩尾望都がいる』長山靖生 著:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/199758

    萩尾望都がいる 長山靖生 | 光文社新書 | 光文社
    https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334046200

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      レヴュー愉しみにしています!

      猫には珍しく「一度きりの大泉の話」の単行本を買ってしまったのに辛くて放置中。。。
      kuma0504さん
      レヴュー愉しみにしています!

      猫には珍しく「一度きりの大泉の話」の単行本を買ってしまったのに辛くて放置中。。。
      2022/09/05
    • kuma0504さん
      猫丸さん、おはよう御座います♪
      うん確かに辛いところあるけれども、事実関係は既にいろんな人が書いているからそんなにショック受けないかも。

      ...
      猫丸さん、おはよう御座います♪
      うん確かに辛いところあるけれども、事実関係は既にいろんな人が書いているからそんなにショック受けないかも。

      萩尾望都も書きながら、はからずも70年代初頭の少女漫画の雰囲気を証言していて、貴重な話も聞けると思います。
      2022/09/05
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      ナルホド、やっぱり他のも読んだ方が良いか、、、
      kuma0504さん
      ナルホド、やっぱり他のも読んだ方が良いか、、、
      2022/09/11
  • 萩尾望都の主に作品への尊敬と憧憬と筆者も含めての受けた人々の感動を作品解説としてまとめた物。

  • 萩尾賛美より竹宮批判のインパクトの方が強いかな。
    (歴史の歪曲に対する感受性の強さなんだろうけど)

    しかし、著者のはしゃぎ振りには、ちょっと引く。

  • 東2法経図・6F開架:B1/10/1212/K

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著者プロフィール

長山靖生(ながやま・やすお):1962年生まれ。評論家。鶴見大学歯学部卒業。歯学博士。開業医のかたわら、世相や風俗、サブカルチャーから歴史、思想に至るまで、幅広い著述活動を展開する。著書『日本SF精神史』(河出書房新社、日本SF大賞・星雲賞・日本推理作家協会賞)、『偽史冒険世界』(筑摩書房、大衆文学研究賞)、『帝国化する日本』(ちくま新書)、『日本回帰と文化人』(筑摩選書)、『萩尾望都がいる』(光文社新書)など多数。

「2024年 『SF少女マンガ全史 昭和黄金期を中心に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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