ヘーゼルの密書 (光文社文庫 う 18-7)

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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334101848

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  • 1930年代、満州事変を皮切りに中国との泥沼の戦争へと突き進んでいく日本。だが、政府内・軍内・民間には和平を望む勢力が様々なルートを使って和平工作に奔走していた。これら和平派の工作は、中国での権益拡大・戦線拡大を推し進める拡大派や、中国の反日派・抗日派にことごとく阻まれてきた。そして、第二次世界大戦の開戦直前、蒋介石を相手に最後の和平交渉(桐工作)を持ちかけようと動き出す今井大佐。この交渉を脇から補佐するため、蒋介石に密書を届け、有力な協力者から日中間の和平の重要性を蒋に説かせる「榛(はしばみ、ジェンズー、ヘーゼルナッツ)ルート」工作が計画された。主要メンバーは、一等書記官で現場責任者の黒月、語学教師で通訳の倉地スミ、料理人兼ボディーガードの新居周治、生物学者の森塚、そして新聞記者の羽見。黒月は、交渉の仲介役として米国に目をつけ、石油利権の折半を条件に蒋介石へのルートを確保しようと巧みに交渉を進める。だが、このメンバーの中には拡大派のスパイがいて、工作は筒抜けだった。

    【著者による後記】によれば、「今井武夫(…)は実在の人物である。今井が関与した、盧溝橋事件および桐工作における日中和平工作の成果と過程は、本作においてはすべて史実通り」。「また、上海自然科学研究所に所属する科学者が、小野寺信による日中和平工作を密かに手伝っていた」のも実話であり、「「榛ルート」のエピソードは虚構」とのこと。

    実を結ばなかったとは言え、様々な妨害を受け、挫折を繰り返しながらも粘り強く和平工作を続けた日本人が実在したことを知って感動した。史実ベースということもあり、戦時上海3部作の中では一番面白かったかな。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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