故郷/阿Q正伝 (光文社古典新訳文庫 Aロ 5-1)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751791

作品紹介・あらすじ

久しぶりに再会した幼なじみは、かつて僕の英雄だった輝きを失っていた…「故郷」。定職も学もない男が、革命の噂に憧れを抱いた顛末を描く「阿Q正伝」。周りの者がみな僕を食おうとしている!狂気の所在を追求する「狂人日記」。文学で革命を起こした魯迅の代表作16篇。

感想・レビュー・書評

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  • 漫画版で概ね流れを把握した上で読みました。
    ある程度予備知識を持った上で読みたい本です。
    なぜなら、魯迅が何の意図を持って作品を構築し、伝えたい事考えながら読まないと最後は「?」で突然終わりを迎える話が多いと感じたからです。
    阿Q正伝では「精神的勝利」に囚われた阿Qを通じてあらゆる事象を受け入れる精神状態の異常さ。
    周囲の人間たちが首切りを見に来たが銃殺だった際の反応の方向性の異常さ。が印象に残りました。

  • 「故郷」からは自らのエッセイ風としての瑞々しさ,「阿Q正伝」は自らとは違う者の悲劇的展開の技術が見出せる。なお,Bokklubben World Libraryには,本短編集の変わり種である「狂人日記」が選出されていた。

  • 学生の頃教科書で読んだ時はあまりおもしろいと思わなかった魯迅
    中国史や中国語を勉強し始め、中国の時代や文化に少しイメージがついてから読むと、心にぐっときました。

    清朝末期から中華民国へ。
    いつの世も時代の転換期は厳しいです

    「故郷」にでてくる、コンパス!
    中高生の頃?に読んで印象的だったのを数十年の時を経て思い出しました

    訳者あとがきの翻訳に関する文章がとても興味深く、私もいつか中国語で読めるようになりたいなと思いました

  • 吶喊より
     孔乙已 コンイーチー
     薬
     小さな出来事
     故郷
     阿Q正伝
     端午の節季
     あひるの喜劇

    朝花夕拾 ちょうかせきしゅう
     お長と『山海経』
     百草園から三味書屋へ
     父の病
     追想断片
     藤野先生
     范愛農

    付録 吶喊より
     自序
     兎と猫
     狂人日記

    藤井先生の解説、つき

  • 第79回アワヒニビブリオバトル「24時間耐久ビブリオバトル@オンライン」第12ゲームで紹介された本です。オンライン開催。チャンプルー。
    2021.09.18

  • ”そこで僕は自分に言い聞かせることにした。故郷は本来こんなものなのだ——進歩もないが、さりとて僕が感じているように悲しいとも限らず、悲しいのは僕が心変わりしたからなのであり、そもそも僕にとって今回の帰郷が、楽しいはずはないのだ。—『故郷』より(p.51)”

     中国近代文学の父、魯迅の代表作16篇を収録。全体として、心理描写はあっさりしている印象だが、上手くまとまった作品が多い。解説によれば、魯迅には芥川龍之介の短編を集中的に読んでいた時期があるそうで、なるほどと。

     中でも、書名にも選ばれている『故郷』と『阿Q正伝』、そして魯迅の自伝的小説『自序』が良かった。
     『故郷』は、中学校の国語の教科書にも採用されているのでご記憶の方も多いかと思うのだが、「僕」が二十年ぶりに故郷に帰ってきた際の顛末を描いた作品だ。今回中学ぶりに読み返して、気になったのは次の一節。
    ”僕は希望について考えたとき、突然恐ろしくなった。閏土が香炉と燭台を望んだとき、僕が密かに苦笑さえしたのは、彼がいつも偶像を崇拝していて、それを片時も忘れないと思ったからだ。いま僕の考えている希望も、僕の手製の偶像なのではあるまいか。ただ彼の願いは身近で、僕の願いは遠いのだ。(p.68)“
    「偶像」とは、語義通りには「崇拝対象を象って想像でつくった像」のことだが、おそらくここでは「手が届かないのに、手が届くフリをしている」ことと捉えるべきではないだろうか。「僕」=筆者自身を含めた中国知識人の抱く「希望」は、結局のところ閏土の偶像崇拝=旧い仕来り(=儒教?)と同程度のものでしかない、というのだ。
     魯迅がこの短篇を通じて、立場・境遇はそれぞれ違えど揃って貧しさに喘ぐ国民たちの姿を描いたと言うのは正しい。また、それとの対比で、互いを思い合う次世代の宏児と水生に「僕」が国民団結の美しいヴィジョンを見ているというのも勿論その通りだ。しかし、その「希望」は本当に手が届くものなのか、という疑念が筆者の中にあるのである。つまり、筆者は時流に翻弄される中国知識人の有り様を乗り越えられるべきものとして描くだけでなく、彼の批判的な視線は知識人の掲げる理想そのものにまで及んでいるのだ。このような中国知識人に対する自己批判は、他の作品でも見られる。例えば『狂人日記』において、「食人」行為とは旧い仕来たりのナンセンスで凶暴な性質のことであり、しかしながらそれに唯一気づいた「僕」が周囲から"迫害狂(p.270)"として扱われるのは、新しい思想の孤立無援さを表しているというより寧ろ内面的なこと、すなわち掲げる理想の正しさを信じてはいても、圧倒的多数の周りの人とすれ違うことによる不安感・疎外感を表現したものだと、僕は読んだ。また、『自序』によれば、そもそも筆者の創作活動は「新しい社会」に対する失望から始まっているという。
     上の一節は、こう続く。
    “希望とは本来あるとも言えないし、ないとも言えない。これはちょうど地上の道のようなもの、実は地上に本来道はないが、歩く人が多くなると、道ができるのだ。(p.68)”
    一人ひとりの力はたとえ微小でも、多くの人が同じ志を抱けば最後にはそこに大きな「道」ができる。だが、これを裏返して言うと、歩く人が少ないままだと社会は一向に変わっていかないということでもある。こうしたアンビバレントな感情の表現が、『故郷』の一番の魅力だと思う。
     余談だが、洋上の「僕」が「地上の道」を頭の中に思い描いているというのも、考えてみると面白い。「『僕』は、地上の道を進む歩みには加わらない(加われない)」という解釈も可能かもしれないが、これは少し深読みのし過ぎか。
     
     一方で、正直なところ、若干ピンとこなかったところがあるのも事実である。これは、僕が中国の習俗に馴染みがないため、戸惑ってしまったことが一つの原因としてあるのではないかと思っている。例えば、『薬』や『狂人日記』に登場する血饅頭。これは斬首刑に処された罪人の首から流れた血を蒸しパンに吸わせたもので、食べると肺病に効くそうだが、最初読んだとき何を言っているのかよく呑みこめなかった。また、科挙制度を知識としては知っていても、それが当時の中国社会にどのような影響を及ぼしていたのか、なかなか想像がつかない。それを前提として物語が語られる知識が残念ながら僕に欠けていて、実感を伴った理解には至らなかったという感じがある。

    訳者まえがき
    吶喊
    (孔乙己/薬/小さな出来事/故郷/阿Q正伝/端午の節季/あひるの喜劇)
    朝花夕拾
    (お長と『山海経』/百草園から三味書屋へ/父の病/追想断片/藤野先生/范愛農)
    付録—『吶喊』より
    (自序/兎と猫/狂人日記)
    解説
    年譜
    訳者あとがき

  • 昔読んだ阿Q正伝は、何を言いたいのかわからなかったという記憶しかない。今回改めて読んでみて、辛亥革命前後の同胞の鼓舞するために、阿Qという愚かな狂言回しを描いてみせたのかなと思った。故郷をはじめ他の短編もそれぞれストーリーは単純だが、同時代の中国社会の様子を伺い知ることができる。


  • ・当時、中国は皇帝専制体制の下戦争に負け続け、国内に外国の軍隊が駐在する等、危機的な状況にあった。

    ・当時、上記の危惧から民主化を謳う中国の知識人が、農民への啓蒙運動を開始。これを担ったのが文学であった。

    ・民主化だけでなく、中国の”悪しき”伝統も啓蒙の対象となった。
    Ex.)食人、纒足、科挙(←これは微妙だが、『孔乙己』にて悲惨さが仄めかされている)

    ・紀元前からの皇帝の専制ゆえ、中国(これはアジア諸地域に共通した性格だが)の従属的な人々は”奴隷根性”を捨てられなかった。(民主化が完璧な措置かどうかは分からないが、魯迅らはこれを正義とみなしている)

    以上の前提知識(高校世界史の範囲)がある方が読みやすい。
    華々しい歴史に終止符を打とうとしている当時の中国の悲惨な国民の現状と、魯迅の悲痛な思いがひしひしと伝わってくる。しかし、ちょっとしたブラック・ジョークのようなものが挟んでおり、クスリと笑える箇所もある。特に『阿Q正伝』にて主人公阿Qが役人に跪いたまま立てなくなってしまい、呆れられ「奴隷根性!…」と罵られた場面はかなり面白かった。
    心に石が残るような誤読感の短編集。小・中学校の教科書に載っていた『故郷』に惹かれた方ならきっと満足すると思う。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/742758

  • 3.7

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著者プロフィール

本名、周樹人。1881年、浙江省紹興生まれ。官僚の家柄であったが、21歳のとき日本へ留学したのち、革新思想に目覚め、清朝による異民族支配を一貫して批判。27歳で帰国し、教職の傍ら、鋭い現実認識と強い民衆愛に基づいた文筆活動を展開。1936年、上海で病死。被圧迫民族の生んだ思想・文学の最高峰としてあまねく評価を得ている。著書に、『狂人日記』『阿Q正伝』『故郷』など多数。

「2018年 『阿Q正伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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