にぎやかな落日

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334913984

感想・レビュー・書評

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  • 八十三歳の『おもちさん』。
    表紙の絵のように、にぎやかでオシャレで友だちもいっぱいいる。
    でも少しずつ一人で暮らすことが難しくなってきて‥‥。
    おもちさん目線で過去の楽しかったことや、現在の老いや病気に対する不安が綴られている。
    友だちとの楽しい日常の部分を読んでいる時はこちらまで楽しくなる。
    一方、娘や看護師さんの言葉にイライラしている部分を読むと、とても反省した気持ちに。おもちさんの健康を思っての言葉や、認知症気味のおもちさんへの子供扱いしたような言葉かけが、どんな風に相手にストレスを与えているか、ある意味とても勉強になりました。
    いつもは明るくて元気なおもちさん。でも実は夫の老老介護をしていた時、夫に優しくしてあげられなかった後悔もあったり。
    自分ができなくなることが増えると、夫のことを思い出す。あぁしてあげれば良かった、こうしてあげれば良かった。
    でも、基本的にとってもにぎやかな一冊なんです。本当に表紙の絵のようなにぎやかな一冊。おもちさんの持つ明るくにぎやかな性質が娘にも遺伝し、周りのみんなにもどんどん影響していってるんだろうなぁと思います。ちょっと雰囲気が悪くなるような会話になっても最後にはなんだかみんなで笑っちゃっていて。こういうのって、おもちさんが今まで築き上げてきた人徳、財産なんだろうなぁ。
    自分の両親のことを思ったり、必ず訪れる自分自身の老後のことを思ったり、とても勉強になる一冊でした。

  • 80代半ばの主人公・おもちさん当人の目線で「老い」を描いているのが新鮮。まだまだ気持ちは元気いっぱい、何でも自分で出来る。なのに娘や医者は食事を制限したり行動を心配したり。
    私にも80代の母がいて、つい「気をつけて」「それはやめといた方がいいんじゃない」と口にしてしまうが、気遣ったつもりのその一言がもしかして母の気持ちを傷つけているかも?とふと思った。

  • 島谷もち子、満83歳。周囲の人達から”おもちさん”と呼ばれている。
    本当は”まち子”だったのを、出生届を提出する際、父親が「ま」と「も」を間違えて”もち子”になった、という。出生時のエピソードからして笑いをとっているおもちさんは、気さくで交友関係も広く、楽天的で朗らか。息子のお嫁さんとも仲が良く、町内会のカラオケ部で活動するなど日々を楽しくおくっているように見える。
    けれど実情を紐解くと、おもちさんなりの葛藤や悩みは尽きないようで…。
    夫の老い、自分の老い、持病の悪化、独り暮らし(夫は施設にいるため)の寂しさ、出来ていたことが出来なくなった自分へのもどかしさ。
    おもちさんの中で繰り返し生まれる、心情の静と動の大波に読んでいていたたまれなくなった。

    嬉しいことも悲しいことも「思い出」の箱に移していって、時々ふっと思い出しては自分なりに折り合いをつけて。そんな風にして人は年を重ね人生の幕を下ろす準備をしていくのかな。
    人生の落日。おもちさんみたいに、にぎやかとまではいかなくても、穏やかな気持ちで迎えさせてあげだい、と実家の両親のことに思いを馳せた。

  • <訪問>「にぎやかな落日」を書いた 朝倉(あさくら)かすみさん:北海道新聞 どうしん電子版
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/547239?rct=s_books

    【新刊インタビュー】|『にぎやかな落日』刊行記念 朝倉かすみ インタビュー|tree
    https://tree-novel.com/works/episode/da3044b252f4b56037e3874c9e865bb1.html

    にぎやかな落日 朝倉かすみ | フィクション、文芸 | 光文社
    https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334913984

  • 日が沈む時、ちょっともの悲しく感傷的になる。
    人生のにぎやかな落日。
    おもちさんの人生の落日の話も、にぎやかでウイットに富んだ表現に笑いながらも、哀しみが漂う。
    83歳のおもちさん、夫の勇さんが特養に入所し一人暮らしだが、糖尿病が悪化し、記憶力も衰え介護付きマンションに入所することになる。
    優しい兄嫁、娘、皆に大切にされ幸せなおもちさん。北海道の方言がなんとも優しく心地良い。

    おもちさんの心のうちに寄り添い老人の複雑な思いに触れた。
    (以下抜粋)
    ○娘に意見されると、こどものくせに親をイヤな気持ちにさせた「生意気な」という力強い怒りに「いじめられた」という被害者意識が混ざり込み、涙がでてくる。
    ○「言って聞かせる」口調にカチンとくる。
    ○感情のネジ、制御するネジ、どちらもばかになっていく不安。
    ○「ホラあのとき」が思い出せないときの反応は、素直に驚くか、ひとまず話を合わせておくか、とりあえず怒るかの三択となり、どれになるから、そのときにならないと分からない。
    ○言い分に耳を貸さず、周りが、とにかく言うことを聞きなさいト、そうしていれば間違いはないト、そうするものですト、寄ってたかって丸め込む。
    ○「しまった」即座にそう思ったが、理由はおもいつかなかった。まずいことを言ってしまったという感触だけがある。

    おもちさんの心情は他の老人とも共通だろう、実家の親の心のうちを覗いた気持ちになった。

    老いていくことは不安で寂しい、怒りも感じるだろう。複雑で思うようにならないことばかりだけれど、豊かで深みがあり美しいと思えた。
    ユーモアの持つ力は偉大だ!

    みんな、それまでの人生を思い出の箱につめ、時おり取り出しては笑ったり力を得たり、哀くなったり仕方のない後悔を引っ張りだすことだってある…けれどなんとか折り合いをつけていくのだろう。
    おもちさんもそう。思い出がフッと蘇ったり消えたり。 
    中でも勇さんとの流星の思い出、家族でプリンを食べたエピソードが輝いている。

    話の終わりは今のコロナ状況を反映している。
    老人施設の大変さには頭が下がります。
    実家の親と会えない日々、せめておもちさんの娘のようでありたい。
    おもちさんの言葉「いつ死んでもいいよネ」といいながら「でも、今じゃないよ」に対して「『今』がずうっとつづくといいね」と答える娘の気持ちが痛いほど分かる。
    避けられないことだけど、どうかそれが今でありませんようにと。

    魅力的なおもちさんは、著者のお母さまがモデルだそうだ。

  • 夫が特養に入り、北海道でひとり暮らしをする83歳のおもちさん。
    目が悪く、糖尿病や少しの認知症も患っている。
    出来ない事が増えていく不安や寂しさ、だけども幸せな事もあって。。
    83歳のおもちさんの気持ちに寄り添った「老い」について描かれた作品。

    朝倉さんのお母様をモデルに描かれた作品だそう。
    ずっと一緒に暮らしてきた旦那さんとも離れ離れになったり、色々忘れがちになったり、老いるってこういう事なんだなってちょっと寂しい気持ちになった。
    なんだか可愛い北海道弁にほっこりさせられるのと、何より茶目っ気たっぷりの明るいおもちさんにクスクスしたり、全体的に悲壮感はなかったけれど、だからこそそこに見え隠れする寂しさにしみじみしてしまった。
    おもちさんの長男のお嫁さんも娘さんもいい人。
    生きてればいつかおとずれる「老い」
    まだまだ実感はないけれど、少し考えさせられたお話でした

  • 夫は、施設に入り独り暮らしの83歳のおもちさん。

    東京暮らしの娘は、日に二度電話をくれる。
    長男は近くに住んでいるので安心ではあるが…

    気ままな食事のせいで持病が悪化して入院〜このままでは、ひとりだと不自由だと感じ、きちんと管理の行き届いたところへと…。

    おもちさんの性格が明るくて悲壮さを感じさせないのにほっとさせられる。

    自分のやれる事出来る事なども頭のハッキリしているうちに判断して行動すべきだなぁと感じた。

    実際、田舎の母のことも重なり共感するところが多かった。
    そして自分の今後も考えなければ…と思う。

  • タイプは違いますが、実家で一人暮らしの母を思い浮かべてしまいました。

  • 「おもちさん」こと島谷もち子(しまや もちこ)は、昭和十年生まれの亥年。
    夫の勇(いさむ)さんが特養に入って、北海道で一人暮らしになった。

    あれ?三月って言ってたのに、「七月場所」?時間軸どうなってるんだろう?
    と思って読み進めると、おもちさんの頭の中の時間軸に沿って書かれているのである。
    玄関の下駄箱を見て、勇さんがそれをもらってきた時のことをフッと思い出す。
    家を建てた時に妹が来たことを思い出す。
    二番目の姉は現在ボケている。・・・あれ?もう亡くなったっけ?
    一章目の「たんす、おべんと、クリスマス」は、自分でノートの表紙に書いたのだけど、意味がわからない。
    と、ここでヒヤッとする。
    認知症と診断されたとは書いていないけれど、80代の頭の中はこんなふうなのかもしれない。

    読んでいて亡くなった母のことを思い出した。
    私が言ってること、どこまで分かってるのかな?
    この目つきはどういうこと考えてるんだろ?といつも疑問だった。
    その答え合わせをしているような気分。
    あー、やっぱり先生の話とか分かってなかったんだー、とか、
    分かってなくても分かったふりをして「からうなずき」(作者の造語?ナイス!)
    いろいろなことが思い出せないという自覚はあるが、思い出すのが億劫。
    でもまだ自分は「ソッチ側の人」ではないと思っている。思いたい。

    東京に住んでいる娘が一日に2度電話してくれるが、どうも赤ん坊に対する口の聞き方になってきたなと思うおもちさん。
    転んでないかと聞かれ、ムキになって全否定(実は転んでいる)
    高熱を出して病院に行ったことを覚えていない。
    甘いものを食べてはいけないと何度言われても、どら焼きやデニッシュを食べて看護師さんに叱られる。
    みんなが寄ってたかって、ケットーチガー、スウチガー、テーケットーガーと言うが、はっきり言ってくどい。
    食べていませんと言い張る。実際自分でも、そんなことしたのかしないのかよく分からなくなることがある。
    なんで信用しないんさー!情けないね!と怒る。
    そして懲りずに、あの手この手で監視の目をかいくぐり、甘いものを食べてしまうのである。

    そう、おもちさんは懲りない人なのだ。
    そして前向きで、小さいことに幸せを感じられる人である。
    人間100年の時代になったのだから、84歳はまだまだだ。
    そして、最初の「たんす、おべんと、クリスマス」の意味は、衝撃というか笑劇でもあった。

  • なんか不思議な面白さ。
    主人公は83歳のおもちさん。島谷もちこさん。
    夫の勇さんは特養に入ってる。
    ずっと1人で暮らしていたけど、バランスの良い食事をしないとよろしくないって事で、上げ膳据え膳のマンションに入る事に。看護師さんが常駐してる所。

    近所に住む息子の嫁ともちゃんと、たまにやってくる娘。2人ともおもちさんの事をとても大事にしてる。

    読みながら自分もこうやって老いていくのかな~と考える。
    勇さんが特養に入るまでの数年間はおもちさんがいろいろ面倒見てた。
    私にもそういう時がやってくるのかな~
    老後が気になる日々を読んでる間ずっと考えてしまっていた。

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著者プロフィール

1960 年生まれ。北海道出身。04 年「肝、焼ける」で第72 回小説現代新人賞、09 年「田村はまだか」で第30 回吉川英治文学新人賞、19 年「平場の月」で第35 回山本周五郎賞受賞。

「2021年 『ぼくは朝日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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