つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334962432

感想・レビュー・書評

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  • 格差の原因は、税制にあり。
    この切り口ほぼ一本で、深く深く掘り下げる。お陰で物凄く良くわかった。

    議論のスタートは、トランプ大統領の演説。自身が税金を支払っていないことを認め、それを追求する声に対し、自らが賢いからだと返した。アメリカ社会は、富裕層が税金を支払わないのは当然となっている。結果、大統領候補がそれを堂々と認め、対立候補も明確な解決策を打ち出せない。

    金持ちはあの手この手で、税金から逃れている。
    その印象は、ボンヤリあるが、具体的にはよくわからなかった。
    少しずつ明らかになる。勘違いをしていた。

    元々、アメリカは民主主義国ではおそらく世界一累進性の高い税制を導入していたのだという。1930年代には富裕層の最高限界税率が90%だった。1970年頃が50%前後、2017年は21%と下がってきた。所得税の累進性が高かった理由は複数ある。まずは第一次世界大戦による不当利得行為を防止したいという狙い。南北戦争中も、戦争を利用した不当利得行為により多くの人が大金を手にしていた。こうした成金が再び現れるのを防ぐため、対戦中は超過利潤税が課された。これは当初軍需産業のみを対象にしていた。さらに、アメリカで累進課税が台頭したのは、戦時状況の結果というだけではなく、1880年代から90年代にかけて始まった思想的、政治的変化が関係している。アメリカがヨーロッパのように不平等化するのを拒否する人々は増えつつあった。

    最も大きな理由。アメリカは所得税に対して100%近い最高限界税率を採用したのは、格差を縮小するためであって、税収を確保するためではなかった。つまり1百万ドル以上超えた所得が没収されてしまうなら、1百万以上の給与契約は結ばれなくなる。故に、給与の上限が設定される。

    では、なぜこれが崩れたのか、だ。

    数十年にわたり超高額所得に90%もの税率を課していたアメリカの政府が1980年代半ばになって、なぜ28%の方が望ましいと考えるようになったのか。この歴史的な方針転換には、レーガンを大統領選挙勝利に導いた政治的な変化が関係していると本著は言う。1986年の税制改革法。累進課税が大幅に後退するパターンとして、まずは租税回避が爆発的に増え、政府が富裕層への課税は無理だと諦める。そして税率を引き下げざるを得ない状態になるというプロセスだ。

    租税回避するから、税率を下げざるを得ない。
    しかし、それを取り締まる法律はそれなりに機能していた。レーガン以降、急速に租税が機能しなくなっていく。

    税率が低く、会社法の適用がゆるい場所に外国同族持ち株会社を設立する、国外にペーパーカンパニーを設立し、株式や債券の所有権をそこに移すような租税回避に対して、政府はすぐに法律を改正し、この行為を違法とした。また1937年からはアメリカ人が所有する外国同族持ち株会社が得た所得はそのままアメリカで課税されることになった。同様に1960年代には事前寄付が課税控除の対象になると言うことから、私立財団を運営する租税会費が増えた。これも1969年の税制改革法により自己取引行為が厳しい取り締まりの対象になったため、私立財団の数が1968年から1970年には80%も減少した。

    1981年のレーガンによる就任演説で、課税は窃盗だ、租税回避は、道徳的な行為だとも発言した。自由主義のアメリカには、確かに儲けたものが儲けを獲得できる社会の方がイメージに合う気もするまた、現在の国際協調は、この非民主的な租税競争の問題に取り組んでいないばかりか、それを正当化しているところに根本的な問題がある。租税回避や脱税をそそのかすのは、納税者ではなく、租税回避産業である。租税回避が横行する背景には、租税回避サービスの爆発的増加がある。また、現行法には抜け穴が無数にある。

    世界全体で抜け穴を塞がねば、幾らでも漏出してしまう所に難しさがある。そんなに稼いでどうするのだ、と思うし、大衆層が一定程度の生活水準を確保できなければ、大衆層が形成するはずの娯楽を、富裕層も享受できないと思うが。

  • 『#つくられた格差』

    ほぼ日書評 Day769

    前半は、米国が先陣を切って、その他の先進国も後を追って、富裕層(もしくは超富裕層)を超絶優遇する方向に税制を変えて来たという内容。

    ビートルズの『タックスマン』でも知られる通り当時の累進課税の最高税率は95%(5%しか手元に残らない、その後、最大97%という時期もあったそうだ)、米国も90%の時代があったが、今日の富裕層への課税方法は、法人化し配当所得の形を取るものへの課税か、株式売却益に課税するしかなく、せいぜい20%にしかならない。

    我が国でも状況は似たようなもので、細かなデータを示されて、なるほど…と思わないこともないが、さほど新鮮な内容があるわけではない。

    後半に入ると、富裕層への課税ベース拡大のための提言がなされるのだが、要は累進課税の高額税率を高めるか富裕税なる新税を創設するかいう話と、タックスヘイブンでの所得隠し(と言わないなら、課税回避によるアンフェアな内部留保の積み増し)への対応強化を…という内容。

    正直、言いっ放しの感あり。

    ひとつ、知らなかったのは、本書執筆時の米国の「消費税」というものが、物品には掛かるがサービスには非課税であること。間接税率は州によっても異なるが、これが富裕層優遇の一因になっているというのは、確かにそうだろう。
    ちなみに、チップへの課税はどうなっているのか? 飲食はじめ、請求額のおよそ20%が上乗せされる。それが労働所得として支払われる際に課税されるだけなのだろうか?

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  • この本は、タックスヘイブンの説明や、大企業、超富裕層がどうやって貯蓄をどんどん増加させていくのかを分かりやすく説明してくれている。
    そして、このタックスヘイブンも富裕層に有利な税制も、政治家に働きかける能力・知恵(いわゆるレントシーキング)であるとか、税制の抜け穴を提供するノウハウを持つ税理士や大手会計事務所の存在であるとかが機能した結果であるので、超富裕層の力をまざまざと見せつける感じでもある。
    この本は、後半はかなりのページを格差を縮小させるための処方箋・改善案が書かれているようだ。
    本書にある多国籍企業・超富裕層に有利な現税制を改善する対案に関してはおそらく、賛否両論だと思われる。
    いずれにせよこの対案を元に日本でも議論してみる価値はあると思うし、この対象読者には政策立案に関わる人や政治家などもぜひ読んでみてほしい。

  • 素晴らしい内容だった。

    行き過ぎた自由主義による格差の拡大は、民主主義・「本来の」グローバリズムに対する不信感を招き、大多数の国民を不幸にする。格差の是正には公平で納得性があり、抜け道のない(不正な蓄財へのインセンティブを下げる)税制そして「規制」が必要である、という著者の主張を裏付けるために、南北戦争からの歴史を振り返り、丹念にデータを収集そして検証し、データベースで丁寧にシミュレーションしている。

    竹中のようなレントシーカーや、有害な経済学者がお題目のように唱える「イノベーション」「規制緩和」「グローバル化」「ベーシックインカム」「トリクルダウン」というインチキなロジックがデータによる論証で各個撃破されていくくだりは、読んでいて痛快だ。

    最近、週刊東洋経済の記事で「目指すべき」一人当たりGDPが大きい金融国として「ルクセンブルク」「アイルランド」「スイス」「シンガポール」が紹介されていた。本書で挙げられていたグローバル企業御用達の脱税支援国家と完全に一致しており、記者(コンサルタント)のレベルが知れる。どうせならヴァージン諸島も追加しておけばよいものを。

    アメリカとフランスの労働者階層を比較した章では、アメリカの方が労働時間・福祉・寿命の指標で劣っており、その原因はグローバリストが主張する自己責任での生産性ではないことを証明してあり、そこから日本の現状を顧みると悲しくなった。

    著者が提唱する国民所得税(資産・労働を区別しない累進的な所得税)についても、非公開の会社(カーギルの名前が出てきたのには笑った)に対する合理的かつ現実的な課税方法を検討してあり、隙がない。

    税収の分配も教育や医療、社会資本整備への投資が巡り巡って国民全体の豊かさになることを訴えており、十分な説得力がある。

    その上、控えめな筆致で、自身のデータが完全でないことも踏まえて、現実解として「今できる」アクションプランを示している点も好感が持てた。

    「先端企業への課税はイノベーションを阻害する」というグローバリスト(「拝金主義者」)の我田引水な理屈への回答「グーグルマップは便利だが、地球の未来ほど重要ではない」は名言だと思った。

  • ピケティの先生である著書が書いた本で、経済についての知識がほとんどない私が読むとピケティが言っていることと何が違うのかよくわからなかったけれど、超富裕層になればなるほど課税額が少ない現状があるのだと知った。

  • アメリカの税制と所得に生じた格差の話。アメリカ(というより先進国)の所得格差は1980年代から拡大していったのですが、その転換点は書いてある。しかし、誰が・何を狙って・格差拡大の転換点を実施していったのかの深堀はほぼ無かったのが残念でした。
    しかし2021年?に世界で法人税の統一化の話の起点が、本書によって学びとして得られたのは読んで良かった部分ですね。

  • 内容としては一貫して税金の話。今の税制が如何に富裕層に向けられて作られているのかを数値(グラフ)で見せつけてくれます。
    資本主義が行き過ぎた現代において、資本家は特別強大な富を保有するに至り、その結果として政治においても発言力が強まり、彼らにとって有利な税制になっています。
    「所得」に対する全税金比率は富裕層の方がすでに低くなっています。低所得者は所得に対して高い税率のためさらに困窮し、富裕層は低い税率で痛くもかゆくもなく資産は守られ、殖産が加速していく実態に驚愕。
    タックスヘイブンが問題だと分かっていても抜本的な対策を取れないのも、富を集中させる資本家たちが強くなってしまったせい。

    個人的には、昨今の資本家に対する超累進的な課税、または富裕税の議論には一歩引いた立場でいたのですが、これだけの不都合な事実を見せられ、資本家に富が集まることで労働階級に富が降り注ぐというトリクルダウンは、日本においてもすでにアベノミクスで妄想・煙に巻く虚言でしかないことが実証されているので、社会保障を充実させ、一度リセットする方向で進められるのであれば、現代における唯一の解決策なのだと思うようになりました。
    ただ、そのためには、正しく税金が使われていることを監視すること、そういう政治を選択することが国民の義務として多くの人に理解してもらう必要がありますが。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/756516

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著者プロフィール

カリフォルニア大学バークレー校教授。世界不平等研究所共同ディレクター。

「2018年 『世界不平等レポート 2018』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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