- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336057884
作品紹介・あらすじ
アメリカ中西部の町に住む老人ウィアは静かに回想する、自分の半生を、過去の不思議な出来事を、
説明のつかない奇妙な事件を……時間と空間を錯綜して語られる、魅惑と謎に満ちた物語の数々。
邯鄲の夢と幽霊の館、千夜一夜物語とアイルランド神話、死者を縛める書と聖ブレンダンと猫と鼠の王、
腕のない女と石化する薬剤師――『ケルベロス第五の首』『デス博士の島その他の物語』の巨匠、
ウルフが魔術的技巧で綴る究極の幻想文学が約40年の時を経てついに邦訳。
感想・レビュー・書評
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2014/05/13 - 再読。そのままウィア老の思い出小説として読んでしまって我ながら不思議だった。ウルフなのでもっとパズルのピースがはまる感覚になるかと思っていたのに、哀惜の情に満ちた彼の思い出をそのまま味わいたい気持ちで。『大きな森の小さな家』シリーズのような人間関係と、羊男っぽいひとがたくさんと、各種フェアリーテール。心地よくてとろーんとなった。
細かく読んでいくと、食えないじじいなのはわかる。そのときそのときでいろいろな読み方ができる本。
2014/04/20 - 生きているのか死んでいるのかわからない老人の回想。生き死にが重要かどうかわからないし爺さんはいわゆる普通の人とも思われないし(一人称が「ぼく」であることの落ち着かなさ!)、薄墨色の靄の中でちらちらきらめくものを透かし見るような読書になった。しかしこれほどいろいろなエピソードがほっぽらかしになるのにそれがストレスにならずに一種の美を醸し出す本って、なんというか、地球人の宝という気がする。
印象的なのはヴィーおばさんの華やかさ、最後に登場する老農夫の悲しみ。ウルフの小説だからそれはもう工夫を凝らされた組み立てと流麗な文体とで圧倒されるのだけれど、基本的には幸せだった時代への追憶についての小説だったような気がする。ひんやりしたノスタルジー。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
次から次と謎が出現し読めば読むほど謎が深まる。しかしハッキリしないことに対する気持ち悪さはあまり感じず、むしろ心地良く感じるのは何故だろう。
解説に<記憶と物語に関する作品>とある。この記憶には、主人公の経験した出来事だけでは無く、主人公が読んできた本の内容や他の人から聞いた話なども含まれる。私だけかも知れないが、主人公の脳内の膨大な記憶の中から、次から次と意識に浮び上る時空が錯綜した記憶の断片を、主人公の脳の片隅で観察しているような読書感覚だった。意識に浮び上る記憶の断片には、混乱や書き換えが起きているのではと思える箇所もあるので油断することが出来ない。不穏さや不可解な謎に満ちた話なのに、この他人の頭の中を覗いて観察しているような読書感覚はとても心地良い(あくまでも私だけが感じる感覚かも知れませんが...)。
しかしまあ、解説の<Ⅱキャシオンズヴィル案内 -読み終えた読者のために>を読んで自分の読み落としが如何に多いか気付いた。この素晴らしい解説を手掛かりに少し期間を置いて再読したい。
小説の内容とは関係なく話は飛ぶが、読んでいるとふと思い出したのが、以前読んだガルシア=マルケスの『生きて、語り伝える』の冒頭にある以下の文章。『生きて、語り伝える』は小説では無いが、この文章にはどこか重なるものを感じる。
「人の生涯とは、人が何を生きたかよりも、何を記憶しているか、どのように記憶して語るかである。」 -
なんて豊穣な物語世界...。帯文に依ると『記憶と物語についての物語』なのだけど。薄らと不気味な濃い霧の中を少しずつ進む不安。水面にぽたり落とした黒いインクがゆっくり拡散していく怖さ。その圧倒的なリアルさに、読んでいて何度もくらくらしたが、それがウルフが魔術師と言われる所以なのかも。謎が謎を呼ぶミステリな要素も、入れ子というよりは終わりのない、マトリョーシカ的な面白さにもワクワクさせられる。複数の解釈をそのまま虚空に遊ばせておく、という解釈がまた、心憎い。素晴らしい読み応えだったものの、一読では『?』なところも多々あるのでこれは読み返さなくては。
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こりゃ奇妙奇天烈系ではないか。
大体において解説に数ページも必要な本というのは好きではないのだ。
と言いつつも全く分からんので解説を読んでいるうちに、ふーんなるほどとか思ったりもしたわけで。謎が謎を呼ぶというか、そもそも投げっぱなしなのも多いんだけど、まぁ振り返ってみると挿入されるそれぞれの逸話はそれなりに面白かったなぁと思いつつあるわけで。それらが繋がってるのかどうかは分からんというか理解できなかったけど、総じて実は楽しめたんかもしれんです。 -
「ウィア老人の回顧録」のように私には思えた。でも、感じ方は人それぞれだろう。そもそもウィア氏が年老いているという結論に辿り着くまでにも時間がかかった。そこへもってメインストーリーの途中で、なんの脈絡もなく突然、お気に入りのナイフの思い出が挿入されたり、読んだ本の内容が語られたり、他人視点での話があったり、時間と空間を飛び越えて物語が入り乱れる。訳が分からない。でも嫌いじゃない、むしろ好き。まさに終わることのない物語、読み始めるときはいつも初めての気持ちになれる、そんな作品。時間を置いてまた読みたい。
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メインストリームだと思って読んでいた。
あとがきではそうではない可能性もあるということだった。
メインストリーム、SF、ファンタジー、そういうくくりはどうでもよくて、
著者がいうようにただ“記憶と物語に関する作品”として受け入れればいいのでは。
ジーン・ウルフは大好きだけれど、
アメリカという国に興味がないから、歴史・私小説的でいまひとつだった。 -
第1章が難しい。2章目以降はスラスラ読める。
僕は小説と呼べるものを書いたのは小5の頃だった。不思議なことにそんなに深く考えることなく文章が湧いて出てきたのを覚えている。今は無理だが小説にはそういう不思議さがあるんだと思った。