剣闘士に薔薇を

  • 国書刊行会
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336058959

感想・レビュー・書評

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  • 思っていた以上に面白かった。
    十数冊は続くシリーズものだけれど、邦訳されたのはこの作品(シリーズ4番目)のみ。それがとても勿体ない。

    イタリア発、古代ローマ・ミステリ。
    第四代皇帝クラウディスの時代。
    〈あとがき〉によれば、およそ100年にわたって続いたローマ支配層の主導権争いが、ついにオクタウィアヌスの一人勝ちによって「ローマの平和」に辿り着いたあとの時代にあたるらしい。
    しかしながら「平和」な時代だとはいえ、やはり支配層では陰謀などが渦巻いており、故にこのようなミステリのネタになりそうな後ろ暗い奴らが巣くっていてもおかしくない。

    〈紀元45年の夏。死闘が繰りひろげられる円形闘技場で、満員の観衆が見守るなか、勝利を目の前にした無敵の剣闘士ケリドンが謎の死をとげた。
    貴族席でこれを目撃していた元老院議員のアウレリウスは、翌日、老皇帝クラウディスから死の真相をつきとめるように依頼される。
    勝敗には貴族から平民まで多くの人間が膨大な金を賭けており、誰の目にも不可解なこの死の謎を放置しておけば、皇帝に対する不満が生じかねないからだ。
    アウレリウスは秘書カストルを従え、捜査を開始する。〉

    事件の捜査(探偵)をするアウレリウスとは、粋で華麗なモテ男性の元老院議員。そしてギリシャ人秘書・カストルは、事件の深い闇を暴き出すには必要不可欠な存在である元詐欺師。
    彼らが目をつけるのは、何かしらワケありの剣闘士訓練所の親方や女剣闘士を含む剣闘士仲間。ケリドンの愛人であり暗い過去を背負う人気女優ニュッサ。彼らの背後に存在する凄腕の法廷演説家とその妹。
    誰をとっても怪しさしかない。

    アウレリウスは勢いのある刑事タイプというよりも、じっくり考察する探偵タイプ。その探偵を事件解決へと導くために奔走するのが秘書カストル。カストルは元詐欺師だけあって、不真面目な真面目さ(つまり、詐欺師として培った技なども駆使して……笑)で補佐する。
    このふたりの絆は、張りつけにされそうになったカストルを、アウレリウスが助けたことから始まったらしいのだが、そのへんの事情も合わせて、シリーズを最初から読んでみたいものだ。

    カストルの詐欺師としての腕前は衰えることはないので、必然アウレリウスにも被害は及ぶのだけど、そこは元老院議員、太っ腹。カストルはアウレリウスの器のでかさにも惚れたんだろうな。
    他にも、カストルと真逆の生真面目さでアウレリウスに仕える家産管理人パリス。アウレリウスの親友である騎士セルウィリウス夫妻など、周囲も個性豊かで賑やか。
    登場人物それぞれのキャラが立っているから、少々名前が覚えにくくても、スムーズにストーリーを追うことができる。
    さらには、あの暴君ネロが、ぽっちゃりとした小さな子どもの姿でちらりと登場する。ああ、やっぱりあのネロになるのね、と納得してしまう行動をとるのだから面白い。

    ケリドンの謎の死の捜査は、思わぬ方向へと広がりをみせる。またケリドンの命を奪った人物が明らかになったときは、思わずえっ!?
    そして、だからなのか……と改めて表紙を眺めてしんみり。
    最後の最後まで目が離せない展開だった。

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