山の人魚と虚ろの王

著者 :
  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (150ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336070999

作品紹介・あらすじ

風変わりな若い妻を迎えた男
 秋の新婚の旅は
〈夜の宮殿〉その他の街を経て、機械の山へ


舞踏と浮遊/夜の芝地を埋め尽くす不眠の観衆たち/幾つかの寝室と寝台の謎

圧倒的なるイメジャリーに満ちみちた驚異と蠱惑の〈旅〉のものがたり

付・巻末「短文集」

感想・レビュー・書評

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  • 山尾悠子最新刊『山の人魚と虚ろの王』刊行記念 購入者応募特典フェアのご案内|特集|国書刊行会
    https://www.kokusho.co.jp/special/2021/02/post-14.html

    山の人魚と虚ろの王|国書刊行会
    https://www.kokusho.co.jp/sp/isbn/9784336070999/

  • 気合の入っていた「ラピスラズリ」、ルールそれ自体の不透明性のため何が何やら見通しづらい「飛ぶ孔雀」と比べると、かなり読みやすい。
    なにせ5日間の新婚旅行が時系列に沿って描かれる、それだけで随分親切な書き方なのだ。
    が、そこで描きあげられるのはやはり茫漠と……それがいいのだが……まるで舞台劇のよう。
    駅舎ホテル、〈山の宮殿〉、〈山のお屋敷〉という3つの巨大建造物が描かれ、それぞれに人々がごった返しているが、読者=観客の前で書割や装置が早変わりして、登場人物もそんなに多くはいないような印象。
    対になっていたり、分身関係であったり。
    だいいち舞踏集団の伯母が最重要人物なのだし、この伯母、作品全体をも操作できる強大な力を持っている……死後も……というとアリ・アスターのおっそろしい映画が思い出されるが、結末含め必ずしも的外れな連想ではないような気もする。
    この伯母、なんでも「歪み真珠」のある短編にも登場しているんだとか、トマジっていう名前はどこかで聞いた気がするなとか、あからさまに「透明族に関するエスキス」と同じく破裂してひどい臭いというシーンもある。
    感想としてまとめることも難しいが、難解というほどではない、少し肩の力を抜いて読み直してみたい。

  • 寄宿舎をでたばかりの、まだ少女と呼べるほど若い新婦と、年の離れた「私」との新婚旅行。プラットホームの柱と柱のあいだにあるホテル、深夜の決闘、〈夜の宮殿〉、交霊会、〈山の人魚〉の葬儀など、シュルレアリスティックなイメージの連なりがデジャヴのような眩暈を引き起こす幻想旅行記。


    モノクロの銅版画を思わせる緻密な筆致で、油膜のようなあやしい煌めきをも感じる夜の世界を描きだす。これぞ山尾悠子、という一冊だが語り口は軽快で、旅先でさまざまな不思議に遭遇する「私」と一緒に戸惑いつつ、美学に貫かれた遊園地を彷徨い歩いているかのような読み心地。〈夜の宮殿〉や透明族なども登場し、過去作をコラージュした〈山尾バース〉的な風情があるので、読後すぐに『歪み真珠』を読むとめちゃくちゃ楽しい。(トマジってこの人の名前だったか〜忘れてたな〜)
    旅行鞄に座って婚姻の登録を待つ何組もの男女、交霊会で浮かびあがる妻とシャンデリアから垂れる腕など、本書で語られるイメージもエルンストのコラージュを連想するような奇想に満ちている。繰り返し登場する決闘、思わせぶりな伝令係、馬、巨大な目玉と衆人環視のイメージは、ハネムーンなのに新婦にはぐらかされ続けている「私」の性的なフラストレーションを表しているようでもあり、フロイト的な夢解きを誘発するのもシュルレアリスムへの目配せのように思える。でもそんな使い古された手をちっとも安っぽく見せないのが山尾先生の構成力だということなのだろう。
    最後にはまんまと子どもが生まれていて、妻と代理人の企みの大筋はだいたいわかるのだが、その上で旅程を思い返してみると「私」は途中でほとんど見殺しにされかかったみたいなのにずいぶん呑気だなぁ(笑)。この旅行記自体が、結局作中で筋が明かされることのない〈山の人魚と虚ろの王〉という演目そのものなのだとすれば、〈虚ろの王〉たる「私」もなにかしら神的な存在なのかもしれないけれど。
    巻末に収録された短文たちも世界を広げてくれて楽しい。いくらでもディテールを書き継いでシリーズ化できそうだし、こういう作品間の繋げ方は金井美恵子的であるようにも感じた。二人のあいだで育つ子の話も読みたいし、旅行家の母と劇団長の伯母の因縁話もほしいし、冬眠者の世界とも繋がりそうでわくわくする。なにより、ホテルの朝食ビュッフェでパンを大量に持ち帰ろうとして厨房と揉める、この無邪気さと謎が同居する可愛い〈妻〉にまた会いたい。

  • 若い妻と新婚旅行に出かけた男の数日間の物語…なのだけど、相変わらず山尾悠子の文体は独特で、悪い夢の中にいるかのよう。たぶん設定のすべてを明かされていないことで、常に読者は闇の中で蝋燭の灯りで照らし出される範囲の出来事しか教えてもらえない、その感じがいっそう全貌を把握できない悪夢感を助長しているのだろう。

    「山の人魚」と呼ばれた舞踏家の伯母、とうに亡くなっているその伯母の葬儀に新婚旅行中に呼び戻され、夫妻は「夜の宮殿」観光から伯母の館へ向かう。降霊会に参加してふわふわ浮かんでしまう妻、夜の宮殿で上演されている山の人魚舞踏団による「山の人魚と虚ろの王」、実は死んでいるかもしれない夫と、すでに死んでいるのに息子に会いに来る若い母。なにもかも不条理だけど幻想的で、つかのま別世界観光気分を味わえた。

  • うっすらと嫌な感じの新婚夫婦の、熱が出ているときに見る夢のようなハネムーン記。振り返ると場をコントロールしていたのはいつも女たちで、語り手の夫がしんねりと見ているばかりなのが嫌な感じだったのか。不満なら動けって。おまえの新婚旅行だぞ!

    過去の短編群からの強力なイメージがちらりちらりと挟み込まれるのが、ファンにとっては楽しかった。装丁がとてもきれい。本というものはこうでなくちゃいけない。

  • 山尾作品2作目、こちらの方が断然好きでした笑
    ルドン「夢の中で 幻視」が装丁され、それを「モチーフに「絵の中に行けるとしたら、どんな道筋か」を考えた」とのこと。
    言われてみれば、確かにこの絵の雰囲気が文字として落とされていて、それが心地よいかは別としても、作品と相成っている。読んでいる最中の感覚はカヴァンの『氷』が近かった、単純に場面が切り替わり・登場人物がよくわからないからですけど笑

    ちょこちょこ変、それが怖さでもあり、可愛さでもあり、面白さでもある。そんな不思議な感覚を得ました。この文が、ということはないのですが、全体の雰囲気、読んだものにしか伝わらない雰囲気。
    パンを溜め込む性癖の妻、可愛いんだよなあ笑

  • 初読

    げ‥‥幻想文学、わからん…!
    冒頭の
    >これはわれわれの驚くべき新婚旅行の話。ある種の舞踏と浮揚についての話。
    各種の料理、いくつかの問題ある寝台と寝室の件、大陽。最終的には私が私の妻と出会う話。
    というのは、読み終わった今、確かにそうだとは思うのだけど。

    山の人魚と呼ばれた伯母。行く先々でパンを溜め込む妻の安い模造毛皮の襟巻。
    男女別棟の駅舎ホテルの窓から見た決闘。旅牛の通過。
    夜の宮殿。抽選で当てる特別室の大理石の風呂場。団員の女達の美しい顔。
    シャンデリアを揺らす見えない猿。降霊会。
    真っ黒な機械の山の屋敷。寝台に座る死んだ母。
    火をつけ逃げる途中にも空中に漂い出す妻。浮遊した巨大な眼球。
    そして生まれた子供。

    おん。、、、
    何をどう楽しむのかよくわからいまま、しかし
    夜の宮殿の芝地で沢山の観光客が毛布を広げて夜明かしする。
    その光景がかつて見た朧げな記憶のように脳裏に浮かぶ、
    不思議な読書でした。
    気恥ずかしいほど美しい装丁、紙の手触りもフォントも

  • 三日間の新婚旅行のお話。
    たったの三日間なのに色んなコトが起こる。起こるけど、解決してるようなしてないような。そんなコトは問題じゃないような。
    静かな幻想的な描写と、雑多な人々がガヤガヤしてる情景が凄く惹かれる。

  • 私と妻との3日間の新婚旅行という程の物語。
    夜を舞台とすることが多く、一点の強い光とそれ以外の闇と、その中で輪郭だけは何かあるような。文字としては理解できても絵にしようとすると途端に手が止まるような物語。
    虚の王が正にと思う。

  • 2023/1/23購入
    2023/4/29読了

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著者プロフィール

山尾悠子(やまお・ゆうこ)
1955年、岡山県生まれ。75年に「仮面舞踏会」(『SFマガジン』早川書房)でデビュー。2018年『飛ぶ孔雀』で泉鏡花賞受賞・芸術選奨文部科学大臣・日本SF大賞を受賞。

「2021年 『須永朝彦小説選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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