ルーシー・ボストン: 館の魔法に魅せられた芸術家

制作 : 田中美保子  安藤聡 
  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336073822

作品紹介・あらすじ

長らく待望されていた作家・芸術家ルーシー・ボストンの評伝集、ついに完成!
ルーシー・M・ボストン(Lucy Maria Boston 1892-1990)は、「グリーン・ノウ物語」シリーズなどの児童文学や詩の創作、パッチワーク制作、庭園造り・古代種薔薇の育苗、絵画、音楽など、いくつもの芸術分野それぞれにおいて並外れた作品と足跡を残した、英国文化の神髄を体現する英国の作家・芸術家である。あらゆる芸術活動の源泉となったのは「ザ・マナー」と呼ばれるケンブリッジ州郊外のヘミングフォード・グレイ村にある築900年に及ぶ館だった。40代後半に購入して復元的に改装、97歳で没するまで、ボストンは暮らしと手仕事や多様な芸術活動とが分かち難く結びついた日々をそこで送り、数々の作品を生み出した。
その芸術活動には、日本の宮沢賢治、英国のウィリアム・モリス、米国のターシャ・テューダーにもひけをとらない豊かさがある。それにもかかわらず、それぞれの活動が幾重にも重なり響き合っているために、まとまった評伝を書くのは至難の技であり、これまでなかなか日の目を見ずにいた。本書は、日英の多様な執筆者の寄稿によってその困難を乗り越え、ボストンの芸術活動の全貌にさまざまな角度から光を当てることを可能にした、意欲的試みである。オールカラーの口絵12ページほか、秘蔵の図版や写真も多数掲載し、視覚的にも楽しめる読み物に仕上げた。

感想・レビュー・書評

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  • ルーシー・ボストン |国書刊行会
    https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336073822/

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    手元にないのが悔やまれるルーシー・M・ボストン自伝「意地っぱりのおばかさん」

  • 本書は、児童文学作家として知られるルーシー・ボストンの人としての豊かさを知ることができ、もしボストンの著作を知らなくても、文学だけでなく造園やパッチワークなどにも関心がある方には、イギリスの小さな村で、しかも40代後半から晩年の90代に至るまで様々な作品を生み出したエネルギッシュな芸術家がいたことを知ることができる興味深い一冊だと思う。

    グリーンノウシリーズを読んで、作者のルーシーボストンはきっとオールドノウのおばあさんのような人なんだろうなとずっと想像していた。
    本書の長沼先生や林望先生の文章で描かれていたボストンとの交流はとても温かくて、愛情深くトリーを館に受け入れてくれるおばあさんの様子を彷彿とさせたが、自伝「メモリー」や、近しい親戚や友人たちが語る思い出の中のボストンは、こだわりが強くて気難しいところがあり、オールドノウのおばあさんとまるっきり同じ印象の人ではなかった。厳格なプロテスタントの母の元で、美しい庭や音楽を楽しむことを禁じられていた「葛藤と反抗だらけ」の娘時代を過ごし、大人になっても離婚を経験したり戦争が起きたりと混沌とした時期を乗り越えなくてはならず、きっと朗らかでいるだけでは生きてこれなかったのだろうと思う。
    しかし、「葛藤と反抗」ができる情熱、自然や美しいものを愛する心、だんだんと近代化していく時代に生まれ育った彼女の生い立ち、全ての要素が様々な芸術活動に繋がっていったのだと感じた。
    執筆、パッチワーク(針仕事)や絵画、庭造り、どれも「趣味」とは括れないほどの才能を発揮し、「生き残る価値を持つ」ものになったのは、運命的に出会って購入、そして自ら改築までしたヘミングフォードグレイのマナーハウスという「居場所とそこにいる理由」を手に入れることができたからだと思う。どの活動にも、すべての要素が関わっていて、どれかが欠けてもボストンの芸術にはならなかったのだろうと、様々な角度からボストンを語る本書を読んで知ることができた。

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著者プロフィール

田中美保子
東京女子大学で翻訳学と現代イギリス児童文学を講じながら、児童文学とYA文学の翻訳紹介や研究を行なっている。1986年にザ・マナーを初訪問しボストンと対面、2013年に「ルーシー・ボストン・プロジェクト」を立ち上げて以降、冊子編集、論文執筆や翻訳等でボストンの作品や生涯の紹介に務めてきた。主著にAspects of the Translation and Reception of British Children’s Fantasy Literature in Postwar Japan(音羽書房鶴見書店)など。

「2022年 『ルーシー・ボストン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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