(日本人)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344021761

感想・レビュー・書評

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  • 2014年正月読書用として読了。
    著者の作品は経済や金融を題材としたものが多いが、3.11以降に多くの日本人論が世界中で紹介・議論されてきた中で、これまでにない新しい視点で日本人論を著したということで購入。

    本作は、従来語られ、述べられてきた日本人論から距離を置き(カッコに入れ)、全く新しい切り口で持論を展開する。
    冒頭で「世界価値観調査」によるアンケート結果を基に、日本人は「戦争が起こってもわが国のために戦わず、日本人として誇りを感じず、権威や権力を嫌う」人種だという客観的データを出発点に、政治哲学的枠組みをベースにしながら、経済学的視点、経営学的視点、日本史的視点、世界史的視点、進化心理学的視点、文化人類学的視点、比較文化学的視点等の複数の学問的切り口により、「日本人は欧米人と比較して世俗的で個性的で個人主義的」であると結論づける。
    これは「イングルハートの価値マップ」により、多くの諸外国と共に2次元論的に可視化されていることが非常に興味深い。

    特に、日本人の精神的支柱とされ、世界中の国々に読まれたベストセラーである「武士道」に関しては、敬虔なクリスチャンであった新渡戸稲造が、日本固有の「武士」をキャラクターにしながら欧米でも理解されやすい「騎士道」と対比させることで、日本にもキリスト教を受け入れるだけの文化があることを証明するために書かれたものであるとする。
    また、「武士道」と並び日本人論の原典のひとつで世界中で読まれた「菊と刀」に関しても、太平洋戦争末期の米軍が戦後の日本統治のために、著者であるルース・ベネディクトに日本人の特殊性"のみ"を研究させた結果を編纂したものであるとも述べている。
    すなわち、これらの古典的日本人論は当時の正しい日本人像を述べたものではなく、欧米人との差異を強調し、オリエンタリズムで加工・創作された"輸入品"であると解いている点は、これまでの日本人論に対する真っ向からのアンチテーゼであり斬新である。

    多くのレビューでも書かれているように、本作は様々な学問的切り口から日本人論について展開されているため、ざっと読んだだけでは内容が散文的に感じ取られてしまうかもしれない。
    しかしながら、章立てが「LOCAL」→「GLOBAL」→「UTOPIA」と進んでいるように、まずはこれまで日本人が感じてきた(刷り込まれてきた)日本人論ではなく、客観的視点で日本人を捉えた上で、グローバリズムやグローバルスタンダードの本質に触れ、理想とする社会はどのようなものか、そしてそこに向かって日本人はどのように進んでいくべきかを論じていることを踏まえれば、さほど苦も無く読み進めていけるであろう。
    また、本旨やポイントを見失ってしまわないようにという配慮からか、自己啓発本によくあるように論点をまとめてあるページがいくつか割かれているところは、著者の考えの理解を助けるとともに、読み返したときにポイントを素早く把握できる点でも好感が持てる。

    前述のように、本作は日本人論という比較文化的テーマに対して種々の学問領域のエッセンスを用いての解説となっているため、各学問や日本人論の専門家にとっては異論がある部分もあるかと思われる。
    しかしながら、とかくあるテーマに対し単一的アプローチで深掘りして解説・解決していく類のものが氾濫している現在、著者のように単一解のない複雑な問題に関し、学際的アプローチにより専門家でない一般人に対しても解決策や方向性を分かりやすく示していく姿勢は貴重であり、このような方法論で問題解決に臨む人材はこれからの社会では更に必要とされるであろう。
    特に、巷間言われるような「止めることのできない社会のグローバル化」でいかに生きていくかを考える上でも、本書は一読に値すると考える。

  • この本のいたるところで今までの固定概念を考え直させる著書でした。
    内容に触れてしまうので、少ししか書けませんが、これだけでも考えさせられます。

    従来の日本人論で「日本人の特徴」とされていたことの大半は、ヒトの本性か農耕社会の行動文法(エートス)で、世界の至るところで見られるもの

    日本人性の謎を解くカギは、「空気=世間」ではなく、「水=世俗」にある

    日本人はアメリカ人よりも個人主義的(自分勝手)

    日本人は世界でも突出して世俗的な国民である
    「空気」の支配は個人主義の結果だ(拘束が強くなければ共同体を維持できない)

    <この本から得られた気づきとアクション>
    ・この本をまたいつか読み返すときがきたら、日本はどうなっているだろうか。

    <目次>
    ほほえみの国
    1 LOCAL(武士道とエヴァンゲリオン
    「日本人」というオリエンタリズム
    「愛の不毛」を進化論で説明する ほか)
    2 GLOBAL(グローバリズムはユートピア思想である
    紀元前のグローバリズム
    「正義」をめぐる哲学 ほか)
    3 UTOPIA(「大いなる停滞」の時代
    ハシズムとネオリベ
    電脳空間の評判経済 ほか)

  • マットリドレーの「繁栄」以来、面白い本に出会いました。

    この本は、日本人論というより、日本人をベースにしながら、人間の本性や人間社会の原理を、時系列な切り口も踏まえながら論じた文明論的な本です。

    もともと、機会平等自由競争を信望する自分としては、リバタリアン的考え方親近感を感じているので、ピュアなリバタリアン的方向性と、日本人の特性を絡めて論じられた本書は、自分にとって説得力のある、かつ興味深い内容が多くて、とても参考になりました。

    ◯権力ゲームがゼロサムなのに対し、市場ゲームは、プラスサム
    ⇨まさにその通りだ。分業と交換が進めば進むほど、人間社会は、文明的に繁栄する。克服困難と言われた戦後の南北問題も、市場がグローバル化することによって、今後30年間で大きく前進しそうだ。

    そして、これだけ世界の相互依存関係が進むと戦争することによるリスクも大きくなる。グローバル市場が浸透すればするほど、戦争もおきにくくなる。

    つまり、平和を望むのならば、グローバル化による世界の自由競争を徹底させることだ。

    ◯市場原理主義の逆説は、先進国の豊かさを奪うことで、世界全体をより豊かにして行く。

    ◯長い進化の過程で、因果論を神経系に組み込んだ生物が、このプログラムを持たない生物よりも子孫を多く残すのに有利だったからだと考えられている。

    ⇨つまり、人間含めた生物は、因果論で物事を考えるようにできており、そこから外れると不安になるということだ。この原理から、決して因果論では成立していない世界を、因果論で説明しようとするために、宗教や科学のようなものが発展したということだ。

  • 大好きな、橘玲の本。★★★★★★★★★★!
    コレは、ホンマに良書。読み終えたくなくなる程に吸い込まれる内容。

    日本人やからとか、ではなく、「何で現在の日本や日本人マインドが培われ、今もなお生き続けているのか」を紐解いてくれる。

    政治的そして経済的、思想的に多方面からの視点で切り込んでる内容。

    僕のような、あほぅな20代のぺーぺーはホンマ必読。

  • 2020年コロナ禍のいま読んでまさに、と思う文章だらけで面白かった
    買って良かった
    経済の話は全くわかりませんでした!
    やっぱりオリエンタリズムは買わなくてはと思ったので買いまーす

  • 従来の日本人論で言われて来た数々は、日本人だけの特徴ではない。
    農耕民族に共通の要素である。
    ・全会一致の原則
    ・村八分

    本来の日本人論は、他の農耕民族に比べ、違う箇所にこそある。
    ・圧倒的に高い世俗性、権力・権威を忌避する意識
    ・血縁、地縁を軽視
    ・偶々居合わせたメンバーで集団を形成する能力が高い
    ・空気を読む力とは、読まなければ集団形成が不可能であるが故に発達した

    ポストモダン社会について
    ・価値観の決定者の推移
    ムラの価値観→軍隊、会社、学校、国家の価値観→自分自信の価値観

  • 「菊と刀」以来、日本では日本人論が百花繚乱であったが、個人的にはこの日本人論が一番「正確」なような気がするねぇ。ちょっと橋下氏への評価は首を傾げるところはあるけど、別にヨイショしているわけではないからいいか・・・・

  • 特にアメリカにおけるオリエンタル研究の中でレポートされた「武士道」や「菊と刀」が、現在の日本人による日本人観の基礎となっていることの妥当性の検討から幕を開ける橘劇場。

    特定の目的のもとに描かれた上記の日本人観が、日本人の特異性をテーマとしているのに対し、日本と世界との共通性を構造的に明らかにすべく、タイなどのアジア諸国文化との共通性、明治期における西欧研究史などが展開される。

    本書を読んで、サンデル教授の正義論や、マスコミ主体のケシカラニズム丸出し報道の需要に、不思議と納得がいくようになった。

  • 橘玲の「日本人論」

    日本人は空気を読んで周囲に合わせる人種。
    という従来の画一的な見方が覆るのが衝撃的だった。

    本書によると、

    日本独特と思われていた「空気を読む」というのは実はどの人種でもそれほど変わらない。
    実は各国の社会構造に応じて人々は有利な選択(空気を読んだほうが得か敢えて無視したほうが得か)
    を選んでいるだけで、日本は出る杭は打たれるような社会構造ゆえ、空気を読む人が多いのだという。

    むしろ日本人は究極の個人主義をもっており、
        ・自分らしく生きること(家族や友人の期待に反してでも)  
        ・損得勘定  
    を本心では最も大事にしており、
    国のためとか、家族のためとか、また社会のためとかなんてことは実はそれほど大事ではない。

    日本人は「自分独りでもこの世を楽しく生きること」こそが最も大事に思っているのだという。
             
     この論の展開は面白い。
     実際に日本人である自分には遠からずとして納得して読めるのだが、
     実はこの内容は日本以外の感覚とは乖離があり、
    これらは日本に特異な思考であるということが実証実験をもって証明されている。
     
     例えば、世界的にみると日本のような、
    血縁を無視したワンルームマンションに独りで住む形態が一般化していることは、なかなかもって珍しいらしい。
    (特にアジアでは少なく欧米でもルームシェアが一般的)
     
     本はそのあとグローバル化の話や、
     これからのイデオロギーの潮流(ハシズムとネオリベ)の話なんかに移っていくのだけど、
    この辺りお話もなかなか面白く、
    橋下さんが論戦でなぜ最強なのか。よくわかる。

    最後には著者なりのこれからの生き方の提言があるのだが、
    それは個人主義の行き着く先として、
    それぞれが完全自由なユートピアを目指せということのよう。

    話だけ聞くとふんふん素晴らしい世界だなと感じるのだが、     
    ただその代表例がTwitterとFacebook(SNS)なのは、
    ちょっと苦しいかな。
    流行じゃなくなったときなんか後で読み返すとあちゃーとなりそう。。。

    さておき全体的にはいつものとおり、知的好奇心を刺激してくれる素晴らしい本です。
    直接的になにかに役立つ本ではないですがオススメです。
    (まぁファンですし)

  • 日本人の本質を捉え直した良書。
    意外な角度からつっこんでますが、確かに的を得ている。
    日本人に期待も失望も感じました。
    でも、未来を切り開くためには現状把握が必須。
    ぜひ一読を!

著者プロフィール

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)、『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(以上ダイヤモンド社)『「言ってはいけない? --残酷すぎる真実』(新潮新書)などがある。メルマガ『世の中の仕組みと人生のデザイン』配信など精力的に活動の場を広げている。

「2023年 『シンプルで合理的な人生設計』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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