町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 284
感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344030091

作品紹介・あらすじ

高齢化・過疎化・財政難に直面する岩手県紫波町は、今や県内第2位の地価上昇率を記録し、駅前エリアには年間90万人以上が訪れる。従来の行政主導でも、大手企業に頼る開発でもない、行政と民間が連携して進めるまちづくりとはどのように実現したのか。その10年間の軌跡を追う。

感想・レビュー・書評

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  • 岩手県盛岡市から電車で20分ほどのベッドタウン、紫波町。農業中心で人口3万4千人ほどの小さな町には、駅前に何年も塩漬けになっている町有地があった。
    本書はその土地を整備し、まちの賑わいを生み出した公民連携プロジェクト「オガールプロジェクト」について紹介する。

    オガールプロジェクトは、図書館や市民交流スペースなどの公共施設と民間テナントが入った官民複合施設「オガールプラザ」、国際試合ができるレベルの設備を整えたバレーボール専用コートやビジネスホテルなどの入ったオガールベース、その間に広がるオガール広場を中心とした整備プロジェクトである。プロジェクトは現在進行形で、他にも町庁舎、フットボールコート、循環型まちづくりを担うエネルギーステーションが整備され、中心施設の外縁には分譲宅地も広がる。
    以前に読んだ『まちづくり幻想』という本で「オガールプロジェクト」がまちづくりの成功例として紹介されていて、どんな内容なのか興味を持っていたところ、本書が出ていることを知り手に取った。

    オガールプロジェクトは、公的機関と民間(民間事業者、NPO、市民など)が公的な施策を実施するために連携するPPP(Public Private Partnership)という手法を取り入れている。これは、民間事業者が事業の計画段階から参画するなど民間の関与が深い手法で、役所が決めた制度に運営ノウハウだけを民間が提供するPFIとは異なり、行政代理人となる「エージェント」の裁量と責任が大きくなる。
    オガールプロジェクトではこのエージェントの中心人物として、都市再生機構で働いた後、家業を継ぐために地元紫波町に戻ってきた岡崎という男性を抜擢した。彼は公民連携の重要性を痛感し、その手法を学ぶために大学院に入学、そこで出会った恩師やそのつながりからオガールプロジェクトに必要な助言を得つつ事業を進めていった。

    プロジェクトの資金は町の負担だけでなく、民間事業者への土地の賃料、銀行からの借り入れ、土地の開発による固定資産税で支払い、敷地内に建てる図書館の施設整備費や運営費に充てた。銀行からの融資を得るために、岡崎は「1000本ノック」と言われるほどの事業説明と計画見直しを繰り返したという。
    プロジェクトのデザインやランドスケープなど、高度に専門的な判断をする必要がある場合には専門家を選定、招集し、ワークショップを繰り返して市民の声を聞きながらプロジェクトの内容を具体化した。
    役所は、町長の英断で公民連携の研究のため職員を大学院に入学させ、年に100回を超える市民への説明、「公民連携室」の立ち上げとエージェントや庁内の各部署との調整を行うなどの役割を担った。

    『まちづくり幻想』の当時のレビューを振り返ると、著者の言いたいこととして「行政の補助金ではなく、地元にお金が落ちる自立的な構造を作ること、安易に外部の人間に頼らず、地元の人間が自ら企画・実行できるよう人材育成に時間とお金を注ぐこと、地域の中で同調圧力に巻き込まれず、責任の所在をはっきりさせ、覚悟をもって取り組むこと。」と書いている。オガールプロジェクトと照らし合わせると、まさにこの内容と符合する。
    オガールプロジェクトは良い要素が上手いタイミングでぴたりと合った幸運な例なのかもしれないが、逆に言うと、こういった要素がかみ合えばどんな地域でも未来はある、と言い換えることができるのではないだろうか。

    本書の著者は『つながる図書館』を書いた猪谷千香さん。まちづくりの専門家による解説本ではなく、取材をもとに一般にも興味が持てるようまとめられたものなので非常に読みやすい。岡崎氏の1000本ノックのくだりなどは、池井戸潤の小説を読んでいるようで、はらはらさせられる。
    楽しみながらまちづくりの実態を知ることができるので、まちづくりに興味がない人でもぜひ手に取ってみてほしい。

  • ものごとが動くときには、それにふさわしい人が集まってくるものなのかな。
    紫波町もバイオマスエネルギーの町、知らなかった。
    もう一度見学に行きたいな。

    ここに図書館が必要な理由は、
    「町公共用地の有効活用の中で、賑わいスペースを築き上げることにより、新たなまちづくりの展開に向け新風をもたらすような場が望まれている」こと、
    「町が進めてきた諸政策や上位の計画、国や県の動向、常に変化している公共図書館の在り方などを踏まえ、時代に即した図書館像が求められて」いること、として、「図書館基本構想・基本計画」にはオガールプロジェクトとの関係が示されている。

    そして運営柱は3つ。
    ・0歳児から高校生までの子どもたちの読書支援
    ・地域資料の充実
    ・ビジネス支援、紫波町では「農業支援」

  • 【町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト】
    猪谷千香著、幻冬舎、2016年

    学校のことを考えていけば、地域のことに行き当たる。

    学校の顧客は、生徒であり、保護者であり、地域の方々だからだ。
    (その意味では、このフェイスブックを読んでいる全ての人は新陽高校やその他の高校の顧客でもある)

    その意味では、学校をどうするか、ということと、地域をどうするか、ということは同義とも捉えられる気がするし、学校を卒業した生徒はすぐに地域の人となる意味では、学校は地域人材の供給拠点ともいえる。

    前置きが長々しくなった。
    元々は数年前に、当地を訪れた時に買っていたのだが、なかなか読む機会が無かったのだが、数日前に木下さんの本を読んで感銘を受け、その木下さんが関わったことでも有名な本プロジェクトについて詳しく知りたくて本棚から取り出した。

    びっくりした。こんなことが東北の小さな町で震災の前から行われていたなんて、、、

    東日本大震災で津波の被害にあった地域の復興を手伝っている時に、岩手県の県庁所在地である盛岡市から車で30分ほど離れたところにある人口3.5万人の紫波(しわ)町の名前を何度も聞く機会があった。

    紫波町を全国区で有名にしたのが、この「オガールプロジェクト」だ。
    盛岡を訪ねるついでに駆け足で訪れたことがあったが、その場所の出来上がるまでにこれだけの汗と努力があったことを改めて知った。

    結局は、人の覚悟からしか始まらない。
    しかし、覚悟を決めた紫波の人たちの、プロの巻き込み方がすごい。

    ・PPP(Public Private Partnership: 公民連携)
    ・特別目的会社(SPC)によるファイナンス(資金調達)
    ・ライフスタイルのためのデザインガイドライン
    ・エネルギー循環
    ・農業支援サービスのある図書館

    町づくりらしい硬派な単語が続くが、どれもわかりやすく説明されている。
    オガールプロジェクトが本格的に始まったのは2009年だという。たった10年前だ。

    すごいな、そして何も知らなかったな。
    こういう世の中があるってことを知るだけでもワクワクした。

    坂の上の坂を見た。

    #優読書

  • オガールプロジェクトの全容を知るために読んでみたが、携わった人に敬意しか湧かない。壮大とも思えるプロジェクトも一つ一つの積み重ねの結果。「オガールプロジェクト」という幹がしっかりしているからその枝葉の施策が一体的になってるし、本来のまちづくりってそういう思想が重要なんだなと改めて認識させられた。

    あとがきにあった、「地方創生、地域活性化、まちづくり、が言葉遊びに見える」というのもその通り。コンセプトだけ立派でもダメで、プロセスと結果が重要。

    何が欲しいと町の人に聞くと「マクドナルド」や「ディズニー」と返ってくるので、どういうことをしたいか、ということから理念を共有していくのは大事だなと思った。

  • オガールプロジェクトの斬新さは、「稼ぐインフラ」という異名をとるほどのファイナンスの構造にある。
    (引用)町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト、著者:猪谷千香、発行所:株式会社幻冬舎、2016年、106

    皆さんが町長なら、10年間も塩漬けにされ、一銭も生み出していない町有地をどのように活用していくだろうか。岩手県盛岡駅から電車に揺られること20分ほどで紫波中央駅に着く。まだ、自動改札機が導入されていない駅をくぐり抜け、目の前の信号を渡ると、眼前に「オガール」が広がる。

    「オガール」とは、紫波(しわ)の言葉で「成長する」を意味する「おがる」と、紫波中央駅前(紫波の未来を創造する出発駅とする決意)とフランス語で駅を意味する「Gare」(ガール)を合わせた造語だ。私がオガールを知ったのは、10年ほど前になるだろうか。既にオガールの存在は、全国のまちづくり関係者に知られる存在であった。なぜ、オガールは、まちづくりの成功事例として注目されるのだろうか。当時、私は、オガールプロジェクトのキーパーソン、岡崎氏の講演を拝聴したことがある。講演の内容を聞いて、衝撃を受けたことは、「行政からの補助金に頼らない施設運営」であった。その衝撃から10年ほど経ったが、未だ、オガールは全国から注目されている。今一度、何故オガールが注目されているのか。改めて、猪谷氏による「町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト(幻冬舎)」を拝読させていただくことにした。

    本書を読んで、まず気づかされるのは、「公民連携」である。行政は、公平性・公正性の立場から民間との連携に後ろ向きであった経緯がある。しかし、現在はPPP、つまり行政(Public)が行う各種行政サービスを、行政と民間( Private )が連携( Partnership )し、民間の持つ多種多様なノウハウ・技術を活用することにより、行政サービスの向上、財政資金の効率的使用や行政の業務効率化等を図ろうとする考え方や概念が主流となっている。

    その公民連携の先駆けとして、当時の藤原町長をはじめ、オガールのキーパーソンである岡崎氏は、他の自治体に先んじて、いち早く行政と民間との連携に目をつけた。そして、紫波町の職員とともに、岡崎氏は東洋大学大学院経済学研究科に通うことになった。その東洋大学で、岡崎氏は、「恩師」と呼ぶ人物と出会うことになる。客員教授の清水義次(よしつぐ)氏である。そして、紫波町にオガールが誕生するに至ることになる。

    以前、私は、清水氏にもお会いしたことがある。お会いしたのは、東京の千代田区にある3331 Arts Chiyoda。ホームページによると、この施設は、旧千代田区立練成中学校を改修して誕生したアートセンターである。2010年の開館以来、現代アートに限らず、建築やデザイン、身体表現から地域の歴史・文化まで、多彩な表現を発信する場として、展覧会やトークイベント、ワークショップなどを定期的に開催している。また、地域住民や近隣の子どもたちとのアートプロジェクトの実践や地域行事への参加なども当館の重要な活動のひとつとなっている。実際、3331 Arts Chiyodaを訪れてみると、中学校の手洗い場などを残しつつ、懐かしさと新しさが同居するような、新たな空間が誕生していた。その清水氏から、私は「リノベーション」という言葉を教わった。「リノベーション」とは、既存の建物に対して新たな機能や価値を付け加える改装工事を意味し、単なる「改築」とは異なる。清水氏は、リノベーションにこだわったまちづくりを進め、当時から行政の補助金に頼らない運営をしてきた。

    当時、紫波町におけるオガールプロジェクトは、議会を始め、公民連携手法で町の広大な空き地を活用していくという理解が得られなかったという。しかし、潮目が変わったのは岩手県フットボールセンターの誘致ではなかろうか。当初、岩手県サッカー協会からは、盛岡市、遠野市などが手を挙げており、紫波町は5番目であった。しかし、岡崎氏と当時の藤原氏の戦略により、最終的に紫波町に誘致することができた。その誘致は、人を呼び込むことによって賑わいをもたらし、「エリア価値」を高めることにつながる。そう、清水氏や岡崎氏らは、「エリア価値を高める」ことを最重要視する。

    冒頭、オガールが「稼ぐインフラ」と異名をとると紹介した。「稼ぐインフラ」とは、これまでの補助金ありきだった公共事業をファイナンス主導に切り替え、公共インフラに「稼ぐ機能」を付加して、公共サービスの充実を図るという新しい考え方だ。

    本書では、ファイナンスのスキームについても一部紹介されているが、私が感心したのは、絶対家賃の考え方であった。絶対家賃とは、どんなに立派な建物を造っても、借り手側はこれだけしか払わないという基準だ。紫波町の絶対家賃は、市場調査により、共益費込みで坪単価6,000円であった。そこで岡崎氏らは、坪単価6,000円の家賃で10年以内に配当金を出せる投資額を見つけること。そして6,000円以内の家賃ではじき出される建設単価が税込で1坪38万円。つまり、38万円以内で建物を造ることを目指したという。よく公共の事例では、そこまで計算できていないケースが多々見受けられる。例えば、オガール紫波の隣の県、青森市の青森駅東口前に立地する複合施設「アウガ」の経営破綻は、私達の記憶に新しいところだ。公民連携とは、単なる民間資金を活用することではない。私は、民間マインドを取り入れ、民間スキームや資金を活用し、新たな公共的サービス価値を生み出すものだと再認識させられた。

    以前、オガール紫波にも携わった日本の社会起業家、まちづくり専門家の木下斎氏に言われたことがある。その言葉とは、「補助金は麻薬」であるということだ。つまり、行政からの補助金頼みでは、まち全体が“甘え”に走り、上手くいかない。財政難で多くの自治体が苦しむ中、あまりにも先駆的な取り組みであったオガールプロジェクトは、まちづくりをする上で、他の自治体にも認知されはじめ、ようやく一つのスタンダードに成り得た。

  • オガールプロジェクトを題材として、プロジェクトの過程になにがあったのかがわかる一冊。

  • 図書館ではなく、まちづくりのおはなし

  • 地方創生プロジェクトの中でも常に名前があがるオガール紫波。
    どうやってこのプロジェクトが生まれ、成功したのかがこの一冊を読めば非常によくわかります。
    元URの方を始めとして豊富な経験者が集まったことはもちろん、何よりもこのプロジェクトに熱意を持った方々がこれだけ集まったことが成功の一因なのだと感じました。
    本書にも記載がありますが、地方行政が手掛けるプロジェクトは豊富な(最初だけの)資金源から大々的に作られるも、コスト的にも集客的にも持続性のないものが作られることが非常に多いですが、オガール紫波は数十年先も続けられるかという観点から考えられていることが素晴らしいです(これは民間の商業施設や文化施設にも言えることですが)。
    これだけの熱意を持てる故郷があることは幸せなことですよね。

  • 2日で読み終わった名書。
    持続可能性な社会(SDGs)、カーボンニュートラルなど2〜3年前から耳にする事はあっても良く分からないと言うのが実態でした。

    岩手県紫波町を舞台に民間主導で発足したオガールプロジェクト。民間主導の街づくりに対し行政は?そこに住む住人は?何を求めているかのリサーチ力、色んな方々をプロジェクトに賛同して貰う為の熱意。住んでる町に対して誇りを持てるようにモデル化されている所に心打たれた。コロナ明けたら実際に紫波町に訪れて見たい。

  • ボリュームたっぷりだった。
    誰がどんな熱を持って革新的な行動をしたか、苦労したかが少しわかった。
    こんなすごいことしてますよーって着飾る感じがなく、情報も豊富で良かった。
    ゆえに読むのが大変でした。

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著者プロフィール

猪谷 千香(いがや・ちか):東京生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。新聞記者、ニコニコ動画のニュース編集者を経て、2013年にはハフポスト日本版の創設に関わり、国内唯一のレポーターとして活動。2017年からは弁護士ドットコムニュース記者。『つながる図書館』(ちくま新書)、『その情報はどこから?』(ちくまプリマー新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)、共著に『ナウシカの飛行具、作ってみた』(幻冬舎)がある。

「2023年 『小さなまちの奇跡の図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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