- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344412941
作品紹介・あらすじ
廓遊びを知り尽くしたお大尽を相手に一歩も引かず、本気にさせた若き花魁葛城。十年に一度、五丁町一を謳われ全盛を誇ったそのとき、葛城の姿が忽然と消えた。一体何が起こったのか?失踪事件の謎を追いながら、吉原そのものを鮮やかに描き出した時代ミステリーの傑作。選考委員絶賛の第一三七回直木賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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周到なプロットで、まずは予備知識を持たない読者に吉原の案内をしながら、花魁葛城に起こった事件へと核心に向かいます。廓の関係者や客からの証言で、葛城に何が起こったのか、次第に真相が明らかになるという構成が巧み。では、誰が聞き回っているのか、最後まで興味が尽きない時代劇ミステリーとなっています。読む醍醐味が味わえる知的エンターテインメントでした。
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吉原一の花魁との呼び声高かった葛城。そんな彼女が忽然と姿を消す。その失踪の理由を明らかにするため、彼女と関わりのあった人物達に話を聞きながら少しずつ明らかになっていく事実。
見世番、番頭、遣手、床廻し、女衒…。どんな人々がどんな仕事に携わっているのか、決して説明口調にならず、自然に吉原の世界について学ばせてくれるのがありがたい。彼らへの聞取りにより、輪郭がくっきりしてくる葛城の人物像。そして、その語りでさりげなくわかってくる「吉原」で生きるもの達の過去と現在。
読み進めるほどに、気になるのは話を聞き取っている人物の正体。何が本当で何が嘘か…気持ちよく翻弄されながらページを捲る。ミステリーとしても見事な構成力で、細かいところまで張り巡らされた伏線が徐々に回収されていく、その緩急の付け方が素晴らしいのだ!あぁ、そういうことかと腑に落ちると共に、何とも言えない切なさに胸が疼く。繊細さと大胆さが背中合わせの、吉原小説の傑作。 -
面白かった!
魑魅魍魎が跋扈する浮世の象徴吉原で、最高峰の地位にある花魁が突然姿を消した。
器量よし、心映えよし、品格才覚を持ち合わせた稀有の花魁を知る周辺の人々が各章でそれぞれ彼女について語る。
読み進むうちに、その花魁 葛城の人となりが浮き上がり、さらに異なる人との関りによって彼女の多面性も露わとなる。
当代第一と言われた花魁に一体何が起こったのか。
当時の吉原事情、むしろ浮世事情への言及も多く、読み手は引き込まれていく。
「吉原」「花魁」等の言葉でその界隈のイメージを持ち、踏み込みもせず分かったつもりになっていたが、奥が深い。もっと知りたくなる。
世は浮世であり憂世。身分差、貧困、不運はつきもの。
そこにお金、権力、支配等への人間から切っても切り離せない欲が絡み合う。
本作は時代物でありながら、人間の本質は今と変わらないのでは?と読む。
花魁がお国言葉が出ないようにと教育されて話していたのが「ありんす」等の吉原言葉だったとは知らなかった。
吉原を訪れる男たちも、立場やパーソナリティによって態度はまちまちで、慣れない田舎武士に限って自分を大きく見せようと、高圧的に出ることがあるなどと今に通じる。
吉原に関わる多くの人びとそれぞれの視界からみた世の中がとても興味深い。
作中、日常生活において私自身が滅多に使わない日本語がいくつもあり、語彙の少なさは貧しい生活だなと反省。
「才覚」、「気概」など読めても今の生活からは無縁だった。言葉の引き出しは生活を豊かにする。
希代の花魁を表現するための今井さんの豊かな日本語に触れられ愉しむことができた1冊でした。 -
松井今朝子による、第137回直木賞受賞作。
十年に一度、五丁目一と謳われた、吉原・舞鶴屋の花魁、葛城。
全盛を誇り、また身請けも間近だった葛城が、ある日、忽然と姿を消した。
いったい何が起きたのか。
物語は葛城を取り巻く幾人もの証言からなる。
引手茶屋の内儀、舞鶴屋の見世番、番頭、番頭新造、葛城と枕を交わした男たち、遣手、舞鶴屋の主人、床廻し、幇間、女芸者、船頭、女衒、葛城を身請けするはずだった男、葛城の上得意。
彼らは葛城の思い出とともに、自らがなぜ廓にいて、どのような役割を果たしているのかも語る。耳慣れぬ仕事もあるが、無理なくその内実がわかる。同時に、異なる視点から映し出された廓が立体的に立ち上がるという巧みな構成である。
読み手は廓というある種の異世界の奥へと自然に誘われる。もちろん、葛城の謎の奥底へも。
葛城は不思議な花魁である。
廓に来たのは13、4のころで、花魁になるために仕込むには年を取り過ぎていた。そこから誰もが驚くような稼ぎ頭になった。
容貌は美しく、怜悧で床あしらいもうまい。頑固で子供のように負けず嫌いな一面も見せれば、相手の懐にすっと入り込み、心を捉えてしまう人たらしな面もある。
だが、それだけではない。葛城の心の奥には、底知れぬ「闇」がある。
その闇に、あるいは人は魅入られてしまうのかもしれない。
聞き手はさまざまな語り手の元を回る。次第に事件の全貌が見えてくる。
あれやこれやと聞き回っていた聞き手とは誰だったのか。
証言者が最後に見た葛城の表情に息をのむ。
消えた葛城の後ろ姿が、物語の余韻とともに鮮やかに脳裏に焼き付けられる。
*『木挽町のあだ討ち』を読んでいて思い出しました。
複数の人物が、ある人物について語る。その人物はある事件のかなめであり、謎を抱えている。多くの人々の証言が、その人物の人となりとともに、芝居小屋なり廓なりといった小さな社会を多面的に描き出す。さらには意表を突く背後の真相。・・・といった点で、構造としてはよく似た2作だと思います。
『吉原手引草』は昔読んでおもしろかった覚えはあったのですが、レビューを書いていませんでした。よい機会なので読み直してみました。 -
失踪した花魁・葛城のことを、吉原の内外で尋ね歩く男を通して、葛城というミステリアスで気高い女性の半生が語られる。と同時に、失踪事件の影に隠されたもう一つの物語が徐々に浮かび上がってくるという仕掛け。
読み終わってみたら、人情ものだったな~としみじみ感動した。
遊郭の仕組みも分かりやすく説明されており、興味深かった。 -
物凄い面白かった
数年に一度レベルの本!
大好きだった
主役は全く出てこず
周りの登場人物から 本当に少しずつ少しずつ輪郭が浮かび上がっていく様は見事で
楽しく楽しくて一気に読んでしまった
もともと 吉原ネタが大好きだが
男女の性や業みたいなものまで
とにかく豊かに彩られ
素晴らしかった
話の筋も表現方法も最高!
登場人物が多いのに
とてもバライティーに富んでた
とても良かった -
図書館で借りた本だけど、買ってしまって何度も読み返したくなる本でした!!
吉原について、色んな役職の者が様々な視点から語っていくので「へぇ〜!」って言いたくなってしまう。
葛城という大人気の花魁が起こした事件とは何か、その動機は何なのか、全く事件の内容が知らされないまま話が進んでいくのが面白かった!最後の方で謎が明らかになっていく時にはページをめくる手が止まらない止まらない!!
私の理解力が足りてないのか、読んでもまだ完璧にはこの小説の中で起きている事件を理解できていないので、ぜひ本を買って一から分析し直したい欲に駆られてしまいました…!!!