買い負ける日本 (幻冬舎新書 696)

著者 :
  • 幻冬舎
3.55
  • (3)
  • (10)
  • (6)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 122
感想 : 16
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344986985

作品紹介・あらすじ

かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「買い負け」。しかしいまや、半導体、LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で日本の買い負けが顕著になっている。日本企業は、買価が安く、購買量が少なく、スピードも遅いのに、過剰に高品質を要求するのが原因。過去の成功体験を引きずるうちに、日本企業は客にするメリットのない存在になったのだ。調達のスペシャリストが目撃した絶望的なモノ不足と現場の悲鳴。生々しい事例とともに、機能不全に陥った日本企業の惨状を暴く。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 買い負ける日本企業の惨状に絶句するが、さもありなんと感じる。納期を含め過剰品質を求める、誰も責任を取らないから行動まで時間をかける。過去のやり方にとらわれずになりふり構わず即断即決できる組織体制も必要なんだろうか。

  • サプライヤ・チェーン関連のコンサルタントである著者による「なぜ今の日本があらゆる物資で買い負けているのか?」を解説する本。

    著者は日本メーカのバイヤー間ではよく知られた存在で、個人的にも何度か講演会や研修に参加したことがある。その際、著者の知見の広さと現場をよく知るコンサルタントとしての経験の深さに感心した。
    本著もその感想に漏れず、様々な業界で同様に起こっている「日本企業の買い負け」という事象が幅広く紹介され、さらにそれらの業界の実務者へのヒアリングを通した実際的な理解がよくされていると思う。

    著者は近年の日本の「買い負け」に関する短期的な要因として、Covid-19でタイトになった供給から急速に回復したことによる需給ギャップと、中国やインドといった新興巨大国の台頭を挙げている。
    中長期的には日本経済の没落を挙げ、この傾向は日本の経済が持ち直さない限り続くとした。さらにその没落の下部構成を分析し、「多層構造」「品質追求の自己目的化」「全員参加・全員納得主義」を要素として切り出す。
    その上で、著者の考えに基づくこれらを乗り越えるための提言が最後に書かれる。

    本著は上記の構成となっているが、現状の「買い負け」の事例は幅広く、知らないことも多くあった。既知の事例に関してもよく整理されていると思う。

    この原因の分析についてもよく整理できていると思う。ただし、統計的数値の分析から見たマクロな分析というよりは、実務(主に調達の現場)から見たときに調達購買力がない部分からの分析となっているため、注意が必要。

    最後に提言について。
    強引にまとめると「取引先との対等な関係を前提とした早期所要展開・トップ交流の実施」「全員主義からリスクをとった速い決断が可能な組織への脱却」「人材の流動性を高めて賃上げをする」となる。
    どれも間違ってはいないが、抽象度が高く具体性に欠ける(人材流動性向上に関する退職金控除の縮小と、転職者への所得税減は具体的)。とはいえ、これらのざっくりとした方針を共有するだけでも有用だと思う。

    重要なことは、現場で業務を回すビジネスマンが危機感を抱くことだ。それも、正確で現実的な危機感を。そうしてはじめて、色々なことを変えていける。
    本著は、ことSCMに関わる人間にとって危機感を共有するための一助となるだろう。

  • 大変面白かった。
    「買い負ける日本」ってすごいタイトルだね。余談だけど、幻冬舎はこういうタイトルづけが巧い気がする。
    さて、内容はというとタイトルの通り。半導体・LNG・牛肉・外国人材など、さまざまなリソースの獲得に関して、日本がかつてほど上手く行っていない、という話。
    さらに、なぜ上手く行っていないのか。構造的・性質的な原因についても解説される。日本は注文が多いが買値が高いというわけではない、とか。
    終盤は、日本の問題点に関するよくある話。現状維持バイアスが強いとか、根回しの文化とか。
    物資の調達の研究に関して、筆者はその道のプロ。大変わかりやすく、それでいてしっかりと解説していく1冊。1読の価値あり。

  • 私の商売でも日本は金払い悪いのに要求が多いと日本人の顧客からもよく聞く。また意思決定に時間が異常にかかる体質も外資と比べて買い負ける要因だなと実感している。問題提起としてすごく良い新書だと思った。

  • 調達・購買コンサルタントの肩書きを持つ筆者が、自らの体験も含めて日本の買い負けの数々の事例とその対策を語る。

    非常にわかりやすく、また自分の現在の業務に照らし合わせても、身につまされることばかりだ。全てにおいて共通している買い負けの原因は「意志決定の遅さ」「責任と権限の不明確さ」「過剰品質要求」だ。

    これまで日本のモノ作りの強みだったものが、世界中の品質が底上げされて差別化が難しくなり、市場の変化(調達における緊急事態への対応含む)に追い付かなくなっている。

    みんな頭で分かっていても、所属している場所のルールに縛られて自由に動けない。個々の企業内での権限委譲が必要だが、筆者は国による制度改革を提言している。

    即断即決の重要性は分かるが、市場環境の理解や戦略無しで即決ありきでは大失敗することも肝に銘じておくべきだ。

  • これは刺激的な新書だった。
    「買い負け」の言葉は知っていた。
    日本が海外から調達しようとしても、中国などに買い負ける現象。
    私はこれは単に経済力の差、かと思っていた。
    急成長で金回りのいい中国などが、失われた30年で疲弊した日本よりも豊かになり、
    金にものを言わせて半導体でもマグロでもじゃんじゃん買う、
    そのことだと思ってた。
    外国人留学生の数が増えない、減っているのは、日本の経済力を反映した円安もあり、
    日本の賃金が諸外国と比べ安くなってしまったから、、、。
    そういう面は確かにある。それは間違ってない。

    ただ、それだけではなかった。
    2章が肝。

    商社経由で買うこと、直接交渉しないことで、相手の顔が見えない、
    こちらの要望、熱意が伝わらない。
    なるほど。これは英語アレルギー、交渉下手な日本であれば確かにある。
    でも今に始まったことじゃない。高度成長のときからそうったのでは?

    ここからだ。
    品質追求。
    品質に対するこだわりが強すぎ。
    他国が気にしないことも気に留めて、
    交渉が進まない。歩留まりが悪くなる。
    ・・・・そうなればそんなことを気にせず買ってくれる国のほうが
    売り手としては都合がいい。
    これは買い負けではなく買い渋りみたいなもんだろう。
    そうしないと日本で売れない、、、
    そんなこと言ってるうちに日本にものが来なくなる。
    クレーマーの増加が遠因ってことか。

    さらに、
    意思決定の遅さ。
    その場で即決できなければ、すぐ決めてくれる方になびくのは当たり前。
    無駄な値引き交渉をして結局できず時間だけがかかり、ものがなくなる。
    昔役所のたらいまわしが問題になっていたが、
    今や私企業にもこれが蔓延している、ということだ。

    そういえば、、、私は大企業から中小企業に転職を繰り返したが、
    スピードが全く違った。
    特に前職はワンマンオーナー社長の脅威のスピード決裁で、
    中小企業から1兆円企業にのし上がった。

    品質へのこだわりと意思決定の遅さ、、、

    そういえば、最近実施したOBOG会。
    私も幹事の一角に入れさせてもらったのだが、
    他の幹事はまだ現役。グループ売上3兆円の大企業。
    会の実施へのこだわりがすごかった。
    なかなか決まらなかった。
    おかげでいい会が実施できたが、なお「あれはこうすべきだった」
    と反省していた。
    こだわり、、
    私がいい加減なのかもしれないが、
    この新書を読んで、なるほど、という感があった。

    失われた30年にいてなお高度成長、バブル時代から
    変わろうとしない日本。
    いや、むしろ今の政府自民党は保守、右翼という名のもと、
    変化することに抵抗しているように見える。

    堕ちるところまで堕ちるしかないのか、、、


  • 女子栄養大学図書館OPAC▼https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000067068

  • 「買い負け」を通じて日本企業の体質を明らかにしつつ、問題を指摘し、未来への提言がされている。

    まず、昨今品薄となり話題となった半導体や、木材等の買い負けの現状の実態が書かれていた。
    買い負けの要因として、もちろん日本経済の低迷があるが、日本企業の判断の遅さや、要求の高さが、日本企業を相手にする際の手間と時間がかかり、海外企業から嫌がられていると指摘があった。

    かつて高度経済成長に繋がった日本型システムが限界を迎えており、具体的には多層構造、品質追求、全員参加主義・全員納得主義の3つがある。

    以前読んだ「ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式」(山口周)にもあったが、日本企業が付加価値の高い商品を開発するために、全ての商品が平均以上に進化した現代において、「原価云々ではなく、そのものにこれだけの価値があるからその値段で売る」といった品質ではなく価値の販売をしていかないといけない時代なんだと、改めて再認識できた。

  • 第1章から第3章まではひたすら買い負ける状況に陥った日本について延々と語られる。これは斜陽の時代しか知らない身にとっても読み進めるのが辛い。ここで読むのを諦めてしまう人もいるかも知れない。

    最後の第4章になってようやく現状から脱出する為の提言となるが、頷かされる事が多い。まずは最後から読んでそれから前に遡って行った方が精神衛生上いいかも知れない。

    ブックファースト池田店にて購入。

  • 第1章 売ってもらえない国、日本(半導体を売ってもらえない/木材を売ってもらえない/貿易船に寄ってもらえない/LNG(液化天然ガス)を売ってもらえない/食料を売ってもらえない/労働力を売ってもらえない)/第2章 日本はなぜ「売ってもらえない」国になったのかー買い負けニッポンの印象的なエピソード(上部構造:日本産業の没落/下部構造:多層構造/下部構造:品質追求/下部構造:全員参加主義・全員納得主義)/第3章 日本が「売ってもらえない」国になるまでの歴史的系譜/第4章 「売ってもらえない国」から脱出するための12の提言

全16件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

未来調達研究所株式会社所属の経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達 部門に配属され、調達・購買、原価企画を担当してきたコスト削減、仕入れ等の専門家。日本テレビ「スッキリ」、TBS「篠田麻里子GOOD LIFE LAB」のコメンテーター、ラジオ「オールビジネスニッポン」のMCなどとしても活躍中。

「2020年 『1年仕事がなくても倒産しない経営術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

坂口孝則の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
マシュー・サイド
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×