理系大学受験 化学の新研究 改訂版

著者 :
  • 三省堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (832ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784385260938

作品紹介・あらすじ

理系大学受験の先輩がすすめる難関突破のバイブル『化学の新研究』の改訂版。現行課程の入試に合わせて記述内容を見直し、さらなる充実を図った。「サイエンスボックス」を約50項目追加し、化学への興味がさらにわく。

感想・レビュー・書評

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  • 【化学の面白さ】
    以下では、あくまでも話題提供という程度の意味でしかないが、化学について私がこれまで書いてきた140個のノートを見やすく整理して掲載しておく。誰かに読まれることを想定して書いたわけでは全くないが、これをパラパラと見てみれば、化学は非常に面白く、少し勉強すれば日常の中で抱かれるちょっとした疑問がどんどん解決されて行くので、知的に毎日が刺激されまくる、たいへん愉快な学問だということは、伝わるかもしれない。私は化学を勉強してみた結果、日常がものすごく高解像度で見えてきて、非常にQOLが向上したので、おすすめである。


    1.【化学式のスマホでの書き方】
     「₁₂₃₄₅₆₇₈₉₀」と「⁺と⁻」という文字列をアイパッドの「ユーザー辞書」などにあらかじめ登録しておけば非常に素早く「エタノール:C₂H₅OH」とか「Na⁺」みたいに書いていくことができる。ちなみに化学記号が作られたのは18世紀末である。原子番号92番のウランまでが自然界に存在していて、それ以降は人工的に合成したものであるとはいえ、周期表の119番以降の元素も、現在人工的に作り出すことが目指され、探求されているらしい。

    2.【「セントラルサイエンス」とも呼ばれる「化学」という学問で今アツい主題】
     ①ナノカーボン、②メタマテリアル、③人口細胞、④認知症治療薬、⑤がんの治療薬、⑥海水淡水化(逆浸透膜の開発)、⑦バイオ環境浄化、⑧常温超電導、⑨太陽畜電池、⑩人工光合成、⑪分子マシン(ナノカー、分子スイッチ)、⑫生命の化学的起源の解明、⑬混合物直接解析、⑭「超臨界流体状態の二酸化炭素」による布の染色、⑮二酸化炭素を原料にしたプラスチック製造、など。

    3.【バイオミメティクス:ヤモリはなぜ壁から落ちないのか問題】
     ヤモリの足には数億本に枝分かれした毛が生えている。毛と対象物とが接近すると「ファンデルワールス力」が働いて優れた接着力が発揮される。カーボンナノチューブを使ってこれを再現したテープは驚異的な粘着力を達成する。蜘蛛の巣の糸もバイオミメティクスに使われており、人工タンパク質が作られている。汚れが落ちやすいカタツムリの殻から、外壁用のタイルの素材が作られている。4キログラムの重さでライオンの顎の力である3300ニュートンを出せるヤシガニのハサミもそうである。

    4.【ナノってどのくらいの大きさなのか】
     ナノとは1mを10億個に分けたうちの一つで、その10分の1の大きさが原子の大きさである。

    5.【レアメタルとは何か】
     レアメタルの代表はインジウムやリチウム。インジウムはスマホの製作に使う。

    6.【鉄の精製法はこんな感じ】
     鉄鉱石から石灰石で不純物を取り除き、さらに鉄鉱石とコークスを一緒にして1538度以上に熱する。鉄の融点は1538度である。

    7.【金は単体で自然界に存在するからすごいのである】
    金Auは純物質で単体で自然界に存在するという点でも珍しい金属である。

    8.【金属はそもそも何種類あるか】
     金属は約80種類ある。アルミニウムを単体で取り出せるようになったのは19世紀末である。

    9.【合金と超合金は金属の短所の克服によって生まれる】
     青銅は銅にすずを混ぜた合金である。新幹線はアルミニウム合金のジェラルミンが使われている。鉄にクロムやニッケルを加えて作るステンレスも合金である。鉄にクロムとニッケルを混ぜるのがステンレスで、アルミニウムに銅とマグネシウムを混ぜるとジェラルミンになる。マグネシウムに亜鉛とイットリウムを混ぜるとマグネシウム合金が作れる。「マグネシウム」はめっちゃ燃えやすいのに「マグネシウム合金」は燃えにくい。超合金というものもある。ニッケルにクロムとタングステンを混ぜると1100度の融点を持つ超合金が作れる。ジェット機のタービンは超合金である。

    10.【消しゴムもプラスチックである】
     消しゴムはポリ塩化ビニルというプラスチックであるし、メガネのレンズはアリルジグリコールカーボネート樹脂というプラスチックであるし、水族館の水槽はメタクリルというプラスチックである。飛行機の翼も炭素繊維強化プラスチックである。不織布マスクもプラスチックである。

    11.【純物質と混合物を区別せよ】
     100パーセントオレンジジュースは混合物である。空気も混合物である。海水も混合物である。水は純物質である。1円玉だけは純物質である。砂糖はショ糖の結晶だから、純物質である。混合物は沸点が一定ではないが純物質は一定である。混合物から純物質を取り出すことが「分離」である。分離の方法には①濾過や②クロマトグラフィー(移動速度の違いを利用する分離)や③蒸留(沸点の違いを利用する分離)や④抽出や⑤再結晶などがある。例えばジエチルエーテルという溶媒を使えばオレンジジュースから色素だけを抽出できる。分離を繰り返して純物質を作っていく操作を「精製」という。

    12.【化合物と混合物を混同してはならない】
     混合物はただ混ざり合っているだけだからそれぞれの純物質の性質がそのまま残っているが、化合物はそうではない。例えば、ワインは混合物であって化合物ではない。純物質のエタノールを飲めば酔うが、混合物のワインを飲んでも酔う。だからワインは混合物である。エタノールは炭素と水素と酸素の化合物であるが、炭素や水素や酸素の液体はエタノールに性質が全然似ていない。エタノールは純物質であるが、化合物でもある。世界にある物質はほとんど混合物である。水は水素と酸素の化合物であるが純物質である。

    13.【ダイヤモンドダストとは何か:昇華である】
     空気中の水蒸気が冬の朝に一気に固体になることをダイヤモンドダストという。

    14.【二酸化窒素の使い方】
     二酸化窒素は空気より重く、しかも赤褐色なので空気中で熱運動によって気体が拡散していく様子を観察できる。

    15.【エタノールの表面張力は水より弱い】
     分子間力は水よりもエタノールの方が弱い。だから、エタノールはコップになみなみに注いだりするとすぐにこぼれてしまう。こぼれ方で、無色透明な液体でもどちらが水でどちらがエタノールかは分かる。

    16.【純物質の中でも単体と化合物を区別せよ】
     エタノールC₂H₅OHはワインに入っている純物質で化合物だが、単体ではない。単体というのは例えば、N₂などである。Mgも単体である。CuOは化合物である。CO₂は化合物である。しかし、単体も化合物も純物質であることに注意せよ。水は化合物である。アルミニウムは単体である。黒鉛は単体である。食塩は化合物である。ポリエチレンは「(C₂H₄)n」と表記し、化合物である。しかし、上記は全て純物質である。H₂は単体でO₂は単体で、H₂Oは化合物であるが、全てこれらは純物質ではある。しかし、水H₂OとエタノールC₂H₅OHを含むワインは混合物である。要するに、一種類の元素からできている純物質が単体で、複数元素からできている純物質が化合物なのだ。そして、化合物は混合物ではないのだ。また、化合物は、その成分元素の単体からできているわけではないのだ。

    17.【酸化銀を分解してみよう】
     酸化銀は電気を通さない化合物だが、これを熱して酸素と銀という単体に分解すると、その銀は電気を通す。これを化学式で書くと、「2Ag₂O→4Ag+O₂」となる。Ag₂Oは化合物だが、AgとO₂は単体である。

    18.【同素体と同位体を混同してはならない】
     黒鉛はCの単体で、ダイヤモンドもCの単体である。しかし、構造模型が三角形になるのがダイヤモンドで四角形になるのが黒鉛である。ダイヤモンドは固くて電気を通さず、黒鉛は柔らかくて電気を通す。この組み合わせを互いに同素体という。同位体とは違うので注意せよ。同位体は同じ陽子の数なのに中性子の数が異なる物質のことである。①単斜硫黄と②斜方硫黄と③ゴム状硫黄も同素体である。ちなみに、硫黄にニ硫化炭素で溶かして蒸発させると斜方硫黄が作れる。車のタイヤに硫黄を使うのは弾力性を高めるためである。

    19.【元素と単体を混同してはならない】
    「フッ素配合歯磨き」に入っているのはフッ化ナトリウムNaFという化合物の純物質で単体のフッ素F₂という純物質は入っていない。単体は普通に存在する物質であるが、元素は物質を構成する成分物質であると考えるとよい。水も純物質で化合物だが、単体の水素H₂や酸素O₂は入っていない。元素のHや元素のOは成分として水に含まれている。

    20.【どの金属元素からできているかはどうやって調べるのか:炎色反応】
     打ち上げ花火は色々な色がある。花火の色は金属元素から作られている。例えば、水に溶かした塩化リチウム(塩化リチウム水溶液)を白金線につけて燃やすと赤い炎になる。ナトリウムは黄色で、カリウムは赤紫色で、カルシウムは赤橙色で、銅は青緑色で、ストロンチウムは濃赤色で、バリウムは黄緑色になる。

    21.【どの非金属元素からできているかはどうやって調べるのか:沈殿】
     塩素の場合は沈殿によって検出する。塩化カルシウム水溶液に硝酸銀水溶液を加えると白濁する。これが塩化銀の沈殿である。こうやって、「塩化カルシウム水溶液に塩素が含まれていること」を検出するのである。例えば、水道水に硝酸銀水溶液を加えると塩化銀が沈澱する。これで水道水に塩素が含まれていることが検出できる。塩化ナトリウムや塩化カリウムでも硝酸銀水溶液を加えて塩化銀を沈殿させるという同じ方法で塩素が検出できる。また、石灰水を使う沈殿もある。炭酸カルシウムに塩酸を加えると二酸化炭素が発生するが、この二酸化炭素は石灰水の中の水酸化カルシウムと反応して石灰水は白濁する。これによって、「炭酸カルシウムに塩酸を加えて発生した謎の気体の正体は二酸化炭素だったのだから、炭酸カルシウムに炭素が含まれていること」が検出できる。

    22.【地球の地殻を構成する元素は?】
     地球の地殻を構成する元素は50%が酸素で25%がケイ素で、7%がアルミニウムで、4%が鉄で3%がカルシウムである。

    23.【人体を構成する元素は?】
     人体は65%が酸素で、筋肉はタンパク質だから20%は炭素である。水素が10%で、カルシウムはかなり少ない。

    24.【銅とクロムは環境に有害なので注意】
     銅やクロムは廃液として工場から排出してはならない。

    25.【原子の大きさはどのくらいなのか】
     金箔の断面(=0.0001mm=1万分の1ミリメートル)には金の原子が350個並んでいる。炭素原子とゴルフボールの比はゴルフボールと地球の大きさに等しい。原子の大きさの3億倍がゴルフボールの大きさになる。ちなみに、原子核が2mmだとすると、原子全体はドーム球場くらいの大きさになる。ナノとは1mを10億個に分けたうちの一つで、その10分の1の大きさが原子の大きさであるから、原子は10億分の1メートルと覚えておくと良い。例えばシリコンの表面はSTM(走査型トンネル顕微鏡)で見ると、ケイ素の原子がひし形に並んでいる。

    26.【超電導物質とは何か】
     非常に低い温度に冷却すると電気抵抗がなくなる物質が超電導物質である。代表はインジウムである。電気抵抗がなくなった時に電気を流すとずっと流れ続ける。現状、超電導物質を冷却するにはマイナス269度の液体ヘリウムが必要になる。超電導物質はリニアモーターカーなどに使われる。

    27.【水とエタノールを混ぜると、体積はその和にならない】
     水50mLとエタノール50mLを混ぜると体積は97.5mLくらいになる。100mLにはならない。粒子の大きさが違うからである。

    28.【ジョン・ドルトンの功績】
     ドルトンはとても几帳面な性格で、全ての実験を自分でおこなう人だった。ドルトンは1803年に原子説を発表し、地水風火の四元素説が滅びた。

    29.【質量数は元素記号の左上に書き、原子番号は元素記号の左下に書く】
     原子核が2mmだとすると、原子全体はドーム球場くらいの大きさになる。陽子と中性子の質量はほぼ同じで、これを1840とすると電子の質量が1になる。つまり、陽子と中性子は電子の1840倍重い。だから、原子の質量の大部分は陽子と中性子の質量となるから、陽子と中性子の質量の和を原子の質量数と呼んでいる(後述するが、「原子の質量数」と「原子量」は近い値になる。質量数が12で「原子番号」が6の炭素の相対質量は「12 (相対値だから単位なし)」と国際的に定められており、その炭素の原子量は「12.01 (相対値だから単位なし)」である。なぜ相対質量と原子量がちょっとだけ違うのかというと同位体があるからである)。陽子の数がその原子の「原子番号」である。陽子の数は原子の種類ごとに決まっている。元素記号の左下に書いてあるのが「原子番号」で左上に書いてあるのが「質量数」である。例えば、スーパーカミオカンデで、ニュートリノを検出する感度を上げるために超純水に溶かし込まれている「ガドリニウム」の原子番号は64番である。

    30.【最重要項目:「①相対質量」と「②絶対質量」と「③原子番号」と「④質量数」と「⑤原子量」と「⑥原子量の概数値」と「⑦分子量」と「⑧イオンの相対質量」と「⑨式量」と「⑩物質量」とを混同してはならない】
     炭素原子1個の質量は1.99×10⁻²³gである。原子1個の重さはそれぞれ違う。例えば、水素原子1個の質量は1.67×10⁻²⁴gし、酸素原子1個の質量は2.66×10⁻²³gであるし、ナトリウム原子1個の質量は3.82×10⁻²³gである。こうやって測る重さは絶対質量である。絶対質量にはグラムという単位がある。しかし、相対質量には「グラム」みたいな単位がない。なぜなら、例えば、例えばゴマ1粒(=0.003g)を「1」とした時にコメ1粒(=0.03g)は「10」で小豆1粒(=0.15g)は「50」になるが、これに単位はないからである。つまり、相対質量は比だからである。質量数12の炭素原子1個(←同位体は質量数13とかだからここでは基準にしない)の絶対質量1.99×10⁻²³gをピッタリ「12」とした時、水素原子1個1.67×10⁻²⁴gの相対質量は「約1.0」になるのだ。酸素原子1個の相対質量は「約16.0」になるし、ナトリウム原子1個の相対質量は「約23.0」になる。ところで、質量数(=陽子の数すなわち原子番号と中性子の数の和)が12で「原子番号」が6の炭素の相対質量は「12.0(相対値だから単位なし)」と国際的に定められていると述べた。しかし、その炭素の原子量は「12.01 (相対値だから単位なし)」である。これはどういう事情なのか。「原子の相対質量」は「原子量」と近い値になるが微妙に異なる。その理由は同位体があるからである。原子番号が同じなのに中性子の数が異なるために質量数が異なる原子を互いに同位体という。炭素の場合も安定した存在比で自然界に同位体が存在する。たとえば¹²Cは98.94%の存在比だとか、色々な存在比が既に知られているのである。この同位体の存在比と、それぞれの相対質量から原子の相対質量の平均値を求めたものが「原子量」で、それゆえ原子量も相対値になるから(=相対質量の平均値も相対質量に過ぎないから)、相対質量に単位がないのと同様に、原子量に単位などないのである。原子量は相対質量の平均値であって相対質量のことではないので注意しよう。そこで、炭素の原子量は本当は「12.01」だが、普段は計算が複雑にならないように、「原子量の概数値」である「12」を用いている。炭素の相対質量は「12」だと国際的に定義されていた。すると、「原子量の概数値」と「炭素の相対質量」とは一致していることになる。炭素の原子量の概数値である「12」を基準にした「分子の相対質量」が「分子量」である。分子量は「原子量の概数値の和」なので結局、相対質量になるから、これにも単位はない。二酸化炭素CO₂の分子量は44だし、水H₂Oの分子量は18になる。食塩のように、イオン結晶でイオンが規則正しく並んでいるだけなので分子が存在しない物質については、「分子量」など考えようがないので、「分子量」の代わりに「式量」が使われる。例えば食塩NaClの式量は「23+35.5=58.5」となる。このことから、イオンになることで増減した電子の質量は無視できるほど小さいので、「イオンの相対質量」と「原子量の概数値」はほぼ等しいのだと化学者がみなしていることがわかる。で、この「イオンの相対質量」の和が「式量」なのである。こういうわけなので、「原子の相対質量」も「原子量(= 同位体が存在する原子たちの相対質量の平均値)」も「原子量の概数値」もそれをもとにして計算された「分子量」も「式量」も全て、相対質量(=絶対質量の比)であるから、単位はないということがわかる。相対質量は「比」でしかないのだ。さて、ここからは物質量の話になる。例えばゴマ1粒(0.003g)を「1」とした時にコメ1粒(0.03g)は「10」で小豆1粒(0.15g)は「50」になる。この時、このことを逆から言うと、1gのゴマ粒の山を作るのにはゴマが333個必要で、10gのコメ粒山を作るのにはコメが333個必要で、50gの小豆の山を作るのには小豆が333個必要になる。つまり、相対質量とは、「複数の原子を1個だけ集めてきたときの絶対質量の間の比」という解釈だけでなく、「複数の原子を同じ個数だけ集めて来た時の絶対質量の間の比」だという解釈もできるのである。例えば、絶対質量0.003gを「1」とした時、相対質量が「3」のものを2つ集めてきたら相対質量は「6」で絶対質量は0.018gになるが、相対質量が「6」のものを2つ集めてきたら相対質量は「12」で絶対質量は0.036gになる。ここで、1個の時の相対質量「3」と「6」の間の比「1対2」は、2個の時の相対質量「6」と「12」の間の比になっても保存されているだけでなく、絶対質量0.018gと0.036gの間の比においても保存されているのである。同様に、相対質量が3のものを3つ集めてきたら9になるが、相対質量が6のものを3つ集めてきたら18になる。しかし、最初の3と6の間の比は9と18の間の比と比べてみると、保存されているし、絶対質量0.027gと0.054gの間の比においても保存されているのである。4つ集めてきた時も5つ集めてきた時もこれと同様だから、「同じ個数だけ集めて来たならば、1粒どうしの相対質量の比は、その粒の集団どうしの絶対質量の間の比と一致するし、逆もまたしかりだ(=個数と絶対質量は物体の種類が違くても同じ仕方で比例する)」と言える。そうだとすると、このことを逆から利用すれば、「あるゴマ山とあるコメ山の絶対質量の比がゴマ1粒とコメ1粒の相対質量の比と一致しているならば、その山に含まれるゴマ粒の数とコメ粒の数は一致する」と言うことができる。実際にやって実験してみよう。3グラムのゴマ山と30グラムのコメ山があったとして、この絶対質量の比1対10は、ゴマ1粒とコメ1粒の相対質量の比1対10と一致している。この時、ゴマ山に含まれるゴマ粒の数は1000個であり、コメ山に含まれるコメ粒の数は1000個であり、本当に一致していることがわかる。このことに注目して定義された量が「物質量」である。「物質量」というのは、「どんな原子でも、1粒あたりの相対質量の比と等しい絶対質量の比になるように原子集団を作ってやると、その原子集団に含まれる原子の個数は等しくなること」を利用して定義された量なのだ。例えば、水素原子の集団1.0gと炭素原子の集団12.0gには、どちらにも6.0×10²³個ずつの粒が含まれていることになる。これは1粒あたりの相対質量の比すなわち1対12と絶対質量の比が等しいからである。「6.0×10²³個」のことを「アボガドロ数個」と表現することがある。そして「1アボガドロ数個の粒子の集団」のことを「1モルの粒子の集団」と表現する。つまり、「物質量」とは「粒子の個数」のことである。黒鉛12gも水18gも食塩58.5gもみんな構成粒子の数は、6.0×10²³個で等しいのである(ちなみに、6.0×10²³個集まった時の絶対質量がモル質量である)。なぜなら、黒鉛Cの1粒(原子量12)、水H₂Oの1粒(分子量18)、食塩HClの1粒(式量58.5)あたりの相対質量の比と、絶対質量の比が等しいからである。要するに、「物質量の比」は「原子の数の比」である。「6.0×10²³個の粒子の集団」のことを「1モル」と呼んでいるのである。1モルの気体の体積は、水素でも酸素でも二酸化炭素でも標準状態(=0℃かつ1013hPa)では常に22.4 Lである。これを「アボガドロの法則」と言う。この1モルの気体の体積22.4Lのことを「モル体積」と言う。逆に言うと、「0℃かつ1013hPaで44.8Lの気体」は水素でも酸素でも二酸化炭素でも2モルである。

    31.【アボガドロ数とアボガドロ定数の違い】
     アボガドロ定数は原子や分子1モルあたりに含まれる粒子の個数のことで、アボガドロ数は「6.0×10²³」という数のことである。「アボガドロ数/mol」が「アボガドロ定数」である。「1モルあたりの粒子の数」が「アボガドロ定数」である。粒子が1モル集まった時の質量がモル質量である。水180gだったら10モルだということがわかる。1円玉は27枚集めるとアルミニウム1モルになる。

    32.【アボガドロ定数を求める公式】
     「物質量(mol)=粒子の数÷アボガドロ定数」という公式を「アボガドロ定数=粒子の数÷物質量」と変形して、そこに「物質量(mol)=質量(g)÷モル質量(g/mol)」を代入すると、「アボガドロ定数=粒子の数÷(質量(g)÷モル質量(g/mol))」となってこれをさらに変形すると、「アボガドロ定数=粒子の数×モル質量(g/mol)/質量(g)」という公式が得られる。

    33.【気体の密度を比べると気体を識別できる】
     水素の気体の分子量は2で、酸素は32で、二酸化炭素は44である。どれも体積は標準状態だと22.4Lになってしまう。だから、密度で見分けるのがいい。シャボン玉を作ってすぐに上に飛んでいくのは水素である。1Lあたり二酸化炭素は2gで、酸素は1Lあたり1.4gで、水素は0.089gである。密度は「g/L」という単位で表す。例えば水素の密度は、「0.089g/L」となる。

    34.【空気の平均分子量を覚えておくメリット】
     1モルの空気には微量なものを無視すれば0.80molの窒素、0.20molの酸素が含まれていることになる。窒素のモル質量は28g/molで酸素のモル質量は32g/molだから、空気1モルの質量は28×0.8+32×0.2=28.8gになる。同じ理屈で空気の平均分子量は「28.8」になる。メタンは分子量が16で、一酸化炭素の分子量は28である。だから、どちらも部屋の天井の方に貯まることになる。報知器が天井についているのはそれが理由である。それに対してプロパンの分子量は44なので空気より重いので床に報知器をつけないと意味がない。

    35.【標準状態で5.6Lの窒素の質量はいくらか】
     5.6Lの窒素の物質量は0.25molで、窒素のモル質量は28g/molだから、この窒素の質量は7.0gとわかる。こんなふうに、なんでもとりあえず物質量という共通言語を媒介させればさまざまな化学量の相互変換が可能になるというわけだ。

    36.【化学では濃度を「グラム(あるいは質量パーセント濃度)」では考えず、「物質量(あるいはモル濃度)」で考える】
     溶媒に溶質が溶けて溶液ができることを溶解という。「質量パーセント濃度=溶質の質量/溶液(=溶質+溶媒)の質量」という公式を習ってきた。例えばコーヒー200gに砂糖20gを溶かした時の砂糖の「質量パーセント濃度」は、「20/220×100=約9.1%」となる。「20/200×100=10%」だと答えさせる典型的なひっかけ問題である。同様に、「5%の食塩水80gに含まれる塩の質量はいくらか」と聞かれたら、「x/80×100=5%」より、「x=4g」となる。しかし、化学ではこの「質量パーセント濃度」を使わずに濃度を考えることは少ない。そうではなくて「モル濃度」を使う。単位は「mol/L」となる。なぜ化学では質量パーセント濃度ではなくてモル質量を使うのかというと、例え同じ質量パーセント濃度の溶液だとしても溶けている物質が違うと溶けている粒子の数は同じにならないのだが、同じモル濃度の溶液は溶けている物質が違くても溶けている粒子の数は同じになるからなのだ。質量パーセント濃度の方は百分率を使うから×100をする必要があるが、モル濃度の方はその必要はない。例えば、「水酸化ナトリウム2.0gを水に溶かして200mLの水溶液を作ったがこの水溶液のモル濃度はいくらか」と問われたら、「水酸化ナトリウムのモル質量は23+16+1=40g/molだから、2.0gの水酸化ナトリウムの物質量は0.050molとなる。これが200mLの溶液に溶けているんだからモル濃度は0.050mol/0.200L=0.25mol/Lとなる」と答えればよい。

    37.【有効数字を意識するとは位取りを示すだけの0を除いて考えることである】
     位取りを示すだけの0を除いた意味のある数字のことを有効数字という。掛け算と割り算では、式の中で、最も有効数字の桁数が小さい数に合わせることになっている。例えば、「1.00mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液250mLに含まれる水酸化ナトリウムの質量は何グラムか」と聞かれた時に、「溶けている水酸化ナトリウムの物質量は1.00mol/L×/0.250L=0.250molだから、水酸化ナトリウムのモル質量が40g/molなので、水酸化ナトリウムはこの溶液に10g溶けていることになる」と答えればいいことになる。この時、有効数字が40gだけ2桁なので、2桁に合わせて「10g」と答えるというわけだ。

    38.【同位体(アイソトープ)の典型:①水素と②重水素と③トリチウム】
     水素は陽子が1個だけの原子。しかし、陽子が1個だけでなく中性子を1個だけ持っているのが重水素である。水素を含むのが水で、重水素を含むのが重水である。水で作った氷は水に浮かぶが、重水で作った氷は水に沈む。同位体は同じ陽子の数なのに中性子の数が異なる物質のことである。水素と重水素とトリチウムは同位体である。水素は質量数が1で、重水素は質量数が2で、トリチウムは質量数が3であるが、しかし全て陽子と電子の数は同じで1個である。違うのは中性子の数だけなのだ。

    39.【放射性同位体(ラジオアイソトープ)とは何か】
     三重水素は陽子が1つなのに中性子は2つであり、安定していないので、放射線を出してヘリウムに変わろうとする。炭素は原子番号6で、質量数は普通12だが、14のものを「炭素14」と呼んで、これは放射性同位体である。「炭素14」は放射線を出して窒素に変わろうとする。

    40.【遺跡の調査に使う「炭素14」というラジオアイソトープ】
     植物は大気中に微量に含まれる「炭素14」を光合成で吸収しているわけだから、植物中の「炭素14」の存在量と大気中の「炭素14」の存在量はほぼ等しい。しかし植物が死ぬと光合成が終わり、「炭素14」を吸収できなくなる。すると、「炭素14」が放射線を出しながら窒素に少しずつ変化して減っていく。「炭素14」の半減期は5730年だから、大気中の「炭素14」の存在量と植物の化石に含まれる「炭素14」の存在量を比べれば、その植物が死んでから何年経ったのかがわかるのだ。ちなみに動物でも同じことができる。例えばナウマンゾウの歯の化石の年代は「炭素14」の測定でわかる。

    41.【半減期は元素によって様々である】
     「放射性同位体である炭素14」の半減期は5730年だが、「放射性同位体であるフッ素18」の半減期は110分である。半減期が少ないものは人体に悪影響の出ない仕方での放射線検査に使える。

    42.【水の極性を利用すれば、水は静電気で引き寄せられる】
     アクリル棒を毛糸で擦ってから水道水から出ている水に近づけると水の経路が棒に引きつけられて変わる。アクリル棒が負に帯電しているからなのだ。

    43.【電子の発見者トムソンと原子核の発見者ラザフォード】
     真空ガラス管の中に陰極線ができ、しかも陰極線がプラスの電極の方に曲がるのをみつけたのがトムソンである。トムソンは原子のプラムプディングモデル(ブドウパン型モデル)を考えた。ラザフォードは1万回に1回の割合で、プラスの電荷を帯びたアルファ粒子が金箔をうまく通過できないことから、正電荷が均一に分布しているプラムプディングモデルはおかしいとして、ラザフォードは正電荷が集まっている箇所としての原子核を発見したのである。だから、電子の発見の方が原子核の発見より早いのだ。

    44.【原子の構造関連の用語法】
     電子の最内殻が、K殻で、その後L殻、M殻、N殻、O殻と続いていく。K殻は最大2個しか電子が入らない。L殻は最大8個で、M殻は最大18個で、N殻は最大32個で、O殻は最大50個である。「6→10→14→18と、入る最大電子数の増え方が4ずつ大きくなる」という法則が電子殻にはある。マグネシウムは原子番号12で、内側から電子が埋まるから最外殻電子は2個である。この時、マグネシウムのK殻とL殻は閉殻である。最外殻電子は1個から7個の場合、「価電子」とも呼ばれるが、ヘリウムは最外殻電子が2個だけれど、「ヘリウムは2個の価電子を持っている」とは言わない。ヘリウムのK殻は閉殻なのだ。だから「ヘリウムの価電子は0個だ」ということになる。しかし、水素の価電子は普通1個である。価電子の数に注目し、それを縦に揃えて元素を並べた表が元素周期表である。この周期表を1869年に『科学の原理』という本の中で発表したのがメンデレーエフである。

    45.【メンデレーエフの周期表】
     メンデレーエフは14人兄弟の末っ子で両親が早くなくなり結核だったのに首席で高等師範学校を卒業した。メンデレーエフは周期表のアイデアをうたたねしている時に思いつき、その表を封筒の裏に書き留めたという。だからコーヒーカップの後が封筒にはついているらしい。メンデレーエフは周期表の空白部分に入るはずの元素として、ガリウムとゲルマニウムの存在を予測した。その後、1875年にガリウム、1885年にゲルマニウムが実際に発見されたのである。1906年にメンデレーエフはノーベル賞候補となるが1票差で敗れた。その結果1907年に死去してしまう。メンデレーエフの功績をたたえて1955年に原子番号101番の元素はメンデレビウムと名付けられた。ちなみに原子番号 102番の元素はノーベルからノーベリウムと名付けられた。ちなみに、原子番号 96番の元素はキュリーからキュリウムと名付けられた。

    46.【地域名由来の元素】
     原子番号63番はユウロピウム、原子番号95番はアメリシウム、原子番号113番はニホニウムである。原子番号84番のポロニウムはポーランドから来ている。ニホニウムは日本で人工的に作られた元素である。埼玉県の和光市でニホニウムは作られた。理化学研究所が作ったのである。ニホニウムはどうやって作るかというと、原子番号30番の亜鉛を猛スピード(秒速3万キロ=光速の10パーセント)で原子番号83番のビスマスにぶつけることで核融合を起こすのである。亜鉛の速度が速すぎても遅すぎてもこの核融合は起きない。2018年から理化学研究所は、原子番号23番のバナジウムと原子番号96番のキュリウムを核融合させて未知の119番元素を作る計画に取り組んでいるという。元素は理論上、原子番号172番あたりまでなら存在できると言われている。

    47.【放射性元素】
     アンリ・ベクレルが研究していた原子番号92番のウランの他にも、原子番号90番のトリウムや、原子番号84番のポロニウムや、原子番号88番のラジウムなどの放射性元素がある。マリー・キュリーはポロニウムとラジウムの発見者である。ラジウムは放射線治療にも使える。1934年にマリー・キュリーは放射線障害で66歳で死亡した。ラジウムの製造方法の特許を取ればマリー・キュリーは莫大な利益を得られたはずだが、それを彼女は放棄した。

    48.【池田菊苗(1864-1936)と「うま味」】
     池田は「うま味」を発見した化学者である。おでんのダシには「うま味」がある。湯豆腐の昆布だしでうま味成分の抽出を続け、「グルタミン酸ナトリウム」の抽出に成功した。池田はドイツに留学した池田はドイツ人の栄養状態の良さに衝撃を受けた。

    49.【カリウムとカルシウムの特殊性】
     ヘリウム(原子番号2)とネオン(原子番号10)とアルゴン(原子番号18)は価電子が0個だから閉殻である。ちなみに、同じ希ガスであるクリプトン(原子番号36)もキセノン(原子番号54)もラドン(原子番号86)も最外殻の電子数は8個で、価電子の数は0個の閉殻である。閉殻とは価電子がないということなのである。カリウムとカルシウムはM殻が最大18個まで電子を収容できるのにもかかわらず、N殻に電子が入っている。だから、カリウムの価電子は1個で、カルシウムの価電子は2個になる。これはなぜなのかというと、M殻に8個入って閉殻になっているアルゴンがあまりにも安定なので、M殻に9番目や10番目が入るよりも、N殻に電子が入った方が安定になるのである。

    50.【励起:①炎色反応と②ルミノール反応と③ケミカルライトと④ホタルの原理】
     エネルギーを余分に与えられたせいで本来あるべき殻から外側の殻に電子の位置がズレてしまっている状態を「励起」と呼ぶ。熱エネルギーによって電子が励起状態になっているのが「炎色反応」である。ルミノール粉末を水酸化ナトリウム水溶液に溶かして過酸化水素水を加え、ここにヘモグロビンの粉末を加えると「ルミノール反応」が起こって青く発光する。なぜこんなことになるかというと、ヘモグロビンがルミノールと過酸化水素水の化学反応を促進しているのである。この化学反応のエネルギーによって電子が励起状態になり、その励起状態は不安定なので、エネルギーを放出する。このエネルギーによって青白く光って見えるのだ。これが「ルミノール反応」である。「ルミノール反応」は血痕を探すために使える。ケミカルライトもホタルも、化学反応による電子の励起で光っている。ホタルはルシフェリンという物質をルシフェラーゼという酵素とともに持っていて、これが酸素と出会うと化学反応を起こすのだ。

    51.【アルカリ金属としての第1族】
     第1族の水素以外の元素をアルカリ金属という。リチウムやナトリウムやカリウムやルビジウムやセシウムやフランシウムがアルカリ金属である。アルカリ金属のリチウムやナトリウムやカリウムはナイフで切れるくらい柔らかくて、断面が空気に触れると「金属光沢」がすぐになくなってしまうし、水に溶ける。水に溶ける時激しく反応するし、溶液はフェノールフタレイン溶液を加えると赤くなる。だから、アルカリ性水溶液になるのでアルカリ金属と呼ばれる。

    52.【第17族:アルカリ金属と反応して塩(えん)を作るハロゲン】
     第17族のことをハロゲンと呼び、ハロゲンにはフッ素や塩素や臭素やヨウ素などがある。ハロゲンはギリシア語で「塩(えん)を作るもの」という意味である。第1族と第17族が反応すると塩ができる。ハロゲンの代表格である塩素はどうやったら作れるのか。「さらし粉」と呼ばれる次亜塩素酸カルシウムに塩酸を加えると黄緑の気体が出てくる。この気体は赤バラを白バラにするくらいの漂白作用がある。フッ素や塩素や臭素やヨウ素には、漂白作用と殺菌作用があるのだ。

    53.【ランタノイドとアクチノイドはなぜ周期表の外側にあるのか】
     ランタノイドは原子番号57番のランタンにそっくりな元素たちという意味で、アクチノイドは原子番号89番のアクチニウムにそっくりな元素たちという意味でよく似ているから欄外にまとめてしまっているのである。アクチノイドの中でも、原子番号92番のウランまでが自然界に存在していて、それ以降は人工的に合成したものである。

    54.【遷移元素と典型元素を区別せよ】
     3族から12族は横に隣り合っているのに性質がよく似ていて、縦に並ぶものが似ていて横は似ていない典型元素とは全然違っている。なぜこうなるのかというと、遷移元素では、原子番号が増える時に電子が最外殻には入らずにそのひとつ内側に入るせいで最外殻電子の数が変化しないからなのである。原子番号が増えても、最外殻電子は変化せずに2個のままだったりすることが多いというわけなのである。

    55.【イオンとは何か】
     電子をやり取りして電荷を帯びた原子をイオンという。「Mg²⁺」や「S²⁻」を「単原子イオン」と呼び、「NH₄⁺」や「SO₄²⁻」は「多原子イオン」という。「Cl⁻」は呼び方が「塩素イオン」ではなく「塩化物イオン」なので注意が必要。同様に、「O²⁻」は「酸化物イオン」だし、「OH⁻」は「水酸化物イオン」である。しかし、多原子イオンになるとこの規則は当てはまらない。「NH₄⁺」は「アンモニウムイオン」だし、「SO₄²⁻」は「硫酸イオン」だし、「CO₃²⁻」は「炭酸イオン」である。「Na⁺」は「ナトリウムイオン」である。

    56.【「イオン化エネルギー」の対義語は「電子親和力」である】
     陽イオンになるために最外殻電子を取り去るために必要なエネルギーを「イオン化ネルギー」という。同じ周期(=周期表の横軸)で比べると陽子が多いほどイオン化エネルギーは大きくなる。希ガスは安定なのでイオン化するには大変なエネルギーを要求してくるが、アルカリ金属は不安定なのでほとんど要求しない。同じ族で比べると原子番号が大きいほどイオン化エネルギーは小さくなる。例えば、同じアルカリ金属の第1族でみても、リチウムよりカリウムの方がイオン化エネルギーは小さくなる。逆に、原子が電子を受け取って陰イオンになるために原子から放出されるエネルギーを電子親和力という。第17族のハロゲンであるフッ素や塩素は電子親和力が大きく、陰イオンになりやすい。イオン化エネルギーは、「イオンになるときに要求されるエネルギー」で電子親和力は「イオンになるときに放出されるエネルギー」だと覚えよう。

    57.【化学結合のひとつがイオン結合:クーロン力による結合】
     水は酸素と水素が化学結合してできている。しかし、食塩は、「Na⁺」と「Cl⁻」のイオン結合によってできている。とはいえ、イオン結合も化学結合のひとつだ。化学結合には①イオン結合の他にも、②共有結合や③金属結合などがある。水は共有結合で、食塩はイオン結合なのだ。イオン結合はイオン同士の間に働く静電気力、すなわち「クーロン力」によって陰陽のイオン同士が引き合ってできる結合である。例えば「塩NaCl」を作るには、黄緑色の「塩素Cl₂」の気体の中に「ナトリウムNa」を入れて熱すればいい。すると激しく反応して「塩NaCl」が残るのだ。このような、クーロン力によるイオン結合でできた、塩のような化合物はイオン結晶を作る。例えば、除湿剤や融雪剤に使われている「塩化カルシウムCaCl₂」はイオン結晶である。重曹は「炭酸水素ナトリウムNaHCO₃」のことで、これもイオン結晶である。ちなみに、重曹はクエン酸と混ぜて使うと汚れが落ちやすいとされている。大理石の主成分である「炭酸カルシウムCaCO₃」もイオン結晶である。「酸化アルミニウムAl₂O₃」も、イオン結晶である。

    58.【イオン結晶の特徴】
     イオン結晶には以下の特徴がある。イオン結晶の特徴①は、「へき開すること(=特定の面で割れやすいこと)」である。例えば、岩塩の採掘でトンカチでカンカンとやると岩塩はパカっと割れている。イオン結晶の特徴②は「硬いが、割れやすいこと(陰陽イオンが交互に規則正しく並んでいる結晶だから一段ずれれば、相互に反発しあってしまうから割れやすい)」、イオン結晶の特徴③は、「融点が高いこと(例えば塩NaClが液体になるための融点は801度)」、イオン結晶の特徴④は「常温では、固体で存在すること」、そして最後にイオン結晶の特徴⑤は「固体の時に電気を通さないが熱して融解させて液体にしたり水溶液にしたりすると、電気を通すようになること」である。塩の結晶は立方体であり、Naの陽イオンとClの陰イオンが交互に綺麗に並んでいる。

    59.【純水は電気を通さないが食塩水は電気を通す】
     塩水は電気を通すけれども、純水は電気を通す。水溶液にすると電気を通す物質を電解質という。電解質の代表は食塩水である。非電解質の代表はアルコールと砂糖である。水道水は塩素が溶けているので電気を通したりもする。

    60.【食塩水に電気を通すとはどういうことなのか:イオン化傾向】
     食塩水(NaCI)は、ナトリウムイオン(Na⁺)と塩化物イオン(C⁻)に電離して溶けるが、わずかながら、水中で水素イオン(H⁺)と酸化物イオン(OH⁻)も電離している。陽極は+極なので、CI⁻が引き寄せられ、電子を陽極に渡すことで塩素(Cl₂)が発生するが、塩素は水に溶けやすいため陽極はあまり泡立たない。陰極はー極なので、Na⁺が引き寄せられるが、電子を受け取ったナトリウムNaが析出したりはせず、むしろ水に溶けにくい水素(H₂)が発生する。これにより陰極は泡立つ。では、これはなぜか。なぜかというと、ナトリウムが水素より「イオン化傾向」が大きいからである。ナトリウムはイオンとして溶液中に留まるので水素イオンが押し出されて、この水素イオンが電子を受け取ることで水素H₂となるのである。陰極付近は、残ったナトリウムイオン(Na⁺)と酸化物イオン(OH⁻)から水酸化ナトリウム水溶液になる。これはフェノールフタレイン溶液が陰極付近で赤く染まることから確かめることができる。厳密には、陽極の塩素(=すぐに溶ける)と陰極付近の水酸化ナトリウムとが混ざり、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)になる。こういう一連の操作を「食塩水の電気分解」と呼ぶ。一般に、陰極で還元反応(電子が増える反応)、陽極で酸化反応(電子が減る反応)を起こして化合物を化学分解する方法を「電気分解」という。ただし、酸化銅を加熱して銅を作る時のように、還元によって酸素を奪うことを還元ともいうので注意が必要である。

    61.【なぜ電気分解に炭素棒を使うのか】
     炭素棒は他の物質と化学反応しにくく、白金よりも安価だからである。

    62.【スポーツドリンクからキセノンイオンのエンジンまで使われるイオン】
     スポーツドリンクは身体から汗と共に失われたイオンを補給しようとしている。つまり、スポーツドリンクは電解質である。温泉水も電解質である。温泉は皮膚を通してイオンを吸収させ、効能を発揮するという。リチウムイオン電池もイオンを使って充電と放電を繰り返すもので、化学者の吉野彰が開発した。これによりノーベル化学賞を受賞した。小惑星探査機はやぶさのイオンエンジンもキセノンのプラスイオンを噴射して推進力を得ている。

    63.【原子と分子を区別せよ】
     「空気には酸素が含まれている」という時、それは「O₂」のことを言っている。分子は「物質の性質を示す最も小さなまとまり」のことであってこれは「原子」ではない。

    64.【化学式の中で分子式と組成式と電子式と構造式を混同してはならない】
     「O₂」「Ne」「He」「Ar」は「分子式」であるが、塩のイオン結合の仕方を示す「NaCl」は「組成式」である。「電子式」は価電子の電子対を黒ポチで表した表現法である。「構造式」は単結合だった一本線で、二重結合は二本線で、三重結合は三本線で表した表現法である。分子結晶は分子式で表すが、共有結合結晶は組成式で表す。

    65.【化学結合のひとつである共有結合】
     「H₂」は共有結合で2個の電子を共有している。「H₂O」もそうである。酸素は価電子が6個だからネオン原子みたいに価電子が8個だとみなせるためには水素が2個必要だったのである。電子式で描けば水分子には非共有電子対が2組あることがわかる。水分子は酸素と水が共有結合の中でも「単結合」している。「二酸化炭素分子CO₂」は、共有結合の中でも「二重結合」している。「窒素分子N₂」は共有結合の中でも「三重結合」している。

    66.【分子の形と匂いの関係】
     「アンモニア分子NH₃」は三角錐のような形、「メタン分子CH₄」は正四面体のような形、水分子は折れ線のような形、水素分子と窒素分子と二酸化炭素分子は直線形をしている。匂いがわかるのは分子の形が匂いの受容器に、鍵と鍵穴のようにフィットするからなのである。

    67.【電気陰性度:フッ素樹脂加工のフライパン】
     電気陰性度とは、「共有結合をしている分子において、それぞれの原子が共有電子対を引き寄せる強さ」のこと。電気陰性度が一番大きくて、共有電子対をめちゃくちゃひきつけるのが、フッ素である。フッ素樹脂加工のフライパンは油をひかなくてもコゲが付着しない。それは、あらかじめフッ素がとても強い力でフライパンの表面の電子を確保しているから、他のものが付着しようがなくなっているからなのだ。

    68.【電子レンジは水分子の極性を利用している】
     水素分子は電気陰性度が左右で等しいから偏りはない。「塩化水素分子HCl」は、偏りがあって、塩素の方が電気陰性度がとても大きいから、電子対は塩素にとても偏っている。だから塩素は僅かに負の電荷を帯びている。δには微小なという意味があるから、「塩化水素分子HCl」において塩素はδマイナスで、水素はδプラスになる。水分子は折線型であるから極性がキャンセルされなくなり、極性分子となる。二酸化炭素分子は直線型であるから極性が打ち消しあって、無極性分子となる。どういうことかというと、水分子の場合、水素よりも酸素の方が電気陰性度が大きい。それに対して、二酸化炭素分子の場合、炭素よりも酸素の方が電気陰性度が大きい。二酸化炭素分子では、酸素による電子のひっぱりがどちらも外向きで直線上になるから打ち消しあうけれど、水分子は酸素が電子を両側の水素から集めることになるが、折れ線型なので直線上にはならず、力が打ち消し合わない。メタン分子も二酸化炭素分子のように、極性が打ち消しあうから無極性分子である。メタンが正四面体構造だから、それぞれの力の合力がゼロになるのである。三角錐型のアンモニアも水分子のように打ち消し合うことが出来ず極性分子となるわけである。シクロヘキサンは無極性分子である。だから、水は静電気(例えば毛糸でこすったことで帯電したポリ塩化ビニルの棒)で引っ張ることができるけれど、シクロヘキサン(水素と炭素の化合物で分子式はC₆H₁₂)は静電気で引っ張ることができない。25℃の水と25℃のシクロヘキサンを電子レンジで温めると水は温まるけれどシクロヘキサンは温まらない。電子レンジはマイクロ波を照射させて水分子を振動させる仕組みだから、水分子の極性がないと振動しないのだ。また無極性のシクロヘキサンと極性の水分子は混ぜようとしても混ざらない。だから無極性のヨウ素で紫色に着色できるのはシクロヘキサンだけであるし、極性の硫酸銅(Ⅱ)で水色に着色できるのは水だけある。水性ペンが水で落ちるのに、油性ペンが水で落ちないのは、油性ペンのインクに極性がないが、水には極性があるため、両者は相互に混ざらないからである。砂糖はショ糖分子(=45個の原子で構成される分子=C₁₂H₂₂O₁₁)でできているが、ショ糖分子は極性分子だから、同じ極性分子である水に溶けやすいのである。

    69.【分子結晶の特徴:無極性分子には静電気的な引力が働いていないのか問題】
     極性分子において静電気的な引力により分子が引きつけ合うのはいいとして、無極性分子においても電子がミクロに見ると運動しているせいで瞬間的には電子の偏りが生じてごく弱い極性が生じている。この分子間の引力で成立した結晶が「分子結晶」である。分子結晶の特徴はイオン結晶と比べて融点が低く、昇華しやすい。例えば「メントール」の固体などは極性分子の結晶なのにすぐに昇華する。ドライアイスなどは無極性分子の結晶だからさらにすぐに昇華する。ドライアイスは室温でさえ昇華する。ナフタレン(C₁₀H₈)も氷もヨウ素(I₂)も分子結晶である。メントールは、分子に極性があるから分子間力が大きいが、ドライアイスは分子に極性がないから分子間力が小さいのである。だから、メントールは室温だと固体のままだが、ドライアイスは室温でさえ昇華するのである。メントールもドライアイスも分子結晶ではあるが、極性分子か無極性分子かが異なるのである。

    70.【化学結合のひとつである金属結合】
     ガラス板は(常温だと)電気を通さない(高温だと通す)が10円玉は電気を通す。金属結晶は自由電子が動き回ることで金属原子同士を結びつける金属結合によってできているから、その自由電子が動くことで電気を通すのである。「自由電子による金属原子同士の結びつき」のことを金属結合と呼ぶ。自由電子が動き回ることで、熱もよく伝えるのである。また、アルミホイルなどに顕著な金属光沢も、自由電子によるものである。さらに多少金属原子たちの位置や配列がズレても自由電子が自由に動き回ることで結合を維持できるのである。だから金属は伸びる。そういうわけで、金属結晶の特徴①は、電気伝導性が大きいこと、金属結晶の特徴②は、熱伝導性が大きいこと、金属結晶の特徴③は、金属光沢があること、金属結晶の特徴④は、延性(引っ張ると伸びること)と展性(押すと広がること)があることである。例えば、金箔は何度も金を叩いて金を1万分の1ミリメートルにまで伸ばすことができる。また送電線ワイヤーは金属を「ダイス」という器具で7倍に伸ばすことで作られている。アルミニウムと銅と鉄だと、銅→アルミニウム→鉄の順で熱伝導性が高い。銀や銅は鉄の5倍熱を伝えやすい。だから、プロの料理人の鍋は鉄製よりは銅製の場合がある。一般家庭では軽いのでアルミニウムの鍋が使われやすい。鉄の融点は1538度なので、融点が高い鉄の鍋は、火力がとても重要な中華鍋で使われている。

    71.【結晶は基本的に四種類ある】
     結晶は①イオン結晶、②金属結晶、③分子結晶、④共有結合結晶がある。③分子結晶と④共有結合結晶は違うものなので注意が必要。分子結晶の代表はナフタレン(C₁₀H₈)、氷、ヨウ素(I₂)やドライアイスである。共有結合結晶の代表はダイヤモンド、ケイ素の単体、二酸化ケイ素、炭化ケイ素である。どちらも非金属元素で出来ている。有機溶媒ベンゼン(C₆H₆)に溶ける方が分子結晶で、溶けない方が共有結合結晶である。分子結晶は分子式で表すが、共有結合結晶は組成式で表す。一番覚えやすい覚え方としては、分子結晶は(前述した通り)昇華性を持つので融点が低く、共有結合結晶は融点が非常に高い。分子結晶の結合は分子間力(=ファンデルワールス力と水素結合のこと)だが、共有結合結晶の結合は共有結合である。ドライアイスと黒鉛は理解が難しい。二酸化炭素分子CO₂自体は共有結合で出来ているが、それが分子間力で面心立方格子に並んでいるので、ドライアイスは③分子結晶になる。氷もそうで、水分子自体は共有結合で出来ているが、その結晶は分子間力だから③分子結晶である。黒鉛(グラファイト)の場合は、価電子が4つの炭素原子からできる黒鉛のシートそれ自体は共有結合で出来ているのだが、そのシートには価電子を3つしか使わないので残りの1個が運動できるようになっている。そしてこのシートそれぞれがファンデルワールス力でミルフィーユのように重なっているのが黒鉛なのだ(黒鉛が電気を通すのはこれが理由である。ただし、金属結晶の自由電子は3次元方向に移動できるが、黒鉛の電子はそんなに自由ではない)。よって黒鉛はシートだけで見ると、④共有結合結晶ということになる。まとめると、③分子結晶はまず共有結合により分子が出来て、その分子が分子間力によって結晶化すると理解し、それに対して、④共有結合結晶 は、共有結合一本によって生じた結晶だ、と理解しておくといい。構成粒子の観点から見ると、①イオン結晶の構成粒子は①イオンであり(金属元素が陽イオンを提供し、非金属元素の方が陰イオンを提供することでクーロン力によって結合している)、②金属結晶の構成粒子は②金属原子で、③ 分子結晶の構成粒子は③分子で、④共有結合の構成粒子は④非金属原子である。こうやって整理して理解するといい。ダイヤモンドは共有結合の結晶の代表であるが、炭素原子が共有結合だけでつながりピラミッド状の構造模型になる。シート上のグラファイトのようにはならない。ダイヤモンドの融点は4430℃だし、ダイヤモンドカッターに使えるほど硬い。それに対して黒鉛はシートだけで見れば共有結合の結晶だが、鉛筆に使えるほど脆い。ケイ素もダイヤモンドと同じようなピラミッド状の共有結合結晶を作る。シリコンウェハーという半導体の材料に使われている。融点で見てみると、①イオン結晶の融点は高く(塩は801℃)、②金属結晶の融点は色々(鉄は1535℃なのにタングステンは3410℃で水銀はマイナス39℃である)で、③分子結晶は低く(メントールは熱するとすぐに昇華してしまうしドライアイスは室温で昇華する)、④共有結合結晶の融点は非常に高い(ダイヤモンドの融点は4430℃)。

    72.【有機化合物(=化合物のひとつ)と、無機物質の違い】
     有機化合物は1億種類くらいある。例えば、塩とガラスと乾電池は無機物質で、砂糖とプラスチックとノートは有機化合物である。有機化合物以外のものはなんでも無機物質である。「有機物は炭素をベースとしており、無機物質はそうではない」と理解していいのだが、驚くべきことに、炭素の同素体である黒鉛やダイヤモンド、それから二酸化炭素は無機物質である。塩は塩化ナトリウムからできている無機物質、ガラスは二酸化ケイ素からできている無機物質、乾電池は亜鉛などからできている無機物質、砂糖はサトウキビのショ糖からできている有機化合物、プラスチックは石油からできている有機化合物、ノートはセルロースでできている有機化合物である。空気も水も無機物質である。カイロの中に入っている鉄粉も活性炭も無機物質である。

    73.【炭素と二酸化炭素が無機物である理由】
     有機物を空気中で燃やすと何が発生するかというと、二酸化炭素と水が発生するのでなければならない。これを化学反応式のように書いてみると「有機物+酸素→二酸化炭素+水」となる。このとき、二酸化炭素は、有機物の中の炭素と空気中の酸素とが結びついてできるのであるが、水のほうは、有機物の中の水素と空気中の酸素とが結びついてできるのである。だから、このような「有機物」であるための条件を満たすためには、「有機物」には「炭素」だけでなく、「水素」も含まれていなければならないことになる。しかし、炭素の単体である黒鉛や、二酸化炭素には、炭素はあっても、水素が含まれていないため、無機物という扱いになるわけなのだ。これが、炭素が無機物である理由である。だから、逆に、「有機物に含まれている原子を2種類答えなさい。」などと言われたら、「炭素と水素」と答えるのが正解となる。

    74.【アンモニア発電】
     水素は宇宙で一番多くて軽い無機物である。水素を燃焼させるのが水素エンジン車であり、燃料電池車は水素と反応させて燃えた時に発生する電気で動くのが燃料電池車である。アンモニアNH₃も、燃えた

  • なかなか

  • そろそろ、化学の勉強する。

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