ソクラテス (センチュリーブックス 人と思想 3)

著者 :
  • 清水書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784389410032
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  • ■『ソクラテス』 清水書院 人と思想シリーズ

    【後編 同時性/メシヤ降臨準備時代】
    教科書製作なども手掛けている清水書院の人と思想シリーズです。200ページほどの内容に一人の人物の生涯と思想を良質にまとめている信頼のおけるシリーズです。1960年代から刊行が始まり、現在までゆっくりとしたペースで刊行されており、現在200巻を越えています。個人的にも知識のインデックスとして愛用しています。内容のレベル的には、哲学思想などに触れていない人には難しく感じると思いますが、哲学書を直接読んでしまう人に何かは物足りなく感じるぐらいだと思います。

    そんな人と思想シリーズの3巻目、哲学の祖ソクラテスです。紀元前400年ごろのギリシャ。当時の世界において、最高の政治と思想がそこにはありました。自然科学の起こりがタレースをはじめとする自然哲学者により進み、そんな知の探究が人間の仕事として成り立つようになると、アテネに人間の生にかかわる初めての哲学が起こります。それはソクラテスという一人の老人の問いから始まりました。
    アテネのパルテノン神殿が構える海と白い石の丘、アクロポリスにおいて、ソクラテスは道行く人に尋ねました。本当の知とは何か、善とは何か、真実とは何か。彼は対話という形をとり、人々との問答の中で人が自らその無知を悟るように導きました。ソクラテスの言う真の知識とは、私は何も知らないということを知っている、ということです。デルフォイ神殿においての信託で、自らを愚か者だと自負していたソクラテスが、最も賢いと告げられた理由は、誰も理解していなかった自らの無知を彼だけが知っていたからでした。
    ソクラテスがそれまでの自然哲学者と一線を画し、哲学の祖として熱狂的にあがめられている理由がそこにはあります。自然哲学者たちは唯物的に自然を見つめ、その真理を探究していきましたし、それがその当時の流行りでもありました。しかしソクラテスは、人間には知りえないものがある、という従来の神と人間の知的な領域を分ける保守的な主張を強めた立場であります。唯物論に対しては不可知論的立場をとっています。しかし、従来の思想が神々への信仰としてとどまっていた部分を、より知的に見極め、人間はどこまでを知ることができどこからは知ることができないのか、という境をより厳密に見つめようとしました。その結果、真善美の価値のより深い追求につながり、人生のより深い思索を人々に促す、哲学の素地を築き上げました。
    ソクラテスは著作を一冊も残していません。ではどうして彼の思想のごときものを我々は知ることができるのか、というと、その弟子のプラトンが彼の問答を書き残しているからです。プラトンは多くの著作を、ソクラテスと幾人かとの対話篇という形で残しました。そういう意味で、ソクラテスとプラトンは切り離すことのできない立場です。どこからがソクラテスの思想で、どこからがプラトンの思想なのかという厳密な線引が難しいからです。なので人によっては二人を連続して考え、ソクラテス‐プラトンというような表記をしている人もいます。ソクラテスは偉大な思想の祖であるという立場と著作を一冊も残していないという立場で、キリスト教においてのイエス、仏教においての釈迦と似ています。

    またソクラテスの名を不動のものとしているエピソードとしては、彼の死にまつわる話が有名です。
    ソクラテスはそんな問答ばかりを道行く人に投げかけていたので、政府から危険思想、国家紊乱の門でとらえられます。アテネから逃げていれば助かったのですが、彼はその思想と生涯の一致を示すためにあえてつかまり、毒杯を仰ぎこの世を去ります。ソクラテスは、人間は正しいことを真に理解した時には人間は動かざるを得ないと主張しました。その「知即行動」の信念のまま、弟子たちに囲まれる中で息絶えていったのです。死にざまを見ても、イエスと重なる部分が多くみられるんですよね。不思議です。

    原理ではソクラテス‐プラトン‐アリストテレスは、メシヤ降臨準備時代として、イエスがメシヤとして生まれ、その使命果たしていくうえで思想的な素地を世界的に準備した人物として語られます。それ以外には釈迦や孔子、ローマ帝国があげられています。哲学というのは広大な学的分野で、少しの興味では跳ね返されるぐらいに手ごわいですが、一人の思想をその背景とともに掘り下げていくことは、我々の生き方と直接にかかわることとして重要です。ソクラテスはそのテンプレートのような人物です。

  • 哲学書はたくさん読んだが、ソクラテスについてのモノは断片的にしか触れていなかったので、しっかり見つめ直す機会になって感謝。事実本人の著書が残っておらず、思想的な側面も伝聞でしか聞こえてこないので不確かな部分は多いが、その生き様の不滅さが心を捉えて離さない。
     どんなときも心に正直に正しくあろうと進んだ賢人の人生が胸を打ちます。

    11/11/7

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