- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784393134481
作品紹介・あらすじ
仏教の深層心理、唯識の世界の扉を開く、目からウロコの超入門。わたしの「心」とは何か。そして「世界」とは。難解な心の哲学、仏教唯識の考えを、俳句や短歌など日本の詩歌を通して、分かりやすく明快に、生きてあることの共感をも込めて解き明かす。
感想・レビュー・書評
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日本経済新聞社小中大
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俳句で学ぶ唯識 超入門 多川俊映氏
分かれば物の見方が変わる
2021/8/7付日本経済新聞 朝刊
法相(ほっそう)宗の教義である唯識の著書を数多く世に問うてきた多川さんが俳句を手掛かりに唯識の入門書を書いた。「唯識と俳句。異色の取り合わせにみえるが、昔から道歌(どうか)というものがあって、仏教の考え方などを短歌や俳句の形にして理解を助けている」
たがわ・しゅんえい 法相宗大本山興福寺寺務老院。貫首時代から伽藍(がらん)の復興に取り組む傍ら、法相宗の教義である唯識を平易に解説した著書多数。
たがわ・しゅんえい 法相宗大本山興福寺寺務老院。貫首時代から伽藍(がらん)の復興に取り組む傍ら、法相宗の教義である唯識を平易に解説した著書多数。
「10年前に『俳句で学ぶ唯識』と題して講演したが、うまくいった実感がなかった。以来、俳句、短歌、川柳などを渉猟して平易な唯識の本を書く構想を温めていた。短詩文学が好きなので執筆は面白かった。3カ月余りで脱稿しました」
唯識とは「唯(ただ)識のみなり」の意味。すべては心の働きによる情報で、視覚など五感覚で得たものと自覚的な意識、さらには潜在する自己中心性の末那識(まなしき)と大本の阿頼耶識(あらやしき)があり、これら8つの識が複雑に作用し合って人の認識する世界を構成しているとする教えだ。
この本は古今の名句を唯識の観点で解釈していて新鮮で刺激的だ。「道のべの木槿(むくげ)は馬にくはれけり」。芭蕉の句だ。「清楚(せいそ)な花を馬が食べるので芭蕉は驚いている。馬は満腹なら木槿に見向きもしないはず。それぞれの立場や状況で見える世界が全く異なる。人と人でも見え方は違う」
「『四温なりお茶の熱さが違う夜』(永六輔)。感じ方や受け止め方の違いは日常生活でもしばしば起きる。それが分かれば唯識理解の第一歩になる」
「五月雨をあつめて早し最上川」。これも芭蕉。大河は遥(はる)か上流から流れ来て、一瞬の今を経て下流に滔々(とうとう)と流れ去る。この永遠の流れは阿頼耶識にたとえられる。阿頼耶識は日々認識した膨大な情報をことごとくファイルして、すべての識を司(つかさど)る。五月雨の粒をためて大河になるように。「そのイメージが頭に入ると唯識が学びやすい」
「唯識を身近に感じてほしい。心の構造や認識のメカニズムが分かると、物の見方や人を見る目が違ってくる。これまでとは別の新たな世界が見えてきます」
(春秋社・2200円)
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