丹下健三 ディテールの思考

著者 :
  • 彰国社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784395321018

作品紹介・あらすじ

本書は丹下建築のディテールや施工に焦点を当て、構造・設備エンジニアやゼネコン・メーカーの技術者などとともに考えるプロセスを記述し、いかに具体的に実現していったかを伝える。工学技術を最大限に取り込み、近代化を推し進めてきた一種の技術史として読める部分が、他の著書と大きな違いである。

感想・レビュー・書評

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  • バルザックの小説『ゴリオ爺さん』の冒頭は、パリ下町の狭い路地の奥の下宿屋への道のりに、どこに何がどのように生えていたり置かれていたりするのか、何回の誰の部屋には何がどのように置かれていてそれにはどんな挿話があるのかを、息の長い長い文章でネチネチと書き綴られていて、読み進めるのは難儀なのだけれども次第に気持ちよくなってきて、ああ、ラスティニャックやゴリオの暮らしていたパリはこのような時代、このような場所であったのかということが匂い立つようにして明らかになってくるというものになっている。

    本書もまた、モノとしての丹下建築が、どのように作られているのかを正確に克明にネチネチと記述していく。どの建物も有名なものでありその多くは実際に体験したこともある空間だけれども、ここに書かれているような形で作られているのだとは知らなかったから、読み進めるうちに、自分の知らなかった建築の有様が匂い立つようにして眼前に現れてくるように感じられ、その難儀な書き振りに付き合っていくことを通じて、丹下が、時代の最高のエンジニアとともに、攻め切ったギリギリの方法で、建築を作り続けてきたことがよくわかるのである。

    この、バルザックのような、ネチネチと濃密な細部の記述を楽しんで読み進めていけるかどうかは、建築を業とできるかどうかの試金石にもなりうるのではなかろうか。そして、嬉々としてこのように書き進める筆者の資質にもまた喜ばしく走る勢いを感じずにはおられない。

    人脈や時代精神のことではなく、極めて即物的に丹下建築が現れてくる。読みたかったのはこういう丹下建築論だ。

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著者プロフィール

豊川斎赫(とよかわ・さいかく):
1973年宮城県生まれ。建築家、建築史家、工学博士、一級建築士。2000年東京大学大学院修了。日本設計、国立小山高専を経て、2017年より千葉大学大学院工学研究科建築・都市科学専攻准教授、現在に至る。
主な作品:国立小山高専建築学科棟改修工事(2014年、小山市景観賞まちなみ部門奨励賞)ほか。
主な著書:「群像としての丹下研究室」(2012年、オーム社、日本建築学会著作賞、日本イコモス奨励賞)、「丹下健三が見た丹下健三」(2016年、TOTO出版、編者、アートドキュメンテーション学会賞)、「丹下健三 戦後日本の構想者」(2016年、岩波書店)、ほか。

「2017年 『丹下健三と都市』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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