異形の政権 ――菅義偉の正体 (祥伝社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396116378

作品紹介・あらすじ

「異形の政権」がもたらす危機
2020年9月、菅義偉自由民主党総裁が首相に就任した。
菅首相はこれまでの首相にない「異形の権力者」であり、
その政体は「異形の政権」であると、著者2人は言う。
具体的には無派閥・非世襲の政治家であり、
総裁選直前まで下馬評に上ることはなかったが、
安倍晋三前首相が辞意を表明するや一気に上り詰め、
政権発足後は権力を極度に自分へと集中させている。
他方、菅首相がどのように権力を行使しているかはほとんど報道されない。
なぜこのような政権が誕生したのか、その実態とはいかなるものか。
前著『長期政権のあと』で安倍政権の本質を見抜いた著者2人が読み解く。
見えてきたのは、不気味な〝危機の足音〟だった。

(以下、目次)
第一章 異形の権力者・菅義偉
第二章 菅政権の権力構造
第三章 総理総裁への道はどう変わったか
第四章 短期政権になる宰相、ならない宰相
第五章 新たな世界地図

感想・レビュー・書評

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  • 安倍政権では官邸への権力集中に反比例して、霞が関(官僚)に緩みが生じた。
    こんな政治の状態を放置しておくと日本は奈落の底に沈む、というのが佐藤優さんの心配事だ。

    出版時は菅政権だったのでこんなタイトルだが、現状理解のために自民党政権の変遷や世界の状況も再確認している。

    本書は菅政権の問題点を明らかにし、その解決策を示そうとしたものだ。
    だが、菅政権の分析は2章までの70ページで、総じて民主主義の危機を論じている。

    スウェーデンに民主主義の多様性の調査機関V-Demがある。
    この機関によると、民主主義から権威主義へは
    「選挙によって政権獲得 → メディアと市民社会の弾圧 → 社会を分断 → 敵対者を貶める → 選挙をコントロール」
    の段階を経るとしている。
    まさに、トランプ前大統領が取ってきた手法と一致する。

    日本も同様に、民主主義から権威主義に傾いている。
    権力の内側・外側の両方から権力構造を明らかにし問題を正すことが、民主主義を取り戻すために必須の作業だ。

    山口二郎さんは、立憲民主党を核とする野党共闘で政権交代することが適切と考え活動している。
    佐藤優さんは、混乱を避けるため政権交代はせずに、与党と官僚機構の綱紀粛正を実現させるのが良いとしている。

    "おわりに"の日付が2021年8月なので、コロナが蔓延する中で東京五輪が行われていた頃に本書は書かれている。
    菅政権の終わりは2021年9月末だから、本書の出版時には菅は次期総裁選に出馬できない状況に追い込まれている。

    本書では、佐藤さんも山口さんも、菅政権はふらふらしながらもしぶといと予想していた。
    ところが自民党は、前回の総裁選で一度潰した岸田を総理にした。
    自民党内部のくだらない権力争いの結果なのだろう。

    さて、最近はレビューが長くなりがちなのだが、本書で明かされた菅義偉の正体にも触れておこう。

    タイトルにある「異形の」は、菅政権の姿を分析して出てきた言葉だ。
    菅義偉が、これまでの総理大臣と明確に異なるのは、
    ・派閥に属さない
    ・叩き上げ(世襲議員ではない)
    であることのようだ。
    このことが、人を信用しない、任せられない=自分で決める。という基本姿勢を生み、いろんな人事にも表れている。

    2020年9月14日、安倍晋三氏の後任の自民党総裁として選出された菅義偉氏は、決意表明のなかでこう語った。
    「私が目指す社会像。それは自助、共助、公助、そして『絆』であります」
    「まずは、自分でできることは自分でやってみる。そして、地域や家族で助け合う。その上で、政府がセーフティーネットで守る」

    ライバルを蹴落としながら競争に勝ってきた人は、自分の努力の賜物だと自己評価する。
    ダメなやつは努力してないからだと決めつけがちだ。
    そして自分の足を引っ張る奴を遠ざける努力も惜しまない。

    菅首相による日本学術会議会員6名の任命拒否とその理由を話さない姿勢は問題視された。
    この6人は、特定秘密保護法を「民主主義の基盤そのものを危うくしかねない」と批判したり、安全保障関連法に反対している。
    つまり、菅義偉が強く関わった法案を強く非難した(気に食わなかった)人達だ。

    菅さんは、政治思想としてマキュアヴェッリを信奉しており、政治姿勢の特徴である「答えない、説明しない」も正にその教えに従っている。

    昔は、「無知なやつら(国民)には本心や真実は隠して、良い方向(自分の理想)に導く」不言実行が有能だとされていた。
    今の時代は情報の検索が容易になり、隠し事がしにくくなったので、有言実行・正直丁寧で信頼と共感を得ることが好まれる。
    日本社会をこうしたい!というビジョンを語らず、政治や社会の不備は国民の自己責任に押し付けた菅政権は想定以上に国民から嫌われた。

    それでも、野党はそれ以上に信頼を失っているし、次期総裁候補と期待される政治家も見当たらない。
    「誰でも代わり映えしないなら菅のままでいいか」というのが当時の空気だったから、佐藤さんも山口さんも菅政権継続との予想が外れた。

    今後の日本の経済状況次第なのだろうが、(既に2年になる)岸田政権は長く続きそうだ。
    今は統一教会の問題の冷却期間が必要だし、「誰でも代わり映えしないなら岸田のままでいいか」という雰囲気。

    自民党の支持理由のトップは、
    「ほかの政党より良さそうだから」
    内閣の支持理由のトップは、
    「他の内閣より良さそうだから」

    内閣改造するたびに「他の内閣」になるのだから、日本の政治はどんどん劣化しているということ。
    改善が望めないなら劣化させないように、ということで現状維持を選択するのが今の日本か… (-_-;

  • 先日の選挙で、投票した人が落ちてしまって
    「ほらね、やっぱり私が行っても無駄じゃん。」
    と、いつもなら思ってしまうのですが、
    今回は違います。

    「投票済証明書」を持って一風堂に行って
    赤丸新味に卵を無料でつけてもらったから!
    とても良い企画なので、他の店にもひろまったらいいな。

    と、このような状況で、いまさら菅さんの本を読んでも
    どうかなと思ったのですが、面白かったです。(難しかったけど)

    山口二郎さんと佐藤優さんによる前著『長期政権のあと』が発行されたのは、安部さん辞任発表の3週間位前。
    私が読んだのは菅さん岸田さん石破さんの三つ巴の頃でした。
    一方菅さん辞任発表の1週間後
    この『異形の政権』が発行されました。
    どちらもギリギリの位置で公開されているんですね。

    でも単純に菅さんという人について書かれているというだけでなく、
    今までの総理総裁のこととか
    短期政権になる宰相、ならない宰相
    そして私の好きな、佐藤優さんによる現在とこれからの世界など
    決して遅すぎの内容ではありません。

    私、岸田さんは長くなるんじゃないかなと見ているんです。
    短期政権になる理由は「首相のパーソナリティ」によるものが大きい。
    「スキャンダル」「失言」「健康」「権力への粘着性」といった、個人の資質・人間性にかかわるもので、しかも偶発性をともなう、と山口さん。
    「権力への粘着性」ありそうだもの、岸田さん。
    菅さんより嬉しそうに見えます。
    がんばって。

  • この本が出た時はまだ菅政権だったんだなあ、と改めて思った。去年の話なんだなあ。確かにちょっと変わった政権だったなあ。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/769104

  • 菅政権は本書から予想されるとおり、短命に終わった。

  • タイトルからは管政権を論じた本だと思われがちだが、それが論じられるのは主に第1章のみで、それ以降は自民党の55年体制の振り返りが大半で、管政権はその流れの中で少々触れられる程度である。

    さすがに管政権だけでは話しが持たなかったのだろう。

    また、管政権の分析についても、安倍政権を維持したい人が緊急避難的に管氏を推して成立したという、誰にでも分かるような話が続く。

    2021年の総裁選を振り返ると、当初管氏のライバルは石破茂と河野太郎であった。

    この3人の争いであれば、安倍路線を承継させたい人間が未だ主流を占めている政界にあっては、最もその適任者は誰かという視点から、消去法的に管氏の総理続投が現実的であった。

    しかし、ここに無色透明な、その意味で管氏とキャラ被りする岸田文雄が出てきて状況が一変した。
    その結果、管氏が総裁選から離脱したことは周知のとおり。

    そして、何をやらかすか分からない河野と石破は案の定、排除され、晴れて岸田が総理となった。
    さらに、この結末は海外メディアに古い自民党の体制を変えられなかったとして大いに失望された。

    本書は、総裁選前の2021年夏に書かれた。つまり、管氏が総理続投なるかどうか不明な状態であった。

    故に、管総理続投の可能性もあったため、わざわざ本書を上梓したのであろうが、結果的には1年で終わる短命政権となったのは皮肉である。

    とはいえ、昭和から平成にいたる日本政治史の振り返りの本としては、それなりに楽しめた。

  • 菅政権退陣後にこの本で元首相のことを読むと、当時からこういう考え方をしているんだ、と発見があります。

  • この手の本は眉唾物だが、愛読している佐藤優が書いたものだったので読んでみた。発売が菅氏が総裁選への出馬断念した直後で、書かれたのがその直前ということだったが、情報の新しさは十分に感じられた。菅政権について、佐藤優がどう感じているのか興味深かった。一番よかったと思ったのは、3、4章の過去の自民党政権の変遷について。これはとても参考になった。山口二郎の考え方は相当に偏っているのかと思っていたが、本の流れが佐藤優とのリレー方式だったので、それほど違和感はなかった。前著『長期政権のあと』も読んでみたいと思った。

  • 菅総理が次期総裁選不出馬の報とほぼ同時に発売という、今読まなきゃいつ読むんだという本。 うーん……山口氏の噂は色々聞いていましたが、ここまでお花畑だとは思いませんでした。 読み進めるに従いその考え方の幼稚性に対し、最後の方では吐き気すら覚えるほど。こんなのが当時の民主党のブレーンだったというのだから、そりゃあんな政権になろうというもの。世界から見た日本というものがまるで理解出来ておらず、共産党が左側の公明党になるべきだ、等という論調は草も生えない。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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