英雄の魂: 小説石原莞爾 (祥伝社文庫 あ 7-7)

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  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396332334

感想・レビュー・書評

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  • 石原莞爾の歴史小説としては、多くの情報を参考にしながら作られているのではないか。
    なかなか、真の姿が理解し難い人物ではあるが、このような歴史小説は理解を助けてくれる。
    石原は、陸軍幼年学校出身であり、その才能、軍事史への深い造詣はよく理解できた。
    一方、その陸軍の若年からの英才教育の仕組みが彼のような人物、詰まり、ロジカルな戦略が絶対だとする過信を生み出す元凶になったのではないかとも感じた。
    石原の戦術は、その背景に大きなビジョンがあるので、確かに強く、理路整然としている。ただ、その大きなビジョンが理想主義をベースとしているが故に、そこに綻びがあった。
    歴史を理解する上で、実際に起きた事実に加え、当時、考えられていたシナリオを理解することは、重要なことだと感じた。

    以下抜粋~
    「せっかくだが石原大佐、陸軍の対ソ重視の方針に海軍は同意できません。伝統的に海軍は北守南進が大方針なのです。ソ連と戦うことには反対です」
    陸海軍の考え方には大きな食い違いがあった。石原の国防国策がソ連を第一の仮想敵国としているのにたいして、海軍は石油、鉱物資源の豊富なジャワ、スマトラ、ボルネオ、マレーなど西欧諸国の植民地への進出を念願しているのだ。

    中国経済は地方単位の性格が強く、政府の紙幣よりも銀が通貨の主役だった。(イギリスが支援した)幣制改革はこの経済的地方分権を打破し、経済面での中国統一をもたらした。全国制覇を志す蒋介石にとっては強力な追い風である。通貨が英貨とリンクするので、イギリスとの関係がきわめて濃密になった。

    「なんとしても日中戦争は回避しなくてはならん。満州国さえ中国が承認すれば、北支那駐留軍は撤兵させてもいい。天津や上海の租界も返してやる。そのぐらいの譲歩をする決心で親善をはからなくてはならぬのだ。この方針を全軍に徹底させなくてはならぬな」

    「中国が満州国を承認する可能性はまだじゅうぶんにある。五族協和、王道楽土を実現してみせればよいのだ。それなら彼らも納得する。満州国民の多くが漢民族なのだから」
    あまりにも理想主義的。あまりにも観念的。空疎にすぎる。現実の中国にそんなきれいごとは通らない。

  • 父と読む

  • うちの会社の常務から薦められて石原莞爾の小説を読んだ。
    日中、太平洋戦争での軍人に焦点をあてた小説を読むのは
    初めてのことだったので、知らなかったことばかりで、
    というよりは石原莞爾さえこの小説をまで知らなかった。
    まさに無知の知というわけだ。

    石原莞爾。

    関東軍作戦主任参謀で、日本が全面戦争に入っていったと言われる昭和6年の満州事変の作戦立案者だった。彼が満州国の建国したと言っても過言ではないだろう。しかし、後に、暴走する東条英機らと衝突し、陸軍を追われることとなる。戦後、東京裁判の際、「なぜ自分を裁かぬ」と言ったそうだ。彼は何の罪をとがめられず、戦後4年たった昭和24年、60歳で亡くなっている。

    この一冊読んだだけで、ここで偉そうに戦中史を語るのは毛頭ない。小説を鵜呑みにするわけではないけれど、学校の教科書に出てきた満州事変がかくもすすめられたのか、と知るきっかけとなった。それよりも、小説を通して垣間見える石原莞爾の人物像に関心がいった。

    政府というか、世論というか、「米英との戦争必至」という中、彼は異論を唱えた。日本の国力は到底及ばないという分析結果、いつか訪れるであろう「世界最終戦争」に勝ち抜くべく、今は戦争を回避して国力をつけるときだと叫んだ。

    詳細な分析と崇高なビジョン。目先の利権や覇権にしか目が向かなかった当時の政府首脳(すなわち軍部中枢部)には理解されなかった。

    大勢に向かって異論を唱える勇気・心意気、それを裏付けるビジョンと分析。現代社会という中の大きな組織、会社やグループなどといった組織のなかで自分達は生きているけれど、自分の意と異なる流れを起きているときにいかに自分の論を唱えるか。ある種、自分の存在意義をどこに見出すか。

    トレンドが大きければ大きいほど負けてしまいそうな自分。
    自分で言うのも変なんだけど、そこら辺の確固たるぶれない
    STYLEをもっと磨き上げていかないといけないと思う。
    もっと己を磨き、自己表現する術をしっかり身につけたい。

    そんな風に思った。

    あと、彼の言う「最終戦総論」。
    これは、短絡的なものではないように思う。

    もう少し読み漁ってみたい。

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著者プロフィール

小説家

「2017年 『家電兄弟 松下幸之助と井植歳男』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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