- Amazon.co.jp ・本 (606ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396345891
感想・レビュー・書評
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第二次世界大戦下のポーランドの日本大使館に赴任した外務省書記生・棚倉慎。ロシア人の血を引く日本人である慎は、かつて日本を経由して祖国へ帰ったポーランド孤児たちが作った極東青年会と接触、ユダヤ人の青年ヤンや、アメリカ人記者のレイと共に、ドイツのポーランド侵攻やワルシャワ蜂起の中、ナチスの蛮行を日本に伝えようと情報収集を行い、やがてポーランドのために立ち上がる決心を固める。
史実を丹念になぞりつつ、現実にはいなかったがもしかしたらいたかもしれない日本人の姿、反実仮想としての戦争反対の意志の礫を描写した傑作。
歴史要素が強いが引き込まれてぐいぐい読み進められた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
個人と個人のつながりが国家のような大きな信用になる。
自分のルーツによっては祖国の正体に懐疑的になったり、逆に熱狂的になったりする。
でも個人の思い出や友情がそんな葛藤を乗り越えてくれる時もある。
個人は大きな国家や理念の犠牲となるような、小さな存在ではないのだ。 -
ナチスドイツ帝国に蹂躙される悲劇のポーランドの小説。
世界史を学んでも、イメージが湧きづらいポーランドだが、一気に引き込まれた。
遠い国だが、決して日本も無関係ではない。
キーとなる手紙のシーンには目頭が熱くなった。
高校生だけでなく大人も読む価値ある。 -
第2次大戦を扱う中でも、ポーランドという舞台設定がまずおもしろい。ナチはセンセーショナルになりやすい存在なのでフィクションにもよく使われるが、ホロコーストは題材的にも技術的にも取り上げにくそうで勇気が要るのではないか。前半は平時から戦時への移行で淡々と進むが、後半は主役を取り巻く占領下の環境の悲惨さが深まるにつれて、主役・準主役がますますアグレッシブに動くようになり、展開がどんどん速くなっていく。レイの素顔が露わになってから先が見もの。
須賀しのぶ作品は『革命前夜』もそうだったけど、米原万里の小説を読んだときに近い読み進まされ感があって、とても好みだ。文章がきれいで飲み込みやすいこともその読み進まされ感を加速しているんだろう。 -
ロシアがウクライナに侵攻している今
この本を読むことができて良かった。
今だからこそ受け取れるものがあるはず。
他国と国境を接していない日本の特異性を
今までより深く意識するきっかけとなった。 -
ロシアによる突然のウクライナ侵攻が今まさに起こっている中、手に取った本。
第二次世界大戦前のポーランド大使館に外交官書記生の棚倉慎が着任するところから始まる。
戦争を回避するため奔走する慎だが、戦争は勃発。ナチス・ドイツによる侵略、ユダヤ人の迫害、ワルシャワの蜂起。どんどん悪くなっていく状況に読み進めるのが本当につらかった。戦争ってこんなに残酷な事が起こるんだと、本当に恐ろしいです。
そして、この現代においても同じようなことが起こっていることに、驚きを恐怖を覚える。ロシアが一方的にウクライナに攻め入っている現状は、ドイツがポーランドに侵攻した時と同じような感じで。現在進行形で、「侵攻」「掌握」「陥落」等の言葉を新聞で目にする。一体いつの時代なのかと思うけど、現実で。
暴力に屈してはいけない、戦う誇りを持つ。それはそう。でも抵抗すればするだけ悲劇が起き犠牲者が増えてしまうつらさ。屈してしまったら別の地獄があることも事実。誇り高きポーランドの人々が今のウクライナの人々と重なりました。
ポーランドは何度も他の国に奪われてきた歴史を持つ。ヨーロッパにおける地続きの国境の感覚が日本人には実感しづらいところはある。日本は侵略も植民地化も経験したことがないので、本当のところで理解するのは難しい。あと、ユダヤ人に対する差別も実はピンと来ない。国民というわけでもなく、歴史的宗教的背景のある人たちで、でも民族としては同じなのでは…と不思議に思ってしまう。ナチス・ドイツのやったことは本当に信じがたく恐ろしい。忠誠や国を愛する思いは、ほぼ必然的に排他的な性質も帯びる。本来美しいはずの思いがどの時点でナチスのような醜悪な化け物に変貌するのだろう。
感想がまとまらなくなってきました。色々と考えるきっかけになる一冊でした。
心の中でショパンの「革命のエチュード」が鳴り響いています。 -
いろいろな、知らない言葉が出てきた
いろいろなことを考えさせられ、新たにいろいろな戦時中の本を読むきっかけになった -
大国ドイツとロシアの狭間で、右からも左からも大波に襲われては引き、翻弄されがらも自国のアイデンティティーを貫く、そんなポ-ランドの姿を垣間見た気がします。
一人はドイツ生まれのユダヤ系、一人はシベリア生まれのアメリカ国籍のポ-ランド人、一人はスラブ系の日本人、この3人の希望に満ちた約束は‥‥
終章のショパン《革命エチュード》がそんな3人の思いを奮い起たせて。
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第二次世界大戦開戦直前から終戦までのポーランドが舞台の小説。
あの時代のポーランドの立ち位置や、日本にいると想像するのが難しい民族意識、個々の立場と感情と行動を一貫させるのが困難な状況などが、小説というかたちでひとりの主人公とともに歩ませてもらうことで感じ取ることができた。
歴史を学んだだけでは想像しきれない心の痛みを、立場の違う登場人物たちのおかげで垣間見ることができた。本当に価値ある素晴らしい小説だと思う。
歴史を紐解いていると、自分がそこにいたらどう行動するかを考えさせられる。行動できないであろう自分も容易に想像できる。それゆえに下記の言葉が心に響いた。
『人は他人に思想を借りて自分の思想とする限り、自分にも、自分の行いにも最後まで責任を持つことができない。自ら考え、自ら信じるところに従って動く時のみ、全責任を負うことができるのだ。』(P482) -
子供の学校の卒業生が書いたというだけで手に取った作品。何も期待せずに読んだので、あまりの面白さにびっくりした。これが何の賞もとってないことに本当に驚いて、調べてみたら、一応、『蜜蜂と遠雷』の年に直木賞候補になっていた模様。でも、講評を読むと結構辛口でこれまたびっくり。
舞台は第二次世界大戦中のポーランド。大学受験は世界史を選択したのに、ポーランドの歴史を私は何も知らなかった・・という気持ちにさせるような、緻密な歴史描写。そこに、母国を確信できない青年3人の人生が重なるストーリー展開。確かに、清廉潔白すぎる人が多いし、現実味もないかもしれないが、これだけ歴史的事実を書き込んで、小説としての面白さもあるのだから、何か賞をとってほしい、映画化してほしいと思ってしまう。
読んだ後は、戦争の恐ろしさ、歴史の重みに放心状態。最近、読んだ気がしない小説が多い中、読み応えのある本だった。