- Amazon.co.jp ・マンガ (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396762971
感想・レビュー・書評
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岡崎京子のシンプルな絵が却って、怖さを感じる。
これが楳図かずお、大越孝太郎、丸尾末広、谷弘児といった見馴れた作家の絵だったら普通に観れるんだけどね(笑) -
著者の方は亡くなっている。沢尻エリカさんが、主演された映画。
随分前の作品だが、忘れられずにいる。
美は遷ろいやすく儚い。
私達は理想を思い描く。だけど、それは何に根ざしたものなのかを考えるべきだろう。優越感と劣等感の間で揺れ動きはしなかったか?拠り所のないもの、移ろいゆくものに頼ると地獄を見ることになる。
リリコの残酷すぎる生き様に魅せられて目が離せなかった。この漫画、すごい作品だと思う。 -
岡崎京子が描く女の子はいつだってリアルだ。
「自然体で」「私らしく」「ありのままで」なんて、最近よく聞く耳ざわりのいい、でもどこか空虚なコトバも、岡崎京子にかかれば一刀両断だ。
「バーカ!! なわけねーだろ!!」
「あたしがどんな思いで 今の体重をキープしてるか」
「お腹すかせて目が冴えて眠れなくて スイミン薬飲んでも眠れないとか」
「どんだけ時間とお金をかけて この白い肌を守ってるかとか」
「あんたたちに分かってたまるもんか!!」
りりこは自分が使い捨ての商品だということを知っている。しかも消費期限は恐ろしく短い。身も心もぼろぼろになりながら、それでも彼女はチキンレースから降りようとしない。誰よりも優れた商品であるということ以外に、自分の存在価値を見いだせないからだ。破滅につながるレースと分かっていても、まずそこで勝ってみせないことには、人格すら認められないのが世の常だからだ。もっとも勝ったからといって、心の平穏が得られるわけではない。いったん勝った者には、次は「勝ち続ける」という、さらに困難な課題が待ち受けている。
麻田検事のように、最初から他人の評価など気にしなければいいのかもしれない。けれど凡人にはそれが何より難しい。だからフツーの女の子たちは、「勝ちたい」と「ありのままで」の間を、ヘトヘトになりながら行ったり来たりする。いよいよ疲れてくると、「ありのままの自分で勝ちたい」なんて虫のいいことを考えてしまったりもする。
その点、良くも悪くもりりこは潔い。そんな甘ったれた考えは微塵も持っていない。
「生まれたときに決定されたもの? そんなの踏みつぶしてやったわよ」
「びしょぬれの同情なんかいらないもの
だとしたら無視されるか 笑いものになった方がましよ」
そう言い切るりりこの覚悟は痛ましいが、どこか爽快でもある。読み進めていくうち、いつしか彼女に声援を送っている自分に気づいた。
つまるところ、私たちみんな、誰でも少しは「りりこ」なのだ。妄執のために虎に変身して山奥に引きこもった男の話があるが、現代日本の女の子たちはココロに虎を棲まわせたまま、なんにも知らないような顔をして、クレイジーな日常を生きていかなくてはならない。
麻田検事が言うように、「この街はちっちゃなタイガー・リリィでいっぱい」なのだ。 -
これは持てるものと持たざるものの話だ。
一世を風靡するスーパーモデルりりこは全身整形の秘密を持ち、カメラの前では視聴者の理想通りの偶像を演じるが、ひとたびプライベートになれば付き人を性的に虐待し周囲に当たり散らすタチの悪い女。
何故彼女がそうなったのかがストーリーの進行と同時に紐解かれていくのだが、美しさを失うことに終始怯え続けるりりこの劣等感の根は深い。
美しさを失うのが怖いのは、それが偽物だとわかっているから。自分は賞味期限付きのパチモノだと痛いほど理解しているから。
後半、りりこの対比となる「正統な美」を生まれ持った若いモデルが登場するのだが、彼女のセリフがまた素晴らしい。
こずえは生まれながらにライオンであるからして、ライオンの皮を被ったキツネの気持ちがわからない。
この物語のすごいところ、そして怖いところは、りりこ自身がいずれ視聴者に飽きられると達観しているところ。達観すれども受け入れられない彼女の、周囲を巻き込んだ壮絶な悪あがきが何百ページにもわたって描かれる。
はたして私達は一年前に売れた芸能人の名前を思い出せるだろうか?
二年前、三年前は?
そんな思い出してさえもらえない一過性の人気のために、自己顕示欲と結び付いた自己承認欲求のモンスターとなりはて、文字通り骨も見も削るりりこ。この漫画の登場人物すべてが等しく愚かで、浅ましく、滑稽だ。
SNSに顕著であるが、私たちはもはや他人の目なくして自分の存在ありえないところまで行き着いてしまったのか。
りりこは他人見る故に我在り、こずえは我思う故に我在り。外と内どちらに依存するか、両者の違いは大きい。
ベクトルの方向性を間違えば、だれもが容易にりりこのようなモンスターへ堕ちていく。
人は足るを知らない生き物だ。整形は癖になるというが、痛みを感じる心を整形できないのに、皮一枚だけ整えた美に何の意味があるのか。
ラストシーンは賛否両論だが、私は己に一番近い人たちを道連れに行き着くところまで行き着いたりりこに、開き直った清々しささえ感じた。
悪くないラストだ。 -
漫画
スーパーモデルのお話
スーパーモデルには秘密があった
それが明らかになりそして、な展開
絵は好みではないですがストーリーは楽しめました
まぁでもこういう絵もいいかも -
流行は老いを認めない。しかるに我ら人間、悲しいかな、老いるは必定。
掴みどころのない流行に身を這わせておればいつしか速度に負け肌が千切れる。
「I've got blisters on my fingers!」——Helter Skelter/The Beatles
そを円熟とみるか、破局とみるか。真新しい肌を切り貼りして繕えるならそれも良かろうが。破れ、敗れて、全き笑顔は藪の中。しゃにむに自然を否むから盛者は必ず衰え、猛き者もついには滅ぶ。……しかし、滅び、流行から放擲されてなお、白色矮星と終わらんとするよりは人工の夢幻郷で絶叫する胆力があるならば、物語はいかばかりか複雑に続いてゆくこととなる…… -
おぞましい。
でも気になる。
恐ろしい。
でも惹かれる。
醜くて 美しくて
悲しい。
そして とてつもなく
カッコいい。
ラストは 痺れました。 -
実写版で沢尻エリカをキャスティングしたのに納得!
人は、手に入るものを「欲しい」と思っているうちが幸せなのかもしれない。 -
「散る花の命を惜しむことが芸術だ」みたいな文章を、18歳のときセンター試験の現代文で読んだことを、数年ぶりに思い出した。
この漫画とそれがリンクしているかどうかといえばしていないけれど。
全身整形してスターになった女性が、心身ともに崩れていく過程を描いている。
ちなみに16年前の作品。このどうしようもない感情は、もしかしたらずっと古くならないのかもしれない。 -
高原英理さんの『ゴシックハート』で本作について書かれていましたが、興味深い内容であったことを思い出します。「美貌」に囚われる女性たちと、りりこの妹であるちかこの「差異」がやはり好きです。
しかしまぁ、こりゃあ壮絶ですわ。すごい話を書くよなあ。読後は、えも言われぬモヤモヤというか、蟠りが残ります。なんとも言葉にできない…。高原さんの解説を読み直してみることにしましょう。
ただ、読んでいる時に一つ感じたのは、「なんか太宰の『人間失格』みたいだな」ということでした。なぜ、『人間失格』が出てきたのか。りりこは「人間失格」だとでも言うのでしょうか? 分かりません。けれど、不思議とこの二作は、似ているように感じるのです。表面を取り繕うとするところが似ていたり、作品に鏤められた鋭い言葉たちが、そう思わせたのでしょうか。とにかく、胸に迫る作品でした。
生々しく肉感的ではない、いかにも「マンガらしい絵」が、
女性の欲望と強迫観念を上手く表現している気がします。
ところで、p...
生々しく肉感的ではない、いかにも「マンガらしい絵」が、
女性の欲望と強迫観念を上手く表現している気がします。
ところで、p.26
りりこが額にできた小さな痣を見つけて絶叫するシーンのインスパイア元は、
確実に楳図御大の『洗礼』だろうと思うのですが(^_^;)