たまごの旅人

著者 :
  • 実業之日本社
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感想 : 178
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408537856

作品紹介・あらすじ

アイスランド、フランス、中国……異国で奮闘する新人旅行添乗員・遥の5つの旅の物語。あらたな一歩を踏み出す勇気が湧く一冊。

感想・レビュー・書評

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  • お仕事成長物語ですね。
    久しぶりに近藤さんの作品に出会いました。相変わらず優しい読みやすい文章で、にもかかわらず深みのある人間模様に触れました。
    旅行添乗員に憧れて、夢をかなえて仕事につくことが出来た遥のデビュー旅行から物語は始まる。奇しくも起因になった憧れの添乗員と同じ旅行先となり、ピンチを切り抜ける手助けも受ける。
    「添乗員は卵のようなもの」との憧れの添乗員の言葉に感銘を受けて成長していくが…。
    近藤さんも海外旅行は良くされるようなので、ヒントを受けて作品に結実出来たのかもしれませんね!
    面白く一気読みしました。

  • 好きなことを職業にすることは憧れるだろうが、
    実際には、色々な苦労がまとわりつき、
    好きな気持ちがくじけそうになるだろう。

    旅行が好きで、添乗員になった主人公、
    集団や団体旅行が苦手な自分にはとても務まらない。

    何をするにも、初めて、なことは起きる。
    まして、海外旅行では、サポートしてくれる人がいると心強いと思う。
    一人一人の心に寄り添う主人公のような人は貴重だ。

    コロナ禍になり、友人の看護師は必要とされる存在で、
    かなりの過酷な職場環境であり、
    旅行業界は、非正規雇用者が解雇されたり、生活に支障をきたした。
    エンタメ業界もまた、大打撃だ。
    当時の世の中を思い出し、胸が痛む。

    コロナ禍のせいで、悪いこともたくさんあったけど、
    コロナ禍のおかげで、DXが進んだり、新しい生活様式に変わって、今まで無駄だと思っていた慣習がなくなったりした。

    いつまでも当たり前のことがあるとは限らない。
    地震災害や異常気象や、これからも起きる。
    そのつど、しっかりと考えて、前を向くしかないと思う。
    若者のパワー、多いに発揮してほしい!

    近藤さんの本は、いつでも元気をもらえる!

  • 団体旅行の添乗員さんの視点から見た旅の話。
    アイスランド、スロベニア、パリ、北京、沖縄。

    添乗員さんの苦労がとてもよく分かる話だった。
    いつ誰がどんなトラプルにあうか分からない。
    トラブルに見舞われたら迅速に正しく対応しなければならない。
    お客様同士のいざこさが起こりそうになったら、さりげなく仲裁しなければならない。
    気を使うポイントはいくらでもあって、本当に気が抜けないのだと思う。
    旅が好き、だけではやっていけない職業なのだなと思った。

    彼女がコロナ禍を通して、自分に対する考えがまとまり、また新たな一歩を踏み出してると良いなと思う。

    旅行、行きたいなぁ。

  • このコロナ禍で行きたくても行けていない海外旅行。
    その気分だけを味わった。

    どの国も本当に魅力的。
    知らなかったその土地の気候や文化、観光地が知れてわくわくした。
    アイスランドのオーロラや、スロベニアの美しい街並みを見てみたいし、だけどやっぱり王道のフランスの美術館巡りも捨てられないなあ。

    現地の料理も食べたくなった。
    現実には無理だから、せめてもの思いで、近場にあるフレンチかイタリアンのレストランに行きたくなった。笑

    主人公やツアー客たちの心情を、それぞれの国のものと絡めてて、あったかい気持ちになった。
    夢って確かに、叶うときには叶うし、叶わないときには叶わない。

    スロベニアのピンクのホライモリ、気になって検索してみたら本当に山盛りで売られているぬいぐるみの写真が出てきて笑ってしまった。

  • 添乗員として海外を旅する主人公が、旅行客に寄り添いハプニングに対応していく連作短編集。

    主人公と一緒に旅をして、異国の空気を感じるよう。謎解きの要素もあっておもしろかったです。

    ラストはコロナ禍にまつわるストーリー。
    暗くなりがちなテーマだけど、明るい展望がみえる展開に元気をもらえました。

    爽やかな風を感じるような一冊でした。

  • 「好きなことを仕事にするということは、好きなことの中に痛みや後悔が降り積もることなのだ。」

    「自分は殻に包まれた卵で、転がって、ヒビだらけになりながら旅を続けている。殻の外の世界には本当に関わることはできない。…でも、ヒビが入らなきゃ、外に飛び出すこともできないのではないだろうか。関わることはできなくても、わたしの殻にヒビを入れたのは、間違いなく外の世界だ。」


    新人海外旅行添乗員の遥と共にめぐる全5話の連鎖短編集。
    遥は自分が本当に旅行が好きなのかわからないまま、世界のいろいろな所に行きたいという思いで、薄給の契約社員として添乗員をしている。
    自分はこの仕事に合ってないんじゃないか、この仕事は旅が好きな人がつく仕事ではなく、人が好きな人がつくべき仕事ではないだろうかなどと悩み、時に傷つきながら、時に仕事とはいえ訪れた未知の場所の素敵さに励まされたりと必死に添乗員の仕事をこなす。
    まさに「たまごの旅人」だ。

    アイスランドに行ったり、スロベニアに行ったり。
    遥が訪れたこともないような、名前すら知らなかった国にツアー客を連れて行く。
    ただ連れて行けばいいというものではない。
    現地の見所など、入念な下調べをしたうえで、ツアー客同士のトラブルの対処まで、添乗員の仕事は多岐にわたる。体力ももちろんいる。
    遥の奮闘を通して、そんな添乗員の仕事や彼女が訪れ案内する国々について知れるのもこの物語の醍醐味だが、それだけではない。
    遥の事情やツアー客それぞれのエピソードを通して、私たちが日々モヤモヤしたりつい考えてしまうあれこれについて、改めて考えたり気付かされたり。
    遥とともに、読んでいるこちらもいろいろなことについて考えさせられる。
    それでいてとても読みやすい。

    全5話だが、どれも甲乙つけがたく、どのエピソードもなんだか染みるのだ。どれが一番好きとは決められず、どの話もよき、とだけ。

    個人的な事情でなかなか旅行に行けていなかったが(海外には一度だけ行ったことがある)、コロナになってからますます難しくなった。国内ですらも。
    そんな中で、ああ旅行に行きたいな。未知の世界に足を踏み出して、自分の思いもしなかったことにぶち当たって感動したい。
    そう思わせてくれる物語だった。


    最後に備忘録がてら各話のタイトルを。

    1.たまごの旅人
    2.ドラゴンの見る夢
    3.パリ症候群
    4.北京の椅子
    5.沖縄のキツネ

  • 海外旅行の新人添乗員として働く遥。
    アイスランド、スロベキア、フランス、中国と様々なハプニングがありながらも、添乗員としての経験を積む遥だったが、2020年新型コロナウイルスが遥を襲う・・・
    正直旅行が好きというだけで添乗員になった遥に対しては、「甘い」の一言に尽きる。
    雨具の準備をしない、ロストバッゲージなど旅のトラブルなどいちいち落ち込んでいても始まらない。
    お客様の文句にいちいち落ち込んでいても、仕事は務まらない。
    自分が旅をした時に、いい添乗員さんに出会えて、憧れた言うけれど、添乗員は「旅」ではなく、「人」が好きでないと続けられない仕事である。
    もし、この本を読んで、憧れる人がいたら、そこは理解してもらいたいと思った。
    遥のような気持ちで添乗員になって、挫折していった若い子たちをたくさん見て来たから、このような作品のいい面だけを見ないで欲しいと思う。
    そして、観光に携わると言うことは景気に左右されると言うこと。景気が悪くなったり、コロナのようなパンデミックが起きれば、あっという間に仕事がなくなる。
    人々が平和で幸せでないと、観光は成り立たない。
    遥と違い、観光の仕事に見切りを付けた自分が言う立場ではないかもしれないが、やはり、世界情勢も含めて、早く日常に戻り、世界中の人々がいろいろな世界を巡り、笑顔になれる日が来ることを、今はただ祈るしかない。
    今の状況を考えれば、雨具のお金を出し渋るお客さんも、やたら自分の娘を卑下する父親も全然平和と思える。
    文章自体はライトタッチだし、2時間もあれば読み終えてしまうような内容だけど、読み終えた後に、「もう1st Tripには戻れないかもしれない」と思うと、心が痛くなる。

  • 主人公の遥は、念願だった海外旅行の添乗員になり、ツアーを率いることになったけど、旅先ではハプニングが起こったり、いろんなお客さんがいて、現実は厳しくて・・・でも、そんな大変な中で貴重な体験ができたり、経験になって成長できたり、ツアーのお客様自身に変化があったりと、遥の添乗するツアーを、とても楽しめました。 また、遥がツアーで得た言葉が、私のこれからの人生において、勇気や元気になるような、なかなかの名言です!

    最後はコロナ禍が遥かを襲い、とても現実的だなぁと思いながら読み終えましたが、遥がまた海外ツアーの添乗員に戻れる、そんな日が1日も早く訪れる事を願います。

  • 近藤史恵さんによる新米添乗員を主人公にした小説。近藤さんの『スーツケースの半分は』や『ときどき旅に出るカフェ』など、海外への旅を取り扱った話を読んだことがあり、「旅行」は近藤さんの得意分野ではないかと勝手に想像している。5章から成る本で、それぞれアイスランド、スロヴェニア&クロアチア、フランス、中国、沖縄(コロナ禍)が舞台。

    添乗員を主人公にした小説は初めてで、多種多様なお客さんを引率しなければならないツアー旅行の様子が良く伝わってきて、自分も旅行しているような感覚になった。色んなお客さんが色んなことを言ってきて、いちいち真に受けていたらとても務まらない大変な仕事だなということをつくづく感じた。ただ、それぞれのお客さんにはそのような行動を取る人生の背景もあることが分かるように描かれている。余裕がないとなかなか難しいが、自分もそのような寛大な心持ちで人と接していきたいと思った。

    本書に出てきたスロヴェニアの首都リャブリャナが魅力的で、是非訪れてみたいと思った。
    1話完結型で、それぞれが心温まる読後感だった。

  • 新人海外旅行添乗員さんのお仕事小説。
    読みやすくて一気読み。

    自分の過去の海外旅行(ざっくり数えて35年)の間の経験で、添乗員さん付きも無しも有るが、まあトラブルはそれなりに色々あった。
    でも一期一会の同じツアー客に、本書に出てくるような雰囲気を悪くしたり同じテーブルで食事するのはイヤだなと思うような人だったり、周りに迷惑かけたり添乗員さんに怒鳴ったりするような人物にはお目にかかったことは一度も無いので、それだけでも本当に良かったなと思う。

    相手はこちらのことを思い出してくれていることがあるかどうかはわからないけれど、こちらは、あの添乗員さんや、あのご夫婦や、あの若いカップルや、あの可愛らしい20代女友達同士の2人、あのおばさまお2人、お元気かなぁ、お元気だといいなぁと思い浮かべることが結構ある。

    添乗員さんと言えば、高校の修学旅行の時(国内)だけど、当時30代だったろうから今頃70代であろう男性添乗員さんの苗字を、まさか今だに私も含めて何人ものクラスメートが覚えているなんて、当のご本人は思ってもいないだろうなぁ。(何も印象的な出来事があったわけでもなく、特徴的な方だったわけでもないのに、である)

    それくらい、添乗員さんて、たぶんご自分が考えている以上にツアー客から覚えられているんじゃないかと思う。

    本書の通り、海外旅行の添乗員さんは昔からほとんどが派遣社員さんだということを私は知っているが、やはり本書に書かれているように知らない客も多く、添乗員さんの方もそういうお客さんにはなんとなくごまかしていた。
    本書のように、このコロナ禍で彼女達(添乗員さん達)は今頃どうしているのだろうかと心の中で想いを寄せることしかできないのだけれど、想っている者がここに居ますよ。

    ちなみに大手旅行代理店は、コロナ禍突入の頃はまだかなり能天気だった。
    私は2020年5月末に行く予定だった旅行を2月にキャンセルした。
    丁度クルーズ船がクラスターになったり、卒業旅行を多くの若者が強行してしまっていた頃で、まだ各国間での渡航禁止にはなっていなかった頃だ。
    キャンセルの電話をしたら、「えっ?5月ですよ?大丈夫じゃないですか?」と言われた。
    「無理に決まってるでしょ」と口にはしなかったが内心では思っていた。
    その後、送られてきたキャンセル関係の書類には2020年10月まで有効の、同じツアーに参加する場合に使える割引券が入っていた。
    当時、旅行代理店の見通しは甘くてびっくりした。

    いつかまた誰しもが何の憂いもなく楽しく旅行できる日が来ますように。

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著者プロフィール

1969年大阪府生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。1993年『凍える島』で「鮎川哲也賞」を受賞し、デビュー。2008年『サクリファイス』で、「大藪春彦賞」を受賞。「ビストロ・パ・マル」シリーズをはじめ、『おはようおかえり』『たまごの旅人』『夜の向こうの蛹たち』『ときどき旅に出るカフェ』『スーツケースの半分は』『岩窟姫』『三つの名を持つ犬』『ホテル・カイザリン』等、多数発表する。

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