戸籍と無戸籍――「日本人」の輪郭

著者 :
  • 人文書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784409241172

作品紹介・あらすじ

近代日本において無戸籍者の存在は、家制度をはじめ徴兵、治安、福祉などに関わる政治・社会問題であると同時に、移民、引揚げに関わる国際問題であった。そして現代では家族生活の多様化に伴い、戸籍の必要性そのものが問われている。無戸籍者の歴史的変遷を辿り「日本人」の輪郭を改めて捉え返す労作。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は戸籍制度を、その記載内容、行政による運用方法、利用者にとっての長所・短所、歴史的な変遷、さらには現代におけるその価値・役割など、多様な視点で解明し分析してみせたものである。理論的な解析だけではなく、無戸籍にまつわる事件や紛争といった現実的な側面も描いており、アカデミック・ジャーナリズム的な作品に仕上がっている。相当なボリュームがあり、戸籍に対する相応の関心がないと読み通すのはしんどいかも知れない。しかし本書を読み進めるうち、一見役立たたずに思えたこの制度が、実は執拗かつ邪悪な意図を隠し持っているのではないかと戦慄を覚える瞬間が訪れる。私がここでいう「邪悪な意図」なるものを、著者は明示的に語っていない。ただ現代の戸籍法には、戦前の「イエ制度」の残滓がべっとりとまとわりついていることを確認できるのみだ。この残滓を、日本社会の遺伝子として絶やしたくないという勢力が存在する。例えば、自民党の憲法改正案にはこのような条項がある。「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。」尊重されるという価値づけ、相互扶助の義務化。しかしこの現代社会において、まずもって最大限に尊重されるべきは、「個人」ではなかったか。家族という抽象的な「集団の維持」が個人よりも優先される世界。過激にいうなら、家族の維持のためには、個人が犠牲にされることを厭わない社会。そのような奇怪な世の中を、改正憲法は容認しようとするのである。このような戦前の価値観は改正憲法によって復活を俟つだけではない。現行の民法親族編とその手続法である戸籍法のなかに、すでに温存されているのである。

    著者は挑発する。「戸籍をもたないと、どのような不利益をこうむるのか?この疑問に正しく答えられるひとは、ほとんどいないといえよう」と。私が本書を手にした動機は、この裏命題にあたる「戸籍ってなんのメリットがあるんだっけ?」という思いであった。半世紀も生きてると、他者から戸籍謄本のコピーを要求されることが、なんどかある。たとえば親の死去に伴ってその相続人の確定のため、多数に散らばった戸籍謄本や除籍謄本のコピーをかき集めたがひどく骨が折れた。またパスポートの取得にも、それを要求されたが、その理由を詮索したわけではなかった。さらには、本籍地の役所が他県にあり、戸籍謄本のコピーの請求に郵便局で定額小為替なるものを買って取り寄せたりした。なんて面倒なんだ。住民票のように、コンビニでコピーがとれないのか。こんな面倒な仕組みが、なんのために存在しているのか。積もり積もった思いが炸裂し、このあたりでちゃんと調べてみるか、と本書の
    ページを手繰ることになったのだ。

    本書の構成は、序章と終章を除いて10章。著者は問題意識として、戸籍の必要性、無戸籍が生じる原因、無戸籍者であることの意味、国家の無戸籍者への対応、という4つを挙げる。ところで、そもそも「戸籍」とはなにか。現代の戸籍は、ある個人の生から死までに生じる民法上の身分(親、子、配偶者など)の変動を記録したものである。ただし個人がバラバラに登録されるのではない。これが重要で個人を単位として登録する制度も海外にはある。しかし日本の戸籍は、夫婦およびその未婚の子(→この集団が家族であり、戸である)が「同じ戸籍」に書き込まれる。さらに、「同じ戸籍」に記載される人間は、「同じ氏(ウジ)」を名乗らねばならない。このようなルールは実体法である民法で定められているが、戸籍法はそれを実現する手続法の位置を占める。その結果、戸籍に書き込まれた情報は、役所という公的機関が記録したものであるゆえ、その写しは、自分が何者(姓名と国籍)であるか、どんな家族関係を有するかを、他人に対し公的に証明する力をもつ。つまり公証力をもつことになる。

    古代の「庚寅年籍」、江戸時代の「宗門改帳」、そして明治の「壬申戸籍」、さらにそれを部分的に継受した「戦後戸籍」。これら時代毎に作られた記録簿を一般概念として「戸籍」と呼ぶのは混乱を招く。共通する点は人民に関する何かしらの情報の記録簿である。それゆえ、私は「人民情報記録簿」という語でそれを呼ぶことにする。さて、そこにどんな情報を記すかは、その利用目的によって異なる。しかしここで誤解してはならない。活用されたといっても、誰が活用したのか。それはその時代の支配者・権力者・国家である。登録された側の人民は、その記録をもとに経済的・人的な資源を収奪(税、労役、徴兵など)されたり、特定の思想や生き方(仏教、神道、家への服従など)を強制されたのである。このような収奪や強制が限度を超えたものであると、そこから離脱しようとする人は、どの時代にも存在する。それが無戸籍者である。無戸籍者とは各時代の人民情報記録簿に登録されず、またはいったん登録されたが後に削除された者をいう。しかし支配者側は、無戸籍の状況を放置しない。様々な対策や手段を用いて、その綻びを繕おうとする。本書において、無戸籍者として都会に職をもとめて村を脱出した者、維新期の草莽の志士、サンカ、沖縄からブラジルに旅立った移民などが挙げられ、彼/彼女らが、その社会でどのような扱いを受け、国家がそれをいかにただそうとしてきたか、その多様な闘争が描かれる。闘争といっても、無戸籍者は、犯罪者でも、その予備軍でも、浮浪者でも、反逆者でもない。ただ身分を公証できないだけである。しかし、社会や国家は無戸籍者を先に挙げた者たちと同一視して、その排除に躍起になったときもある。著者が無戸籍者を肯定的に描くのは、収奪装置の一環を担う戸籍から自由になることに、ある種の解放を見てとるからかもしれない。すなわち、そもそも「人民情報記録簿」は、人民にとっては登録されることにデメリットしかなく、そこから逃れようとするのが本来の姿ではないか、その本能的な逃避を国家が敵対視し追いかけまわすことの方が異常なのだ。本書では、徴兵逃れのために人民があらゆる手練手管を使って、国家の網の目をかいくぐってきた様子が描かれるが、そこに人民の活力と頼もしさが見出されるし、場合によっては無意味な侵略戦争に反対する強固な意志さえ感じられる。

    そして「戦後戸籍」である。その最大の難点は、制度の目的や効果が不分明な点にある。戸籍の利用方法といわれてパッと思いつく人口調査や、徴税、徴兵と労役(そもそも制度自体が今はないが)などには、全く活用されていないのだ。さすれば制度の存在理由として何が残るか。法的に好ましい家族のあり方を示すという道徳的な価値しかない。しかしその理想像はすでに腐臭を放っている。どういうことか。戦後の日本国家はイエ制度の解体を目指したはずなのに、家族法の改正にあたって、GHQの追及が弱かったばかりに、夫婦と子供で構成される「家族」、特定の「家族の名」である氏、届出をしなくては成立しない「婚姻」という制度が生き残ってしまったのだ。新憲法では、婚姻は両性の「合意のみ」に基づくと謳われているのに。したがって、厳密には憲法上の婚姻と民法上の婚姻は別物と考えざるを得ない。このように家族や婚姻や名前といった暮らしのなかで重要な位置を占める事象に関しは、個人主義は徹底されず、戦前の遺制が中途半端な形で生き残ったのである。

    現代の日本社会は、今後、この遺制にどう始末を付けるのか。未来のひとよ、どのような社会を望むのかを自覚し、選択しなければならない。先にあげた自民党の憲法改正案とは正反対の世界を追い求めてほしい。共同生活をする事実上の家族は、その成員の自由な意思によって家族の範囲を柔軟に決め、非血縁者や外国籍の人を排除しない。婚姻は同性であっても可能で、事実婚と法律婚のメリット・デメリットがわかりやすく比較でき選択しうるようにあって、名乗る氏は夫婦もしくはパートナーの間で別にしても良いという、そんな社会の実現を。

  • 【書誌情報】
    著者:遠藤正敬
    価格:4,200円+税
    出版年月日:2017/05/20
    ISBN:9784409241172
    四-六 380ページ

    近代日本において無戸籍者の存在は、家制度をはじめ徴兵、治安、福祉などに関わる政治・社会問題であると同時に、移民、引揚げに関わる国際問題であった。そして現代では家族生活の多様化に伴い、戸籍の必要性そのものが問われている。無戸籍者の歴史的変遷を辿り「日本人」の輪郭を改めて捉え返す労作。
    http://www.jimbunshoin.co.jp/smp/book/b281579.html

    【抜き書き】
     373頁
    ――――――――――
     とはいえ、普段から眉間にしわ寄せて戸籍の必要性を考えることなどない人がむしろ一般的であるから、まず戸籍とは何を目的とする制度なのか、というところから筆に力を注いだ。そして、戸籍を制定することを「国家百年の計」ととらえ、この制度を安定的に維持することが国益になると信じる支配層が憑依したつもりで書くことを心掛けた箇所も少なくない。
     それゆえ、本書は全体的に「権力の側」「支配する側」の視点に立つものであるといった批判を浴びるかもしれない。もし、それに抗弁するとすれば、次のようになる。「有能なエリート」で「合理的」「効率的」に国家の舵を取るのが任務とされる官僚が、戸籍という、当人たちも弊害や矛盾を認め、とっくの昔から病巣が広がっている国民管理制度を、抜本的なメスを入れることもなく偶像のごとく延命させ続けるという、喜劇とも悲劇ともつかぬ不条理劇。これをわかりやすく展開するには、私自身が演者となって「官」「権力」の役を引き受ける必要があるなどと“思い上がった”までである。
    ―――――――――


    □374~375頁
    ――――――――
     そう考えるだけでも、国家が幾多の理想と打算を込めて創出した戸籍制度といえども、抜け道はあるわ、ぞんざいに扱われるわ、挙げ句にはその存在すら知らない者まであるわで、どれほど統治に寄与しているのか怪しくなってくる。言い換えれば、そこには国家と個人の間にたえず支配-服従の緊張関係が張りつめていたわけではないという“歴史”がながめうるではないか。
     もちろん戸籍がなくて辛酸をなめる人々が存在するのも見過ごせない現実である。無戸籍者の戸籍創設のための支援活動に従事してこられた元衆議院議員の井戸まさえ氏はこんな風に印象深く私に話してくれた。戸籍なんて矛盾に満ちたものだが、無戸籍であるために生きることに苦痛を覚え、戸籍をつくることで人並みの生活が得られると願う人たちのためには、まず戸籍をつくる手助けをすることが救済の近道なのだ、と。
     結局のところ、無戸籍者たちが苦しむとすれば、戸籍がないことそれ自体によってではなく、戸籍がないことに対する差別や偏見によって苦しむのである。このような社会のシステムを放置しておくのは、最大限、すべての人々の利害を横断的に調整することを目的とする政治としては看板倒れというほかなかない。
    ―――――――――


    【簡易目次】
    序章 「無戸籍」とは何か――戸籍がない「日本人」とは 013
    第一章 戸籍の役割とは何か――届出によってつくられる身分 027
    第二章 「無戸籍」という意味――「日本人」の証明なき「日本人」 057
    第三章 無戸籍の来歴――古代から近世まで 081
    第四章 近代日本戸籍の成立とその背反者 099
    第五章 家の思想と戸籍――「皇民」の証として 147
    第六章 「社会問題」としての無戸籍問題 167
    第七章 無戸籍となった越境者――移民、戦争、戸籍 197
    第八章 無戸籍者が戸籍をつくる方法―「日本人」の資格とは 233
    第九章 「無戸籍」と「無国籍」――「籍」という観念 269
    第一〇章 戸籍がないと生きていけないのか――基本的人権と戸籍 289
    終章 戸籍がなくても生きられる社会へ 335



    【目次】
    目次 [001-010]
    凡例 [012]

    序章 「無戸籍」とは何か――戸籍がない「日本人」とは 013
     人は「動物」なり
     戸籍がなければ「国民」ではないのか
     戸籍への無理解・無関心
     戸籍は“道徳律”か
     本書の視角――戸籍がなければ生きられないのか 

    第一章 戸籍の役割とは何か――届出によってつくられる身分 027
    1 戸籍とは何を登録するものか 027
     国家による登録制度の種類
     出生登録を受ける権利
    2 日本の戸籍制度の特色――国民と行政の距離 037
     戸籍が証明する「身分」とは
     戸籍事務と先例
     日常生活と縁遠い戸籍行政
    3 戸籍法の届出主義――自発的な届出の難しさ 045
     日本における届出主義の重要性
     届出の種類――報告と創設
     政府による届出励行の術策

    第二章 「無戸籍」という意味――「日本人」の証明なき「日本人」 057
    1 無戸籍はこうして生まれる 057
    2 本籍不明の「日本人」 069
     「本籍不明」と「無戸籍」のちがい
     本籍不明者の生まれる理由
    3 戸籍を超越した存在――天皇および皇族 074
     戸籍は「臣民簿」
     変わらぬ天皇家と戸籍の関係

    第三章 無戸籍の来歴――古代から近世まで 081
    1 古代日本の戸籍の盛衰――浮浪人の出現 081
     無戸籍者の原点――「うかれびと」と古代国家
     律令国家と戸籍の発祥
    2 徳川時代の戸籍――不完全な人口調査 086
     人別帳から五人組帳まで
     江戸の人口規制と戸籍の紊乱
    3 「無宿」という存在――戸籍から消された「厄介者」 090
     「無宿」の発生――罪なき罪びと
     戸籍から外れた身分と職業
     狩られる無宿――「片付」の対象

    第四章 近代日本戸籍の成立とその背反者 099
    1 明治維新と脱籍浮浪人――困難な「国民」への統合 099
     脱籍浮浪人の「国民」化
     「帝都」からの浮浪人一掃
     壬申戸籍と定住化政策――移動自由化のジレンマ
     “脱籍浮浪”という罪
    2 「救民」という名の「駆逐」――無戸籍者の開拓動員 115
     北海道開拓への動員
     小金原開墾事業――帝都からの無籍者一掃
     開墾事業の結末――無籍者駆逐という“成果”
    3 「サンカ」という存在――戸籍と無縁に生きた人々 122
     定まらぬ「サンカ」の実像
     無籍者集団、としてのサンカ像
     サンカ焼き打ち事件――暴力による国民統合
    4 「血税」騒動と戸籍反対一揆――徴兵制への抵抗 130
     「国民軍」創設と壬申戸籍
     反対一揆を招く戸籍
    5 戸籍を棄てる「日本人」――徴兵逃れと戸籍偽装 135
     陸軍省の焦燥――杜撰な戸籍
     無戸籍者への徴兵をどうするか
     文字通りの「非国民」――戸籍を消して兵役逃れ

    第五章 家の思想と戸籍――「皇民」の証として 147
    1 「家の系譜」としての戸籍――「国体」と家族国家思想 147
    「家族の登録」から「家の登録」へ――紙の上の制度
    「家」に基づいた国籍観念
    系譜尊重の思想
    2 戸籍から漏れ落ちる婚外子――届出婚の弊害 157
    日本における「届出婚」
    「罪なき結合の罪なき果実」
    3 無戸籍者をつくりだす戸主――家制度のしがらみ 162
    家の“君主”としての戸主
    無戸籍と隣り合わせの婚外子

    第六章 「社会問題」としての無戸籍問題 167
    1 戸籍と人口把握――「当てにならない戸籍」 167
    「無籍在監人」という存在
    戸籍ではなくセンサスを
    「野暮な戸籍と粋な国勢調査」
    2 無縁社会の発生と戸籍 177
    明治維新と無告の窮民
    行旅病人・死亡人に対する救貧政策
    3 「都市問題」としての無戸籍 183
    都会に生きる“無縁者”
    方面委員による戸籍整理事業――精神的救護として
    下層社会における戸籍の意味――娼妓の戸籍問題

    第七章 無戸籍となった越境者――移民、戦争、戸籍 197
    1 「海外雄飛」の裏側――ハワイ移民の戸籍問題 199
    ハワイ移民の増加と戸籍
    ハワイに生まれる「世界の無籍者」
    日本人移民の二重国籍問題
    海外からの戸籍届書のゆくえ
    2 ブラジル移民の戸籍消失――沖縄ともうひとつの「戦後」 212
    知られざるブラジル移民の戸籍問題
    戦争と沖縄戸籍の壊滅
    消えたままの戸籍――ブラジルと祖国の間の溝
    終わらない「戦後」――沖縄戸籍再製の困難

    第八章 無戸籍者が戸籍をつくる方法―「日本人」の資格とは 233
    1 就籍とは何か――「日本人」だけの権利 233
    「権利」としての就籍
    明治国家における就籍のすすめ
    容易ならぬ就籍への道
    2 戦後処理としての無戸籍問題――狭まる「日本人」の門戸 241
    植民地支配の終焉と戸籍問題
    「残留日本人」の失われた戸籍
    「日本人」偽装の防止――厳格になる出生届の審査
    3 「棄児」から「日本人」へ――「地縁」が作る国籍 255
    「棄児」とは誰か
    日本で発見されれば「日本人」――出生地主義による戸籍創設
    戸籍に残る「棄児」なる履歴
    “戦災孤児”の戸籍創設――紙の上の「日本人」

    第九章 「無戸籍」と「無国籍」――「籍」という観念 269
    1 「籍」とは何か――帰属崇拝の社会 269
    「無籍」 「無国籍」か
    「籍」の意味するもの
    2 「無国籍」と「無戸籍」のちがい 274
    戸籍はシチズンシップではない
    無国籍・無戸籍の「日本人」――父系血統主義のひずみ
    戸籍を与えられる無国籍者
    3 なぜ外国人には戸籍がないのか――国民登録と排外主義 282
    戸籍のもつ“排外主義”の由来
    不文律となった“排外主義”

    第一〇章 戸籍がないと生きていけないのか――基本的人権と戸籍 289
    1 戸籍が必要とされる機会 289
    2 社会生活における権利と戸籍 296
    「労働者名簿」に戸籍は必要か
    守られるべき労働の機会
    3 無戸籍者の婚姻 310
    婚姻届と戸籍の関係
    無戸籍者が結婚する権利
    婚姻届受理の厳格化――純化される戸籍
    4 参政権と戸籍 317
    戦前の参政権と戸籍の関係
    現在の参政権と戸籍の関係
    5 戸籍と住民票の関係――「住民」の資格と権利 325
    寄留簿から住民基本台帳へ
    住民基本台帳の成立――「住民」としての把握
    戸籍と結びついた住民票

    終章 戸籍がなくても生きられる社会へ 335
     「無籍者」の位置づけ――「まつろわぬ日本人」
     “道徳律”としての価値
     国家の機会主義で決まる「日本人」
     問われる戸籍の価値
     無戸籍でも幸せになれる国

    注 [347-370]
    あとがき(二〇一七年三月某日 眩しきペンライトの光の輪に包まれながら 遠藤正敬) [371-376]
    索引 [377-380]

  • サントリー学芸賞受賞ということで手に取ったが期待していたものとは違っていた。戸籍に対しては否定的なスタンスで臨んでいて(その態度自体は分からなくもないが)、冷静な分析を妨げているように思えた。もっと現代における戸籍の位置付けや無戸籍者の抱える具体的な問題点を深掘りして欲しかった。そのスタンスから当然戸籍が不要ではないかと問題意識を最終章で投げかけているが、今あるものを積極的に廃止するだけの問題点を提示できていないようにも思えた。
    一方で、本書は戸籍に纏わる数多くの知識が盛り込まれており、初めて知ることも多く勉強になった。南米に移住した日系人が戦災による戸籍の消失で知らずに無戸籍者になり一時帰国中に旅券の発行ができず立ち往生した問題、無戸籍者であっても婚姻は可能でむしろ戦前の方が日本人である証明も不要で容易だったこと(戦後日本人でなくなった朝鮮人等を排除するため幻覚化した)、などは興味深かった。

  • 4.09/114
    内容(「BOOK」データベースより)
    『「日本人」とは誰なのか―近代日本において無戸籍者の存在は、家制度をはじめ徴兵、治安、福祉などに関わる政治・社会問題であると同時に、移民、引揚げに関わる国際問題であった。そして現代では家族生活の多様化に伴い、戸籍の必要性そのものが問われている。無戸籍者の歴史的変遷を辿り「日本人」の輪郭を改めて捉え返す労作。』


    『戸籍と無戸籍――「日本人」の輪郭』
    著者:遠藤 正敬
    出版社 ‏: ‎人文書院
    単行本 ‏: ‎380ページ
    発売日 ‏: ‎2017/5/20
    受賞:サントリー学芸賞【社会・風俗部門】

  • 戸籍のことなんて、考えたことはなかった。結婚したときと、パスポートとったときくらい。
    「戸籍と無戸籍」を読んでみて(ちゃんと読みこなせている気はしないけど)、「イエ」のこととか、日本人ってなんだろう?とか、夫婦別姓についてとか、日本に住む外国籍の人たちのこととか、折に触れ、むむむ〜

  • 今の戸籍制度の成り立ちが詳しい。当初の便宜的な区分が結局は価値に転嫁するのは制度史あるあるだなあと思う。後半部分は新聞相談の解説で、少し冗長に感じました。

  • Kindle

  • 現代においてもさまざまな理由で無戸籍者が発生している。そして、戸籍がないことの不利益は意外に少ない。
    そもそもその存在目的が怪しげで、本籍地から転居してからは戸籍謄本の入手が面倒になったことまあって、ねてより廃止すべきと思っていた。居住地と全く関係なく登録可能な戸籍の必要性には疑問だらけである。
    この本を読んで、ますますその思いを強くした。

  • 324.87||En

  • 第39回サントリー学芸賞〔社会・風俗部門〕受賞

  • 戸籍制度の成り立ちから現在の戸籍制度の問題点について書かれている。戸籍は、国家が国民を管理する制度であることが良くわかる。戸籍には、日本人しか記載されない理由とその問題点を提起している。戸籍に記載されていようがいまいが、人間として人権が尊重される世の中であることが民主主義国家の基本であることを主張している。一般の日本人は、普段、戸籍を意識しないが、その意識をしないことで、何気なく差別していることを問題にしている。著者は、戸籍制度の矛盾を提起し、批判的な論調で書いている。専門的な知識がないと少し難しい内容だが、非常に有益な本である。

  • 「戸籍は何のためにあるのか?」と問われ、即答できる人は恐らく少数派だろう。かつて戸籍制度が担っていた役割は住民基本台帳などの他の制度に取って代わられており、戸籍が単独で我々の日常生活に影響を及ぼす局面は限定的。にも関わらず、我々は漠然と戸籍が日本人としてのアイデンティティに不可欠なものであると認識している。これはなぜなのだろう?本書はこの戸籍の不思議さについて、その来歴と運用の実態を大量の文献に当たり詳らかにしながら、現代の戸籍制度が内包する共同幻想=「道徳律」をあぶり出した労作。

    現行制度に先立つこと千年以上の昔から、戸籍は警察的な要請による身元調査のためのツールとして整備されてきた。これが明治維新を経て、富国強兵のための徴税・徴兵名簿としての機能を強めていく。著者は、明治政府が無籍者の自発的な就籍を促す過程で、家の規格化による国民統合、即ち天皇を頂点とする「家」制度への登録こそ道徳的美徳であるという意識が国民の間に植え付けられたとする。この家族国家思想としての「道徳律」こそ、戸籍制度が実体面での有効性を失いつつも今日まで命脈を保っていることの理由だというのだ。

    そして戦後も、登録要件としてほぼ一貫して厳格な「血統主義」を要請することで日本国民の証明としての戸籍の「純度」が高められてきたが、「棄児」や「外国人」を扱うにあたり、その運用は必ずしも一貫性のあるものとは言い難く各種の矛盾を呈している。著者によれば、動態的な「ヒト」の移動を与件とする現代資本主義社会において、静態的な「イエ」をベースにする管理制度に最早実効性はない。今後の日本社会においては、「国民」としてより「住民」としての個人の権利がより重要性を持つのであって、そこでは「規定された家族」を前提とする「戸籍」は柔軟な運用が困難であろうというのが著者の主張。昨今の晩婚化・非婚化やLGBTの権利意識の高まりをみても首肯できるところが多いと感した。

    文章が少々硬くて読みづらく、大量の文献に圧倒されたりもしたが、期待通りのスケール感で歯応え十分だった。

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著者プロフィール

1972年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。博士(政治学)。専門は政治学、日本政治史。現在、早稲田大学台湾研究所非常勤次席研究員。宇都宮大学、埼玉県立大学、東邦大学等で非常勤講師。著書に、第39回サントリー学芸賞を受賞した『戸籍と無戸籍――「日本人」の輪郭』(人文書院)のほか、『近代日本の植民地統治における国籍と戸籍――満洲・朝鮮・台湾』(明石書店)、『天皇と戸籍――「日本」を映す鏡』(筑摩書房)、『犬神家の戸籍――「血」と「家」の近代日本』(青土社)などがある。

「2024年 『戸籍と国籍の近現代史【第3版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠藤正敬の作品

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