- Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
- / ISBN・EAN: 9784409241172
作品紹介・あらすじ
近代日本において無戸籍者の存在は、家制度をはじめ徴兵、治安、福祉などに関わる政治・社会問題であると同時に、移民、引揚げに関わる国際問題であった。そして現代では家族生活の多様化に伴い、戸籍の必要性そのものが問われている。無戸籍者の歴史的変遷を辿り「日本人」の輪郭を改めて捉え返す労作。
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【書誌情報】
著者:遠藤正敬
価格:4,200円+税
出版年月日:2017/05/20
ISBN:9784409241172
四-六 380ページ
近代日本において無戸籍者の存在は、家制度をはじめ徴兵、治安、福祉などに関わる政治・社会問題であると同時に、移民、引揚げに関わる国際問題であった。そして現代では家族生活の多様化に伴い、戸籍の必要性そのものが問われている。無戸籍者の歴史的変遷を辿り「日本人」の輪郭を改めて捉え返す労作。
〈http://www.jimbunshoin.co.jp/smp/book/b281579.html〉
【抜き書き】
373頁
――――――――――
とはいえ、普段から眉間にしわ寄せて戸籍の必要性を考えることなどない人がむしろ一般的であるから、まず戸籍とは何を目的とする制度なのか、というところから筆に力を注いだ。そして、戸籍を制定することを「国家百年の計」ととらえ、この制度を安定的に維持することが国益になると信じる支配層が憑依したつもりで書くことを心掛けた箇所も少なくない。
それゆえ、本書は全体的に「権力の側」「支配する側」の視点に立つものであるといった批判を浴びるかもしれない。もし、それに抗弁するとすれば、次のようになる。「有能なエリート」で「合理的」「効率的」に国家の舵を取るのが任務とされる官僚が、戸籍という、当人たちも弊害や矛盾を認め、とっくの昔から病巣が広がっている国民管理制度を、抜本的なメスを入れることもなく偶像のごとく延命させ続けるという、喜劇とも悲劇ともつかぬ不条理劇。これをわかりやすく展開するには、私自身が演者となって「官」「権力」の役を引き受ける必要があるなどと“思い上がった”までである。
―――――――――
□374~375頁
――――――――
そう考えるだけでも、国家が幾多の理想と打算を込めて創出した戸籍制度といえども、抜け道はあるわ、ぞんざいに扱われるわ、挙げ句にはその存在すら知らない者まであるわで、どれほど統治に寄与しているのか怪しくなってくる。言い換えれば、そこには国家と個人の間にたえず支配-服従の緊張関係が張りつめていたわけではないという“歴史”がながめうるではないか。
もちろん戸籍がなくて辛酸をなめる人々が存在するのも見過ごせない現実である。無戸籍者の戸籍創設のための支援活動に従事してこられた元衆議院議員の井戸まさえ氏はこんな風に印象深く私に話してくれた。戸籍なんて矛盾に満ちたものだが、無戸籍であるために生きることに苦痛を覚え、戸籍をつくることで人並みの生活が得られると願う人たちのためには、まず戸籍をつくる手助けをすることが救済の近道なのだ、と。
結局のところ、無戸籍者たちが苦しむとすれば、戸籍がないことそれ自体によってではなく、戸籍がないことに対する差別や偏見によって苦しむのである。このような社会のシステムを放置しておくのは、最大限、すべての人々の利害を横断的に調整することを目的とする政治としては看板倒れというほかなかない。
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【簡易目次】
序章 「無戸籍」とは何か――戸籍がない「日本人」とは 013
第一章 戸籍の役割とは何か――届出によってつくられる身分 027
第二章 「無戸籍」という意味――「日本人」の証明なき「日本人」 057
第三章 無戸籍の来歴――古代から近世まで 081
第四章 近代日本戸籍の成立とその背反者 099
第五章 家の思想と戸籍――「皇民」の証として 147
第六章 「社会問題」としての無戸籍問題 167
第七章 無戸籍となった越境者――移民、戦争、戸籍 197
第八章 無戸籍者が戸籍をつくる方法―「日本人」の資格とは 233
第九章 「無戸籍」と「無国籍」――「籍」という観念 269
第一〇章 戸籍がないと生きていけないのか――基本的人権と戸籍 289
終章 戸籍がなくても生きられる社会へ 335
【目次】
目次 [001-010]
凡例 [012]
序章 「無戸籍」とは何か――戸籍がない「日本人」とは 013
人は「動物」なり
戸籍がなければ「国民」ではないのか
戸籍への無理解・無関心
戸籍は“道徳律”か
本書の視角――戸籍がなければ生きられないのか
第一章 戸籍の役割とは何か――届出によってつくられる身分 027
1 戸籍とは何を登録するものか 027
国家による登録制度の種類
出生登録を受ける権利
2 日本の戸籍制度の特色――国民と行政の距離 037
戸籍が証明する「身分」とは
戸籍事務と先例
日常生活と縁遠い戸籍行政
3 戸籍法の届出主義――自発的な届出の難しさ 045
日本における届出主義の重要性
届出の種類――報告と創設
政府による届出励行の術策
第二章 「無戸籍」という意味――「日本人」の証明なき「日本人」 057
1 無戸籍はこうして生まれる 057
2 本籍不明の「日本人」 069
「本籍不明」と「無戸籍」のちがい
本籍不明者の生まれる理由
3 戸籍を超越した存在――天皇および皇族 074
戸籍は「臣民簿」
変わらぬ天皇家と戸籍の関係
第三章 無戸籍の来歴――古代から近世まで 081
1 古代日本の戸籍の盛衰――浮浪人の出現 081
無戸籍者の原点――「うかれびと」と古代国家
律令国家と戸籍の発祥
2 徳川時代の戸籍――不完全な人口調査 086
人別帳から五人組帳まで
江戸の人口規制と戸籍の紊乱
3 「無宿」という存在――戸籍から消された「厄介者」 090
「無宿」の発生――罪なき罪びと
戸籍から外れた身分と職業
狩られる無宿――「片付」の対象
第四章 近代日本戸籍の成立とその背反者 099
1 明治維新と脱籍浮浪人――困難な「国民」への統合 099
脱籍浮浪人の「国民」化
「帝都」からの浮浪人一掃
壬申戸籍と定住化政策――移動自由化のジレンマ
“脱籍浮浪”という罪
2 「救民」という名の「駆逐」――無戸籍者の開拓動員 115
北海道開拓への動員
小金原開墾事業――帝都からの無籍者一掃
開墾事業の結末――無籍者駆逐という“成果”
3 「サンカ」という存在――戸籍と無縁に生きた人々 122
定まらぬ「サンカ」の実像
無籍者集団、としてのサンカ像
サンカ焼き打ち事件――暴力による国民統合
4 「血税」騒動と戸籍反対一揆――徴兵制への抵抗 130
「国民軍」創設と壬申戸籍
反対一揆を招く戸籍
5 戸籍を棄てる「日本人」――徴兵逃れと戸籍偽装 135
陸軍省の焦燥――杜撰な戸籍
無戸籍者への徴兵をどうするか
文字通りの「非国民」――戸籍を消して兵役逃れ
第五章 家の思想と戸籍――「皇民」の証として 147
1 「家の系譜」としての戸籍――「国体」と家族国家思想 147
「家族の登録」から「家の登録」へ――紙の上の制度
「家」に基づいた国籍観念
系譜尊重の思想
2 戸籍から漏れ落ちる婚外子――届出婚の弊害 157
日本における「届出婚」
「罪なき結合の罪なき果実」
3 無戸籍者をつくりだす戸主――家制度のしがらみ 162
家の“君主”としての戸主
無戸籍と隣り合わせの婚外子
第六章 「社会問題」としての無戸籍問題 167
1 戸籍と人口把握――「当てにならない戸籍」 167
「無籍在監人」という存在
戸籍ではなくセンサスを
「野暮な戸籍と粋な国勢調査」
2 無縁社会の発生と戸籍 177
明治維新と無告の窮民
行旅病人・死亡人に対する救貧政策
3 「都市問題」としての無戸籍 183
都会に生きる“無縁者”
方面委員による戸籍整理事業――精神的救護として
下層社会における戸籍の意味――娼妓の戸籍問題
第七章 無戸籍となった越境者――移民、戦争、戸籍 197
1 「海外雄飛」の裏側――ハワイ移民の戸籍問題 199
ハワイ移民の増加と戸籍
ハワイに生まれる「世界の無籍者」
日本人移民の二重国籍問題
海外からの戸籍届書のゆくえ
2 ブラジル移民の戸籍消失――沖縄ともうひとつの「戦後」 212
知られざるブラジル移民の戸籍問題
戦争と沖縄戸籍の壊滅
消えたままの戸籍――ブラジルと祖国の間の溝
終わらない「戦後」――沖縄戸籍再製の困難
第八章 無戸籍者が戸籍をつくる方法―「日本人」の資格とは 233
1 就籍とは何か――「日本人」だけの権利 233
「権利」としての就籍
明治国家における就籍のすすめ
容易ならぬ就籍への道
2 戦後処理としての無戸籍問題――狭まる「日本人」の門戸 241
植民地支配の終焉と戸籍問題
「残留日本人」の失われた戸籍
「日本人」偽装の防止――厳格になる出生届の審査
3 「棄児」から「日本人」へ――「地縁」が作る国籍 255
「棄児」とは誰か
日本で発見されれば「日本人」――出生地主義による戸籍創設
戸籍に残る「棄児」なる履歴
“戦災孤児”の戸籍創設――紙の上の「日本人」
第九章 「無戸籍」と「無国籍」――「籍」という観念 269
1 「籍」とは何か――帰属崇拝の社会 269
「無籍」 「無国籍」か
「籍」の意味するもの
2 「無国籍」と「無戸籍」のちがい 274
戸籍はシチズンシップではない
無国籍・無戸籍の「日本人」――父系血統主義のひずみ
戸籍を与えられる無国籍者
3 なぜ外国人には戸籍がないのか――国民登録と排外主義 282
戸籍のもつ“排外主義”の由来
不文律となった“排外主義”
第一〇章 戸籍がないと生きていけないのか――基本的人権と戸籍 289
1 戸籍が必要とされる機会 289
2 社会生活における権利と戸籍 296
「労働者名簿」に戸籍は必要か
守られるべき労働の機会
3 無戸籍者の婚姻 310
婚姻届と戸籍の関係
無戸籍者が結婚する権利
婚姻届受理の厳格化――純化される戸籍
4 参政権と戸籍 317
戦前の参政権と戸籍の関係
現在の参政権と戸籍の関係
5 戸籍と住民票の関係――「住民」の資格と権利 325
寄留簿から住民基本台帳へ
住民基本台帳の成立――「住民」としての把握
戸籍と結びついた住民票
終章 戸籍がなくても生きられる社会へ 335
「無籍者」の位置づけ――「まつろわぬ日本人」
“道徳律”としての価値
国家の機会主義で決まる「日本人」
問われる戸籍の価値
無戸籍でも幸せになれる国
注 [347-370]
あとがき(二〇一七年三月某日 眩しきペンライトの光の輪に包まれながら 遠藤正敬) [371-376]
索引 [377-380] -
サントリー学芸賞受賞ということで手に取ったが期待していたものとは違っていた。戸籍に対しては否定的なスタンスで臨んでいて(その態度自体は分からなくもないが)、冷静な分析を妨げているように思えた。もっと現代における戸籍の位置付けや無戸籍者の抱える具体的な問題点を深掘りして欲しかった。そのスタンスから当然戸籍が不要ではないかと問題意識を最終章で投げかけているが、今あるものを積極的に廃止するだけの問題点を提示できていないようにも思えた。
一方で、本書は戸籍に纏わる数多くの知識が盛り込まれており、初めて知ることも多く勉強になった。南米に移住した日系人が戦災による戸籍の消失で知らずに無戸籍者になり一時帰国中に旅券の発行ができず立ち往生した問題、無戸籍者であっても婚姻は可能でむしろ戦前の方が日本人である証明も不要で容易だったこと(戦後日本人でなくなった朝鮮人等を排除するため幻覚化した)、などは興味深かった。 -
4.09/114
内容(「BOOK」データベースより)
『「日本人」とは誰なのか―近代日本において無戸籍者の存在は、家制度をはじめ徴兵、治安、福祉などに関わる政治・社会問題であると同時に、移民、引揚げに関わる国際問題であった。そして現代では家族生活の多様化に伴い、戸籍の必要性そのものが問われている。無戸籍者の歴史的変遷を辿り「日本人」の輪郭を改めて捉え返す労作。』
『戸籍と無戸籍――「日本人」の輪郭』
著者:遠藤 正敬
出版社 : 人文書院
単行本 : 380ページ
発売日 : 2017/5/20
受賞:サントリー学芸賞【社会・風俗部門】 -
戸籍のことなんて、考えたことはなかった。結婚したときと、パスポートとったときくらい。
「戸籍と無戸籍」を読んでみて(ちゃんと読みこなせている気はしないけど)、「イエ」のこととか、日本人ってなんだろう?とか、夫婦別姓についてとか、日本に住む外国籍の人たちのこととか、折に触れ、むむむ〜 -
今の戸籍制度の成り立ちが詳しい。当初の便宜的な区分が結局は価値に転嫁するのは制度史あるあるだなあと思う。後半部分は新聞相談の解説で、少し冗長に感じました。
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Kindle
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現代においてもさまざまな理由で無戸籍者が発生している。そして、戸籍がないことの不利益は意外に少ない。
そもそもその存在目的が怪しげで、本籍地から転居してからは戸籍謄本の入手が面倒になったことまあって、ねてより廃止すべきと思っていた。居住地と全く関係なく登録可能な戸籍の必要性には疑問だらけである。
この本を読んで、ますますその思いを強くした。 -
324.87||En
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第39回サントリー学芸賞〔社会・風俗部門〕受賞
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戸籍制度の成り立ちから現在の戸籍制度の問題点について書かれている。戸籍は、国家が国民を管理する制度であることが良くわかる。戸籍には、日本人しか記載されない理由とその問題点を提起している。戸籍に記載されていようがいまいが、人間として人権が尊重される世の中であることが民主主義国家の基本であることを主張している。一般の日本人は、普段、戸籍を意識しないが、その意識をしないことで、何気なく差別していることを問題にしている。著者は、戸籍制度の矛盾を提起し、批判的な論調で書いている。専門的な知識がないと少し難しい内容だが、非常に有益な本である。
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「戸籍は何のためにあるのか?」と問われ、即答できる人は恐らく少数派だろう。かつて戸籍制度が担っていた役割は住民基本台帳などの他の制度に取って代わられており、戸籍が単独で我々の日常生活に影響を及ぼす局面は限定的。にも関わらず、我々は漠然と戸籍が日本人としてのアイデンティティに不可欠なものであると認識している。これはなぜなのだろう?本書はこの戸籍の不思議さについて、その来歴と運用の実態を大量の文献に当たり詳らかにしながら、現代の戸籍制度が内包する共同幻想=「道徳律」をあぶり出した労作。
現行制度に先立つこと千年以上の昔から、戸籍は警察的な要請による身元調査のためのツールとして整備されてきた。これが明治維新を経て、富国強兵のための徴税・徴兵名簿としての機能を強めていく。著者は、明治政府が無籍者の自発的な就籍を促す過程で、家の規格化による国民統合、即ち天皇を頂点とする「家」制度への登録こそ道徳的美徳であるという意識が国民の間に植え付けられたとする。この家族国家思想としての「道徳律」こそ、戸籍制度が実体面での有効性を失いつつも今日まで命脈を保っていることの理由だというのだ。
そして戦後も、登録要件としてほぼ一貫して厳格な「血統主義」を要請することで日本国民の証明としての戸籍の「純度」が高められてきたが、「棄児」や「外国人」を扱うにあたり、その運用は必ずしも一貫性のあるものとは言い難く各種の矛盾を呈している。著者によれば、動態的な「ヒト」の移動を与件とする現代資本主義社会において、静態的な「イエ」をベースにする管理制度に最早実効性はない。今後の日本社会においては、「国民」としてより「住民」としての個人の権利がより重要性を持つのであって、そこでは「規定された家族」を前提とする「戸籍」は柔軟な運用が困難であろうというのが著者の主張。昨今の晩婚化・非婚化やLGBTの権利意識の高まりをみても首肯できるところが多いと感した。
文章が少々硬くて読みづらく、大量の文献に圧倒されたりもしたが、期待通りのスケール感で歯応え十分だった。